FINANCE FORUM 最適な金融マーケティングの構築とデジタル活用<アフターレポート>


セミナーインフォ主催セミナー「FINANCE FORUM ~最適な金融マーケティングの構築とデジタル活用」が2017年6月9日に都内で開催された。金融機関を取り巻く環境がめまぐるしく変化する中、イノベーションの進展は、各社のサービス内容や取り組み、顧客とのコミュニケーションのあり方に大きな変化を引き起こしつつある。約220人の参加者は、先進的な金融機関の事例やデジタルイノベーションの最新動向、デジタルチャネルの活用方法などの講演を熱心に聞いた。セミナーの概要を紹介する。

  1. じぶん銀行のマーケティング戦略
  2. アリアンツグループが考えるデジタル時代の顧客マーケットを攻める新たなサービス
  3. 動画で実現する顧客接点強化 ~実践企業の事例解説と動画活用のポイント~
  4. Fintechはライフスタイル革命だ! Part.2
  5. 顧客とのエンゲージメントを深めるマーケティング
目次

じぶん銀行のマーケティング戦略

吉川 徹 氏

基調講演

【講演者】
株式会社じぶん銀行 執行役員
経営企画・マーケティング担当

吉川 徹 氏

収益顧客化が採算改善のカギ

近年FinTechという言葉がフォーカスされているが、インターネットなどを利用した金融サービスは、過去20年にわたって様々な発展を遂げてきた。金融庁や日本銀行では、テクノロジーを掛け合わせた新たな金融サービスを創出し、高度化していくことを課題としている。

じぶん銀行は、2008年にKDDIと三菱東京UFJ銀行の共同出資により設立した。「携帯電話にビルドインされたお客さま専用の銀行」という経営理念を掲げ、設立当初からFinTechを実践し、預金、決済、ローン、証券、外国為替証拠金(FX)取引など幅広い金融サービスをスマートフォン(スマホ)で提供する総合型ネット銀行だ。

スマホを中心とした独自性のビジネスモデルは海外の評価も高く、2013年に米国の銀行・金融業界団体BAIの「革新的ビジネスモデル特別賞」を受賞。親会社双方の経営資源を併用し、通信と金融の融合によるネットとリアルの利点を活かした柔軟な事業展開を進めている。

マイナス金利の影響の下、昨今のリテールバンキング事業は、フリーミアム(基本的なサービスは無料で提供し、高機能なサービスに対しては課金する仕組み)なビジネスモデルになってしまったといえる。

こうした環境下における経営課題に対し、当行は顧客情報管理(CRM)戦略を展開する。金利環境・提携先経済条件を分析した結果、普通預金や定期預金が100万円程度の顧客が出入金する場合、当行から提携先企業へ支払うATM使用料の方が収益をはるかに上回る。利益を確保するためには、収益性の高い外貨預金やカードローンといった商品が重要だ。

顧客を採算別に切り離して考えても、上位顧客の十数%が利益を生み出しており、中位以下の顧客からはほとんど収益が出ていない現状がある。そこで、クロスセルやアップセルを交えた収益顧客化を図ることが今後のカギとなる。採算改善のために、顧客との関係強化やサービスの付加価値を高めるなど様々な対策を講じて上位顧客の維持に努めると同時に、中間層顧客を上位顧客へランクアップを図っていく。

利便性と安全性が両立するサービス

当行の基盤となるスマホの普及状況は、中国98.3%、韓国96.6%と比較して日本は60.2%と低いため、まだまだ伸びていくと推察される。ネットバンキングのチャネル別アクセス比率によると、メガバンクや他のネット銀行はPC経由が大半を占めるなか、当行はスマホ経由のアクセスが全体の約8割。顧客属性は20~30代の若い世代の利用者が約半数を占め、他ネット銀行比で女性ユーザー42%と高い特徴がある。

顧客に継続してアプリを利用してもらうためには、利便性と安全性が両立するサービスが不可決だ。セキュリティ面に関しては、2015年に日本初の「スマホ認証サービス」を実現。このサービスは、パソコンやスマホから取引した振込みなどの内容を一度当行のスマホのアプリへ転送し、アプリ上での確認後に取引が実行される。アプリ上で承認操作が一定時間内に行われない場合は、不正取引と見なして自動的に取引がキャンセルされるシステムとなっている。2016年6月からは、iPhoneの生体認証・指紋認証を導入し、ネットバンキング利用の安全性をさらに高めている。

また、ユーザー・エクスペリエンス向上施策として、2016年6月にスマホ向けネットバンキングのアプリを、ユーザーのお金の動きが一目でわかるように一新した。2017年3月には、セブン銀行と共同開発した「スマートフォンATM取引」のサービスを開始。このサービスは、キャッシュカードの代わりにスマホを使用してセブン銀行ATMで現金の入出金ができる。

例えば、出金したい場合、セブン銀行のATM画面に表示されるQRコードを専用アプリで読み取ると、スマートフォンに「企業番号」、「暗証番号」が表示される。それらを入力すれば、紙幣を受け取ることができる仕組みだ。キャッシュカードの紛失やスキミングによる情報流出の危険を減らすなど、カードの不正利用の抑止力になるはずだ。

こうしたQRコード方式のカードレスATM取引サービスは、ATMの改造や新設が不要のため、事業化・普及スピードに貢献する。また、既存インフラを最大活用でき、開発コストも安価だ。将来的には、キャッシュカードレスによるコスト削減も視野に入れている。じぶん銀行は、今後もスマートフォンをメインチャネルとし、よりユーザーの生活に寄り添うことを目指した変革を続けていく。

アリアンツグループが考えるデジタル時代の顧客マーケットを攻める新たなサービス

加藤 豪 氏

【講演者】
AWPジャパン株式会社
チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)

加藤 豪 氏

企業ブランドを生かすサービス展開

アリアンツは、1890年にドイツに設立後、ヨーロッパを中心に、約70カ国で運営する欧州最大級の保険金融グループだ。そのグループ企業であるアリアンツ・ワールドワイド・パートナーズ(AWP)は、B2B2Cのスペシャリスト集団として活躍している。日本においては約20年の歴史を持ち、東京海上グループとの共同事業体(JV)を経て、2014年からアリアンツのブランド名で国内ビジネスを開始した。コールセンター品質に関しては、HDI-Japanの三つ星を9年連続で獲得している。

AWPは各クライアント企業の本業の価値を最大化するため、クライアント企業ブランドを使用したまま、新たな付加価値商品を提案するアシスタンスビジネスを展開。国内の例では、LCCである
Peach Aviation 株式会社の航空券のキャンセル費用を補償するサービス「peachチケットガード」などが挙げられる。AWPの総売上げは約1兆円、コーポレート企業はグローバル系のみでは約250社、ローカル系を合わせるとその倍以上にのぼり、金融機関や保険会社だけでなく、通信会社や航空会社さらに政府関連企業など幅広い業種と提携している。

昨今、金融機関が直面している大きな課題の中で、当社が特に注目するのは、インターネット関連企業など異業種からの銀行・金融業への参入だ。本業が金融業である場合は基本的に金融商品しか扱うことができないが、本業が非金融業の場合は本業を維持したまま金融業に参入ができる。つまり、本業が金融業の場合は金融関連の顧客情報しか得ることができないことに対し、非金融業は多様なサービス展開で、ライフタイムで顧客行動を獲得できる点で有利といえる。

銀行関係者のヒアリングによると、10~20代の顧客層は収益性が低いが、30代に差し掛かると急激に収益性が上がるという。既存の金融機関が新規参入業者との競争に生き残るには、これまで培ってきた信頼というブランド力を生かしながら、若年期の新規顧客をいかに多く獲得し、30代以降まで維持・囲い込みができるか、そういったサービスが提供できるかが大きなカギとなるだろう。

サイバーリスクから個人を守る

インターネットの国内人口普及率は83%を超えている。若年層の顧客獲得のためにデジタル分野サービスの充実が重要となる一方で、サイバー犯罪の増加やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上の誹謗中傷など、デジタル化に伴う問題は年々深刻化している。予防策として各事業体は対策を講じているが、何かが起こった時の個人顧客への適切な対応策は見えていない。そこで、AWPは「サイバーシールド」を考案した。

海外も含めたグローバル商品として展開しているサイバーシールドは、様々なサイバーリスクから個人顧客を守るフルプロテクション・サービスだ。

例えば、オンラインショッピング時の商品の配送・返品や支払い時のトラブル対応や、一部損失額の保証についての相談サービス。インターネット上のいじめ・炎上被害への対応策や、専門家や技術者の紹介サービス。スマートフォンなどのトラブルによるデータ破損時の、データ復旧サービスなども挙げられる。

ターゲット層は、新規口座開設予定の社会人や、初めてクレジットカードを持つ大学生とその両親、モバイルバンキングを始めるシニアなどが想定される。

ミドルエイジ以降へのサービスは、住宅ローンなどのライフケア分野で展開していく。国土交通省のデータでは、新設住宅着工件数は増加傾向にある一方、GfK社による調査では2016年の国内家電販小売市場は前年比マイナス1.7%減。各種家電製品の使用年数は年々増加傾向にある。

そこで、住宅設備延長保証や家電延長保証など、いざというときの備えとなる「保証」関連のニーズはさらに高まると見込まれる。また、水回りや鍵の紛失、ガラスなど各種トラブルへの駆けつけサービスはマンション購入者からニーズが依然高い。

富裕層・シニア層に向けたサービスは、特に関心が寄せられる「旅行・レジャー」「クルマ」「ライフエンディング」の3つに特化。プレミアムクレジットカードの付帯商品として、海外旅行やドライブサポートサービスなど幅広く対応してゆく。

当社のサービスは、各クライアント企業のターゲット層にあわせてカスタマイズが可能。クライアント企業が持つブランド力に高い付加価値を提供するパートナーとして、今後も邁進していきたい。

動画で実現する顧客接点強化 ~実践企業の事例解説と動画活用のポイント~

江浪 弘修 氏

【講演者】
株式会社Jストリーム
営業本部マーケットソリューション推進部長

江浪 弘修 氏

金融業界など800社以上と取引

当社は1997年に世界初の動画配信技術、いわゆるストリーミングの専業プロバイダーとして創業した。創立20周年を迎えた現在、800社以上の企業と取引させていただいている。当社では、年間約1300件以上のライブ中継を行っているほか、投資家向け情報(IR)やCM配信、人材採用の動画などの引き合いも強い。最近は金融業界からのお問い合わせが多く、2017年には社内に金融業界専門部署を新設した。

例えば、ある金融機関は顧客接点として「セミナー」に力を入れており、その提供手段の一つとして当社の動画配信サービスをご利用いただいている。専門講師による独自の相場分析などを伝えるには集合セミナーが適しているが、会場から遠い投資家は参加しづらい。そこでウェブセミナーも同時開催して幅広い顧客との接点を確保している。ウェブセミナーは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)によるセミナー内容の拡散とも相性が良いため、顧客との「横のつながり」強化にも役立つようだ。

当社の動画技術を商品プロモーションに活用する事例も多い。別の金融機関では、投資信託(ファンド)のイメージキャラクターを使ったアニメーションで、国際分散投資の有用性や商品設計の工夫、分配方針などをわかりやすく説明している。棒グラフを伸ばしたり、図表にイラストを入れたりするインフォグラフィックと呼ばれる手法で、難しくなりがちな図表部分にもアニメーション演出を加えて親しみやすい構成に仕上げた。

「制作」と「配信」をセットで検討

顧客接点強化で動画を活用するメリットは大きく3つある。まず、短時間で多くの情報を伝えらえること。動画1分あたりの情報量をテキストなどの文字ベースに置き換えると3600ページ分に相当するとの報告もある。第2に、文字情報よりも人の記憶に残りやすいこと。「走馬灯のように絵が思い浮かぶ」という表現はあるが、文字が浮かぶとはあまり言わない。同じ時間の経過後でも動画は68%の内容が記憶として残っているが、文字情報は10%程度とのデータもある。

最後のメリットが、顧客動向を細かく分析できる点だ。動画は最初の30秒間がシーン1、次の30秒間がシーン2など時間軸に沿ったストーリーと長さを持っている。「シーン3の途中で見るのをやめた」など、視聴者の行動とコンテンツの関係を把握できるため、顧客が「いつ」「どの情報を」「どの程度」視聴したか計測しやすい。ウェブのテキスト情報は滞在時間やクリック数で顧客の大まかな動きはつかめるものの、顧客反応の詳細分析まで落とし込むには動画が向いている。

顧客接点強化でメリットの多い動画を活用する際は、「制作」と「配信」をセットで検討する必要がある。制作部分では、誰に、どんな表現方法で伝える動画にするかというコンセプトを明確に固めるのが大切だ。新規顧客の口座開設キャンペーン動画でも、投資初心者向けならば商品をわかりやすく紹介するストーリーが考えられる。

一方、投資経験者向けでは著名アナリストを登壇させたほうが興味を引くだろう。視聴者が動画から離脱するのは、一般的に「冒頭」と「開始90秒後」という傾向がある。冒頭にインパクトのあるメッセージを、関心が高いコンテンツは90秒時点をまたいで配置するといった構成上の工夫も意識したい。

制作では、視聴者の立場で考えることもポイントといえる。スマートフォンは画面が小さいため、一画面に盛り込む情報量を絞り込む作業が求められる。長時間のコンテンツは通信料がかさむのでコンパクトなストーリーづくりも心がけている。取引先の企業からは「社内では音が出せない」という声もよく聞く。いきなり音声が再生されない仕組みのほか、字幕やテロップで内容がある程度理解できる画面構成にしておくなど、視聴状況に柔軟に応じられるコンテンツはニーズが高い。

もう一つの配信に関しては、ウェブ上の無料動画配信プラットフォームと、当社のような有料動画配信プラットフォームをどう選ぶかである。前者は多数の視聴者にリーチできるが、動画再生するプレイヤーにリンクが貼られているケースもあり、訪問してくれた顧客の離脱を助長するリスクがある。高価な商品や自社ブランドを重視したいプロモーションは、視聴後のアクションを促したり、ストリーミング配信による著作権や肖像権の課題に対応できる有料動画配信プラットフォームを活用したりするなど、顧客接点強化の戦略ごとの使い分けが重要といえるだろう。

Fintechはライフスタイル革命だ! Part.2

森永 賢治 氏

【講演者】
株式会社アサツー ディ・ケイ
統合ソリューションセンター統括
兼 ソリューションプランニング本部長

森永 賢治 氏

「お金を払う瞬間の体験」の重視

2016年に行ったPart.1の講演では、18年間にわたって金融機関のマーケティング支援に携わってきたこれまでの知見を基に海外のFintech事情を紹介し、生活者の意識とライフスタイルの変化の可能性について話した。今回のPart.2では、海外や日本で起こっているFintechや人工知能(AI)によるライフスタイル革命の事例を紹介したい。

いま、Fintechによって大きく変わろうとしているのが「決済」だ。ID決済やアプリ決済、同時決済など、決済の手段やタイミングの多様化はもちろんだが、私が注目しているのは「お金を払う瞬間の体験」が重視され始めている点だ。

例えば、米国の個人間送金サービス「Snapcash」は、スマートフォンでショートメッセージを送るのと同じ要領で、$(ドル)マークと金額を送信するだけで送金できる。日本の割り勘アプリ「paymo」では、幹事から案内されたURLやQRコードを経由して支払い画面にアクセスし、「支払う」ボタンを押すだけで決済が完了する。しかも、「この間はありがとう」「また飲み会しようね!」などのメッセージを添えることも可能だ。

すなわち、Fintechによりコミュニケーションと決済がリンクし、決済が単なるお金をやり取りする行為から、「遊び」や「楽しさ」が付随した新しいコミュニケーションへ進化してきているということだ。将来的には、500円玉のマークを押すと送金が完了したり、アバターが「500円を返し忘れていました、ごめんなさい」とメッセージに合わせて動きながら送金をしたりできるサービスも登場し、実生活の中で当然のように使われるだろう。

「シェアリング」や「小口化」もFintechがもたらすライフスタイル革命の一つだ。民泊サービスの「Airbnb」や駐車場予約アプリの「akippa」は、個人が所有する住宅や駐車スペースを短い時間シェアすることで小口の収益を得られる。お金を使う、稼ぐだけでなく、貯めることや、そのための習慣化にもFintechは多大な影響を与えるようになる。

自動貯金アプリ「finbee」は、貯金するタイミングや金額を柔軟に変更できる「つみたて貯金」や、歩いた歩数に応じてお金を貯める「歩数貯金」など、目標金額に合わせて自動的に貯金できる。おつり投資サービス「トラノコ」は、クレジットカードや電子マネーで支払いをした際の、100円/500円/1000円単位の端数の金額で投資信託へ投資できる。

コミュニケーションを中継するハブ

Fintechと言えば、かつては「金融機関の新しい商品やサービス、ビジネスの創出に活用されるもの」という認識が大半だった。しかし、いまでは「お金との健全な付き合い方」を促進させる目的が主流になっている。ビッグデータを用いて個人のお金に関連する行動を詳細分析し、「どのようにお金を健全に使ってもらうか」、あるいは「お金の借り過ぎを防止するか」を達成するサービスを開発するなどは一例だ。

現在、注目を集めるAIにも同様のことが言える。GEやPhilipsといった著名企業は、航空機のエンジンやLED電球といった商品を売って利益を得ることよりも、効率的なフライトプランを考えたり最適な照明の配置や点灯時間を提案したりといった、AIを使ったコンサルティング事業に力を入れ始めている。

このようなAIを活用して従来のスタンダードに変化を起こすという動きは、個人レベルにまで浸透してきている。米国のConsumer Electronics Show 2017で話題になった、電子機器を音声で操作するAI制御の「Amazon Echo」は最たる例で、人々のこれまでのライフスタイルを一変させるはずだ。

金融という領域においては、例えば保険会社が新商品の開発にAIを活用することもあり得る。従来は、過去にかかった病気の既往歴で加入できる保険が限定され、個人にとっては単に「入れる保険」と「入れない保険」があるだけだった。AIで個人の運動や食生活などのライフスタイルを把握・分析することで、「いくつかの条件をクリアすれば、似た内容の保険が組めます」と提案できるだろう。

「貯蓄から投資へ」を促すうえでもFintechは有効だろう。すでに、クラウドファンディングの領域では、地方銀行とIT企業が共同で新たなビジネスを始めている。クラウドファンディングはお金だけでなくコミュニケーションを中継するハブとなり、PR効果を生み出す可能性も秘めている。広告や広報の観点からも今後の展開に期待している。

顧客とのエンゲージメントを深めるマーケティング

岡田 良太 氏

特別講演

【講演者】
株式会社ジェーシービー
WEB統括部長

岡田 良太 氏

エンゲージメント・パスが重要に

当社は、日本発唯一の国際ペイメントブランドである。2017年3月末時点で23の国・地域で発行し、190の国・地域で利用できる。会員数や取扱店契約数も着実に増えている。同時点の会員数は1億会員以上、取扱店契約数は3300万件以上となっている。講演テーマの「顧客とのエンゲージメント(絆)」を、カードライフの経過とともに深めていきたい。

カードのライフサイクルは長い。顧客の大きなライフイベントだけでなく、日常の小さなイベントでも数々の接点がある。入会の検討からカードの利用、ポイント交換、カード更新などの接点もある。これらの接点を通じて得たデータをカスタマージャーニー(顧客が商品に興味を持ってから購入にいたるまでの行動パターン)と組み合わせ、顧客の期待と我々が提供できている顧客体験とのギャップを縮小し、最適化するシステムを整備している。

顧客体験の最適化を進めるなかでは、顧客との関係性を深めるフレームワーク、いわゆる「エンゲージメント・パス」が重要。つまり顧客のカードライフサイクルのなかに、エンゲージメントを深めていくためのストーリーをつくっていくことと、他のカードとの差別化を図るために、JCBブランドとしての強力な顧客体験を生むプロダクトの開発も必要だと考えている。

加えて、顧客のセグメンテーション(細分化)も欠かせない。これには3つのプロセスがある。まずはリーチ数の増加だ。外部データなどを活用して各セグメントのリーチ数を増加させる。次にパーソナライズ(個々人の嗜好に合わせて最適化したサービス)を改善し、最後に規模の拡大と柔軟性の向上に取り組んでいく。一方で、パーソナライズの見直しによってプロダクトが複雑化してしまうと、逆に使いにくくなり、顧客への説明も難しくなる。したがってプロダクトの複雑化は避けなければならない。

顧客期待とのギャップ埋める

顧客期待とのギャップにはどのような事例があるのか。まずは新規に申し込みいただいたカードが自宅に届いたケースでは、カードと一緒に基本情報をまとめた「利用ガイド」もお送りしている。
 だが、初めてカードをつくった人は、「自分に合ったお得なカードの使い方やサービスを分かりやすく教えてほしい」という気持ちを持っている。そこで我々は、カード到着後に最初に実践していただきたい手続きやご案内を順序立てて説明していく初心者用のコンテンツを拡充していく方針だ。

顧客が案内を「見た/見てない」、あるいは手続きを「した/してない」という状況を継続的にチェックし、それぞれの結果に応じたフォローアップを積み重ねる。そうすることで、顧客一人ひとりと良好な関係を築くことが可能となり、入会後のカード利用額の増加にもつながる。

続いては、カード更新時の顧客期待とのギャップだ。通常は、カードの有効期限が切れる前に新しいカードを届けることができたら、顧客とのコミュニケーションはひとまず終わる。しかし、カード更新に際して顧客側では、「このカードにして何年経ったのか?」「これまでにいくら使ったのか?」「新しいライフステージに合ったカードはないのか?」「古いカードを安全に処分するにはどうすればいいのか?」といった感情(仮説)を抱くかもしれない。

このような仮説を顧客期待とのギャップととらえ、我々が提供する体験内容を見直すと、「何年もカードを利用していただいたことへのお礼を伝えること」「顧客の利用実績に合ったアップグレード商品・サービスの案内」、「古いカードの処分方法の案内」といった対応が浮かび上がってくる。これらのギャップを埋めていくことで、顧客とのエンゲージメントを深めていくことができる。

さらに、カードの請求額をオンラインで確認する顧客の場合、振替口座の残高も同時に確認したいが別々のアプリやWEBサイトにログインするのが手間だと考えるという仮説も立てられる。このギャップを縮小する手立てとして、顧客同意のうえで、カードの利用情報やポイントの残高情報を、パートナーである金融機関のアプリやWEBサイトでも提供する仕組みを展開していく。

我々の顧客体験を最適化する取り組みはまだ始まったばかりだ。データやテクノロジーのさらなる活用で、日本発唯一の国際ペイメントブランドであるJCBならではの新たな体験価値を顧客に提供していきたい。

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