2021年8月5日(木)開催FINANCE WEBINAR「オリックス銀行におけるデジタル戦略の要点 ~デジタル化に向けた課題と押さえたいポイント~」


2021年8月5日、セミナーインフォ主催FINANCE WEBINARの基調講演にてオリックス銀行株式会社 吉田 茂史 氏にご登壇をいただき「オリックス銀行におけるデジタル戦略の要点~デジタル化に向けた課題と押さえたいポイント~」についてご講演いただいた。

目次

オリックス銀行におけるデジタル戦略の要点
~デジタル化に向けた課題と押さえたいポイント~

吉田 茂史 氏

基調講演

【講演者】
オリックス銀行株式会社

デジタル戦略推進部長
吉田 茂史 氏

<オリックス銀行を取り巻く環境>
オリックス銀行は既存の銀行のあり方にとらわれず、事業を展開している。店舗網を持たないこと以外にも、例えば自社ATMを保有していない、キャッシュカードを発行していないなど、一般のお客さまが思い浮かべる銀行とは少し異なる特徴を持った銀行だ。現在の中期経営戦略ではサステナビリティを基軸とする戦略を提示しており、お客さまと社会の課題解決に資するような商品・サービスの提供、ファイナンスの提供を目指している。また、そのために必要な注力テーマとして働き方改革、ガバナンスと共にデジタライゼーションの推進を挙げている。現在はVUCAと言われるような変化の激しい時代であり、銀行としても自ら変化をしていかなければならない状況だと感じている。オリックス銀行としてどのような姿でありたいか、そしてデジタルを活用してどう実現していくのかを示すとともに実行していくことが、デジタル戦略推進部に求められているミッションであると考えている。

<オリックス銀行のデジタル戦略として掲げる3つのコアビジョンとミッション>
オリックス銀行ではデジタル戦略の要点として3つのコアビジョンを掲げている。
1つ目は「業務の生産性向上」。社内業務の生産性向上や、働き方改革を目指したものである。2つ目は「お客さまとの関係性の深化」。デジタルを用いてこれまでにない付加価値や体験の提供による関係性の深化を狙うものである。3つ目は「新たな価値の創造」として新規事業・サービス開発に力点を置き、これまでにない新しい取り組みにもチャレンジしている。
デジタル戦略推進部は全社的なデジタル化の推進をリードすることに加え、各事業部が主導するプロジェクトをデジタルの面から支援するなどの活動を行っている。
 

<取り組み事例:電子稟議システムの導入>
当社ならびに、当グループでは、元々某グループウェアを活用していたが、一部機能が時代にそぐわないこともあり、2年前に他のシステムへの切り替えを検討していた。さらに、業務改善もしくは生産性向上につながるような活動として、紙で対応していた稟議プロセスの電子化を検討していた。そのような流れの中で、当社は当時紙ベースの業務が多く、例えば一般稟議は決裁に至るまで平均4.1日を要していた。担当、課長、部長、役員の流れで“はんこリレー”が行われていたが、この一連の流れをデジタル・テクノロジーの活用により、改善できると考え、電子稟議システムを導入した。ここからの学びは、「業務をシステムに合わせる」ことの大切さである。
本取り組みが上手く進んだポイントは2つあると考えている。1つ目は、「全てを移行しない」という合意形成から始めたことである。つまり、業務に合わせてシステム開発するという考えを捨て、対応できないものはできないと最初の段階で宣言したのである。実際、某グループウェアのDBは全部で88個あったが、後継システムに移行したのは26DBのみである。社内で合意形成する際、具体DB名を挙げ、それぞれ移行するかしないかを明確にしたことで、議論を空中戦にするのではなく、具体論として進めることができたと考えている。
2点目は、「カスタマイズをしない」こともあわせて合意を得たことである。カスタマイズをしてしまうと、保守・運用業務の負担が高まるだけでなく、結果として旧システムを卒業してもまた新しいツールにロックインされてしまうという恐れがあった。標準機能のみを使用するという宣言は、結果としてプロジェクト推進のスピードや、後段の内製開発の観点でも大きなポイントとなったと考える。
結果として、一般稟議の起案から決裁までの時間が平均4.1日から1.1日へ大幅短縮となり、決裁スピード、すなわち判断のスピードが上がったことは大きなメリットである。また、実際にプロジェクトが進み、新しいシステムがリリースされてからは、それまで対応に消極的だった社員らも、諸手続きや各種稟議のデジタル化に関する前向きな相談が増えており、ユーザー(社員)に資するデジタル化のプロジェクトになったと感じている。

<取り組み事例:内製開発プロジェクト>
デジタライゼーションの推進においては、内製開発力をいかに高めていくかも重要なテーマであると考えている。当社においては、例えばCRMツールを業務に応じて部分的に導入しており、これまではITベンダーに発注し、要件定義、開発、リリース判定を経て、納品という流れだった。しかし、その後に改修要望や機能追加要望が出てきた場合、改めてITベンダーに相談するところから始まるため、多少の修正であっても時間がかかってしまうという課題を抱えていた。より素早く、より柔軟にユーザーのニーズに対応するために、内製開発できる体制を整えた。
具体的には、従来はExcel、いわゆる手管理かつオフライン管理をしていたカードローン督促業務について、CRMツールを用いた内製開発を行った例がある。コールセンターのオペレーターやカードローンに関わる社員、各種の情報を手管理しながら業務にあたっており、大幅に改善余地のがあった。CRMツールの導入により、架電業務に必要な情報が1画面で確認できるようになり、作業の無駄を省くことができ、業務効率化を実現することができた。
また、効率よく架電業務を行いたいという利用部門からの要望を受け、架電ヒット予測機能を追加機能として実装した。当機能は、実際に内製開発エンジニアが業務の担当者へのヒアリング、協議を重ねている中で要望が上がってきたもので、内製開発のメリットである柔軟な対応で実現できた例である。効果として、現在の時刻に応じて、架電がヒットしやすいお客さまを表示することができるため、架電効率化に貢献をしている。
一方で課題も多くあり、例えば内製開発エンジニアはそう簡単には育たない、という点が挙げられる。これは引き続きチャレンジし続けたいと考えている。また、開発の品質管理や開発した後の運用保守フェーズも大きな課題であり、今後は判定会の設定や、規則・規程の整備、保守運用体制の整備などに注力していく。

<最後に>
変革に際し、我々が社内で一番注力していることは、なるべく分かりやすく、そして小さくても良いので、短期的な成果を作っていくことである。小さな成果を積み重ねながら、業務をシステムに合わせるコンセプトを大切にし、内製開発を最大限に活用することで柔軟性とスピード感を持って推進していくことが、デジタル化、デジタル・テクノロジーを用いた業務改善の中で、当社が考える押さえたいポイントであり、かつ実際のプロジェクトを通して学んだポイントである。


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