2021年9月9日(木)開催FINANCE WEBINAR「データ利活用を加速させる2つのクラウドデータ基盤について」


2021年9月9日、セミナーインフォ主催FINANCE WEBINAR基調講演にて住友生命保険相互会社 中川 邦昭 氏、辻本 憲一郎 氏にご登壇をいただき「データ利活用を加速させる2つのクラウドデータ基盤について」についてご講演いただいた。

目次

データ利活用を加速させる2つのクラウドデータ基盤について

中川 邦昭 氏

基調講演

【講演者】
住友生命保険相互会社

情報システム部 データ分析プロジェクトチーム 上席部長代理
中川 邦昭 氏

辻本 憲一郎 氏

基調講演

【講演者】
部長代理
辻本 憲一郎 氏

<住友生命Vitality について>
当社は1907年に創業し、従業員約40,000名規模の生命保険会社だ。現在最も注力しているサービスが「住友生命Vitality」であり、「Vitality」は、南アフリカのDiscovery社が1997年に操業を開始した健康増進を目的としたサービスだ。現在、世界24の国と地域、2,000万人の顧客を抱えおり、日本では、住友生命が単独契約をし、2018年からサービスを開始している。現在、国内では75万名以上のお客さまに利用頂いている。

従来の保険契約は、主に病気にかかった場合などのリスクに備えることを目的としているが、「Vitality」は、従来の保険機能に加え、継続的な健康増進活動を促すことで、病気等を患うリスク自体を減少することを目的としている。生命保険と健康増進プログラムをセットにすることにより、リスクそのものを減少させることを目的とした、新しいスタイルの生命保険である。

「Vitality」は、ファーストステップとして、健康診断結果等から健康状態を把握し、セカンドステップとして、ウォーキング、ジム等の健康活動を通した健康状態を改善する。サードステップとして、健康活動によって得られる、さまざまなリワードを楽しむ。この3つのステップを通して、会員の行動変容を促し、Well-Beingを提供する健康増進プログラムである。

<新情報分析システムとスミセイデータプラットフォームの概要>
1995年から稼働した旧システムの後継として、2020年から2つのシステムを導入した。1つ目は「新情報分析システム」で、クラウド(Azure)で稼働する社内データウェアハウス(DWH)だ。高度BIツールを活用した各種レポート提供やデータ分析、CRMツールを活用した高度な営業管理ができる。2つ目は「スミセイデータプラットフォーム」で、クラウド(AWS)で構築し、AutoMLツールやPythonによるコーディングが行える環境を提供、本社のデータサイエンティストがAI、機械学習技術を活用した高度な分析を行っている。

新情報分析システムのデータソースは主にオンプレミスの社内データで、保険契約、営業活動などさまざまなデータを集約している。DWH はAzureのSynapse Analyticsを利用しており、オンプレミスとDWHをつなぐため「Qlik Replicate」というレプリケーションツールを利用。このデータを「Tableau Dynamics 365」を通して全社の職員が業務に利用している。

スミセイデータプラットフォームのデータソースは社内データに加え、DISCOVERY社から連動するVitalityデータや外部医療データ等の情報を用いる。データ集約・加工のためのETLツールとして「Talend」を導入した。データは分析目的別にデータマートに格納し、AutoMLツールやPythonコーディング環境を通して社内のデータサイエンティストが活用する。

<各システムの利用状況について>
新情報分析システムについては、昨年9月の稼働以降、ビジネス部門では、リテール部門、ホール部門、事務部門等で60名の作り手が30種類以上のダッシュボード作成し、運用している。出来上がったダッシュボードは、経営層から現場の支部長まで、全社のメンバーが参照することが可能だ。

スミセイデータプラットフォームについては、社内データ、外部医療データ、「Vitality」データを集約し、これらのデータを組み合わせて、AI、機械学習技術を利用することで、商品開発、「Vitality」や販売事務効率化等の分野で、これまで10件程度の分析プロジェクトを実施している。今後は年間で20から30件程度の分析プロジェクトを実施していくことを目標としている。

<システム導入を決めた背景・目的>
旧情報分析システムでは、非効率的な業務の改善と高度な分析手段が課題であった。負担が大きく、非効率的であった業務として、販売関係のレポート作成業務が挙げられる。この課題改善のために導入したのがBIツール「Tableau」であり、全国でバラバラに作成していた販売レポートを本社が作成するダッシュボードに統一し、一度作成すればダッシュボードは自動的に更新されるため、大幅な業務削減につながった。ドリルダウンの機能の活用で閲覧者が自らデータを探ることができるため、全社の閲覧者が自らデータ探索し、課題を見つけ出すことを目指している。

もう一方の課題が高度な分析手段については、今まで保有していた社内業務データに加え、「質」も「量」もこれまでと異なるデータを追加していく事が想定され、これら両面の課題を解決する必要があった。

「Vitality」についても、ウェアラブルデバイスなどのIoT機器から加入者の歩数や心拍数など、従来扱ったことない種類のデータを取得することができる。その他にも、営業職員用のタブレット端末の活用では、営業職員の活動をより詳細に把握するために、端末を操作したログを取得し、解析する予定であったが、データ容量は、これら要件を踏まえて試算すると、2年以内に10テラバイト以上になると想定された。

このように、従来までの「質」や「量」の両面で異なるデータを活用するためには、従来のオンプレデータ保管や、定型データをエクセル解析というテクノロジーだけでは困難であり、解決策として、「量」の課題については拡張性を確保するため、クラウド上にシステムを構築し、状況に応じて、柔軟に拡充できるよう対応した。また、「質」の面では、第三次AIブームといわれるような状況で、今後、競争優位を維持するためには、Pythonなどで、大量かつ不定型のデータの利活用ができる環境が必要だと考え、さまざまなデータをAIや機械学習で分析するためにスミセイデータプラットフォームを導入している。

<導入までのハードル>
導入に際して、まず長く定着した仕事のスタイルを変えることへの抵抗感、現状維持バイアスがハードルとなった。BIツールの導入に関して、幸運な事に上司の部長や担当役員が趣旨に賛同し、周囲の経営層へよく働きかけてくれたこともあり、これらを足掛かりに部門横断の新規プロジェクトチームを結成し、メンバーとともに理想のダッシュボード作成に取り組んだ。また、CRMの導入については、当初はビジネス部門側がシステム刷新の必要性について腹落ちしていない事もあり、理解を得る事ができなかった。しかしながら、既存システムの使い方に関するヒアリングを重ね、実際の業務内容や活動動線を理解したうえで、システム以外にも、内製で利用している各種ツールや、点在しているデータを、CRMへ全て集約できるというメリットを提案することで合意を形成することができた。これにより、いつでもどこでもシームレスに、顧客情報の閲覧や活動日報報告が可能となった。もうひとつのハードルであった投資効果説明に関しては、スモールスタートで始めて適宜成果を示しながら進める手法を採用し、プロトタイプ環境の構築、コンサル会社の講義や分析プロジェクトの伴走支援を経て、本格的な環境構築へと進めることができた。

<今後の展望>
2021年度からデータ分析チームを発足し、データ分析プロジェクト推進のほか、データ分析に関わる教育・啓蒙御作の企画や実施も行なっている。昨年、外部から住友生命に加わった専門家がAIオフィサーとしてチーム全体を統括しており、現在、データサイエンティストは12名在籍している。2023年度末に20名まで増やす予定だ。

また当社はWaaS(Well-Being as a Service)を目標として掲げており、保険という1つの商品だけでなく、サービスとしてさまざまな価値を提供していく事を目指している。しかしながら、現段階ではその多くが単発かつピンポイントでの顧客接点となっているのが現状だ。多くの事業者と連携して、Well-Beingのためのサービス提供ができれば、そこには有機的なつながりが生まれ、その核となりうる「Vitality」中心に、エコシステムを構築したいと考えている。

「WaaS」の有機的なつながりを真に価値あるものにしていくために必要なことが、データ活用であると考える。「Vitality」を通じ、健康にまつわるさまざまなデータとパートナー企業のサービス利用実績を分析・フィードバックしていくことで、各事業者のサービス向上、「Vitality」プログラムのレベルアップにつなげていく事が可能だ。データ分析の力で「WaaSエコシステム」を進化させ、Well-Beingの向上に貢献していきたい。


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