「エンゲージメント調査を活用した企業価値向上〜従業員体験から顧客体験へ~」

東田 真樹 氏
【講演者】
クアルトリクス合同会社
EX ソリューション ストラテジー マネージャー
東田 真樹 氏

<エンゲージメントとは>

エンゲージメントとは単に従業員視点の会社(仕事)への満足度だけでなく、会社への貢献意欲を組み込んだ指標だ。従来の「従業員満足度」とは似て非なるものである。従業員満足度では、仕事がきつくなく、ある程度の給料がもらえて、責任がなければ満足度は上がってしまう。しかし、少子高齢化による国内市場縮小や国際競争の激化といった経営環境のもとでは、こうした「ぶら下がり」型の従業員ばかりの組織では立ち行かなくなる。

一方エンゲージメントの高い従業員とは、時間を惜しまず熱中して働く、常に改善の工夫を試みる、役割を超えて積極的に協力しようとする、目標を前向きに捉える、自社で働くことを誇りに感じるといった人のことを指す。エンゲージメントは、企業業績や顧客満足度の先行指標としても使われている。

<サービスプロフィットチェーン>

サービスプロフィットチェーンとは、ハーバード大学のジェームス・ヘスケット教授らによって提唱された理論だ。従業員エンゲージメントが上がると顧客満足度も上がって収益を生み出し、その収益によって人材への投資を増やすことでさらに従業員エンゲージメントが上がり、業績も向上するというポジティブなサイクルとなっている。当社は従業員エクスペリエンス(EX)とカスタマーエクスペリエンス(CX)をマネージするためのプラットフォームを提供する会社であり、まさにサービスプロフィットチェーンに当てはまるものだ。

<人材流出コストの試算例>

EX向上で離職率が下がると業績向上にどの程度貢献するのか、試算例を紹介する。従業員が辞めた場合のコストは、採用費、研修費、生産性ロスなどがあり、一般的に人件費の60%程度とされている。たとえば平均的な中小企業を想定し、従業員数500人、離職率15%、平均年収が400万円とした場合、年間で1億8,000万円の人材流出コストが発生してしまうことになる。エンゲージメント調査を活用して離職率を10%下げることができれば、年間で1,800万円のコスト削減に繋がる。

<顧客事例>

当社の顧客である保険会社では、地域毎にEXとCXを分析した結果、EXが高い地域はCXも高いという相関が明らかになった。前述のサービスプロフィットチェーンに関して、どちらを先に高めれば良いのかと聞かれることもあるが、まずはEXを高めるべきである。エンゲージメントを改善するためには、それに最も影響を与えるとEXドライバーを見極め、その領域における改善アクションをすることが重要だ。エンゲージメントスコアの増減に一喜一憂するのではなく、変動の原因を分析してアクションを取る必要がある。

<EX25フレームワークの構造>

エンゲージメントの源泉は国や地域、年代や世代、業種や職種によって異なる。そこで当社では「EX25」というエンゲージメントサーベイのフレームワークを構築し、EXのドライバーを幅広く捉えている。たとえば製薬会社の従業員は、自社が開発した薬で人類の健康に寄与するといった顧客志向がドライバーになっているかもしれない。また、高度成長期には会社への帰属意識や報酬がドライバーになっていたかもしれないが、現在のミレニアル世代は、より個人視点の承認や自己成長がドライバーになっているかもしれない。

<他人事ではないエクスペリエンスギャップ>

会社が想像しているよりも、従業員はEXに満足していない傾向がある。人事部門が、自社従業員が自社で働くことを他社に推奨していると考える割合は81%なのに対し、従業員に同じ質問をしてみると、推奨すると回答したのはわずか38%であるというデータが出た。

同様の傾向はCXに関しても見られ、企業のCEOが顧客に対し最高のエクスペリエンスを提供していると回答したのは80%だが、顧客が最高な体験をしたと回答したのは8%である。このような、モノやサービスの提供側と享受側の意図せぬ意識の差分のことを体験ギャップと呼ぶ。

<DXとHRの関係性>

経済産業省が行った「DXレポート2」によると、DXに成功した企業の割合はわずか3.1%となっている。失敗要因を探っていくと、人や組織に関連するものも見受けられる。具体的には変革意識の低さ、ビジョン・戦略の不在、デジタル人材不足、部署間連携の欠如などだ。組織人事課題がDX推進の足枷になっている場合には、変革の担い手である従業員のマインド・行動変容が欠かせない。

エンゲージメント調査は、DX推進にも活用することが可能だ。EXのドライバーのうち「協力体制」を見れば部門間連携が奨励されているかを測ることができるし、「戦略の浸透」の項目を見れば、会社のビジョンが浸透しているかが分かる。「継続勤務意向」の項目でデジタル人材が働きたいと思える会社かを確認でき、「業務プロセス」の項目を見ると現行の業務プロセスに常に疑問を感じているか(=DX推進の意識があるか)が分かる。

<エンゲージメント調査活用の落とし穴>

エンゲージメント調査を組織変革のPDCAと位置付ける場合、効果検証に該当するが、それ以外のステップでいくつかの課題が残っている。まずサーベイ実施にリソースの大部分が割かれてしまい、後続のステップが回せないことがある。仮にそれをクリアできたとしても、問題特定において分析結果からの示唆が読み取れず、情報の海原に埋没してしまう。施策立案においては、人事部課題に対する打ち手のアイディアが思い浮かばず、人事部の負担が重いのが課題だ。施策実施においては、施策がやりっぱなしになってしまい、効果の有無を誰も把握していないことがある。

<エンゲージメント調査活用のポイント>

こうした落とし穴を回避するためには、まず使いやすいツールを選定することが重要で、ベンダーに頼らなくても自走できるものが望ましい。設問設計の段階からベンダーに頼らず自分たちで行うことにより、サーベイ実施まで数か月かかってしまうような事態を避けられる。

問題特定においては、集計結果だけでなく、課題や優先順位に対する洞察が得られることがポイントだ。ある項目の点数が低かったとしても、改善すれば必ずしもエンゲージメントに寄与するとは限らない。たとえばミレニアル世代が報酬について低いポイントを付けたとしても、彼らのエンゲージメントのドライバーとなっているのは、報酬ではなく承認欲求や自己成長の機会かもしれない。このように、問題の本質を捉えるための分析結果も一緒に出てくるようなものでないと、エンゲージメントを高めるための示唆は得られない。

施策立案では、社内意見の取り込みや社外の好事例の活用が必要だ。当社のエンゲージメント調査プラットフォームでは、課題に応じてアクションをレコメンドする機能や現場の声を吸い上げるアクションボードという機能を備えている。現場の力を借りて、人事の負担を減らしながら施策立案ができる。施策実施においては、定期的なデータ収集(パルスサーベイ)を実施することで、施策が機能しているかを確認できる。

<活用が進まない人材データ>

最後に、パーソル総合研究所が行った「人材マネジメントにおけるデジタル活用に関する調査2020」のデータをご紹介する。75%以上の企業が、人材マネジメントにおけるデジタル活用意向がある。しかし人材に関するデータの分析実施状況を見ると、実際に分析して意思決定に使っている企業は16.9%のみで、50%以上の企業は分析すら実施していない。エンゲージメント調査は、比較的取り組みやすい人事データ活用であり、組織変革屋企業価値向上に是非活用していただきたい。

◆講演企業情報
クアルトリクス合同会社:https://www.qualtrics.com/jp