2022年12月1日(木)開催 FINANCE FORUM「デジタル時代の顧客接点の多様化と価値創造」<アフターレポート>


2022年12月1日(木)セミナーインフォ主催 FINACE FORUM「デジタル時代の顧客接点の多様化と価値創造」が開催された。スマートフォンをはじめとするモバイル端末の普及を機に、金融機関と顧客の接点は大きく変わった。また、昨今ではアプリやWEBサイト、コンタクトセンターなどから顧客情報や動向を汲み取り、顧客一人一人に最適な金融サービスを提供すべく、各金融機関が様々な取り組みを行っている。本フォーラムでは、りそなホールディングスと鹿児島銀行に取り組み事例を紹介いただいたほか、各協賛企業の講演を通じて、デジタル時代に即した製品・サービスをご紹介した。

  1. 「りそなグループのデータ利活用の取組みについて」
    株式会社りそなホールディングス 那須 知也 氏
  2. 「金融機関におけるDXとデザインの組織浸透について」
    株式会社ゆめみ 猪井 慎介 氏 / 野々山 正章 氏
  3. 「保険カスタマーエンゲージメント最適化
    ~成功事例とそれを支えるSAS AIテクノロジ~」
    SAS Institute Japan株式会社 原島 淳 氏 / 松下 聡 氏
  4. 「SBI証券のWebサポートが顧客の自己解決を促せた理由」
    株式会社RightTouch 野村 修平 氏 / 株式会社SBI証券 飯島 正二 氏
  5. 「顧客起点のDXの実現
    〜チャット・ボイスボットで加速するCX重視の金融業務効率化〜」
    モビルス株式会社 柏原 学 氏
  6. 「キャッシュレス決済アプリ「Payどん」を活用した地域経済活性化」
    株式会社鹿児島銀行 徳留 直人 氏
目次

「りそなグループのデータ利活用の取組みについて」

 

基調講演
【講演者】
株式会社りそなホールディングス   
データサイエンス部長
那須 知也 氏

りそなグループのご紹介

●りそなの概要
りそなグループは本邦最大の信託併営リテールバンキンググループであり、顧客基盤はグループ全体で、個人顧客1600万人、法人顧客50万社にのぼる。組織形態は、りそなホールディングスの傘下にりそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、みなと銀行の4つの商業銀行を保持している。全ての銀行を合わせると有人店舗は800拠点を超える。

●デジタルバンキングの全体像
りそなグループのデジタルバンキング戦略は、「チャネルを選択するのは顧客である」という理念から、どのチャネルでも同じ体験を顧客に提供したいと考えている。そのため、デジタルチャネルのみに力を入れるのではなく対面も重要視している。デジタルチャネルでは直接顧客と接する機会が少なくなりがちだが、りそなグループは顧客データを「顧客の表情」だと捉えている。デジタルバンキング戦略の中核となるバンキングアプリは「スマホがあなたの銀行に」と銘打ち、2018年にリリースされた。グッドデザイン賞など様々な賞に輝いたほか、2020年・2021年には2年連続でDX銘柄にも選ばれている。アプリは約580万ダウンロードされ、最も顧客接点が多いチャネルに成長した。利用が多い世代は20代から30代だが、40代・50代の利用も増加傾向にある。月間継続利用率は約70%、アプリへのアクセス回数は月平均約9回にのぼる。顧客に月9回リーチできるチャネルを持つことになり、りそなの大きな強みだと自負している。また、アプリにより非対面での「積立定期口座開設」「外貨普通口座開設」「外貨預金預入」などが可能になるなど業務効率化にも寄与し、全世代を通じて高い収益性と各取引の高い利用率を実現した。アプリ日常利用者の口座脱落率はその他の顧客の6分の1程度であり、顧客獲得だけでなく、顧客の離脱防止にも貢献している。

<データマーケティングの取組み>

●りそなのアドバイス配信
バンキングアプリによってもたらされる桁違いのデータの蓄積はりそなグループの宝だ。データは商品開発に活かされ、欠かせないものとなっている。データ分析を特に活用しているのはアプリ内で配信するアドバイス機能だ。興味喚起から取引まで導線が一直線になり、可能な限りアプリ内で取引を完結させる仕組みだ。データ分析を活用して顧客1人ひとりにアドバイスを出し分けている。極端に言うと、580万人のユーザーがいれば、580万通りのアドバイスが表示されるのだ。また、スムーズな取引導線によって、取引完了に至るまでの顧客離脱を限りなくゼロに近づけている。データ分析に基づいたマーケティングを行い、アドバイスの出し分けにも積極的に反映させている。

●PDCAの枠組み
データマーケティングではPDCAの徹底にこだわった。準備するシナリオは原則全件、配信対象をセグメント分けし、ABテストや配信非配信のテストなどにより効果検証を行う。様々な仮説を立てた上でテストするが、結果は往々にして予測から外れる。なぜ外れたのかも含めて相当な知見が溜まった。年間配信数も9000万弱に伸びてはいるが、いたずらに配信数を増やすことが目的ではなく、本当に顧客に合った配信をすることを心がけている。りそなグループが重視するマーケティングの3要素は「アクティブユーザー数×スムーズな取引導線×最適化されたコミュニケーション」。一つひとつは目新しくはないが、「当たり前のことを当たり前にやる」ことが重要と考えている。3要素は掛け算であり、どれかが0なら他がよくても0になる反面、全てがうまくいくと乗数効果でいい循環が生まれる。いい循環を絶やさないように愚直に取り組んでいくつもりだ。

<データ分析専門組織の設立>

●設立時の考え方
データサイエンス部は「ビジネス、データ、分析力を融合し、データを起点とした新たなビジネスチャンスの創出に挑戦」することを目的として設立された。IT部門や経営企画部門ではなくビジネス部門から生まれたのが強みだ。データサイエンスに必要な3つの力としてビジネス力、データエンジニア力、データサイエンス力があるが、ビジネス力を特に重視している。ビジネス中心の課題・仮説を設定し、その上でデータサイエンティストが分析を行う。ビジネス実装の過程でもPDCAにこだわり、社内では「ビジネスに始まり、ビジネスに終わる」ことを徹底している。

●データサイエンス部のこれまでの歩み
データサイエンス部の前身にあたるデータサイエンス室は2019年4月に3名でスタートした。最初は部屋もパソコンもなく、手探りの状態での立上だったが、パートナー企業から支援を受けながら、当初から「内製化」「自走化」を視野に入れていた。分析業務は外注する企業も多いが、りそなは「自社のビジネスを一番理解しているのは社内の人間」だと考え、内製化・自走化にこだわった。時間はかかったが、足元ではその成果の手応えを感じはじめている。

21年4月から人員が増強され、分析結果の小規模活用を開始。最初は非対面の個人分野の分析が多かった。りそなグループのデータサイエンス部の組織の特徴として、マーケティングを実践する「デジタルコミュニケーショングループ」を同じ部内に抱えている点が挙げられる。アドバイス配信を運用する中で得られたデータをデータサイエンティストが分析し、デジタルコミュニケーショングループに施策案を提案、施策結果をデータサイエンティストにフィードバックする一連の流れを同じ部内で行うことができる。お客さまに近い距離でPDCAを高速化できたことが、成果に繋がった。

<データサイエンスの取組み>

●商品軸からお客さまへ
データサイエンスのビジネス活用は商品レコメンドモデルが多く、我々も実際に取り組んでいる。しかし、いくつかのモデルを構築すると同じ顧客ばかりが上位に来る結果になった。そこで発想を転換し、商品軸から顧客軸に切り替えたのだが、これが結果的に大きな転換点となる。外注に頼るとアウトプットは商品レコメンドに偏りがちだが、内製化のおかげで顧客を軸にしたアプローチができるようになった。現在取り組んでいるのは、顧客セグメンテーションの高度化だ。従来のセグメンテーションでは、預かり資産や取引実績から顧客をグループ分けしていた。現在は「クラスタリング」という手法を活用し、銀行サービスの使い方による顧客のグループ分けにも挑戦している。データサエンティストと社内有識者で、各グループに対するラベリングを行った結果、顧客の行動分析が進み、顧客理解が深まった。

●データサイエンス事例
データサイエンス部は、BIツールの活用も行っている。各種指標の見える化に取り組み、成果が出始めている。各部署にはデータ集計・加工の職人のような担当者がおり、一部の業務はそのような担当者に依存しがちである。しかしながら、データの集計や可視化に長けた担当者がいなくても、BIツールを積極的に活用することで、自動化、リアルタイム化を実現できる。データの集計時間を大幅削減し、その時間を施策立案などの業務に充てることができ、効率化だけではない効果も生まれている。

<今後の取組>

●営業活動の高度化
データサイエンス部は組織拡大と共に分析領域拡大にもチャレンジしている。その1つが営業活動の高度化だ。対面ビジネスに役立つ分析に取り組み、法人の取引先毎に、「どういったことを求めているのか」という商品軸ではない顧客軸での商品提案に挑戦している。また管理系のデータ活用は非常に取り組みがいがある。社内を見ても管理部門は効率化の余地の大きいブルーオーシャンだ。管理部門でのデータサイエンス活用には大きな飛躍のチャンスがある。マーケティング、管理系問わず、成功モデルを作ると、横展開もできる。データサイエンスの成果は他の部門にも活用可能だ。

●まとめと補足
データサイエンス部の今後の取組を4つ紹介する。1つ目の取組は、全社的なデータの可視化だ。AI、ディープラーニングなども大事だが、データを統一した目線でみるためには、まずは可視化することが必要だと考えている。2つ目の取組はバンキングアプリに関する分析等で培った知見の実店舗や法人営業への活用だ。3つ目は個人顧客のライフイベント発生のタイミングの予測だ。ライフイベント毎の悩みごとを事前に察知し、解決に貢献したい。4つ目は画像解析等の新たな技術の活用だ。OCR技術などの技術が発展・普及し、自社でできることも増えた。ベンダーではコストが気になる技術でも、内製化により気軽に試せるようになった。

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