鹿児島銀行のデジタル戦略とデジタルタッチポイントの最適化

 

特別講演
 
【講演者】
株式会社鹿児島銀行
経営企画部 デジタル戦略室 調査役
徳留 直人 氏

<鹿児島銀行のデジタル戦略>

当行では実現したい未来として「10年ビジョン」を掲げており、それはお客さま、地域、社員とともに、より良い未来を創造する『地域価値共創グループ』になることだ。10年ビジョンと合わせるように「デジタル戦略グランドデザイン」を描いており、地域社会のデジタル化をリードする企業グループになることを掲げている。デジタルで柱となる4つの基本戦略があり、CXの追求、地域社会のデジタル化、生産性・コスト構造改革、デジタルガバナンス・人材の高度化だ。

<デジタル社会の未来像>

これまでデジタルはリアルの補完であり、リアルがメインであった。これからの時代は、デジタルは常にお客さまとの接点があり、リアルは差別化チャネルの1つとなる。銀行において現在は店舗中心型からオムニチャネルへと進んでいるが、さらに先のデジタル時代の銀行は「組み込み型バンキング」だ。生活・社会で意識することなく、お客さまに応じたサービスをリアルタイム・フリクションレスで提供する形に変化すると考えられる。銀行は社会の裏側から金融機能を提供する存在となり、お客さまからは「見えない存在」となる。ATMや店舗の減少により人の重要性が高まるため、デジタルで人を活かすことが重要だ。

<第8次中期経営計画 デジタル戦略骨子>

現在の2023年は、当行の第8次中期経営計画の最終年度だ。第8次中期経営計画ではデジタル戦略として、デジタル社会に向けたDX推進を定めている。2つの大きな戦略があり、新たな体験・サービスの提供、プロセス改革による生産性向上だ。

<デジタル戦略の柱① 新たな体験・サービスの提供>

非対面チャネルの強化および対面チャネルの差別化により、各チャネルをお客さまに選ばれるチャネルへと高度化させることを目指す。また各チャネルの連携とデータを活用し、パーソナライズされたコンサルティングにより、高い満足度につながる顧客体験を提供していく。

金融サービスプラットフォームとして当行が独自開発しているキャッシュレスアプリ「Payどん」の加盟店拡大、利用拡大および機能拡充等を通じて、地域のキャッシュレス化を推進する。自治体や取引先との連携により地域デジタルプラットフォームを構築し、地域におけるDXを金融・非金融の両面で推進していく。

<デジタル戦略の柱② プロセス改革による生産性向上>

営業店事務体制や店舗機能、ワークスタイル、バックオフィス部門の変革により、スリムで利便性・生産性・収益性の高い事務体制を実現する。既存システムの廃止やスリム化、クラウド活用等により、システム全体の最適化を図り、投資と経費をコントロールしていく。また、デジタル戦略の実現に向け、IT部門の態勢強化および人材育成にも注力する。

<非対面チャネルの活用>

当行におけるお客さまのタッチポイント(顧客接点)に関して、対面では窓口タブレット、営業用タブレット、業務用スマートフォン、キャッシュレス決済アプリの「Payどん」がある。非対面では2023年5月に「外為FB-web」を稼働させ、10月には新しい個人ローンの受付システムを導入した。今後はオンラインサービスを拡充させた法人ポータル、個人向けスマホバンキングアプリの開発を検討中だ。

DXを推進するうえで4つの基盤を整備してきており、キャッシュレス基盤、インターネット基盤、AI(データ活用)基盤、業務用スマートフォン基盤だ。本日はこのうち、キャッシュレス基盤と業務用スマートフォン基盤について具体的な事例を紹介する。

<キャッシュレスアプリ「Payどん」>

Payどんは、前払い式(プリペイド)と即時払い式(デビット)に対応した決済アプリだ。2019年5月に事業を開始しており、目的は地域事業者の支援および県内キャッシュレスの普及などの「地域経済活性化」である。「デジタル地域振興券」を発行しており、2022年度の事業規模は約26億円で、一定の地域経済効果およびキャッシュレスの普及に寄与している。

また我々は自治体に対し、Payどんの各種データを提供し、施策効果検証に活用している。ある市のデータでは、市内の利用者が7割である一方、市外の利用者も約3割いる。40代や50代の女性利用が多いが、60代以上の割合も2割程度ある。業種別では小売業(スーパー)の利用が多く、日常使いされていることが分かる。

2023年10月に南日本銀行様・鹿児島相互信用金庫様と連携し、これら2行のお客さまも利用可能になった。2024年4月からは鹿児島信用金庫のユーザーも利用可能となる予定だ。鹿児島県とはデジタル化推進連携協定を締結しており、税・公金事務の相互効率化やキャッシュレス決済促進などを展開していく。鹿児島県民みんなが使う地域アプリへ進化させ、域内の資金循環や地域の更なる経済活性化を実現し、決済データの地域への還元・活用を促進する。

<業務用スマートフォン機能>

2021年度営業店向けアンケート結果で、業務用スマホ導入を8割弱が希望していた。一方で営業担当行員の約9割が個人所有スマホを業務で利用していた。そこで2022年6月に、全店の営業担当行員全員を対象に、業務用スマホを配布した。当行のIT統括部が独自開発したアプリを実装している。行内メールやWeb会議アプリなどのコミュニケーション機能、検索や地図・ニュースなどの情報機能、スケジュール管理や音声メモなどの効率化の機能がある。

営業担当はタブレットも持っているが、業務用スマホはコミュニケーションや情報ツールとして活用し、営業用タブレットは対顧客の銀行業務等で活用する。営業用タブレットと組み合わせ、より営業活動を高度化・効率化し、お客さまとの対面時間・訪問件数増加を実現するものだ。

セキュリティは万全を期しており、端末認証登録及び遠隔ロック等の措置を講じることで、端末紛失時における情報漏えいリスクを排除する。業務情報が含まれるアプリケーション起動時には、別途ログイン認証を設ける。顧客情報が含まれるアプリケーションでは、必要とされる取引情報のみの参照が可能とする。行内との通信はすべて暗号化し、端末に顧客情報等は一切残さない。

<デジタル人材育成>

当行の目指す姿は、地域社会のデジタル化をリードする企業グループである。一方で当行を取り巻く環境は変化しており不確実性が高いが、避けては通れない状況である。全ての戦略・施策にデジタルの活用が求められており、デジタルを活用して変革できる「DX人材」が必要不可欠だ。これまで行内では基幹系システム開発要員育成、最新デジタル技術活用人材育成、行内全体におけるデジタルスキル向上等に取り組んできた。

DX人材育成における課題や求められる人材

銀行として求めるDX人材の水準が未定義であり、育成方法も全行員一律であった。自主学習の環境が未整備で、学ぶためのインセンティブが弱いのも課題だ。人材育成体系を構築することで、これらの課題の解決を目指す。

DX推進にあたっては「デジタル技術に精通した人材」と「ビジネスに精通した人材」の両方が必要だ。それを踏まえてDX推進スキルを3段階に分け、そのうち「DX推進人材」と「DXベース人材」を当行におけるDX人材と定義した。DXベース人材は、DX・デジタルに関する基礎知識を身につけて当行デジタル関連サービスを推進できる人材だ。DX推進人材は、デジタル戦略や施策を立案・実行できるDX推進の中心的な人材である。DXベース人材は2023年9月時点では207名で、2027年度末には1,200名に底上げする予定だ。DX推進人材は現状12名で、こちらも今後増員していきたい。