「キャッシュレス決済アプリ『Payどん』を活用した地域経済活性化」

 

特別講演
【講演者】
株式会社鹿児島銀行
経営企画部 デジタル戦略室 調査役
徳留 直人 氏

<「Payどん」とは >

「Payどん」は2018年に鹿児島銀行が独自に開発したキャッシュレスサービスだ。2018年は「キャッシュレス元年」と言われるほど、キャッシュレスに関する話題が盛んだった。その代表的サービスがYahoo!・SoftBankの合弁会社から発表された「Pay Pay」だ。政府は2016年で約20%のキャッシュレス比率を2025年には40%まで引き上げる方針を打ち出した。鹿児島銀行が「Payどん」の開発を検討したのは、ただキャッシュレスの流れに乗るだけでなく、地域金融機関として地域の資金を循環できる仕組み作りをしたいという理由もあった。

キャッシュレス決済は支払うタイミングにより3つに分かれている。1つ目が事前にチャージしておいて、チャージ残高の範囲内で決済する前払い(プリペイド)。2つ目が決済すると銀行口座から即時に引き落とされる即時払い(デビッド)。3つ目が後払いのクレジット払いだ。Payどんは前払いと即時払いの機能を有したキャッシュレス決済アプリだ。「Payどん電子マネーサービス」は事前にチャージして残高内で支払う方式、「Payどん銀行口座サービス」は鹿児島銀行口座から直接決済される方式になっている。アプリ内では青と赤の画面を切り替えて使用する。現時点では鹿児島銀行の口座が必須であり、チャージは鹿児島銀行の口座から行なう。Payどんアプリは決済が主体だが、決済以外にも様々な機能も備えている。使える店舗の検索はもちろん、個人間の送金は2019年12月、200円につき1ポイント貯まるPayどんポイントは2020年7月、地域振興券は2020年12月、スタンプラリー機能は2021年10月にスタートした。

加盟店側の決済手段はタブレット端末決済 とステッカーによる決済の2通りだ。ステッカーは、ユーザーがQRコードを読み取る方式だが、タブレット端末の加盟店アプリではその方法に加え、加盟店側でユーザーのQRコードを読み込む方式でも行え、MPM・CPMどちらの方式にも対応している。加盟店の売上代金の入金は最短で翌銀行営業日だ。今日の売上は翌日朝には通帳へ振り込まれ、迅速な入金が可能だ。毎日の入金は経理の処理が大変という加盟店には月1回、もしくは月2回の入金も選択できる。決済手数料率が一律1.5%で、他の決済サービスよりも低いのもメリットだ。鹿児島銀行口座に入金するので手数料もかからない。

<地域振興券への活用>

キャッシュレス消費者還元事業が終わり、マイナポイント事業が始まっていた2020年12月に地域振興券機能を開始した。現在、鹿児島県内に会員数約10万人、加盟店が約1万店舗であるが、地域振興券を開始してからは、月額決済額が以前の10倍以上になった。地域振興券の購入はユーザーがPayどんアプリ上で行う。購入時は預金口座からの即時引き落とし、もしくは事前にチャージしているPayどん電子マネーによって決済される。商品券を購入すると、自治体が独自で行うデジタルポイントが付与される。デジタルポイントはPayどん加盟店で1ポイント1円として利用可能で、自治体ごとに商品券を使える加盟店を指定できる仕組みだ。地域振興券の購入はアプリ内に一覧が現れ、クリックすれば購入が完了する。

地域振興券の主な活用パターンはつぎの3通り。自治体独自のポイントにプレミアム分を上乗せするタイプは、プレミアム分を含む金額が地域内で使用され、地域の消費活性化に繋がった。自治体独自のポイントは購入金額のみで、プレミアム分の2000ポイントはPayどんポイントとして付与するパターンは、プレミアム分が全Payどん加盟店で利用できるため、商品券自体のお得感が増し、商品券の購買意欲が増えた。利用金額に応じてプレミアム分をPayどんポイントとして後日還元するパターンも可能である。地域振興券の事業活用はユーザー、加盟店、自治体、鹿児島銀行の4者にメリットがある。ユーザーは窓口に行くことなく商品券が購入できる。また1円単位で利用できるので、1000円以内のものを1000円券で購入するという損をすることがない。加盟店は煩雑な手続が不用で清算ができ、入金もスムーズだ。自治体は、紙の券の発行に比べてコスト負担を軽減できる。鹿児島銀行が独自に開発したアプリなので、地域に密着して、各所の要望に基づいて柔軟にカスタマイズできる。地域振興券事業の対応状況は、2021年で11事業、2022年で14事業の受託が決定した。

自治体や事務局の地域振興券事業全般の意見は、以下の通りだ。
・紙の商品券に比べて事業コストが安く、清算業務の手間がなく、事業終了の検証も簡単。
・デジタル化で不正が起きにくい。
・商品券購入に行列ができないのでコロナ感染の心配がなく安心。
・デジタル化への苦情を覚悟していたが、想定より受け入れられた。
・次回の同様の事業がある場合もデジタルで実施したい。

またPayどんを選択した理由には以下のような点が挙げられた。
・地域の資金循環の実現。
・事業者の決済手数料負担が少ない。
・事業者や利用者をフォローする体制がある。
・詳しい利用データが提供され事業効果を分析できる。
・自治体の要望に対して柔軟に対応できる。

<自治体と連携したデータ活用の取り組み事例~鹿児島市との取り組み事例~>

鹿児島市はプレミアムポイント事業にPayどんを活用している。鹿児島市は鹿児島県の県庁所在地及び最大の都市で、中核都市に指定されている。鹿児島湾西岸の市街地から桜島の景観がイタリアナポリのブェスブィオ火山の景観に似ていることから「東洋のナポリ」と呼ばれている。人口は福岡、北九州、熊本に次ぐ4番目だ。

2020年度当時はコロナ禍にあり、鹿児島市でも「家賃支援金」「雇用維持支援金」「中小企業信用保険法」など、新型コロナ対応支援制度の業種上位はやはり飲食業だった。「感染リスクが高まる5つの場面」の3つが当てはまる飲食店はコロナ禍の矢面に立っていた。売上状況が悪化していて、感染対策費用の負担も大きい飲食店を基点に消費喚起することになった。会計時の接触を減らすために電子決済を採用し、プロポーザル方式で業者選定が行われ、鹿児島銀行が選ばれた。2021年10月から始まった事業は、Payどんアプリ内から鹿児島市内で「飲食店応援ポイント」という飲食店でしか使えない商品券を発行した。これを購入すると購入額の20%のポイントが翌日に付与される。

●プレミアムポイント事業第1弾

事業規模は応援ポイントが約5億円だった。他の大手ペイメント会社とも競合したが、決済手数料が1.5%と最安であり、感染対策を図る店舗の選定・登録ができるのも鹿児島銀行だけだった。さらに、鹿児島銀行の店舗網が市内44店舗で各窓口の対応も可能であり、利用データを提供し、データを活用した施策の効果検証も可能だった。年齢別のデータでは60代以上の高齢者の割合が20%ほどあり、しかも高齢者であればあるほど購入額が増加したことが分かった。決済状況のデータでは、30万円の上限購入者は全体の0.5%で、時間別の利用状況は、11時から15時までのランチ時は決済件数では54%と高かったが、金額的には36%に留まっている。逆に18時から22時までの夜の件数は24.2%だったが、客単価が高いため決済額は、43.3%と高かった。この結果はPayどん特有の結果かもしれないため、裏づけに携帯キャリアのオープンデータも調べた。その結果、ランチ客が多く、夜客が少ない結果が読み解けた。データ分析の結果、鹿児島市は夜間の件数を伸ばして、利用額を増加させることが経済効果に繋がると結論づけた。

●プレミアムポイント事業第2弾

鹿児島市と鹿児島銀行は協議の上、事前に購入の場合ポイントが失効するケースが一定数あったために、事前購入方式からポイント後付け方式に変更した。また第三者認証を取得している飲食店を増やすために、第三者認証店舗へのインセンティブを付与。さらに夜間の利用を促進するために、時間帯にインセンティブを付与した。改善したプレミアムポイント事業第2弾では、アプリのポイント付与というアプローチが若い世代に馴染みがあったせいか、20代から30代の若年層の割合が増加し、女性の利用が増えた。時間帯別決済状況の結果をみても、18時から22時の時間帯の決済件数が前回の+ 3.9%、決済額が+ 5.6%にアップした。第三者認証店にプレミアムポイントが乗ることで、結果的に第三者認証店の数も増え、前年約700店舗から約300店舗増加し、鹿児島市の目論み通りに事業が進んだ。

鹿児島市からは「他の金融機関でもPayどんアプリが登録できるようにしてほしい」 という声や加盟店からも「店舗側の口座も他の金融口座での登録できるようにしてほしい」という声をいただいている。

期待に沿えるように、地域の事業者や消費者がPayどんを通じて、販売・購入という地域内の資金循環を実現していきたい。