FINANCE FORUM 金融業務改革がもたらす収益力強化<アフターレポート>


セミナーインフォ主催フォーラム「FINANCE FORUM~金融業務改革がもたらす収益力強化~」が2018年5月17日に都内で開催された。約220人の参加者は、働き方改革の先を見据えた日本銀行による基調講演や企業各社の最新技術を活用した商品・サービス、三井住友フィナンシャルグループの取り組みなどを熱心に聞いた。セミナーの概要を紹介する。

  1. 業務改革、働き方改革、そして働きがい改革へ
  2. ハイパーコンバージドインフラによる運用管理の効率化とTCOの削減
  3. Google Cloud Platform を活用した音声認識・AIソリューション ~『MSYS Omnis』によるコールセンター・店舗での金融業界の導入事例・デモ~
  4. 金融事例に見る間接業務の自動化と出張・立替/ベンダー経費コストの最適化 ~クラウドとモバイルを活用した経営管理基盤と働き方改革~
  5. 「デジタル新時代」への対応と、失敗しない「業務改革」
  6. RPAを活用した生産性向上への取り組み
目次

業務改革、働き方改革、そして働きがい改革へ

岡俊太郎氏

基調講演

【講演者】
日本銀行
金融機構局 金融高度化センター
企画役

岡 俊太郎 氏

業務改革が必要とされている背景

日本銀行金融機構局金融高度化センターでは、新しいテクノロジーやガバナンスの国際標準化への対応、新しいファイナンス手法の活用など、考査やオフサイト・モニタリングといった既存のチャネルでは深く掘り下げにくいテーマを、セミナーやワークショップで取り上げ、金融機関と課題解決に向けた方向感を共有している。

金融高度化センターが開催するイベントのうち、注目度の高いテーマの1つが業務改革である。金融機関に業務改革が必要とされている背景には、金融機関の収益力低下への対応があるが、さらに2つの背景が重要であると考えている。

1つは「デジタル化に対応すること」である。デジタル化の本質は「繋がること」であるが、顧客がスマートフォンを持つことが当り前になっている時代に、顧客とのチャネルを、どう繋がるようにデザインすべきか、考える時期にきている。また、フロントエンドだけでなく、バックエンドもデジタル化が必要になっている。例えば、ロボット(RPA)により、既存事務の効率化を進めたり、クラウドを活用して既存システムの維持管理や保守にかかるコストを圧縮したりすることを考えるべきであろう。

もう1つが「職員の働き方を変えること」である。日本では生産年齢人口の減少が課題となっている。また、労働市場の競争も激化している。金融機関は、業務改革により誰もが働きやすい環境を整備し、若い人材にとって魅力のある職場を構築することが重要になっている。

誤解が生じているかもしれないが、業務改革のゴールは、単なる経費や労働時間の削減ではない。定型業務を圧縮しながら、そこで生まれた時間をコア業務の拡大や機会創出に向けること、すなわち労働生産性の向上がゴールである。金融機関の経営者には、そのゴールに向かって、職員への教育・研修の機会の提供や新しいビジネスへのチャレンジが求められる。

業務改革は働き方改革でもある

業務改革は職員の働き方改革、働きやすさの提供でもあることを、事例とともに紹介したい。名古屋銀行は、様々な業務の本部への「事務集中化」の取り組みなどにより業務量を約20%削減した。本部事務集中化は、窓口の営業職員を複雑多岐な事務から解放し、本部職員の専門人材化を可能にする。

このほか、北國銀行では「ペーパーレス化」が進んでいる。同行行員のデスクにはデータやソフトウェアをサーバー側で管理する「シンクライアント端末」と「電話」のみが置かれ、行員は基本的に電子化された資料を用いて業務を行う。会議などで直前に資料の差し替えが起こっても電子ベースでのファイル差し替えは一瞬で済む。また、紙の資料がなくなるとファイリングや検索、印刷のほか、保管スペース確保などにかかるコストの削減にもつながる。

「テレワークの導入」は、通勤の負担軽減、出張先での稟議決裁による意思決定の迅速化に加え、業務継続(BCP)の面でもメリットがある。北陸銀行は大雪警報が発令された日にタブレット端末の持ち帰りを許可し出社困難時に対応した。また、あおぞら銀行は、2017年4月に、誰でも利用可能な在宅・モバイル勤務制度を導入し、さらに、遠方に住む親の介護が必要な社員に、月5日を東京本店勤務、残りを在宅勤務という、制度の柔軟な利用を認めた。

最後に、業務改革を考えるにあたって、職員の「働きやすさ」のほか、「働きがい」を向上させることの重要性も強調したい。なぜなら、企業の付加価値を高めるためには、職員の働きがい、モチベーション向上が欠かせないからである。

働きがいとは何か。働きがいのある会社の調査を行う国際的な調査機関「GreatPlace to Work」によると、働きがいのある会社には、経営者や企業に対する信用、尊敬、公正が備わっており、従業員が仕事に誇りを持てる、従業員同士に一体感・連帯感があるという。

これまで、金融機関は、ルールどおりに、厳格に働くことを優先して、職員の働きやすさ、働きがいを重視してこなかったのではないだろうか。収益力が大きな課題となっている今こそ、金融機関は、業務改革の先にある、職員の働き方のデザインについて、働きやすさと働きがいの構築について、もう一度考える必要があるのではないだろうか。

ハイパーコンバージドインフラによる運用管理の効率化とTCOの削減

加戸隆行氏

【講演者】
ニュータニックス・ジャパン合同会社
シニア・システムズエンジニア

加戸 隆行 氏

拡張性に優れ、コスト面でも優位

我々は、ハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)のパイオニアとしてお客様のデータセンターのインフラを進化させ、IT部門がアプリケーションやサービスの提供に集中できる環境の実現のサポートをしている。創業は2009年、製品の初出荷は2011年と歴史は浅いが、すでに世界140カ国以上で8,800超、日本国内でも530社に導入いただいている。

当社のHCIの「ニュータニックス」は、ITインフラ、サーバー、ネットワーク、ストレージといった個々のコンポーネントを一つの筐体にソフトウェアで実装し集約統合したものだ。「本当に優れたものはいつもシンプル」との企業ポリシーを反映したユーザーインターフェースをビルトインした製品となっている。

具体的な強みとしては、まず拡張性に優れている点が挙げられる。「ニュータニックス」はすべてを分散するアーキテクチャーなので、ホットスポットやストレージのボトルネックが発生しない。必要なときに必要なノードを足した分だけリニアに全体性能と容量が向上する。シャーシ単位でなく1ノード単位での拡張ができるため、異世代・異機種の混在も問題ない。さらに、最初に入れたノードの保守期限が来ても該当ノードだけ切り離し新しいノードを追加すればよいので、一斉更新が不
要で、システムの老朽化対策やデータ移行がスムーズに行える。

サーバーやアプリケーション、セキュリティといった各インフラも管理しやすい。これまではインフラごとにソフトウェアを使い分けていたが、当社の場合、管理ツールの「Prism」の一画面でチェックできる。直感的に扱えるインターフェースがインフラ管理の一元化を実現した。独自開発のハイパーバイザー「AHV」の存在も「ニュータニックス」の大きな特徴といえるだろう。ハイパーバイザーによって仮想化されたコンピュータ、いわゆる仮想マシンはお客様の必要機能を自動的に追加していく。従来の仮想環境では管理用の仮想マシンや個別のソフトウェアが必須だったため、お客様が負担するコストは上昇し、メンテナンスの負荷も増大していた。AHVは無償なので、お客様はハイパーバイザーにかかるコストを抑えられる。「ニュータニックス」は様々なハイパーバイザーを搭載できるが、コスト面の優位性から多くのお客様がAHVを採用している。

工数、期間とも4分の1に短縮

このようにシンプルかつ低コストの「ニュータニックス」だが、我々はさらに先を目指している。キーワードは「エンタープライズクラウド」だ。クラウドは、IT環境の拡張が細かな単位でできるほか、アプリケーション導入の迅速性やインフラ管理がワンクリックで済むなど数多くのメリットがある。

では、パブリッククラウドにすべてのシステムを上げるのが本当にベストだろうか。特に金融機関の皆様にはどうしても社外に出せないデータがあると思われ、その部分はコンプライアンスやロックインのない選択の自由といった面からも自社運用のオンプレミスで持つべきだろう。我々は、高い投資対効果(ROI)とコスト負担の軽減の双方がバランス良く獲得できる目安として、情報システムの25%程度はパブリッククラウドで、残りの75%程度はこれまでのオンプレミスで運用していただいたほうがよいと考える。

我々の「ニュータニックス」は、スケーラブルなアーキテクチャー、単一のOSと管理画面でマルチクラウド管理が容易、複数のハイパーバイザーから選択可能など、オンプレミスで構築していただいてもパブリッククラウドと同様のメリットを享受できる仕組みになっている。

パブリッククラウドとオンプレミスの双方の利点を両立できる「ニュータニックス」を導入する国内の金融関連企業は増えている。例えば、ほくほくフィナンシャルグループの北陸銀行様と北海道銀行様は、情報系仮想サーバーと仮想デスクトップインフラに採用いただき、ITインフラ運用コスト(TCO)の40%削減を実現した。システム設計工程の生産性向上に力
を入れる東京証券取引所様は、導入によって対象プロセスの95%の内製化にメドが立ち、今も取り組みを進めている。野村総合研究所様からは構成とセットアップ、テスト工程で、過去と比較して工数、期間とも4分の1程度に短縮できたとご評価いただいた。

これからも、限られたIT予算で最大のROIが得られるITインフラを提供していきたい。

Google Cloud Platform を活用した音声認識・AIソリューション ~『MSYS Omnis』によるコールセンター・店舗での金融業界の導入事例・デモ~

國奥佳以氏

【講演者】
丸紅情報システムズ株式会社
CRMソリューション事業本部 CRMソリューション営業部
Omnisタスクフォース リーダー

國奥 佳以 氏

コストはオンプレミスの10分の1

丸紅情報システムズは、コールセンター向けのソリューション構築や音声認識などを得意分野としており、金融機関様からの売り上げが全体の8割以上を占める。

当社の音声認識・AIソリューション「MSYS Omnis」は、Google Cloud Platform(GCP)を活用している。GCPは、Googleが保有するGoogleアシスタントやGoogleホームなど、トータルのアクセス人数が月間10億人を超える8つのリソースをアプリケーション・プログラミング・インタフェース(API)化して企業向けに開放したサービスだ。GCPはセキュリティー投資にも注力しており、過去3年間の投資額は、日本円で約3兆5,000億円におよぶ。認証資格はISMSやPCI DSSのほかFISCにも準拠している。

「MSYS Omnis」は、音声認識や文章要約、よくある質問(FAQ)、翻訳のほか、
顧客関係管理(CRM)連携、自動音声応答システム(IVR)、音声合成、感情分析などのサービス群を提供している。巨大なインフラであるGCP上にすべてのサービスを構築することにより、アクセスが増えても、使用者側は処理能力の増強などを行わないで使うことができるメリットがある。提供するサービスの基礎となる音声認識の精度は、GoogleがGoogleアシスタントなどのサービスをユーザーへ無料で提供する代わりに、全世界から無尽蔵に音声データを収集して機械学習をさせることで、他社が簡単には追いつけない領域まで引き上げられている。

サーバーやソフトウェアなどを使用者が管理する設備内に設置して運用する“オンプレミス型”の音声認識では、多数のサーバーを並列化して運用しなければならず、初期投資などのコストが高額になりやすい。一方、「MSYS Omnis」は、使用者側に必要となるのは音声取得サーバーのみで、複雑な音声認識の処理を基本的にすべてGCP上で実行するため、少ないサーバーで対応ができる。コストも従量課金制を採用しており、使用した分数のみの料金でサービスを提供する。オンプレミスのサーバーと比べて、10分の1程度のコストで導入ができる点が強みだ。

金融機関で効率化やCS向上に実績

音声認識においては、エンジン装置自体が重要であることはもちろん、クリアな音源の取り込みも不可欠な要素だ。当社は、8つのマイクを搭載した「Omnisマイク」を開発し、個別に集音マイクを装着することなく発言者ごとの音声を音声認識にかけることを可能にした。これにより、議事録や応対履歴の作成、音声内容の分析を高い精度で行うことができる。

ある通信キャリア様では、系列の携帯電話ショップにおいて、音声認識による店舗顧客満足(CS)の改善にご活用いただいている。来店時のアンケートで低評価だったお客様にフォローコールし、その結果を音声認識にかけて分析することで、課題をフィードバックしている。

損害保険会社様の事例では、オペレーター業務の改善につながっている。従来は、お客様とオペレーターの会話を手入力でCRMに入力しており、1件の登録に5分程度時間がかかっていた。しかも、各オペレーターの主観が入り、正確な報告になりづらかった。「MSYS Omnis」の導入により、音声認識と文章要約を行うことで、CRMへの短時間で客観的な応対履歴の登録を可能にしている。

金融機関の業務効率化で活用されているケースもある。ある銀行では、ローン審査などの応対履歴の作成に1時間ほど要しており、その分、審査も遅くなって顧客サービスの低下を招いていた。お客様に許可を得て接客時にOmnisマイクで録音し、音声認識の使用により資料の作成時間の短縮だけでなく、サービスの向上と効率化による残業代の抑制が実現した。

ある証券会社様では、日本証券業協会が制定した高齢顧客に対する勧誘・販売のガイドライン遵守に利用している。社内の監督者があらかじめNGワード登録し、お客様との会話をテキスト上でモニタリングできる。

当社の「MSYS Omnis」は、巨大なインフラであるGCPの高度な性能とユーザー様の細かな利用ニーズを橋渡しするソリューションだ。お客様の需要の的確な把握とサービスの実現力が当社の強みだと考えている。

金融事例に見る間接業務の自動化と出張・立替/ベンダー経費コストの最適化 ~クラウドとモバイルを活用した経営管理基盤と働き方改革~

柿野拓氏

【講演者】
株式会社コンカー
マーケティング本部
本部長

柿野 拓 氏

「紙」の経費精算は生産性が低い

我々は、企業向けに経費・出張費管理、請求書管理のクラウドサービスを提供している。業務系クラウドでは世界で2番目に大きい企業体で、国内では約730社が当社サービスを導入済みだ。2014年末にドイツのSAPグループと統合し、2018年から「SAP Concur」というブランドで事業展開している。最近は中堅・中小企業からの引き合いも多い。

企業のコストは、直接材料費・材料輸送費といった「直接費」と、従業員経費・ベンダー経費・出張費などの「間接費」の大きく2つに分けられる。直接費は、統一ルールに従い専任スタッフが調達・購買を担っており、企業の最適化プロセスへの関心も高い。一方の間接費は、日々の営業活動に伴い不規則・少額・大量に発生する。経費の精算作業では、紙に費目を書き込み、レシートをのりづけして上長のハンコをもらい、経理部に提出する非効率な方法が根強く残っている。

特に日本企業の場合、間接費の管理を現場に任せているケースが少なくない。出張の航空機チケット予約において、ある社員は使い慣れたサイトで、別の社員は自分のカードにマイレージがたまる便を押さえるなど、異なるプロセスが放置されている。これでは不正リスクの根絶は難しい。データ化できない紙ベースの経費精算は生産性が低く、社員の“性善説”に立った出張費管理は企業ガバナンスとして問題があると言わざるを得ない。

我々は、経費精算などの従業員経費には「Concur Expense」、ベンダー経費については「Concur Invoice」、出張費に関しては「Concur Travel」という管理最適化に資する各種ソリューションを提供している。「Concur Expense」は、クラウドシステムで交通費や交際費など経費精算に関する全情報を統合。社員は自分のスマートフォン(スマホ)に専用アプリをダウンロードしておけば、経費発生データと直接連携し、スキマ時間に経費精算の申請や承認が可能となる。企業側にとってはシステムで経費規程を事前に定義し、不正経費支出を自動検知できるのでガバナンスと透明性が確保できる。

このスマホで経費精算という仕組みは、電子帳簿保存法のスキャナ保存制度の規制緩和を受け、領収書の電子化が認められたことで2017年1月から可能になった。ある大手証券会社では、1年間に発生する領収書が段ボール6,000箱にのぼり、管理費だけで年間5 億円かかるという。電子化すれば社員の負担は減り、監査のコストも抑えられる。2019年までには3社に1社が領収書を電子化したいとのデータもある。当社は本規制緩和をけん引した一社として、電子化のメリットを広く知っていただきたいと考える。

「集中購買」で出張費を抑える

2番目のベンダー経費用の「ConcurInvoice」は、発注情報や電子請求書、紙やメールに添付された請求書など支出発生源を統合した支払管理を実現する。キャッシュフロー管理を効率化する“見える化ツール”として請求管理費のコスト削減に貢献する一方、本社や拠点分のデータを統合することで取引先とのガバナンスを統制できる。2018年6月には、請求書の電子化に対応する「Concur Invoice」のe-文書対応版をリリースする。

最後の「Concur Travel」も間接費改革の有力ツールといえる。企業の管理部門は「Concur Travel」にベンダーおよび経費規程・出張規程を入力することで、社員は会社が決めたフライトしか取れないなど事前指定された購買先から選ぶことになる。これにより、社員が自分の都合で割高な購買先を選ぶといった事態を防げるとともに、集中購買でチケット購入費などを抑える効果も見込める。出張後はシステムに搭載されている標準レポートで出張の支出情報を“見える化”。分析・管理することでムダな出張費用や不正利用を検知できる。管理部門の工数では20~30%の削減も可能とみている。社員はスマホにダウンロードした専用アプリを使って、飛行機、ホテル、レンタカーなど手配した出張予約をモバイル管理できる。

海外に比べて、日本のビジネスパーソンは経費や出張費の管理に費やす時間が長いとの指摘がある。ぜひ我々のソリューションを活用して間接管理費の高度化を図ってほしい。

「デジタル新時代」への対応と、失敗しない「業務改革」

小野和俊氏

【講演者】
株式会社セゾン情報システムズ
常務取締役 CTO

小野 和俊 氏

クローズドからオープンへの転換

1970年に創業した当社は、金融業や流通業を中心に情報処理サービスやソフトウェア開発事業を展開してきた。1993年に販売を開始した主力製品の「HULFT(ハルフト)」は、ファイル転送・データ連携ツールだ。企業の情報システム内に混在するメインフレームやUNIX、Linux、Windowsなど様々なプラットフォームとのデータ連携を、安全かつ確実に実現する担い手として実績を重ねてきた。

自社運用のオンプレミス型向け連携ツールとして活躍してきたHULFTは、クラウド化の波が押し寄せ一時は規模縮小が危ぶまれたかに見えた。しかし、クラウド型の活用が進んでいるとはいえ、オンプレミス型のシステムを抱えたまま、部分的にクラウド化する企業が多数派だ。HULFTは、オンプレミス型システムとパブリッククラウド上のシステムをつなぐことで、クラウド時代のシステム連携ツールとして新たな活路を見出した。

HULFT事業は、基幹システム連携や国内展開といったクローズドな戦略から、クラウド環境対応や海外展開などオープンな戦略へ転換していった。こうした取り組みが評価され、米アマゾンデータサービスの年次イベントAWS re : Invent 2015では「Think Big」を受賞。データ連携ツール提供社として注目を集め、2016年にはファイル転送ソフトウェア製品部門の世界売上シェアでトップに次ぐ存在となった。

HULFTで起こったイノベーションを、システム・インテグレーション(SI)部門も含めて全社的に展開できるような環境をつくるため、2016年4月に最先端技術に取り組む新組織「テクノベーションセンター」を設立。テクノベーションとは、テクノロジーとイノベーションの造語だ。イノベーションを生み出すために、本社移転にあわせて環境を整備し、風通しのいい企業文化の醸成にも努めている。

RPA機能を補完・拡張する

昨今、業務改善の切り札として定型業務を自動化するソフトウェア「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」が盛り上がりを見せている。当社でもデータセンター業務改革の一環として導入したところ、RPAの得手不得手を確認した。RPAは、ルールと手順が決められた定型処理作業や画面操作を伴う入力作業などを得意とする一方、自動化できる業務が限定的であったり、一部は人手に頼らなくてはならなかったり、専用システムにつなぐ必要があったりする点が課題となる。

RPAの課題を、当社ではHULFTシリーズの一つであるデータ連携ミドルウェア「Data Spider」で補完している。DataSpiderは、多種多様なデータやシステムとの連携処理を素早く実現することが可能だ。画面操作が不要なシステム連携やRPA前後に発生する処理などをDataSpiderがサポートすることで、RPA機能を拡張させる。

通常、情報システム間でデータを連携させるには、システムごとに手組みでプログラムを開発しなければならない。DataSpiderを活用すれば、およそ1万4,000工程のコーディングが必要なJavaの開発物であっても、あらかじめ用意された13個のアイコンを並べるだけで済む。新システムへのデータ移行やバージョンアップ時のデータ移行なども、専用のプログラムを作らずに実行できる。時間短縮だけでなくコスト削減にも貢献する。

また、Data Spiderは、データベース上の様々なタイプのデータを手軽に接続できるアダプタを介して、データ連携の自動化と業務効率化を支援する。このアダプタを使えば、複雑な工程のプログラミングや接続先の固有ルールに従った開発が不要で、接続情報とデータ取得処理の設定のみで完了する。

現在用意しているアダプタは50種類以上。クラウドサービスやアプリケーション最新情報をキャッチアップし、新しいアダプタを常に提供し続けている。2018年3月には、コージェントラボが提供するAI(人工知能)による手書き認識サービス「Tegaki」と当社のData Spiderをデータ連携させる「Tegakiアダプタ」を開発した。

金融業務には手書きの申込用紙などから住所変更や勤務先といった情報をタイピングなどでデータ化する作業が多い。このTegakiアダプタで社内システムと連携させて業務改善の検証を行ったところ、アンケートの読み込みや集計の自動化、入金消込業務などにおいて、業務自動化の有効性を確認できた。

データ連携ツールを提供する一社として、RPAの効率的な運用を促進し、業務改革の一助を担いたい。

RPAを活用した生産性向上への取り組み

山田泰宏氏

特別講演

【講演者】
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
企画部 業務改革室
上席室長代理

山田 泰宏 氏

3カ年で500億円の経費削減へ

金融機関を取り巻く環境は厳しさを増している。長引く低金利環境が銀行の事業収益を圧迫する中、厳格化が進む国際金融規制への対応も迫られている。さらに、保守主義の台頭や地政学リスクなどの高まりもあり、事業環境の先行きには不透明感が漂う。

とはいえ、ビジネス拡大のチャンスが無いわけではない。ここ数年、個人投資家の「貯蓄から投資」への流れで新規顧客創出の機会は広がった。国内外の企業業績の好調を背景とした株式相場の上昇も追い風となるだろう。

チャンスとピンチが併存する中で、限られたリソースで事業拡大を図るため、SMBCグループ全体の見直しを通じて“抜本的な選択と集中”を進める必要があった。

我々の中期経営計画では、テクノロジーの活用やグループ内のインフラ共有化などによって生産性向上に取り組み、2017年度から2019年度末までの3カ年で500億円の経費削減を目指している。具体的な対策としては、業務改革による効率性向上や店舗戦略の改革、グループ内の事業再編などを挙げている。

こうした業務改革を進めるにあたって、いくつかの課題もあった。既存業務の負荷が高い現場に改革を行う余力はあるのか。また、改革による効果を実感できるまでに時間を要し、現場が疲弊しないか。加えて、現業にプライドを持って進めている現場の納得感をいかに得るか。そこで、業務効率化で余力を創出しつつ、手触り感のある効果をすぐに実感できるロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を、単なる効率化のツールではなく、抜本的な業務改革により生産性向上へのキッカケや武器として活用することを決定した。

RPAなどを活用して4,000人分の余力創出を目指している。ここで重要になるのが、捻出した余力をどのように活用するかが重要であり、我々は「付加価値業務の拡大(提案品質向上など営業力や本部企画力の強化)」、「働き方改革の推進(労働時間の適正化)」、「人員配置の最適化(人員減少への対応力強化)」の3つの出口戦略にしっかり再配分を行っていく。RPAの導入により行員が行っていた業務を減らすことができれば、これまで以上にお客様への訪問が増加したり、提案水準が向上したりと、付加価値の創出に繋がる業務に時間を充てることができる。同時に、労働時間を削減しつつ、仕事の質を向上させ、従業員が生き生きと働ける働き方改革へ貢献できる。さらに、規制対応・顧客ニーズ対応などで増加する業務量を現有人員で吸収できると考えている。

実際に、高い導入効果を実感できている。例えば、行員の営業活動に伴う顧客情報の収集をRPAで代替したところ、行員の営業力が高まった。また、正確性が求められ、行員の業務負荷が高いリスク関連業務にRPAを活用すると、その行員から業務改善提案の声が上がり始めるなど、単なる作業従事者から管理・監督者の視点で業務を俯瞰してくれ、業務全体を高度化することができた。RPAと人が業務を分担することで、付加価値が高まるという好循環が生まれている。

プロジェクトに共同CoE方式を適用

RPAプロジェクトには、アクセンチュア、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング、デロイト トーマツ コンサルティング、PwCコンサルティング、日本IBMの5社のパートナー企業が参加した。専門性の高い人材を組織横断的に配置する共同CoE方式によって、品質の高い開発・運営管理体制を構築し、プロジェクトを推進。各社より、優秀な人材と先進的でグローバルな知見を提供いただけたことで、業務の見直し(BPR)と組み合わせたRPA導入を実現。こうしたパートナー企業各社の柔軟な対応がプロジェクトの成功に大きく関係している。プロジェクト開始から約1年間の実績を振り返ると、約110万時間分の業務をRPAに移行できている。

今後は、RPAの利用環境の整備や行員の意識改革を進めて、行動変革を生み出したい。例えば、大量・安価でミスの少ない労働力を確保するため、RPAの脆弱性を補完する運営体制を構築する。加えて、行員が限られた労働時間の中で最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、RPAとの協業を推し進め、新たな業務領域への挑戦を促していきたい。「人+RPA」によって付加価値を向上できるような仕事のスタイルを作り上げていきたい。

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