「国内外の最新事例から考える金融DXにおけるコンタクトセンターの新たな役割」

三隅 麻里子 氏
【講演者】
ジェネシスクラウドサービス株式会社
マーケティング本部 インサイドセールスマネージャー
三隅 麻里子 氏

時代で変わる優位性の要素

今回は国内外の最新事例を交えながら、金融DXにおけるコールセンター、コンタクトセンターの役割についてお話しさせていただきたい。金融業界は、ここ数十年で大きな変化が起きている業界だ。

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IT技術の発達や金融ビッグバンは、「好立地にATMや支店を置く」という従来型のビジネスモデルからの脱却を金融機関に迫ることになった。2000年代になるとモバイルバンキング、アプリの導入などが進んで窓口対応の必要性が減り、現在多くの銀行で支店を縮小する動きが進んでいる。

一方、規制緩和によって従来の金融業者ではない企業が金融業界に新規参入したことで、業界における競争は以前よりいっそう激しくなっている。さらに、キャッシュレス決済のような新しい決済方法・取引方法が日々誕生しており、銀行側もIT技術を活用した新たな戦略策定を余儀なくされている。

こうした状況の変化に伴い、顧客の意識にも変化が見られる。もっとも大きな変化は、顧客体験を重視する顧客が増えたことだろう。

金融機関そのものの信頼性よりも、顧客自身が選んだデバイス、コミュニケーション方法によってスムーズに取引ができることを重視する顧客は少なくない。つまり、優れた顧客体験を提供しなければ、顧客離れを招くということである。サービスを受ける際にどのような体験をできるかが、金融機関選びの重要なポイントになってきているのだ。

優れた体験を生み出すためのルール

体験を重視する顧客が増えている現在、企業に求められているのはデータとAIを活用したオムニチャネルでのシームレスな体験の提供である。The Financial Brandの記事によれば、スピーディーに導入・改善ができ、顧客がチャネルをまたいでもシームレスな体験ができ、また画一的なセールストークではなく各顧客に合わせたサービスを提供することが求められている。

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昨今では、小さな不具合を見つけただけで競合に乗り移るなど、企業へ対するロイヤリティが薄れている顧客も増えている。それだけに、各金融期間にはタイムリーかつストレスのないサービスを提供し、顧客体験の質を高めることが求められている。

金融機関におけるデータ活用の実態とCX実現に立ちはだかる壁

選ばれる金融機関になるためには、データとAIの活用によるオムニチャネル体験が必要だという話をしてきた。実は、金融機関は業界の性質上豊富なデータを持っており、ほかの業界に比べてもデータを活用した体験を提供できる状態にある。

しかし、キャップジェミニ社のワールドバンキングレポート2020によれば、データを効果的に活用できているのは、調査対象の約50%。残りの4割はデータを保有しながらも活用できていない、残り1割はデータの管理・活用で遅れをとっているという状況になっている。

さらに、アクセンチュアの調査によれば、データを幅広く活用できている銀行が78%だった一方で、CXで最大限に活用できていると回答した銀行は7%となっている。またデータ活用でAIを用いていると答えた回答者はわずか5%だった。

これらのレポートからは、リッチなデータを保有しながらも有効活用ができていない、特にCXの分野でデータを活用できていない企業が非常に多いことが伺える。

顧客ジャーニーにおけるコンタクトセンターの役割と課題

DXの動きが進む中、弊社ではコンタクトセンターが顧客ジャーニー全体の向上において重要な役割を担っていると考えている。

というのも、コンタクトセンターには、リアルタイムでシームレスに顧客をサポートする役割があるからだ。

顧客ジャーニーのさまざまなポイントで、顧客はサポートを必要としている。それに応える役割を担っているのがコンタクトセンターである。

一方、企業側の視点に立った場合、そのときどきの顧客に状況に応じたシームレスな対応を求められるコンタクトセンターにかかる負担は大きい。さらに、企業のゴールという意味では、CX向上のために、顧客ジャーニーのどこでボトルネックが発生し、どこを改善しなければならないかを把握する必要があるという問題も発生してくる。

部門横断的な顧客ジャーニーの実現へ

社内でDXを進めていくと、アプリなどのチャネルが増え、業務内容の自動化も進むという現象が起きてくる。このような状況下においては、コンタクトセンターは顧客ジャーニーのチャネルの一つとして、他部門と連携してビジネスゴールを達成することが求められている。その際、部門間でのスムーズな連携を行うためのポイントとなるのが、オムニチャネルで顧客対応するための基盤の導入だ。

弊社で提供しているGenesys Cloud CXやPointillistは、顧客視点・企業視点での目標を達成するための基盤である。Genesys Cloud CXはコンタクトセンターの基盤として、オムニチャネル対応をサポートするのはもちろん、ボット連携やAIを活用したWeb動線分析などによる業務の自動化、実際に顧客対応にあたるエージェントに対する支援もリアルタイムで行う。

これにより、対応品質の均質化や最適なタイミングでの顧客への提案が可能になる。もう1つのPointillistは顧客ジャーニーを可視化・分析するためのソリューションである。コンタクトセンターのアクティビティやWeb訪問などの顧客データやビジネス結果を網羅的に収拾・分析し、顧客ジャーニーの最適化を図ることができる。

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活用事例

弊社のプロダクトを活用すれば、企業内外に分散する情報を収集・統合することができ、顧客ごとのジャーニーを可視化できる。その結果データアナリストに必ずしも頼ることなく、担当者レベルで顧客ジャーニーを管理することができるようになる。さらにチャットボットとの連携などによりエージェントの業務負担を減らしながら、同時にスムーズな顧客ジャーニーを実現することも可能だ。

ここでいくつか実際の活用事例を紹介したい。

Pointillistのユースケースとしては、クレジットカードの解約阻止、住宅ローンの契約を希望する顧客に対する最適な施策の提案といった用途があげられる。この中には既に海外の金融機関で実際に成果をあげているものもある。一方、Genesys Cloud CXの活用例としては、ノルウェー最大の金融グループであるDNBの事例があげられる。DNBでは2009年からチャットを導入し、またAIの活用によって既に30%ほど入電数の削減に成功していた。しかし、問い合わせの中には、どうしてもエージェントが対応しなければならないような難しい問い合わせが混じってしまう。そこで、DNBが行ったのがGenesys Cloud CXの導入であった。それにより問い合わせ内容に応じた適切なエージェントを割り当てられるようになり、業務の自動化と応対品質の向上を同時に実現することが可能になった。

<最後に>

今回は顧客視点と企業視点の2つの視点から、どのようにデータを活用し、シームレスな顧客ジャーニーを描くべきかについて話してきた。既に保有しているデータを活用し、またコンタクトセンターの自動化を進めることで、より顧客満足度の高いサービスを少ない人的リソースで実現できるようになる。時代や環境の変化に伴い、金融機関ではパーソナライズされた体験をシームレスに、かつチャネルをまたいで提供することが求められるようになった。

弊社のAIを活用したソリューションは、こうしたニーズに応えるためのものだ。本ソリューションを通して、データ活用の課題やコンタクトセンターの効率化における課題を抱えている方のお役に立てれば幸いである。

◆講演企業情報
ジェネシスクラウドサービス株式会社:https://www.genesys.com/ja-jp