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「第一生命における『デジタルを活用した生産性向上』の取組み」
- 基調講演
【講演者】
- 第一生命保険株式会社
事務企画部 デジタルワークフォース推進課
ラインマネジャー
古屋 博行 氏
<第一生命が事務オペレーション自動化に取り組む理由>
第一生命の事務企画部は、約1000万人に上る個人顧客に関して、契約の入り口から中間出口までをトータルに管理する事務アンダーライティング部門を統括。事務アンダーライティング部門では、1日あたり約1万件の新規契約、年間約1兆6000億円、1日当たり約44億円の保険金や給付金支払い業務を担っている。
これらの膨大な件数の事務手続を迅速かつ正確に遂行するには、事務オペレーションを自動化し、利便性と生産性の向上を図る必要がある。
そこで事務企画部では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、AI-OCR、チャットボットなどのデジタルワークフォースの全社展開と活用を推進。事務オペレーションのオートメーション化、顧客インターフェースのデジタル化や社内照会業務の効率化を図っている。
<RPAによる事務オペレーションの自動化>
2017年度よりRPAの導入を開始。2018年度からは事務アンダーライティング部門での展開を皮切りに、本社各部の業務への適用を本格的に進めた。同時に支社でも、本社に集約させた業務のRPA化に取り組み、全社へと展開。2021年度からはAI-OCRやチャットボットなどの新技術を組み合わせて、RPAのさらなる拡大を図っている。その結果、2021年度末で約37万時間、1000業務の自動化を実現。ロボットも約200台の規模となった。
● RPA導入の過程
導入候補製品に関するPoCは2016年10月から3ヶ月を費やした。当社システムとの親和性の確認、パイロット版を構築して業務への適用可能性の検証を実施。その結果、エンタープライズ系でグローバルレベルのシェア実績がある2社の製品の導入を果たした。
その後の半年間で開発運用に関する環境構築や要員体制を整備。2017年7月から約20種類の個人保険事務を選定し、トライアル稼働を開始。トライアル対象を広げながら体制をブラッシュアップし、2018年度からは本格的な全社展開に至った。PoC前の調査段階から数えると準備期間として約2年を要したことになる。
● RPA事例:Pay-easy(ペイジー)による入金の案内
保険料の口座引き落としができなかった顧客に対して、コンタクトセンターに連絡があった場合はPay-easyによる入金の案内をする。
RPA化する前は、オペレーターがPay-easy入金に必要な番号を口頭で案内していたが、RPA化後はオペレーターの操作によりRPAがSMS(ショートメッセージ)で必要な情報を送信する仕様になった。1件当たりの削減効果はわずかだが、コンタクトセンター全体では年間で約3000時間の削減となった。
● RPAのガバナンス体制
ロボティクスの管理は事務企画部が担い、専属の管理チームがIT部門と協力しながら、ビジネス部門主導でRPAを活用。開発から運用、保守を一手に請け負うことで、ロボットが野良ロボット化しないように管理している。各所属ではRPAの推進役となる「RPAアンバサダー」を選出し、アンバサダー向けの研修も定期的に実施。事業企画部とアンバサダーによる定期的な連絡会も開催して情報を共有。他部署でのRPA化候補業務の掘り起こしにつなげている。
RPAによる自動化で、人的な作業ミスがなくなり効率化と品質向上を両立。単純作業がなくなって考える仕事に時間を割けるようになったという声も寄せられていることから、今後もさらなるRPA拡大を図っていく。
<AI-OCRによる自動化対象範囲の拡大>
2020年7月からはAI-OCR基盤も導入して事務処理の自動化を進めている。まず契約保全領域での導入からスタートし、保険金給付金支払の領域にも対象を拡大。迅速かつ確実な処理を実現させている。
● AI-OCRを活用したオペレーション自動化
経営資源の適切な配分の観点から、事務処理の自動化、ペーパーレス化は段階を踏んで取り組んでいる。AI-OCRによるオペレーションの自動化対象範囲を拡大することで、外部委託業務の削減や本社業務の生産性向上を実現している。
● AI-OCR導入の過程
2018年度始めから半年掛けてPoCを行って製品を選定、その後1年半の準備期間を費やして開発と運用体制を構築。準備期間ではインフラ構築と、帳票データの読み取りテストを重ねて機械学習を蓄積した。2020年7月に第1弾の本稼働を迎えるまで、約2年半を要した。
● AI-OCR基盤の概要
第一生命では、複数のAI-OCR製品を組み合わせた基盤を構築。機能構成は大別すると「帳票認識」と「文字認識」だ。
帳票認識は、入力された帳票の種類を読み取って、仕分け。所定の手続き書類などの「定型帳票」と、読み取り位置が定まらない「非定型帳票」のどちらにも対応している。
文字認識は、各帳票に記載されている文字を読み取ってデータ化。機械印字された活字以外に、手書き文字にも対応している。
AI-OCRの精度はマシンラーニングにより日々向上しているが、100%の精度を出せるわけではないため、最後は人の目視による確認を要する。この業務の効率化を進めるために、AIの読み取りの確信度が一定基準よりも低い項目のみ人が確認をして、必要に応じて補正することで、効率的で高精度な読み取りを実現している。
● AI-OCR事例:ハートフルメイト(協力者)の新規登録業務
導入前は、提出された申込書の内容を事務担当者がOCR用の帳票に転記してからOCRでデータ化して後続の事務に展開。AI-OCR導入後は、加入申込書を読み取り、確認と補正作業を経てデータを生成。後続の事務RPAで自動化されている。
<チャットボットによる照会業務の効率化>
2020年3月からは、営業オフィスの事務担当者やサポートデスクなどのコミュニケーターの業務効率化を目的として、社内向けにチャットボットを導入。顧客からの質問に迅速に回答できるようになり、内勤職員からの迅速なサポートも可能にしている。
生涯設計デザイナーや内勤職員に向けて、コンテンツは段階的に拡充。現在の代表的なコンテンツは約2500に上り、最終の回答まで数えると約8000の規模。現場からの要望を踏まえて、今後も内容を拡充していく予定。
● チャットボットの必要性
従来のFAQ検索では、あらかじめ検索したい条件を理解していないと必要な情報を探しづらいという課題があり、誤認するリスクも生じていた。
その解決策として分岐型のチャットボットを導入。代表的な質問から関連するものをメニュー表示し、条件を聞き返しながら確実に回答に導く仕様にした。各回答をシンプルな表現にすることで、誤認しにくくしている。
● チャットボット導入の過程
RPAやAI-OCRと同様に2017年6月から半年間かけてPoCで候補製品を選定し、生産性と保守性の高い製品を採用。2018年10月からトライアルを開始。トライアル段階から有用性を感じられるように、ある程度のコンテンツを事前に構築。トライアル期間中はタイムリーにフィードバックを受けながらコンテンツを段階的に充実させ、2020年3月から全社採用に至った。
チャットボットのアイコンは親しみのあるロボットのイラストを用い、期間限定で着せ替え仕様を変更。利用しやすい雰囲気になるように心がけている。
● UX向上とリスク管理
RPAと同様、チャットボットのコンテンツ管理も事務企画部が一元管理。利用ログの確認や分析により、ユーザー満足度向上に向けたコンテンツの追加や学習、事務ミス発生の防止などのリスク管理も担っている。
コンテンツ追加にあたっては、担当所管が質問やコンテンツ作成を担当し、事務企画部が承認と登録を担当。所管ごとのばらつきを排除して、統一感のある情報を提供。所管担当者を交えた連携会議を定期的に開催して活用状況やログ分析結果を共有することで、ヒヤリハットのリスク抑制も図りながら、コンテンツ鮮度の維持や拡充に努めている。
● チャットボットの活用状況
稼働してまもない時期に新型コロナウイルス感染拡大に伴って出社が抑制され、現場主導で活用が推進された結果、1日あたり10000~12000件(当初想定の5、6倍)の活用が続いている。
チャットボットの利用により、サポートデスク時間外でも自分で調べて解決できることや、分岐型による確実な回答への誘導に関する評価の声が上がっている。一方で、なかなか検索がヒットしないなどのネガティブな反応も一定程度あることから、営業現場向けに検索のポイントや事例紹介などの研修教材も提供している。
2020年12月からは、公式サイトや契約者専用サイトで利用できる顧客向けのチャットボットサービスも開始。2021年10月からはRPAとの組み合わせにより、契約に応じた照会や請求書の作成依頼などにも自動対応している。
● チャットボット活用事例:保険解約の依頼受け付け
例えば、解約したいというメッセージがチャットボットに入力されたときには、RPAがオンラインで照会して保持している契約の一覧や、解約時の返還金などを表示。解約を希望された場合は、RPAがオンラインで作成した請求書データを契約者専用サイトにある通知のボックスに送信するとともにメールでお知らせ。請求書データの内容を確認、補足情報を入力した上で、実際の解約手続きに入るという仕組みを自動化している。
第一生命の「デジタルを活用した生産性向上」への取り組みはこれで終わらない。さらなる業務効率化に向けてRPA、AI-OCR、チャットボットの活用を拡大させていく。