「お客さま満足度向上に向けたあいおいニッセイ同和損保のコンタクトセンター戦略 ~在宅、デジタル、データ活用への取り組み~」

緒方 康夫 氏
基調講演➁
【講演者】
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
コンタクトセンター事業部 参与
緒方 康夫 氏

<当社のコンタクトセンター(CC)の紹介>

東京(成増)にあるコアセンター、東京(新宿)、大阪、沖縄の四拠点で運営している。座席数は四拠点合計で1,160席であり、かなり大規模なセンター。年間約180万件の入電対応を実施しており、お客さま・代理店さまからの照会を、電話・メール・チャット・HP等で対応している。年間の受電件数の内訳はインバウンドが約100万件、アウトバウンドが約20万件、代理店さまからの照会が約60万件となっている。

当社は直接雇用社員中心のインハウス運営を行っている。受電をするコミュニケーター(CM)さんの人数は開設時の1996年12名から始まり、2021年3月時点では844名体制、直接雇用比率は73.2%となっている。「コミュニケーターファースト」を中心とした取り組みにより、定着率は95.1%とかなり高い数値であり、安定的な運営ができている。2020年5月には日本で初めて「HDIサポートセンター国際認定(七つ星)」を取得した。

<CCの方向性>

少額の保険料で大きな補償を提供するため慎重な対応が必要であり、保険の専門用語などについて丁寧でわかりやすい説明が求められる。紙が中心の文化で、保険契約についての確認項目(収集データ)が多い。損保業界はマーケットの大きな成長は見込めず、既存のお客さまの継続・離脱防止が重要となっている。自然災害などにより収益環境が厳しい中、一層の業務効率化や万全なBCP対策も求められる。移り変わる環境の中、コロナの影響もあり、CC変革加速が重要となっている。

コロナ前後の入電推移を比較すると、主な傾向として事故の自動車入電は減少し、相談・契約変更入電は横ばいの状況。2020年は2019年と比べて台風被害が少なかったため、事故(火新)やロードサービスの入電件数は2019年に比べて減少した。

コロナを契機としてCC変革をスピードアップしている。With コロナに伴い、リモートの仕組みを作って在宅受電を開始した。After コロナとして、CCの方針再定義、出社・在宅の柔軟化、働き方改革を進めている。Beyond コロナでは、会社の成長戦略に関するCCの役割を考える必要がある。データ活用でどう生産性を上げるか、リアル・デジタルの融合でお客さまにどのような価値を提供するかなどが重要となる。

<CCの目指す姿>

DX取り組みの推進では、まずノンボイス移行・お客さま利便性向上をスタートラインとし、次に業務効率化・品質向上、さらに生産性向上・価値創造へと進めていく。ノンボイス移行ではスマホを活用し、チャットやWebにシームレスに連携することを目指す。チャット対応により複数のお客さまへの同時対応が可能となり、業務効率化を図ることができる。自動対応についてはお客さまの反応を踏まえて検討していきたい。生産性向上・価値創造ではまず、音声認識テキストデータ、ナレッジ・FAQシステムなどがポイントとなる。最終的にはCRMで顧客管理をしながら営業活用に繋げていく。

進化のステップとしては、まず、スマホをベースとした接点を構築し、お客さまの利便性を向上する。同時に、脱電話による業務効率化、データ分析を活用した生産性向上も進めていく。

<お客様の利便性向上 ~ボイスからノンボイスへ~>

お客さまのCX向上に向けて、ペインポイントを明確化のうえ、チャネルを最適化する。お客さまに寄り添った体験価値構築をベースとした業務効率化を進めていく方針。当初は入電時に「IVR」でチャットボット誘導を試みたが、誘導率が2%と低く効果がなかった。そこで受電対応後に「有人」で車検証読み上げの代わりにチャットボットを案内したところ、チャット希望が15%、チャット了承が27%と、一定の誘導が確保できた。一方で電話希望の方が35%、チャットに抵抗感がある方も23%のため、電話対応も引き続き一定程度は必要。車両入替の電話応対時間は、チャット手続き導入により、21分から5分へ大幅に短縮された。

<業務効率化・品質向上>

運営面では音声認識システム導入による後処理効率化を進めており、チャット運用体態勢を構築中。来年からはAIによる自動応答を導入し、セルフサービス化を進める方針となっている。人財については対面採用・テストを続けてきたが、コロナの影響でWeb面接・テストなど、オンライン化が進んでいる。研修も録画や配信で行い、効率化効果が出てきている。セルフサービス化が進展すると操作案内とコンシェルジュ対応への二極化になると想定されるため、人財採用・育成は今後とも重要なことは変わらない。拠点については分散によるBCP体制に加えて在宅受電も整備した。将来的には働き方改革、CMさんの方のワークライフバランスに沿った体制を実現していきたい。

在宅受電の仕組みについては2020年5月に検討開始し、リリースまで約5か月と短期間で構築できた。会社の業務PCを自宅のシンクラPCからリモート操作する仕組み。さらにAVAYA社のONE-X-AGENTを利用して外線転送し、スマホで受電できるようにした。CMさんはチャットでSVに質問ができるので、在宅でも安心して受電でき、仕組みとして上手く回っている。

在宅受電に関しては手続系受電を中心に、在宅環境・スキルを踏まえて対象者を選定した。環境条件は、インターネット接続環境やスマホがあること、随時世話の必要な家族の方や鳴き声のするペットがいないこと、在宅受電業務を行える部屋や場所があることなどとしている。選定結果として、全体の約25%のCMさんが在宅受電を行っている。

<生産性向上・価値創造>

VOC分析に関しては、コンタクトリーズンの把握が必要だ。顕在化した不満足に加え、サイレントクレームにも対応できるようにする。VOC分析の仕組みをサーバー化し、本社各部がハンドリングできるような体制を構築して改善を進める。システムの動きと人間の動きをうまく組み合わせて分析を実施する体制を構築する。音声認識テキストデータを分類システムで自動分類し、人がラベリングすることで、効率的かつ高度な分類が可能となる。

アナリティクス分析ではさまざまなデータの統合を行い、特定のパターンや相関関係などの知見を抽出し、実効性ある対策を立案している。アナリティクスグループをコンタクトセンター内に設置することで、分析・検証を素早くできる体制としている。推測や直感に依存した意思決定・判断から、客観的な数値に基づく判断へと移行を進めている。

CRMは構築を検討している段階で、お客さまデータを一元化し、カスタマージャーニーを整備してCXを改善したいと考えている。お客さまに寄り添ったパーソナライズ化された応対を実現し、カスタマージャーニーを変革する。現状は「一方通行・情報連携なし」だが、今後は「双方向・情報共有」を目指している。

<まとめ>

コンタクトセンターの変革とコロナによる変革加速が進んでいる。重要なポイントは2つであり、1点目は「いつでも、どこでも、正確かつ迅速に目的を達成できる手段・体制の構築」、2点目は「データ活用による能動的なカスタマーエンゲージメントの創造」である。従来は電話・音声、出社・対面、経験・勘での「丁寧な電話応対」が重要であった。今後はチャット・テキスト、在宅・オンライン、データ利活用・分析での「顧客志向対応」中心へと変革していく。

一方で実現可能性、コスト確保、社内の協力体制など課題もかなり多い。お客さまの意向に応じて、Web・チャットボット・有人チャット・電話等、シームレスに連携して即時完結できる体制を早期に構築していきたい。またPOCを実施し、実際のお客さまからの反応を見て、お客さまのニーズや状況を踏まえながら順次取り組みを進めていく。今後ともお客さまの声を起点にして、運営体制を進化、分析体制を構築し、顧客体験価値の一層の向上にチャレンジしていきたいと考えている。