生成AIで実現する顧客のハイパーパーソナライゼーション
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【講演者】
- 日本テラデータ株式会社
Industry Strategy – Finance & Business Value Engineering
シニア・マネージャ
小野 尚人 氏
<Teradataのご紹介>
Teradataは、米国カリフォルニア州サンディエゴに本社を構えるデータとアナリティクスを専門とするテクノロジー企業である。1979年に設立し、長年に渡り第三者機関から高い評価を得ている。カリフォルニア工科大学とシティバンクの先端技術グループの研究がルーツであり、創業時より、並列処理による大量のデータ分析を行うデータ分析基盤製品を提供し、金融機関向けのシステムで多くの実績を持つ。
2010年代にはすでにクラウド環境での製品をリリースしており、現在では、オンプレミス、AWS、Azure、Google Cloudのマルチクラウド、それらを組み合わせたハイブリッドクラウド環境で製品を提供している。ビジネスの成果に直結するデータ分析基盤を提供しているほか、AI、データの活用戦略の立案から運用までトータルで支援するコンサルティングサービスも行っている。
<外部環境の変化、ハイパー・パーソナライズが求められる背景>
本日は、金融サービス事業者を取り巻く環境の変化、ハイパー・パーソナライズの実現には、「AIテクノロジーの活用」が不可欠であること、AIを活用するためのビジネス及び技術要件の3点についてお話しする。
<金融サービスを取り巻く環境の変化>
金融サービスを取り巻く外部環境の変化は大きく、貯蓄から投資へという意識が若い世代を中心に高まりを見せている。
2019年6月、金融庁が「老後の約30年間で2,000万円の不足が発生する」との報告書を発表したことは市井の人に大きなショックを与え、自助努力がもっと必要なのではないかという見方が広がった。その後のCOVID19に伴う生活及び行動様式の変容、新NISA開始に伴う投資資金の流入、マイナス金利政策の転換の報道などを受け、金融資産について具体的に考えようという変化が起きている。さらに、受け皿となる金融サービスの競合は、今や同業他社だけではない。近年では、通信業者が取り組む金融サービスや、ECサイト組込型の金融サービスが広まっているため、どのプレーヤーと組んでいくのかが大きな課題だ。
<一人ひとりに応えるパーソナライズとは>
生活者のマインドの変化、価値観の多様化は急速に進んでいる状況にある。ある調査によると、「金融機関はわたしの味方」と感じている顧客は2割前後しかいない。この非対称性を解消しないまま変化が進んでいるために、期待どおりのビジネス成果に繋がっていないと思われる。お客さまに寄り添ったコミュニケーションが求められる理由である。
お客さまごとに異なる「期待」に応えるためには、発想の転換が必要である。プロダクトアウトやマーケットインとは異なる、お客さま起点のコミュニケーションが求められる。その進化系として、ハイパー・パーソナライズという世界が到来している。そして、こうした丁寧なマーケティングを実践していくためには、間違いなくAIの力が必要になる。
<ハイパー・パーソナライズ実現に向けたAIテクノロジーの活用>
2023年日経MJヒット商品番付によると、東の横綱は生成AIであった。
生成AIの活用方法としては、翻訳や要約などのアイデア検討や、行内の業務手続の行員及びお客さま向け説明などが考えられる。ただし、お客さまの金融リテラシーはさまざまだ。細かくどう説明できるか、どう文脈に落とし込むかが、AIに期待されていることである。しかし、お客さまご本人に、適切な「プロンプト」で問いかけることを期待することは難しい。
AIからのお客さま向けの回答に揺れが生じることは無いか、行内の限られた情報をどのように回答に含めていくか、などの課題が残っている。「私向け」の回答をしてほしいという究極的な要望に対し、セキュアで閉じた環境で多様な情報を統合・分析・回答していくことになるが、そこへの到達は難しい。
<生成AI活用は目的ではない>
「お客さま起点のコミュニケーション」とは、お客さまからのシグナルを聴き洩らさず収集、分析し、アクションに繋げるボトムアップのアプローチである。金融サービス事業者のゴールは、「収益の最大化」につながる「顧客とのエンゲージメントの拡大」「顧客コミュニケーションの高度化・精緻化」である。そのためのツールが、AI/機械学習(以下、ML)そして生成AIだ。ゴールに到達するためにも、生成AIをどう使うか単独で考えるのではなく、AIやMLをうまく組み合わせることが大事なのだ。
<AI、生成AI活用に求められる要素>
ハイパー・パーソナライズが、「知られすぎていて、怖い」といった嫌悪感を醸成しては逆効果である。そこで、信頼できるAIであることが最重要だ。データの品質を高めることが結果的に「信頼できるAI」の提供につながるのだ。
では、どうやるのか。データの上流から品質を高めていくことが重要になる。生成AIは、生成に特化したアルゴリズムでありディープラーニングの1つのバリエーションだ。ディープラーニングは、統計思考を使う機械学習の1つのバリエーションであるなど、さまざまなAIテクノロジーは包含関係にある。AIの回答に揺れをなくし、全体の整合性を高めるためには、個別のアプリケーションではなく、一か所に統合されたデータに対して分析を行うことだ。こうすることで、データガバナンスの強化と同時に分析の高速化が図れる。これが、Teradataのアプローチである。
<お客さま事例のご紹介>
マッキンゼーの調査によると、リテールにおいて満足度が低いのが、住宅購入プロセスだ。豪州のメガバンクでは、住宅ローン購入プロセスにおけるフリクションの極小化と、適切な情報提供の最適解をAIにより構築中である。消費者の信頼性を高めるために、デジタルチャネルの顧客体験の最適化を実施するにあたり、生成AIは主導的な役割を期待されている。
パーソナライズされた生成AIアシスタント機能は、インタラクティブな対話型の金融サービスである。お客さまとの情報の非対称性の解消を目指して、偏りのない手軽な会話をしていく。ローンの編成、目標価格の設定、目標価格に足りなければ、そこに向けたタイムラインの提供や毎月の貯蓄の推奨アドバイスまで行うものだ。一般向けにまだローンチされていないが、最終利用者である契約者向けのサービス提供に向けて準備中である。
英国のメガバンクでは、リアルタイムなハイパー・パーソナライズにより、マーケティング効果を大幅に向上させ、応答率の向上、NPS(ネットプロモータースコア)の改善、顧客満足度の向上に繋げている。お客さまの期待が自分たちの想定を超えているので、リアルタイムに素早く対応をする。例えば、お客さまのニーズに応じて、数日後ではなく、その場で動的に結果を表示するなど、コンテクストに応じたワン トゥ モーメントのコミュニケーションを実現している。
米国の実店舗型小売事業者では、大規模言語モデル(以下、LLM)を使って、Next Best Offerを提示できるようにした。LLMは文章の類似性に非常に長けているために、カスタムLLMを使用し、コンテキストベースのレコメンデーションを提供するスマートカートを開発・使用したのである。カートに投入する商品一つ一つを単語の羅列として捉え、購買行動を「一連の文章」として判断する。その文章をシナリオとして、生成AIによる「次にくる言葉を見つける=オートコンプリート」機能を使うことで、推奨商品を提示するシステムをご用意した。Customer 360及び製品マスタとの統合によるLLMの運用化によって、顧客体験の改善と売上拡大に寄与している。
<Teradata VantageCloudについて>
弊社では、最も包括的なAI向け機能を搭載したクラウドデータ分析基盤「Teradata VantageCloud」を提供している。クラウドネイティブアーキテクチャを採用し、TCOを最低限に抑えながら、迅速かつ柔軟な導入が可能なデータ分析基盤である。既存の業務システムを活かしたまま、データを吸い上げて一箇所で分析できるようにするものだ。外部の様々な情報を柔軟に取り入れられるほか、取り入れた情報をそのまま分析につなげられる。
また「ClearScape Analytics」は、VantageCloudに搭載する、オープンでコネクテッドなエンドツーエンドの強力なAI/ML機能だ。
お客さまに対して「信頼されるAI」を提供するには、より上流のデータ品質を高めることが最重要であると述べた。これらを実現するのが、Teradata VantageCloudおよびClearScape Analyticsである。
◆講演企業情報
日本テラデータ株式会社:https://www.teradata.jp/