「顧客起点のDXの実現
〜チャット・ボイスボットで加速するCX重視の金融業務効率化〜」

【講演者】
モビルス株式会社
執行役員
柏原 学 氏

<会社紹介>

モビルス株式会社は、2011年に設立されたコンタクトセンター向けのSaaSプロダクトモビシリーズなどのCXソリューションを提供している会社だ。2021年9月に東京証券取引所グロースに上場した。現在では、コンタクトセンター業界では少しずつ認知していただけるようになった。サポート領域には様々な問題が山積となっており、「テクノロジーを使ってサポートを新しくしていく」ことをスローガンに活動している。

コンタクトセンター向けのオペレーションのソリューションが我々の主なビジネス領域である。また全国の自治体の行政サービス窓口においての住民向けの生活情報の配信、住民からの問い合わせの自動応答ボットでの対応、各種申請手続きの自動化、などのソリューションを提案している。さらに企業・庁舎内での職員・社員向けの問い合わせサポートの業務も増加している。

<顧客接点のノンボイス対応を進めた企業での成果>

従来電話で行なっていた顧客サポートの課題、「人手不足・採用難」「人件費・運営費の上昇」「電話離れ・LINEの普及」「専門知識・外国語対応」などに対して、モビルスのソリューションは業務効率化、顧客満足度の向上に貢献している。ボイスボット「MOBI VOICE」では電話対応で溢れた注文・依頼・問い合わせを一時的にリカバーする。チャットボット「MOBI BOT」とチャットサポートシステム「MOBI AGENT」は、シームレスに連携し自動対応と有人対応をハイブリッドで運用できるため、CX向上に必要な細やかな対応も可能だ。「ビジュアルIVR」はWeb上の顧客を問い合わせ目的に最適なチャネルに誘導するような導線設計が容易にできる。「Security Suite」は本人確認が必要な問い合わせにもチャットの対応領域を拡大できる。「MOBI CAST」ではLINEを用いて顧客をセグメント化して情報配信することができ、満足度を損ねない配信が可能だ。

<ノンボイス比率50%達成、その先にある世界>

先進的な取り組みをしている企業のなかには、ノンボイス化比率(=電話以外の対応チャネル比率)を50%以上、現在では70%以上を達成している企業もある。当初はほとんどが電話のチャネルでカスタマーサポート対応していたが、FAQを整備してチャットボットと有人チャットを導入した。Webページから電話番号を削除する施策も取りながらLINEなどのSNSを活用して、マルチチャネル化を図り、ノンボイス化比率50%を達成した。さらに提携手続き業務はチャットボットあるいはボイスボットによる自動化を図り、顧客動線の分析によって導線改善を行ないカスタマーの自己解決を促し、顧客満足度の向上も行う。このような改善を行い続けることでノンボイス化70%〜75%の領域も実現可能で、モビルスのソリューション導入した企業は金融機関、メーカー、ECサイト、全国自治体等、様々な業種400社以上にもなる。

<コンタクトセンター業界の課題>

コンタクトセンターの第一の課題は人員不足だ。労働人口の減少問題は今まさに迫っている。一時期は特定の業界業種からの人員の流入でオペレーターを採用できた時期もあった。しかし、コロナの状況が回復傾向にある中で、どの業界も採用難に直面している。人手不足に対応するには生産性の向上が不可欠だ。

平日のコールセンターの電話が集中する時間帯は日に数回と決まっている。しかし、コール数が一時的に上がる場合があり、通常の電話にプラスされて問い合わせが殺到すると、通常の人員だけでは対応しきれない現状がある。そのため、できるだけ人に頼らない仕組みを用意しておくことが重要となる。

<コンタクトセンターの生産性向上に必要な3つの要素>

生産性を向上するためには以下に紹介する3つの要素が必要だ。

①問い合わせ前段階の設計
FAQの整備や、チャットボットの整備によって問い合わせの前段階で顧客が自己解決できるようにしていく。

②高効率な対応
問い合わせがきた場合、高度なボットによる応答の自動化、あるいは有人チャットでも同時対応数を増やすことによって効率的な対応を行う。

③解決率・満足度の向上
ビジュアルIVRなども活用しながらコールリーズン(問い合わせの種類)に基づいて、最適なチャンネルに誘導すること。

これらを実現するには、カスタマーサポート部門だけでなく、全社的な取り組みが必要だ。
重要なのは対応効率と品質の向上の組み合わせで効率化を図っていくことだ。今までは、一度にすべて自動化しようとAIや自動化ツールを導入した結果、そのツールのメンテナンスやチューニングを人が行う負担が大きくなり、また人手不足になるという矛盾が発生している。自動化に対する考え方を変えて、人にしかできない業務と定型的な業務を切り分け、「人を中心に置いたDX」を主流にする必要がある。

<事例・ELECOM株式会社>

「人を中心に置いたDX」として自動化を上手に活用しているのがエレコム株式会社だ。 以前は問い合わせの際に、「どこにコンタクトすればいいのか分からない」といった整理されていない状況で、コールセンターでの応答率も非常に低かった。

まず顧客導線の改善を図り、顧客がアプローチしやすい形に整理してから、必要なソリューションをシステム導入していき、全体の再設計を行った。
現状の可視化のため、オペレーションやコールリーズン分析、導線分析を実施。
役員から現場レベルまでヒアリングを行い、現在の課題と改善案を提案した。
上記を踏まえ全体フローの設計し、効果を実感しやすい導線改善から実行。
システムを構築
とフェーズを進めており、より継続的に効果を高めるためのPDCA支援も予定している。このように、少しずつ人を中心にしながらの業務効率化が実現可能だと考えている。

<定型手続きを上手に自動化したチャットボットの導入効果>

●チャットボット市場について
チャットボットの市場は最新のITRマーケットビューの調査によると、2022年から2026年まで安定的な成長が見込まれている。一方、コールセンターやコンタクトセンターの人材難は加速していき、ノンボイス化を進めていくことは必ず追い風になると考えている。モビルスもチャットボットを様々なクライアント様に導入しており、5年連続チャットボットの売上シェアNo.1を獲得した。

チャットボットにはシナリオ型と対話型の2パターンがある。モビルスはシナリオ型のチャットボットを得意としており、定型手続き業務の自動化に貢献する。コールセンター白書によると、生保・損保、携帯通信、通信販売、銀行などの業界では定型化しやすい業務比率が高くなっている。

●住所変更自動受付サービス
1つの事例として、大手ネット銀行では住所変更の受付をマイページではなくチャットボットで行うサービスを展開していた。通常、本人情報を変更したい時は、マイページからIDやパスワードを入力し、住所変更の手続きに入る。しかし、なかなかIDやパスワードを覚えられないケースもある。そこでチャットボットを活用し、ボットに従って顧客が情報入力し、その個人情報をRPAを活用して照合・変更するというシンプルな手続きを可能にした。チャットボットを活用することで、24時間手続きが可能になり、IDやパスワードが仮に手元になくても実現可能になった。

2つ目の事例はアニコム損害保険株式会社の保険金請求の自動化だ。通常の保険金請求は書類にかなりの情報を記入し郵送で送るという手続きを踏む。これだと、振込みまで1週間から2週間かかってしまう上に顧客にとっての負担が大きい。そこで、保険金請求の部分だけを切り出し、LINEアカウントで全て自動化できるようにした。

LINE上のメニューで保険金請求をタップすると、シナリオのボットに従って、契約者様は請求書の写真を撮ったりタップ形式で進んでいくだけで、いくつかの質問に回答すれば申請が完了する。使い勝手が良く申請手続きをものの数分で終了できる。手続きがスピード化されて、契約者・企業双方にメリットがある一石二鳥のサービスになった。2017年の導入以来、1年で目標利用率15%を達成し、月間利用者数は1.7万人、LINEでの請求比率は50%以上となった。

SBIいきいき少額短期保険株式会社もLINEアカウントから保険金請求ができるサービスを行なっている。バックエンドでSalesforceと連携し、リアルタイムに本人確認情報、請求内容の入力を連携でき、顧客管理情報を常に更新できる。このサービスも導入数ヶ月でLINEでの請求比率が20%達成された。紙による保険金請求の場合、請求から受付までは今まで6営業日だったのに対し、LINEによる保険金請求では14.7分という時間短縮になった。受付から支払いまでに関しても、日数が約半分に短縮できている。

他にも、あるネット系証券会社ではFAQシステムからチャット「MOBI AGENT」へエスカレーションする連携を図って、顧客満足度を上げている。

ある損保会社ではLINEアカウントを活用し、事故受付の対応の後をLINEに誘導して、その後、オペレーターとチャットのコミュニケーションで、事後処理を進めていくことを可能にしている。チャットの履歴ややり取りはSalesforceと連携され、常に最新の顧客情報で管理され、対応業務の効率化に一役買っている。

本人確認をともなう定型手続きをチャットサポートで対応する場合の効果
問い合わせ対応業務において、本人確認を伴う業務が占める割合は、サポートをするにあたって本人確認が必要な業務が多い生保・損保、銀行などが高くなる。今までは、セキュリティ面を気にする企業が多く、どうしてもチャットボットやチャットサポートではなかなか踏み込めない領域だった。

この領域の効率化を実現するためにモビルスは「Secure Path(セキュアパス)」をローンチしている。従来のチャットサポートでは個人情報の取扱いに制限があり、チャット対応で対応できる業務領域が狭まっていたが、セキュリティ機能を利用したチャットサポートで安全に本人確認ができ、電話と同じレベルのサポート対応が可能になった。

本人確認を必要とするサポート業務が加わり従来のチャットサポートよりもさらにサポート領域が広げられるようになったことで、特に金融機関では今後現状の3倍の業務範囲がデジタルで対応できる可能性がある。金融機関の顧客満足度でもオペレーターによるチャットサポートには非常に満足度の高い数値が出ている。

モビルスのチャットセキュリティ「Secure Path」について  
セキュアパスは、クレジットカード情報も扱えるような、セキュリティ基準PCI DSS準拠の個人情報保護が守られた環境で、本人確認をしながら、チャットサポートができる機能だ。従来マイページからID、パスワードを入力し、ログインして問い合わせをするような場合にも、IDやパスワードを忘れたり、間違ったりした場合には、その先のサポートが得られなかった。

セキュアパスを活用すれば、IDやパスワードを必要とせず、チャットボットや有人チャットのオペレーターによる本人確認が必要なサポートができる。仮にマイページでうまくログインした後でも、セキュアパスを活用すると二段階認証となり、さらにセキュアな本人確認が必要なサポートができる。顧客にとっては電話サポート以外に、チャットサポートの選択肢が増えたことが最大のメリットになる。

本人確認が必要な時に、オペレーターはセキュアパスへ個人情報を入力するためのフォームをリクエストすると、入力フォームのURLが発行され送られる。届いたURLは個人情報を入力する専用フォームであり、入力された情報は、暗号化されて、安全に保存された後、オペレーターの画面の方に、一時的な情報として、ポップアップで立ち上がる。オペレーターが目視で確認する他、バックエンドの顧客管理システムや機関システムとの照合を行うことで、本人を特定して後続のサポートを行う。個人情報を入力するためのフォームの項目は、運用によってカスタマイズができる。顧客が入力し終わると、オペレーターに通知が届き、確認した上で、閲覧のボタンを押す。本人情報確認ができるがチャットのタイムラインには残さないで本人情報のやり取りが可能になる。

実際に活用してPDCAを回しているのが株式会社ベネッセコーポレーションだ。「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」などのサービスを提供するベネッセは、LINEアカウントを活用して、契約者に対して本人情報の変更のサービスを行っている。

ベネッセの場合は、フェーズ1で有人チャットが顧客に受け入れられるかの確認を行い、高い顧客満足度と今後の利用意向の結果を残した。フェーズ2.1で本フェーズプロセスの自動化に進み、本人確認の部分をチャットボットに置き換えて、25パーセント程度の対応効率化を実現した。2022年8月からは手続き自体を全て自動化して効率化を図る取り組みを行っている。

1対応あたりのコスト、平均対応時間、手続き業務の自動化の点において、電話対応よりも効率化され、フェーズごとに効率化が進んでおり、ベネッセの事例は金融機関でも応用可能ではないかと考えている。

<定型手続きを上手に自動化したボイスボットの導入効果>

コールセンター白書を見ても企業が今後導入予定のITソリューションのトップなのが、ボイスボットまたは音声認識システムとなっている。特に2022年から2023年にかけてはさらにニーズが高まってくる見込みだ。

ボイスボットに関する調査では「問い合わせをする際にまず電話を利用しますか?」という質問に、「当てはまる」と回答した方が4割強いる一方で 「問い合わせが解決するなら、人の応答でなくても構わない」という意見も増えて68%になっている。問題解決するのに有人オペレーターではなくても構わないと考えている人が多い事実が分かった。

ボイスボットを問い合わせ全体の20%対応させた場合のROI試算では年間の費用削減効果が約1.2億円となる。代表的なボイスボットの活用シーンは、ピーク時、営業時間外での対応、物理的にオペレーターが対応できない早朝や夜間、土日祝日、障害発生時やプレスリリースの後など電話が殺到する場合などが多い。

SBIいきいき少額短期保険では資料請求の申し込みならびに契約者情報の変更にボイスボットを活用している。導入後わずか数ヶ月で導入効果を発揮している。
資料請求受付では導入3ヶ月目でボイスボットでの対応完了数が2倍に増加している。契約者情報の変更でも利用比率が約3.5倍に増加した。

◆講演企業情報
モビルス株式会社:https://mobilus.co.jp/