「DX時代の顧客接点進化に向けた取り組み事例」

伊藤 哲彌 氏

【講演者】
株式会社TMJ
営業統括本部 サービス推進本部 カスタマーサクセス
エグゼクティブコンサルタント
伊藤 哲彌 氏

<デジタル化の加速と多くの企業の現状課題>

昨今、多くの企業でコンタクトセンターのデジタル化が加速している。具体的にはAIによる応対支援、応対ログのテキストデータ化、FAQやチャットボット、音声ボットを用いた自動応答などだ。コンタクトセンター自体のデジタル化に加え、WEBのセルフサポートも充実しつつある。保険業界でも同様で、多くの生保・損保でCXや業務の効率化を推進している。

デジタル化のキーワードは「蓄積されたデータの分析・活用」と「デジタル化の取り組みの評価・改善」だ。しかし多くの企業ではデータドリブンな業務運用の構築や、運用を含めたコンタクトセンターの定着化には至っていない。デジタル化の取り組みは行われているが、期待した効果を発揮できていないのが現状だ。

<デジタル化時代の顧客接点最適化の取り組み>

デジタル化の取り組みについて多くの企業にヒアリングしたところ、3つのパターンに分かれている。

1つ目はコンタクトセンターの足元課題を解決したいというパターンで、入電数や運営コストの削減、採用難でも応答率のキープなど、コンタクトセンターで今起きている課題解決を主眼とするものだ。FAQやチャットボットといったセルフサポート、またはマルチチャネル対応により入電数を減らすなどの取り組みをする企業が多い。

2つ目は、会社の方針でDX・CXの取り組みを開始するパターンだ。全社方針で予算がついている場合が多く、デジタルツール導入が目的になりがちだ。しかし当然ながらそれでは期待する効果を生み出すことはできない。問い合わせ内容、応対の流れ、応対履歴などから運営課題を明らかにし、優先順位をつけてデジタル化を進める必要がある。

3つ目のパターンは導入・取り組みが一巡し、次のステージを目指す状態だ。保険業界では多くの企業がこの状態に到達しているのではないだろうか。AI・ナレッジ・セルフサポートなどいろいろ導入した後は、システム・ツールをそれぞれ評価するだけではなく、全体の効果検証が必要だ。入電数は削減できたのか、顧客満足度は上がったのかといった、より高い視座・大きな目線で評価する必要がある。

<全体目線の効果検証の考え方>

顧客接点から得られるデータは、通話時間・後処理時間・生産性・FAQ利用回数などたくさんある。しかし会社上層部の関心は、入電削減効果・顧客満足度や従業員満足度などだ。目的の達成度合いを評価するための分かりやすい指標を考えていく必要がある。そうした数字を一般的に「KGI」と呼び、KGIを達成するための個別の数字が「KPI」だ。

たとえば入電削減が「KGI」となっている場合、効果検証の考え方はさまざまだ。Web等の自己解決により問い合わせを減らす、チャットやLINEなどに誘導して電話の件数や比率を減らす、FAQやChatbotの利用数拡大でWebの利用件数を増やすといった考え方がある。問い合わせの前年同月比、チャネル別の比率、契約者あたり問い合わせ数など、KGIを判断するためのKPIをあらかじめ決めておくのが望ましい。

<効果検証を踏まえたアクションプランの考え方>

効果検証ができたら、今後どうするのかアクションプランを立てる。カスタマージャーニーマップでは、どのようなお客様のどのような問題に対処するのかを決める。コールリーズン分析は問い合わせの現状を可視化するものだ。またナレッジ・チャネルの分析によりお客様の問題解決への誘導を改善する。

<顧客応対におけるデジタル化推進の注意点>

チャットと電話の併用では、それぞれのチャネル特性を踏まえた応対が必要だ。電話はクッション言葉を用いて丁寧に説明する必要があるのに対し、チャットはシンプルに必要事項のみ伝えるのが望ましい。また多くの企業ではDX施策としてマイページやアプリに取り組まれているが、単に手続きを行う場ではなく、日常的なお客様接点へと変化する必要がある。お客様の日常に寄り添う機能・企画、お客様ケア目線のコミュニケーションが求められているのだ。

<データドリブンな課題解決の一例 ~保険会社~>

CXやDXではデータに基づく意思決定、データドリブンな課題解決が必要だ。ここからはある保険会社様の取り組み事例についてお話しする。入電削減のため、FAQ、AIチャットボットなど一通りのツールを導入されていたが、成果が出たのかが明確ではなかった。そこで改善活動を具体化したり、アクションプランとして組み立てたりすることが必要であった。

改善のアクションプランとして挙げられたのは、入電状況の把握、削減可能な入電区分の選定、お問い合わせ内容の可視化、施策の有効性評価の4点だ。具体的な改善策を、データドリブンに検討を進めた。

<具体的な改善策>

入電状況の把握と削減すべき区分を決めるにあたり、Web解決の有効性評価と削減対象件数で評価した。Web解決の有効性が高く、削減対象件数も多い項目ほど入電削減の優先順位が高い。逆にWeb解決の有効性が低い場合は、利用定着のためにあえて有人サポートを強化する。

お問い合わせ内容の可視化では、電話応対内容のデータマイニングを実施。保険会社様で蓄積されていた会話の音声データを分析し、深堀するキーワードの組み合わせを複数選定した。

有効な改善施策立案のためのFAQ/Chatbot評価では、洗い出した問い合わせ内容に該当するFAQがあるか、FAQは十分に閲覧されているか、FAQで解決につながっているかの3点で評価を行った。 以上を踏まえて保険会社様では、四半期ごとに活動テーマや到達状態を決定された。Q1からQ4へ向けて活動量を徐々に増やし、成果の創出の度合いも高めていくアクションプランだ。今年度すでに問い合わせ削減の効果が一定程度生まれている状態で、さらに効果を高める取り組みを現在行っている。

<CX/DX、データドリブンな課題解決>

DXをデータドリブンで行うことにより、改善対象を具体的に抽出できる。改善活動の優先順位づけや、改善活動の期待効果の試算も可能だ。またお客様の視点を取り入れることにより、CXの領域でも活用できる。

<生損保業界のDXで今後必要になること>

生損保業界のDXはほかの業界より進んでいるが、課題も散見される。ツールやルールが急激に変化することで混乱が生じる。フローや知識など新たに覚えることが増え、DX対応の負荷で品質向上に手が回らなくなることもある。積み上げてきた知識や経験が否定される形になり、ベテランの離脱や反発が起きやすい。

DXはあまりにも多くのことを急激に推進すると、従業員を疲弊させてしまうという側面もある。DXやCXの取り組みは、従業員の満足を伴って初めて成功と言える。

<従業員満足(EX)を組み込んだKPI設定>

前述した事例の保険会社様は従業員満足を重視されており、従業員に対するケアも同時に実施されている。内部ナレッジシステム導入後のKPI項目では、DXやCXに加えて、EXの観点も取り入れている。DX・CX・EXの「三方良し」の観点で、3つのバランスを取りながら改善を推進されている。

<まとめ>

顧客接点の最適化のためのDXでは、ツールの導入が目的ではなく、自己満足的な取り組みにならないことが重要だ。多くのデータから実行可能な施策・効果検証可能な目標値を導き出し、改善が仕組みとして定着する必要がある。また企業・お客様・従業員がいずれも満足してこそDXの成功である。

◆講演企業情報
株式会社TMJ:https://www.tmj.jp/