JAへの“共用”タブレットの全国展開について

【講演者】
農中情報システム株式会社
JASTEM事業本部 JASTEM開発二部
副部長
石田 和宏 氏

【講演者】
ニュータニックス・ジャパン合同会社
システムズエンジニア統括本部 金融SE部
シニアシステムズエンジニア
野田 裕二 氏

「共用化」プロジェクトの組織概要

本日は、2019年11月に稼働を迎えた弊社事例についてご紹介する。「共用」が当該プロジェクトのポイントだ。

<農中情報システム株式会社(NIC)とは

弊社は、農林中央金庫とJAバンクの金融システムの開発・運営を担う専門企業だ。もともと農林中央金庫のシステム部門が独立して創業した、農林中央金庫の情報システム子会社となっている。

JAバンクとは

JAでは、金融事業のほかに農地産物の収穫・販売、営農指導、共済事業など多岐にわたる事業を展開している。金融事業においては市町村レベルのJA、都道府県レベルのJA信農連、全国レベルの農林中央金庫がある。これら3つで構成する金融グループをJAバンクと呼ぶ。実質的に1つの金融機関として機能するように、JAバンクでは戦略やインフラなどを共用している。

<携帯用端末機の共用化案件の立ち上げ経緯

金融機関では、個人や法人の顧客を訪問して金融商品を紹介・提案する活動を渉外活動と呼んでいる。渉外活動をサポートするツールとして、携帯用デバイスを活用する機会が多い。

<信用事業における渉外活動のための携帯用デバイス

JAバンクの信用事業における携帯用デバイスの開発は、かつてJA信農連が管轄していた。そのためローカルアプリを活用したPDA端末、プリンターと一体型のハンディ端末、タブレット端末、あるいは携帯デバイス未導入のまま紙媒体で渉外活動を行うなど、都道府県ごとに独自の対応が見られた。地域特性を活かせる反面、サービスレベルにバラつきがある点が課題であった。4Gが全国的に展開された2019年、モバイル通信のインフラ整備が進んだ。そこで携帯用デバイスの開発を農林中央金庫が担うことで統一を図り、スケールメリットによる開発の効率化や全国共通ツール提供によるサービス品質の底上げを目指すことになった。

<渉外担当者の携帯端末2台持ち解消

共用化案件の立ち上げには、もう1つ理由があった。JA共済の全国組織である全国共済農業協同組合連合会(以下、全共連)も、専用タブレットをJAに対して配っていたのだ。顧客の面前で端末を使い分けていたJAの渉外担当者からも、2台持ちを解消してほしいとの声が上がっていた。折しも全共連のタブレットは、2019年の秋に更改を迎えるタイミングであった。そこで信用事業内では全共連との携帯用端末機の共用化と名付け、共済事業と信用事業の双方のシステムへのアクセスを目指すプロジェクトをスタートした。

<シンクライアントの選択

信用事業としては「完全閉域の渉外支援システム」と「オープン環境のインターネット閲覧」の2種類のシステムを提供したい。しかし従前から提供されている共済事業システムの機能を損なうことがあってはいけない。そこで全共連にシステム構成をヒアリングしたところ、Web方式にてシステムを提供しているために、アプリケーションやデータの端末ローカルへの保存は不可だという。そのルールに則ると、我々もローカルのアプリケーションを構築することはない。共済事業システムとの競合を回避するためにも、お互いのシステムの関係を極力疎にすることが重要な鍵と考え、両事業間の論理分離を実現するためにシンクライアント方式を採用した。

<本プロジェクトにおける課題とアーキテクチャの選定

本プロジェクトにおいては、利用者数の課題があった。JAは組織ごとに、それぞれ事情が異なる。そのため全国統一されるデバイスの導入可否は、各都道府県の任意判断とされた。

<利用者数にまつわる課題

上記の事情から、2016年初めのプロジェクト着手時点に、2019年秋の利用開始時点の利用者数の把握は困難であった。また独自デバイスを利用している都道府県においては、その更改時に次期デバイスに切り替えるために、15,000人から19,500人の間で段階的にユーザー数が増えていく。そのためインフラとしては確実に必要となる最小規模で構築をし、その後のユーザー数の決定に応じて不足分を追加構築していく必要があった。

3 Tierでシステム構成をした場合

この様な課題を有する基盤のシステム構成を既存の3 Tierで構築した場合、サーバーやストレージの中のディスク装置は増設できるが、ストレージの機器、本体そのものやそれをつなぐFCスイッチのような関連機器は、はじめから構築しておく必要がある。初回から最大数を想定して構築した上で、ストレージおよび関連機器の使っていない部分も保守費用を払うというムダが生じる。総利用数が想定よりも少なくなった場合も、減らせるのはサーバー部分のみだ。また初回に導入したものがEOSLを迎えた場合には、増設したサーバー機器の保守期間が残っていても一斉更改することになる。

HCIを採用して良かった点

最終的なユーザー数を見通せない状況であったため、2つのシステムのうち一方のインターネット閲覧用のシンクラ基盤構築においてはHCIアーキテクチャの「Nutanix」を採用することにした。HCIであれば、すべてのシステムの領域を単純に増加するだけで構築できる。総利用数が想定よりも少なければ、増設をやめれば済む。初回に構築したものがEOSLを迎えた場合に、その領域の機器のみ更改をすれば良い。増設したものは、まだ保守期間が残っているので継続して使える。実際に発注から稼働までの期間が非常に短く、ユーザー数に応じた増設がスピーディであった。

<もう一方のシステムにHCIあるいは3 Tierのどちらを選ぶか

当初、もう一方の渉外システムが載るシンクライアント基盤もHCIで構築する方向で検討した。しかし既存システムとの連携が多く、それらの機能構築・保守が必要になることからHCIの利用を断念し、3 Tierで構築した。2019年に稼働した本プロジェクトは、2024年に基盤の更改を迎える。今日的な技術動向や稼働実績を踏まえて、HCIで十分に安定したインフラを提供できることがわかってきた。そこで次期基盤では、いずれのシステムにおいてもHCIアーキテクチャを利用した基盤でシンクラ基盤を構築する決定をした。

Nutanixで実現するデータ活用基盤の作成

Nutanixの大きなメリットは、ファイルストレージ、ブロックストレージ、オブジェクトストレージの機能を備えた「ユニファイド・ストレージ」を提供できる点だ。アプリケーションの種類に応じて、1つのクラスターでさまざまなストレージタイプを提供している。またオンプレミス、マネージドサービスプロバイダ様の基盤、各拠点のエッジの環境、パブリッククラウド上など、さまざまなアプリケーションをニュータニックスの基盤上で動かすことが可能だ。近年ではモダンアプリ、AIアプリや分析、データベースを動かす基盤としてNutanixを使っていただくケースが増えている。

<活用事例

建設業のHOLCIM様は、ビデオを推論して危険エリアの中に人が一切立ち入らなかったことを保証するAIアプリの作成をNutanixの基盤を使って行なっている。鉱山業のお客様はドリルが壊れる前に取り替える故障の予兆検知のために、Nutanixのストレージの中に振動データを収集して分析基盤としてご活用いただいている。弊社ではIT部門の問い合わせはAIが回答する。ラージランゲージモデル(LLM)を活用して、データの蓄積基盤にオブジェクトストレージを搭載し、その中のデータを学習させて適切な回答をできるようにしている。

<セキュアな環境>

お客様の業務やサービスなど、活用したいデータにあった専門的なファインチューニングをする基盤が必要になる。学習させたデータが競合他社に漏れてしまうとビジネスの影響は計りしれない。セキュリティの観点からクラウドの活用はハードルが高いと考えるNutanixのお客様は、ユニファイド・ストレージ上にデータをためてセキュアな環境を作り、データ分析基盤を作成している。データ分析・AI活用基盤の作成は、Nutanixであればさまざまなアプリケーションに対応可能だ。ご興味があれば、弊社へご連絡いただければ幸いだ。

◆講演企業情報
ニュータニックス・ジャパン合同会社:https://www.nutanix.com/jp