- 「非対面チャネルにAIで革新を
~コールセンターのデジタル化・コンタクトセンター化の推進~」
株式会社ゆうちょ銀行 山浦 実 氏 - 「接客から接遇へ
〜有人チャットをはじめとした顧客体験高度化の秘訣~
トレジャーデータ株式会社 佐藤 純平 氏 - 「国内外の最新事例から考える金融DXにおけるコンタクトセンターの新たな役割」
ジェネシスクラウドサービス株式会社 三隅 麻里子 氏 - 「コンタクトセンターからカスタマーエンゲージメントセンターへ
〜対面/非対面を問わないシームレスな顧客体験の実現〜」
株式会社セールスフォース・ジャパン 鶴田 健悟 氏 - 「顧客価値創造を牽引するDX推進の要点」
住信SBIネット銀行株式会社 松丸 剛 氏 - 【ご紹介動画】トレジャーデータ株式会社
「非対面チャネルにAIで革新を
~コールセンターのデジタル化・コンタクトセンター化の推進~」
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社ゆうちょ銀行
営業部門 コールセンター部 部長
山浦 実 氏<はじめに>
ゆうちょ銀行では2021年5月、中期経営計画(2021~2025年度)を策定・公表し、今年はその2年目。中計では「信頼を深め、金融革新に挑戦する5年間」と位置づけ、5つの重点戦略を打ち出している。その1つ目の重点戦略が「リアルとデジタルの相互補完による新しいリテールビジネスへの変革」で、今日お話しするコールセンターのデジタル化・コンタクトセンター化はここに位置づけられる。
<ゆうちょ銀行におけるコールセンターの位置づけ・概要>
ゆうちょ銀行の顧客接点は大きく対面と非対面に分けられる。
対面は郵便局に直営店を加えた2.4万の店舗ネットワーク。最もヒューマンタッチな顧客接点であり、我々の最大の強みである。非対面はネット、ATM、電話で、電話を担当するのがコールセンター。コールセンターは非対面チャネルの中では最もヒューマンタッチな顧客接点といえる。
コールセンターの役割は「①電話照会対応」と「②お客さまの声の情報連携」の2つ。①ではゆうちょ銀行の商品・サービスはスマホアプリを基軸にデジタル化が進んでいる。このデジタル化された商品・サービスを、お客さまに対し、いかにわかりやすく説明できるかどうかがコールセンターの腕の見せ所。②ではコールセンターはお客さまからの苦情・問合せが何件、どんな内容が入っているのかを、システム上で把握・分析できる。このファクトデータをもとに、コールセンターでお客さまの声に基づく改善施策を検討し、本社に提案することで、ゆうちょ銀行全体の商品・サービス・事務手続の改善PDCAサイクルを回すのを支援する。本社で検討し、便利でわかりやすい商品・サービス・事務手続に改善できれば、それをお客さまに還元することで、お客さま本位の業務運営が実現できる。
こうした中、コロナ禍での新しい生活様式(非対面・非接触)への変化が起き、お客さまの来店数が大幅に減少。最もヒューマンタッチな顧客接点の店舗に次ぐ、2番手の顧客接点として、コールセンターの重要性が高まっている。また、デジタル化の進展に伴い、ゆうちょ銀行のサービスがネットで完結化できつつある。そうなると、お客さまはわざわざ店舗に行く必要がなくなる。ネット上のサービス取引で、お客さまにわからない点が出た場合、問い合わせ先候補として真っ先に挙がるのがコールセンター(電話、チャット含め)。その点からも重要性が益々高まっている。
このように、コールセンターの位置づけ、役割、取り巻く環境変化(withコロナ、DX)を踏まえると、コールセンターの良し悪し・出来不出来が、企業の優勝劣敗を決めるといっても過言ではない。
ゆうちょ銀行のコールセンターは運営形態として、直営と委託に分けられるが、今日、お話しするコールセンターのデジタル化・コンタクトセンター化は直営のインバウンドのコールセンターが対象となる。
<コールセンターのミッション・ビジョン・バリュー>
ゆうちょ銀行の直営のコールセンターでは、日本郵政グループの経営理念、ゆうちょ銀行の経営理念を踏まえ、ミッション・ビジョン・バリューを次のように定めている。ミッションは「お客さま本位の業務運営の実現」。ビジョンは「つながる、解決する、提案するコールセンター」。そしてバリューは「1人ひとりが、お客さまを想う気持ちで、1コールを大切に」である。
コールセンターのビジョンはその企業における位置づけ・役割に準じて定められなければならない。
ビジョンの「つながる・解決する・提案する」の3本柱のうち、「つながる」「解決する」は「①電話照会対応」、「提案する」は「②お客さまの声の情報連携」の役割に対応している。
<コールセンターのビジョン実現のためのデジタル化・コンタクトセンター化>
コールセンターではビジョンの3本柱の「つながる・解決する・提案する」を実現するために、何に取り組むべきかをブレイクダウンし、その取組項目にKPIを設定している。このKPIを推進管理することで、コールセンターマネジメントを行い、ビジョン実現に努めている。
ビジョンの「つながる」は応答率の確保・向上である。コールセンターの応答率は電話応対に係る業務量を予測し、その業務量に応じた適正な人員配置を行うことで確保できる。更に、そこから応答率を向上させるためには、電話応対に係る業務量を削減しなければならない。電話応対に係る業務量を因数分解すると、「1件当たりの処理時間」と「入電件数」に分解される。前者を短縮し、後者を削減すれば業務量が削減でき、結果として応答率を向上できる。
業務量に応じた適正人員配置において、充足率の確保はプリミティブで、かつ重要な取組。いくら電話応対に係る業務量を正確に予測できても、それに応じた適正人員配置が出来なければ、応答率など確保できない。
コロナ禍では、コロナ感染者数拡大防止策も適正人員配置上の重要な取組となる。
「解決する」は応対品質の向上である。誤回答の低減とCS向上の取組が必要。CS向上にはオペレーター等のスキルアップとモラールアップが欠かせない。
「提案する」は経営品質の向上支援である。お客さまの声に基づく、商品・サービス・事務手続の改善提案をコールセンターで考え、本社に提案し、本社がそれを実現することで、便利でわかりやすい商品・サービス・事務手続に改善できれば、ゆうちょ銀行の経営品質を向上できる。そうなると、お客さまからの苦情が逓減し、コールセンターへの入電件数も削減できる。提案するは、直営のインバウンドのコールセンターが、会社に貢献できる部分として、今後、最も注力すべきところ。
「つながる・解決する・提案する」のビジョンを実現するための主要施策が、デジタル化・コンタクトセンター化施策である。今日お話しする「AIシステムの導入(1件当たりの処理時間の短縮、誤回答の低減等)」、「チャットボット・有人チャットの導入(CS向上、入電件数の削減等)」、「分散受電態勢の整備(コロナ感染者数拡大防止等)」がこれに相当する。
<将来のコンタクトセンター構想>
我々が目指す、将来のコンタクトセンター構想はこうだ。原則、すべてのお客さま応対はチャットボットで対応する。チャットボットで対応できないものは有人チャットに飛ばして解決することでチャットボットのプレゼンスを高める。チャットボットでどうしても対応できないものは電話で対応する。電話対応を行うコールセンターにはAIシステムを導入し、オペレーター等の業務負担を軽減し、お客さまの電話対応に専念してもらうこととで、応対品質向上と業務効率化を図る。コールセンターに導入したAIシステムのエンジン部分に相当するAI-FAQはゆうちょ銀行の組織知としてデータベース化し、利用頻度の高いAI-FAQはチャットボットのFAQ、ゆうちょ銀行のホームページのよくある質問のFAQに反映させる。それにより、チャットボット×有人チャット×電話を組み合わせ、デジタルとリアルを融合させたコンタクトセンター化を図る。これがコンタクトセンター構想である。
この構想に至った背景として、やっぱりお客さま対応は24時間365日対応しなければならないと考えている。しかし、24時間365日対応を人手で行うにはどうしても限界がある。そのため、チャットボットを最前面に打ち出し、問合せ頻度が多く、かつ比較的簡単に回答できるものはチャットボットで対応し、それ以外は電話で人が丁寧に対応する。この考え方をもとに、構想を組み立てた。また、コールセンターは典型的な3密職場。コロナ感染拡大等のBCP対応として、コールセンター以外の施設でも受電対応が可能な分散受電態勢の整備も、この構想に組み込んでいる。
以下、コンタクトセンター構想実現に向けたデジタル化・コンタクトセンター化施策として、「AIシステムの導入」「チャットボットの導入」「有人チャットの導入」「分散受電態勢の整備」について説明する。
<AIシステムの導入>
AIシステムは2020年10月からコールセンターの特定業務に段階的に導入し、その後、2021年11月に全業務に導入した。AIシステムを導入したところは次の4点。
1点目は、お客さまとオペレーターの電話対応の音声をリアルタイムでテキスト化し、自動要約する点。これにより、オペレーターの履歴作成負担を軽減し、結果として後処理時間の短縮が図れる。
2点目はお客さまとオペレーターの電話応対のテキストデータをもとに、お客さま対応に必要となるFAQを、オペレーターに対し自動表示させる点。これにより、オペレーターのFAQの検索負担が軽減され、結果として通話時間の短縮が図れる。また、お客さま対応の際、自動表示されたFAQを確認し回答する習慣づけが出来るため、誤回答率の低減が図れる。
3点目はこれまで、お客さまとオペレーターの電話応対のモニタリングは音声で行っていたが、それをテキストで行う点。これにより、スーパーバイザーのモニタリング業務負担が軽減され、結果としてモニタリング時間の短縮が図れる。
4点目はモニタリングの際、お客さまのお叱りの言葉、オペレーターが言ってはならないNGワードが出てきた時に、スーパーバイザーに赤色のアラート表示で知らせる点。これにより、スーパーバイザーはオペレーターに対する、きめ細かなサポートができるようになり、オペレーターのES向上・離職抑止が図れる。
1、3、4点目は一定の効果が見い出せたが、2点目のFAQの自動表示の部分は正直なところ、まだ明確な効果が見えていない。FAQ自動表示の正答率はAIシステム導入当初は60%程度であったが、その後、FAQの改善を積み重ね、80%程度まで向上した。この正答率80%程度のFAQ自動表示はデビュー仕立てのオペレーターにとっては非常にありがたいもの。しかし、ベテランのオペレーターにとっては正当率が100%にならない以上、自分の意志で手動でFAQを検索したいところ。そこで、各種検索機能(キーワード検索、カテゴリー検索、発話クリック検索)を組み込んだ。今後は、FAQの自動表示と、手動の検索機能を組み合わせたハイブリットな利用で、効果を見い出していきたい。
<チャットボットの導入>
チャットボットは2018年12月から特定業務に導入し、その後、正答率向上と利用者数拡大を図りながら、対象業務範囲を徐々に拡大してきた。現在、対象業務範囲は全体の60%であるが、2022年度中を目途に、全業務に拡大予定。チャットボットの導入効果は3点。
1点目は24時間365日対応できるようになるため、CS向上が図れる点。
2点目はコールセンターへの入電抑制。チャットボットの利点は電車・バスの移動中を含め、いつでも、どこからでも問合せが可能なところ。お客さまはチャットボットで自己解決できれば、わざわざコールセンターに電話する必要がなるなるため、結果としてコールセンターへの入電抑制につながる。
3点目はBCP対応。何らかの事由(入電の増加、受電力の減少)で応答率が低下した場合、チャットボットがコールセンターの代替手段として機能する点。
<有人チャットの導入>
有人チャットはチャットボットで自己解決できず、有人対応を希望するお客さまを対象に、2021年10月末から導入した。現在、対象業務範囲は全体の60%であるが、チャットボットと連動させて、2022年度中を目途に、全業務に拡大予定。有人チャットの導入効果は2点。
1点目はチャットボットで自己解決できず、有人対応を希望するお客さまに対し、丁寧に対応することでCSが向上する点。
2点目はチャットボットの改善。有人チャットに問い合わせが流れてくるということは、お客さまがチャットボットに対し、何らかの不満・不具合を感じたため。有人チャット対応の内容を分析し、チャットボットを改善できれば、利便性向上・利用者数拡大が図れる。有人チャット対応数はチャットボットの利用者数の8%程度。問合せ内容はチャットボット同様、ネットバンキング関連が多い。有人チャット対応を開始したところ、チャットボット対象業務範囲外の業務の問合せが20%程度あった。これにより、チャットボット対象業務範囲拡大ニーズがお客さまにあることを確認できた。
<分散受電態勢の整備>
ゆうちょコールセンターでは残念なことに、2021年2月、コロナのクラスターを発生させてしまった。その結果、札幌と福岡の2拠点のうち、1拠点が営業停止せざるを得ない状況となった。この苦い・辛い経験を踏まえ、すぐに分散受電態勢の整備に着手し、2021年11月に整備できた。何とか、コロナの第6波に間に合わせることができた。分散受電にはクラウドPBXサービスを活用した。
具体的には、サテライトコールセンターシステムというスマホとノートPCを組み合わせたシステムを構築し、コールセンターに配備。分散受電の運用はコールセンター拠点で1人でもコロナ感染者が発生した場合、コールセンター以外の施設のスペースを借り、そこに同システムを持込み、コールセンターとコールセンター以外の施設の2拠点で分散受電を行う。これにより、オペレーター同士の席間距離を確保することで、コロナの感染拡大を抑止するもの。分散受電の態勢整備後は、コロナ感染者は発生するものの、感染拡大は抑止できている。
サテライトコールセンターシステムは、ゆうちょコールセンターの受電席数の30%強の相当数を配備した。同システムはコロナ感染者が出ないと遊休資産になってしまう。そうならないようノートPCは、通常時も、拠点間のWEB打合せ、スーパーバイザーがオペレーターのサポート対応を行う際の資料閲覧等で有効活用している。
<コンタクトセンター化の現状>
我々が目指す、将来のコールセンター構想には、一足飛びでは到達できない。現状はまだまだ電話対応が主流となっている。現在、コールセンターの入電数は4,000件/日程度。コールセンターにスマホで電話して下さったお客さまには、IVR(自動音声応答システム)で、チャットボット利用を希望する方に限り、URLをショートメッセージ配信し、チャットボットに誘導している。その誘導比率は入電数の5%(200件/日)。チャットボットには直接アクセスするお客さまが300件/日おられるので、チャットボットの利用者数は500件/日程度。そのうち、8%が有人チャットに流れるため、有人チャットの利用者数は40件/日程度。
<我々が目指す、将来のコンタクトセンター構想実現に向けて>
今後は、有人チャット対応の内容分析を行い、チャットボットを改善し、利便性向上・利用者数拡大を図りたい。また、コールセンターの電話対応ではAIシステムを利用しているため、利用頻度の高いAI-FAQを特定し、それをチャットボットに反映し、対象業務範囲を拡大させ、利便性向上・利用者数拡大を図りたい。これらの取組みにより、チャットボットの利用促進を図り、我々が目指す、コンタクトセンター構想に一歩でも近づけていきたい。
また、将来のコンタクトセンター構想実現に向けて、デジタル化・コンタクトセンター化のKPI設定を行っている。コールセンターのKPIにはAIシステムの利用率・正答率・FAQの有用度を追加。チャットボットには利用者数・役に立った比率、有人チャットには解決率・誤回答率を新設。コンタクトセンターとしてのKPIを体系的に整理した。更に、このKPIと社員の業績目標を連動させることで、「個々の社員の業績目標の達成 →コンタクトセンターとしてのKPI達成 →ビジョンの実現 →ミッションの実現」という大きな流れを作り込み、デジタル化・コンタクトセンター化を推進しつつ、我々のミッション・ビジョンの実現に取り組んでいきたい。
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