2022年11月10日(木)開催 MANAGEMENT  WEBINAR「加速するレガシーシステムのモダナイゼーションとクラウド活用」<アフターレポート>

2022年11月10日(木)開催 MANAGEMENT WEBINAR「加速するレガシーシステムのモダナイゼーションとクラウド活用」<アフターレポート>

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2022年11月10日(木)セミナーインフォ主催MANAGEMENT WEBNAR 「加速するレガシーシステムのモダナイゼーションとクラウド活用」が開催された。新型コロナウイルス感染拡大の長期化の影響に伴い、先進技術を活用した新たなビジネス・モデルの拡大や、デジタルトランスフォーメーションの推進など、競争力を強化することが求められている。しかしながら、レガシーシステムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化が足かせとなり、新しいデジタル技術を導入したとしても、その効果を十分に発揮できないという課題点が指摘されている。こうした背景の中で、クラウドを活用したレガシーシステムのモダナイゼーションが加速度的に進み、各企業が独自の取り組みを行っている。本ウェビナーではAGC株式会社と大成建設株式会社に先行する取り組み事例をご紹介いただいたほか、先進企業より最新のデジタル技術についてご紹介いただいた。

  1. 「AGC が取り組む『攻めのIT』~AWS移行の効果と展望~」
    AGC株式会社 大木 浩司 氏
  2. 「絶対に失敗しない!ラスボス「アセンブラの多いメインフレーム」「日本製メインフレーム」からのパブリッククラウドへの移行」
    日本ティーマックスソフト株式会社 多田 安一郎 氏
  3. 「大規模な開発プロジェクトで、モダンなIT技術に初チャレンジ!
    〜自分たちだけで成し得ないことをやってみた感想〜」
    大成建設株式会社 田辺 要平 氏

「AGC が取り組む『攻めのIT』~AWS移行の効果と展望~」

基調講演

【講演者】
AGC株式会社
技術本部 企画部 開発管理グループ ITチームリーダー
大木 浩司 氏

<会社紹介>

「素材で頑張るAGC株式会社」は、ガラスを中心に様々な素材を提供している。1907年の創業で、グループ全体で56,000人の従業員、206のグループ企業を持ち、2021年の売上高は1兆6974億円であり、世界シェア1位の商品も多い。例えば世界中の4台に1台の窓ガラスが弊社製で、最近では車内ディスプレイにも盛んに採用されている。東京スカイツリーでも、鉄骨部分のフッ素系塗料や真下を見下ろせる窓に使用された。

<基幹業務システムのクラウド・リフト完了>

当社は2014年から4年間の歳月をかけて基幹業務システムのクラウド化を完了した。展開効率アップのためにAWSの機能を絞ってカタログ化し、その後も関係会社を含め利用が拡大している。1974年から中央区の東京ダイヤビルを自社運営のデータセンタにしていたが、サーバーの台数増加、運用コストの上昇、2度の大震災など、次第にデータを1ヶ所に集中させるリスクが高まってきた。そこで2年かけて「DAVINCH」「Alchemy」の2つプロジェクトを同時に走らせた。DAVINCHによって、自社運営のデータセンタを畳み、従量課金制の仮設のデータセンタにすべてのサーバを移設、AlchemyでAWSを社内サービス化し、既存サーバを徐々にクラウドへ移行した。その結果、数十億円の投資を抑え、50%以上のコストダウン、世界有数の先進事例となり、ITの適用範囲を広げ、システム開発の文化を変化させた。まずDAVINCHでは、2016年に全てのサーバーを一旦データセンタに移した。金曜夜まで稼働していたシステムを土日だけ止めて、月曜朝には平常通り稼働させる。そのため昼夜兼行で4回に分けて引っ越しが行われた。トラックに乗せたシステムが事故で全損するリスクを避けるために、分散させ道路の空いている夜間に輸送するなどの工夫をした。全てのサーバーの移動が完了し同年6月に以前のデータセンタは42年の歴史に幕を閉じた。Alchemyで、すべてのサーバをクラウドに移行した後は、仮設のデータセンタからも2021年に完全に撤収した。

当初、標準化したとはいえ、ユーザにAWSを理解させるのは非常に困難と考えた。そこでAlchemyはAWSを知らない人でも手軽に利用できる一部の機能だけを利用可能にした。手軽さで人気となり、2018年の初めには100システム、2022年10月時点で313のシステムが稼働している。 AWSのメリットはコストや簡便性だけでない。BCP対策では従来のデータセンタ方式では災害などの緊急事態でシステムダウンした場合、復旧に1~2ヵ月かかるのに対し、Alchemyは最短で数秒前の状態に、最長1日での復旧が可能だ。全ての操作を記録する仕組みで、社内にも監視の目を光らせ、情報漏洩を防ぐ。希望のタイミングでディスクが完全消去できない問題は暗号化で解決した。

Alchemy導入後は、従来のサーバーのような物理的な作業が一切なくなり、スピードと作業効率がアップした。社内ユーザはいくつかの申請をするだけで、最長5営業日でサーバーを取得でき、AWSの知識がなくても利用できる。この取り組みは日経各紙やネット記事に掲載され、AWSサミット2015の発表では500名以上が聴講し好評を得た。

<クラウド・ネイティブなシステムを続々リリース>

Alchemyは展開効率を高めるため、AWSの機能を7つに絞っていた。しかし、AWSの需要が高まると、100を超える豊富な機能を使ったクラウドネイティブなシステム開発が必要になった。そこで2017年に第2のクラウドサービスChronosをリリースした。きっちりカタログ化されたAlchemyに対し、Chronosでは柔軟性を重視しており、PoCをしながらアジャイル開発ができる。セキュリティ設定を標準化させ、スピーディーにAWSアカウントを提供できる。


現在、Chronosでは12のAWSアカウントがあり、数々のシステム開発実績がある。物流IoTでは、ガラス素板を輸送するときに使う金属性のパレットを管理している。3m×3mのようなガラス板を運ぶ大きさだが、年間約1割が回収不能だった。パレットの上端に着けたSigfoxデバイスを使ってトレーサビリティを高めている。エラーがあると障害通知を飛ばして、正常なデータはデータベースで保管し、データ分析ツールでみるシンプルな構造だ。サーバレスなのでメンテナンスや陳腐化を防ぐためのシステム更新も不用だ。物流IoTの仕組みでパレット紛失が半減、位置情報から輸送ルートが特定できるため輸送効率も上がった。今後も輸送時のCO2排出量の最大5%削減を目標としており、2022年までに対象パレット数を3万台に増やす予定だ。この取り組みは日経新聞に取り上げられた。


AIを使った取り組みを代表するのがAI Q&Aシステム「匠KIBIT」だ。熟練者の知見をコンピュータ上に集約することで、ガラス製造の技術を組織知として共有できるシステムだ。2017年から国内の製造拠点でトライアルを開始して、技能の共有と伝承に着実な成果を挙げている。


その他「PoCをまずやってみて、ものになったらビジネスに貢献する仕組みに化ける」といったスピード感があるチャレンジが数多く起こっている。増え続けるDX案件を限られた要員でこなすため人材育成が急務だ。株式会社サーバーワークスの協力のもと、実践的なアジャイル開発トレーニングを現在ではオンラインで行っている。当初は、コーチとの技術力の差にショックを受ける社員もいた。しかし今では、多くのメンバーがユーザ部門の要望を聞いて、すぐに試作できるまでに成長している。4年以上の取り組みで、最先端の開発技術をキャッチアップするために、何を学ぶべきか?という課題を自分達で見つけるようになったのも大きい。情報システム部長が率先して資格取得に励むなどして、部員のモチベーションアップを促している。資格取得は技術力獲得とイコールではないが、定期的な学習の継続に意味があると考えている。

<そして今、バイモーダルな世界が実現>

現在ChronosはPoCから始めたいくつかのシステムを展開している。その1つがクラウド型全社共通データレイク・通称「VEIN」だ。データレイクのプロセスは「集める、ためる、とりだす、分析する」というプロセスに分割できる。またデータの中には「リアルタイムで見たいもの」と「長期間に渡るデータを見たいもの」の2つのレイヤーがある。「VEIN」はプロセスとレイヤーを加味した構成にしており、よりよいサービスにするために常にアップデートしている。

システムの全体像を見ると、データレイクのVEIN、エンタープライズ・システムのS/4 HANAが高度に連携し、各セキュリティとガバナンスで守られている。リモート開発基盤のセキュリティはDaaS Serviceにより、パソコンの盗難にあってもデータやプログラムの社外流出が起こり得なくなった。また2019年に、Systems Managerを利用したセキュリティパッチを適用するPatch-Manというシステムも開発し、全てのWindowsサーバーにOSのセキュリティパッチを定期的に強制適用している。コスト削減と効率化の「モード1」と、柔軟性や俊敏性の「モード2」が融合した、まさにバイモーダルの世界が実現した。

<開発研究のスピードアップ>

技術本部には、「スマートR&Dチーム」という組織がある。研究開発のスマート化に向け、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の実装と活用を主な活動としている。2019年から同じ技術本部にある材料融合研究所と先端基盤研究所に働きかけ、現在では、約700人の研究者がテーマの約70%を対象にツールを導入中だ。素材の研究開発には、市場のニーズを基に、実験条件の検証と記録、実験データの保管と考察というサイクルを繰り返すことで求める性能を実現している。


この開発サイクルに計算化学や情報化学を用いて、素材開発の大幅な効率化を目指している。2025年をめどにMIツールを活用できる人材育成も完了させる計画だ。


実験研究者にとってもシミュレーションはMI実行のための必須スキルになっており、ガラス、化学、バイオなどの実験データをデータベース「ARDIS」で統合し、高精度なMI解析ツール「AMIBA」を使って、新たな素材の開発の加速化を促進させている。

これらの取り組みが認められ「DX銘柄2022」の1社に選ばれた。今後もDX化を進め、業界をリードしていきたい。