- MUFGにおけるデータ利活用戦略
~ その課題と打ち手 ~
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 木下 敬規 氏 - JAへの“共用”タブレットの全国展開について
農中情報システム株式会社 石田 和宏 氏/ニュータニックス・ジャパン合同会社 野田 裕二 氏 - りそなグループのデータ利活用の取り組みについて
~ 金融+で、未来をプラスに。 ~
株式会社りそなホールディングス 大西 雅巳 氏
MUFGにおけるデータ利活用戦略
~ その課題と打ち手 ~
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
経営企画部 部長
木下 敬規 氏
<最適な推進体制とは>
同じテーマで2023年2月、概要についてご紹介した。詳細を聞きたいというコメントを頂いたので、本日は一部の項目について掘り下げてご紹介する。
<これまでのデータマネジメントへの取り組み>
2013年に公表された『BCBS239』に対応する体制を整えるべく、リスク統括部の傘下にデータガバナンスを司る経営情報室を設置し、2015年末の遵守期限までにグループCDOのもと滞りなく対応した。これまでの歩みの中で、規制対応に主軸を置いたデータガバナンス体制の構築に要するコストはかなり嵩んだことから、今度は業務効率化や収益向上につながるデータ利活用に向けて取り組んでいる。そこで2019年にビッグデータ基盤OCEAN(以下、OCEAN)をリリースしたほか、2022年には経営企画部の傘下に経営基盤改革室を設置してデータ戦略を集中的に行う体制を組んだ。
<データ利活用の推進体制>
足元の体制はCSOの下にCDOを配置し、その実務部隊として経営企画部を配置している。経営企画部は全行のシステムアーキテクチャ戦略PMO、データ戦略を司る経営基盤改革室からなる。これがデータ戦略を担うコアな部分であり、システム部門や事業部門と連携して全社的なシステムの更改やデータ戦略を進めている。
<経営企画部の主導について>
経営企画部の主導に体制を変更した背景は、全社的な動きをするには権限を跨いだ連携が肝要なためだ。財務、顧客・社会、内部プロセス、基盤(ヒト/システム)の4項目はそれぞれ責任者が異なるが、全社的なシステムの更改、もしくはデータ戦略の推進は、これらの項目すべてに関わる。そこでこれらを跨ぐ形でCSOをトップとする経営企画部が主導する体制にした。このマトリックス型の運営においては、権限が重複するという問題が生じるが、CSOとCIOの間で権限を分けたり、片方に拒否権を持たせたりするなど、運用でカバーしている。
<ユースケースを創出する上での留意点>
利活用の前に、BCBS239へ対応するためにデータ品質向上に取り組んできた。ただし規制対応観点から追加的に統制を行っていくことは非常にコストがかかったので、これからのデータ利活用の方向性は守りと攻めの両面で進めていく。守りの面では自動化・効率化を実現することでコスト削減を、また攻めの面では集めてきたデータをBIおよびAIを活用してより深い分析を行い、ビジネスへの活用を展望して進めている。
<データ利活用する目的の共有>
データ利活用を進めていく上で全社員が同じマインド、目標をもって進めていくというテーマを早い段階で掲げた。そこで「データドリブン経営とは何を目指すものか」を文字化して社員全員で共有している。具体的には「短時間でデータ分析を行い、それに基づいて方針を立て、それを速やかにアクションに移し、その結果・効果をすぐに分析し、改善を行う」だ。つまりいかに短期間でPDCAサイクルを回すかを、データドリブン経営の目指すべきものとした。データドリブン経営の担い手は担当者からマネジメントまで全員が対象となる。質よりスピードに重きをおく点は、全社的に進める上で大きなポイントであった。スピードを重視するために、できるだけ数をこなし、よりユースケースを量産することを重視している。かつてはデータが正確でない、網羅的でないという理由で多くのユースケースが道半ばで中断することがあった。スピードを重視し最後の成果まで確実つなげるというマインドを徹底することで、これまでは実現が難しかった案件も着実にアウトプットにまでつながってきている。
<ユースケース創出における「3つの集中」>
より多くのユースケースを創出するために、3つの集中を念頭において意を尽くしてきた。1つめはデジタライゼーションへの特化だ。デジタライゼーションを自分たちの中で消化した上でなければ、真のDXのユースケースは生み出せないと痛感したので、自動化・効率化を量産することで基盤の整備と全社員のデジタルリテラシーの向上を図った。2つめは小型・中型案件に特化して取り組む点だ。基盤を整備するためには、最後までやり切ることが重要だが、大型案件は成果が出るまでに時間がかかり過ぎる。特に、その間に環境・ビジネス・制約条件等の変化があり、最後までやり遂げられないことが多々あった。他方、小型案件は数多くこなせるため、現場の利益実感は醸成しやすいが、全社的なデータ基盤整備への効果は限定的なものに留まる。そこで小型案件と同時に中型案件を複数走らせている。小型・中型案件双方を進めることで、利益実感発現により現場の共感性を維持しながら、負荷の高い課題にも着実に対応していくことが出来る。3つめは、トップダウンとボトムアップの2つのアプローチに特化する点だ。マネジメントと担当者が必要とするデータは、粒度や内容が大きく異なる。この2つを並行して進めることで、大局的なデータと詳細なデータを同時に整備していく。
<システム・データ基盤の刷新>
データ利活用を推進するにあたっては、データを収めるインフラ(ハコ)、データ(中身)、ヒト(それらを使いこなす人)を同時並行で強化することが不可欠だ。ハコについてはシステムアーキテクチャ戦略を、中身についてはOCEANを整備し、人材育成については実践力を増すという観点から、さまざまなメニューを用意してカルチャーの変革を行っている。
<データ基盤整備>
データ基盤整備にあたり、4つの課題を抱えていた。1つめは情報系システムやBIツールが乱立し、サイロ化していた点だ。そこでOCEANを立ち上げ、BIツールを一本化することでサイロ化を防ぐ。2つめは、Excelやメールによるデータ収集に多大な時間、リソースを消費するという点だ。そこでツール導入によるデータ収集の効率化・迅速化を進める。3つめは、各自のフォルダに入るなどデータが散在したりダークデータが存在したりしていた点だ。そこでOCEANにデータを集約することで、ダークデータを解消している。4つめは操作性の高い整備済みデータがない点だ。そこで誰でも使えるように標準化したデータベースを整備している。しかしデータを標準化するのは、コストやリソースの面で非常に負荷が大きく難易度が高い。優先順位をもって利活用に資するところから進めていくことが重要だ。当初は上流のシステムからデータをOCEANに入れ、これを標準化するというアプローチをとっていた。しかしフロントシステム・情報系システムどちらも相当数ある状況では、すべてのシステムのデータを格納し標準化するのはコスト・リソース両方の面で非現実的であった。この状況を打破すべく、下流のユースケースからOCEANに収めるデータ、標準化すべきデータを特定する方針へと切り替えた。具体的には、管理会計とCRMデータの2つを優先し、現実的に進められる標準化プロセスを築き上げている。それら以外の必要なデータは別途定期的にOCEANに直接投入し、順次標準化を行うこととした。
<データ人材育成と全社リテラシー>
3つのステップが必要だと考える。eラーニングを活用しながら、データナレッジ・スキル習得を目指す座学がステップ1だ。実際に手を動かしてデータ活用の実践力を習得(BI活用)するのがステップ2、データ活用による変革に向けた思考力・構想力の強化がステップ3であり、個人のスキル・ナレッジを踏まえながらこの順番でリテラシーを高めていくことが重要だ。
<データ人材育成‐BI活用の実践‐>
ステップ2の具体的な施策として、経営基盤改革室では行内でデータの知見のある者を集約しCoE体制を設けている。メンバーはCoEの中で知見をまず蓄えた上で、各部が指名した兼務者や公募で手を上げた社内副業者が持ち込んだ課題の解消に向けて、いわば家庭教師となってBIを使った課題解決の手助けをするプログラムだ。3〜6ヶ月で1つの課題を消化できている。育った人材が各部の中でBI伝道師としてBI活用を推進することで、全社的なデジタルリテラシーを高めていく。早い人は1年くらい、通常2年くらいで伝道師になる。
<BIツールを一本化した背景>
全社のリテラシーを高めるためには社内における共通言語化が必須だと考え、BIツールをTableauに統一した。選定根拠は大きく3つ。1つめは本や動画など学習コンテンツが充実していたこと、2つめはコミュニティの存在である。金融業のみならず、異業種も含め多くのコミュニティサークルが存在し、何か疑問が生じた際に誰かが答えてくれる環境は有意義だと考えた。3つめはエンジニア面でのサポート体制。OCEANはAWSの中で構築しており、そこにTableauの機能を配置している。AWSとTableauの接続が悪いとユーザーにストレスがかかるため、サポート体制を重視した。
<最後に>
ここまでの内容が、皆様の何かの参考になればと思う。皆様の益々のご健康とご発展をお祈りして、本日の講演は終了とさせていただく。