「戦略的なAI活用で保険業界を変える~AI導入の実情と事例~」
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【講演者】
- 株式会社シナモン
大塚 洋平 氏
<3つの強みで企業の成長力強化を推進>
AI活用には、保有するデータから価値を生み出す戦略的思考、データを活用する技術力、技術力の根幹となる人材が欠かせない。シナモンはその3つの強みを兼ね備えていることを武器に、企業の持続的な成長を支援していく。
● 企業の目的や意図(パーパス)に基づいたDX戦略の構築支援
AIは学習機能により、データを蓄積して使うほどに精度が向上する。企業の目的や意図に基づいたデータを取得し、戦略的にAIを活用することで高い価値を提供し、競争優位性を築きやすくなる。さらにシナモンのデータを蓄積する際に、意図的にひも付けて構造化できる。この特殊構造のデータを蓄積していくことで、顧客に提供できる価値は相乗的に高まる。
● 非構造データを幅広くカバーする技術力
業務の中にはデータベース上に分類しきれていない「非構造化データ」が存在し、データ活用のボトルネックとなっている。例えば紙の書類、音声や画像、動画、タグなしのデータなどだ。シナモンでは、これらの非構造データをデジタル化した上でAI分析で自動的に分類し、構造化して整理することが可能だ。
● 高度なAI人材を獲得・育成するエコシステム
シナモンはベトナムと台湾に最先端のAI研究ラボを保有し、200名の社員のうち半数は最先端のAIアルゴリズム技術を研究。企業への評価が高く、ベトナムでは就職したいIT企業のトップテン入りするほど人気があることから、名門大学から優秀な人材を厳選して獲得しやすい。さらにトレーニングで技術力を磨くことで、高度なAI活用に技術力を発揮できる企業として成長している。
<保険業界におけるAI活用の実情>
AI活用を大別すると、業務の効率化を図る「デジタル化」とデータ戦略に基づいて競争力強化を図る「DX」の2種類がある。
保険業界では、デジタル化は進んでいるが、DXに関しては海外ではDXの実現に向けたユースケースがいくつか見られるが、日本国内ではようやく試験的な導入が始まった段階。各社で積極的な議論と技術検討が展開されている。
● 海外のDX事例1:中国の大手保険会社によるヘルスケアサービス
無料ポータルアプリを通じて健康状態の計測、遠隔診療サービス、ヘルスケア商品の購入などの付加サービスを提供。顧客のヘルスケア情報を入手し、その利用データを元に健康状態を把握。最適なタイミングでの保健含むサービス提案を実施
● 海外のDX事例2:米国のオンライン損害保険会社
チャットするだけで、アプリ上で簡単に保険加入できるシステムを構築。保険業務に最適化されたコミュニケーション AI と取得したデータを用いたリスク予測AIを活用することでDXを実現している。
<弊社の提供ソリューション>
シナモンでは、AIの導入検討からAIによる成長戦略の立案、実行まで様々なフェーズを一貫してサポート。提供するサービスの了解は幅広いが、今回はデジタル化とDXの両方に関わるソリューションの事例をいくつか紹介する。
● デジタル化領域|保険業界でのAI-OCR活用
画像認識と自然言語処理を組み合わせたマルチモーダル型AI-OCRを独自に研究開発。支払い関連帳票や健康診断書などの定形外の帳票、カメラで撮影した際にブレや傾きなどのある読み取りづらい帳票でも、高速かつ高精度な読み取りを実現している。
● 生命保険会社の活用事例「Web 給付金申請での CX 向上」
給付金申請のための必要書類を提出する際、顧客が診療明細書や医療用領収書などをカメラ撮影してアップロードする。この画像が画質の低いカメラで撮影されていても、自然言語処理を組み合わせた独自のAI-OCR 技術で高速・高精度に文字認識する。業務フローが大幅に短縮されたことから、当日中の支払い決定、翌日振り込みを実現。CXを向上させた。
● 生命保険会社の活用事例「独自ヘルスケアデータ基盤構築による商品開発支援」
顧客がカメラで撮影した健康診断書、過去に収集した健康診断データなどをAI分析。改めてデータを抽出し直すことで構造データ化して、独自のヘルスケアデータべースを構築した。
非定型な健康診断書も高速かつ大量に構造化。給付履歴に基づく疾病データなども、独自のヘルスケアデータべースにひも付けて一元管理できるようにした。
● 損害保険会社の活用事例「契約切り替え時の他社証券分析」
営業領域での活用事例として、他社から契約を切り替えるケースでの既契約情報の登録にAI-OCRを活用。保持している保険証券をスマホで読み取ることで必須項目を自動入力し、加入者の申し込み作業負担を大幅に削減した。読み取り結果から他社証券の詳細情報を収集するほか、顧客には最適な保険商品の提案や保険設計書の生成を実現した。
● デジタル化領域|会話トピック分類、感情分析
営業部門やコールセンターでの会話内容をAI-OCRで分析(会話トピック分類、感情分析)して構造化、顧客対応の最適シナリオ分析やQAレコメンドシステム構築に役立てている。個別業務に特化した特化型音声認識AIと構造化に特化した自然言語処理AIを、導入企業に適した仕様にカスタマイズすることで、高精度な分析を実現している。
● 文脈に基づいて会話内容を構造化
専門的な会話分析には、キーワードで発話を分類、抽出する場合が多く、キーワードを含まない会話内容を分析するには手動での分類作業が必要になる。
シナモンのAI-OCRは、独自に自然言語処理技術を研究した結果、文脈に基づく複数発話単位でのトピック分類を実現。顧客の属性に合わせたトピック遷移や発話内容の特徴による分類を可能にしている。
● 会話の内容と音声データの組み合わせでAIが感情を予測
相手の感情を予測する手がかりには、会話の内容(テキスト)、口調や音程(音声)、表情や身ぶり手ぶりの動作(動画)などがあるが、感情分析には高度な技術が必要なので、いずれか1種類のデータソースに基づく場合が多い。
シナモンのAIは、テキストと音声データを組み合わせた(マルチモーダル型)のアルゴリズムを使って、より人間らしい感情の理解と予測が可能になる。表情や身振り手振りを撮影した動画データを用いることで、さらなる精度向上も可能だ。
● DX領域| CX 向上のための Knowledge Hub
DXを実現するためのソリューションとして、独特のデータべース構造を持ったグラフデータベースとも呼ばれる「Knowledge Hub」を提供。Knowledge Hubに蓄積されたデータを人とAIが共同でアップデートしていくことで、様々な領域で高品質なCXを実現できる。
Knowledge Hubに集約されているのは、非構造化データからAI技術で抽出されたナレッジ(知識)データ。単にデータを抜き出して収集したものではなく、データに意味づけをしたり、関係性を持たせてから構造化することで、価値を高めている。
● Knowledge Hubによる査定支援
約款や内部査定基準、過去の査定結果などは、査定のためのルールブック。それぞれを文書構造化AIを用いて構造化してからKnowledge Hubに「査定ナレッジ」として蓄積していく。ただし、約款や内部査定基準書に記載されている内容には抽象的な部分もあり、人によって解釈に差が出る可能性がある。そこで、類似する過去の査定結果を利用することで詳細部分を補完し、定義づけていく。この査定結果は、構造化してKnowledge Hubに蓄積。この繰り返しにより、Knowledge Hubの内容は学習が進み、査定の自動化を実現できる。
● Knowledge Hub による 照会対応支援
各種マニュアルと過去の問い合わせ内容も、内容をAI分析して構造化し、Knowledge Hubに蓄積しておくことで、チャットボット用のシナリオを自動生成できる。新しい問い合わせに関する内容や更新されたマニュアルがある場合はKnowledge Hubに追加して「照会ナレッジ」として蓄積することで、チャットボット用のシナリオ精度が向上していく。
● Knowledge Hub による営業トレーニング支援
トップセールスの会話の流れや質問と回答のパターンを文脈ベースで分類。顧客情報や商談情報などのパーソナル情報と紐づけながら、トップセールスの「商談ナレッジ」を構造化してKnowledge Hubに蓄積。この「商談ナレッジ」を営業部門で共有することで、顧客の各種背景情報に合わせて最適化された会話スクリプトを学べる。経験の少ない新人用の営業トレーニングとしても有効利用できるだろう。
<AI導入成功のために抑えるべきポイント>
AIの導入を成功させるためのポイントは、「データ」にある。ただしAI 活用の目的が「デジタル化」なのか「DX」なのかによって、準備するデータの観点が異なることに注意だ。
● 既存業務の効率化(デジタル化)を重視する場合
AIの開発・チューニング段階において、データをどのように読み込ませて学習させるかが重要。実際の業務を意識して、学習結果が偏り過ぎないようにランダムに取得したデータを活用することが重要。
● データ戦略に基づく競争力強化(DX)を重視する場合
これからのデータ戦略において重要になるであろうデータを、立案段階で発掘することが重要。すでに取得しているデータから探す必要はなく、保持していなければ、今後データを取得する方法も含めて検討していく。
手持ちのデータや従来のやり方などに縛られずに、自分たちの環境でDXを実現するには何が必要かという視点で、大胆に発想していくことが重要だ。
◆講演企業情報
株式会社シナモン:https://cinnamon.ai/