「SBI証券のWebサポートが顧客の自己解決を促せた理由」

野村 修平 氏
【講演者】
株式会社RightTouch
代表取締役
野村 修平 氏
飯島 正二 氏
【講演者】
株式会社SBI証券
カスタマーサービス部
デジタルコミュニケーション課長
飯島 正二 氏

会社紹介>

株式会社RightTouchは2021年、株式会社プレイドの社内起業として設立した。プレイドは CXプラットフォーム「KARTE」を開発販売している。その中で「『KARTE』をカスタマーサポートで使ってみたい」という要望を、SBI証券様をはじめとする数社からいただいた。要望を受けて、実証的な実験を繰り返す中で、カスタマーサポートに特化したプロダクトが絶対に必要になり、デジタル活用がカスタマーサポートでも本格化していくことを確信した。それをきっかけに弊社が創業された。

<SBI証券 カスタマーサービスセンターの紹介>

SBIグループは創業以来顧客中心主義を掲げており、SBI証券では豊富な商品とサービスを 提供している。カスタマーサービスセンターも顧客のために、日々さまざまな活動を行っている。

その中のデジタルコミュニケーション課は、電話以外のチャット、チャットボット、FAQ、メール対応を行っている。現在はKARTEを活用した自己解決の取り組みを積極的に行っている。

KARTE RightSupport(β)は2022年3月にリリースし、4月から様々な顧客でプロジェクトが進んでいる。 実際にSBI証券をはじめ、多くの金融機関も使用して「自己解決を推進するプロジェクト」として支持されている。

<カスタマーサポートの課題>

多くのカスタマーサポート部門ではFAQの拡充や、チャットボットを設置して、自己解決を推進するプロジェクトを既に行っている。

我々も顧客から「効果は出ているものの思ったほどの効果が出ない」「もっと自己解決の促進を進めたい」という次の1手を探している様子が汲み取れた。 困り事が発生したときに、ウェブサイトに入り、解決手段を検索し、自己解決できる顧客はほんの一握りだ。ほとんどのエンドユーザーは、適切な情報を探せない、そもそも探す気がないなどで、いきなり電話をしてくる。

また、課題が解決されないまま、電話もせず、サイレントカスタマー化しているのが、カスタマーサポートの現状だ。この状況を大きく変えるためにはウェブサイト全体を捉えて、顧客が実際にどんな困り事を持っているのかを捉えることが必要不可欠だ。

困り事を捉えて、解決手段をしっかりとKARTE RightSupport(β)で届けるということができれば、より自己解決が進むに違いないと日々開発に励んでいる。

KARTE RightSupport(β)自体はKARTEという実績のある基盤を利用して開発されている。顧客のウェブサイトにタグを設置し、設置した瞬間からタグを経由してウェブサイトを閲覧している1人1人の来訪者の行動情報をリアルタイムに計測できる。カスタマーサポートのシーンで言いかえると、どのページからまず流入して、どのぐらい滞在したか、その後どのページを遷移して、離脱した・問い合わせに繋がったか、の一人一人の行動を計測する。

企業のwebサイトには、月何10万、何100万という顧客が来訪しており、これら1人1人を見きるのは実現不可能だ。KARTE RightSupport(β)は、顧客行動をデータとして捉えて、自己解決に繋がるデータ活用を推進していく。

機能の概要としては、ウェブサイト全体から、「どこでどのようなつまずきが発生しているのか」という発生源のページを特定していく。 どんな課題で顧客がつまずいたのかページを深掘りし、つまずきに合わせて先回りのサポートを行う。その際にはサポートウィジェットを活用し、ウェブサイト上にノーコードで、自己解決の手段を提示する。

機能の詳細の説明に入っていく。顧客のつまずきには大きく2つある。1つ目はお客様の問い合わせに繋がりやすい「負」の検知。2つ目はエラーコードを出した瞬間だ。「同じページを上下に激しくスクロールしている。ページ自体を数回見ている」「同じページに1分以上滞在する」などの行動は顧客が何かに迷って情報を探索している状態になる。

こうした行動をつまずきとして捉えたデータが溜まってくると、どのページでどのぐらいつまずきが発生しているのか「ペイン数」としてカウントされ、顧客がどんなことに困っているのかという洞察につながる。

さらに、その手前でどんなページを見ていたのかという「経由お問い合わせ率」を見るとよりお客様の困り事が浮き彫りになり、問題になっているページの優先順位がつきやすくなった。

優先順位が決まると、ページの深掘りをしていく。例えばマイページの中でも、どのカテゴリーで問い合わせが多かったのか、どのFAQが読まれたのかというデータがランキング形式で表示される。それによって、サイトでのお客さまの困り事が明らかになってきたり、KARTE Liveという機能を使えば、サイト上の顧客の操作導線を動画で視聴できる。具体的な顧客操作導線が見えることで直感的につまずきポイントが把握できるようになった

こうしたつまずきに合わせてサポートウィジェットを活用し、困り事に合わせた顧客に対しての投げかけをして、顧客一人一人に合ったFAQが提示され、自己解決が促進された。

また、サポートウィジェット自体も作って終わりではなく、サポートウィジェットごとに作られるレポートを見れば、自己解決のための改善がより行いやすい構造になっている。

<SBI証券のWebサポートが顧客の自己解決を促せた理由>

困り事の自己解決は取引や口座開設の獲得に確実に繋がるので非常に重要だ。現在はスマホで簡単に口座開設できるので、ちょっとしたつまずきでも顧客は簡単に離脱する。デジタルコミュニケーション課では電話以外のカスタマーサポートを全般に取り組んでいる。以前から行っている有人対応のメール業務や有人チャットに加え、現在ではセルフ解決ツールのFAQ、チャットボットも行っている。FAQやチャットボットは作って終わりではなく、本当に役立っているかしっかり検証しないと顧客の自己解決に繋がらない。

ちなみに、セルフ解決ツールのFAQは、SBI証券で回答数が3000件だ。それを社員8名、有人オペレーターが13名程で対応している。FAQとチャットボットは導入して4年目になり、カスタマーサービスセンター内だけで、チャットボット、FAQ、KARTE RightSupport(β)を組み合わせている。

カスタマーセンターは他部署が関わらない独立した部署なので、他部署に頼ることなく、更新が行えるのが利点だ。元々KARTEを活用したのはチャットアイコンを表示させることから始まった。それだけでは自己解決には足りず、積極的に活用するようになり、本社のマーケティング部以上に使用することが増えた。カスタマーサービスは顧客のために使われるものなので、右上がりにFAQの件数が溜まるのは当然だと考えている。

<顧客がすぐに答えを見つけられるポップアップ表示の取り組み>

デジタルコミュニケーション課は困っている顧客を見つけるとポップアップ表示する取り組みを行っている。宣伝のポップアップ表示は画面左下、お客様サポートで表示させるのは右下というように、表示が重ならない配置だ。

ポップアップ表示は顧客離脱を防ぐために非常に重要だ。 困り事が発生してもFAQ、チャットボットを見つける前にほとんどが離脱する。特に証券会社だと、うまく質問できないまま途中離脱し、サイレントカスタマー化する顧客が多くなる。

KARTEを活用して困り事が発生したその場で表示を出すことで、離脱が減少し、FAQの満足率は90%以上になった。どんなにチャットボットやFAQが優秀でも、手間がかかれば即離脱されて、顧客満足率も50%〜60%止まりになる。たとえ答えのページに辿り着くまでに、2回のクリックだったとしても、顧客には面倒な手間となる。

KARTEを活用して、困り事が発生したらその場で該当する答えをポップアップ表示する。そこに該当するQ&Aを並べており、さらにチャットに移行できるようになっている。 困っている顧客もワンクリックで問題が解決でき、SBI証券でも、効果があって当然だと言われている。

困っている顧客を探すためにWeb接客と組み合わせて活用している。例えば、IPOの抽選対象外になった場合、「抽選対象外」という文字を読み取って先回りしてポップアップ表示を出す仕組みなので、対象の顧客のみに表示される。

過去にIPOの抽選に外れた後に、コールセンターへ多くの電話がかかってきたデータの蓄積があり、それが自己解決に反映された。この取り組みで、IPO抽選後の問い合わせを大幅に削減することができた。

同じような仕組みを活用し、エラーメッセージを読み取るとポップアップ表示される仕組みも構築した。注文入力画面でのエラーや数字入力時のエラーなどが発生すると、先回りして表示を出し、自己解決を促す。画面の文字を読み取って、表示を出すところがKARTEのすごいところだ。

例えば顧客のクレジットカードの設定を読み取り、先回りして表示を出す。クレジットカードは締め切りがあるので、特定の期間に申し込みが多くなる。期間を決めて表示を出すと大幅にお問い合わせが減るという取り組みも積極的に行っている。

こういったKARTEを利用した施策は、利用前より約65%のお問い合わせを減らすことができた。

顧客の行動を動画で見ることができるKARTE Liveで分析した結果、顧客のウェブ上での行動の目安が40秒と分かった。40秒間動きが無いときに、あるいは40秒以内で離脱した場合に、ポップアップ表示を行うようにした。

やはり困り事が発生したときに迅速に対応することもポイントになる。証券会社では特定の銘柄に関する問い合わせが非常に増える場合がある。例えば、最近Twitterのように突然上場廃止になるなど、緊急事態が起きた場合は、問い合わせが殺到する。急に増えた問い合わせは、迅速に表示を出すことに最も効果がある。SBI証券のカスタマーサービスセンターは独立して運用しているため、迅速な対応が可能だ。

たとえば、朝から急な問い合わせが増えた場合、素早く情報共有しておく。問い合わせの数が減らないと分かると、作業を開始する。コンプライアンス部門の審査が通ったら、テスト動作で表示確認を行った後、ポップアップの画面表示を開始する。緊急な場合でも1時間以内に表示することを心がけている。

SBI証券ではいろいろな場所にポップアップやチャットアイコンを表示しているので、基本的に常設ではない。チャットアイコンを固定していると、困っているかどうかが分からないからだ。

困った顧客を充分に分析した上で、ポップアップ表示を作るのが重要だ。お問い合わせページ専用で、ポップアップ表示を出すことも積極的に行っている。最も困っている顧客が利用するのが問い合わせページなので、前のページでどこのページにいたのかという情報を見て、出し分け表示を行っている。

<離脱理由が直感的に分かるKARTE Live>

この取り組みで、よくあるお問い合わせのほとんどが顧客で自己解決することができる。 顧客の行動を見て対応するのが1番だ。

サイレントカスタマーは多く、今までは4%しか離脱理由が把握できていなかったが、KARTE Liveを見ることで大幅に改善できた。それまでは顧客が操作している画面を見たことがなく、データでしか把握していなかった。それが実際に目の前で顧客が操作している姿を見ることができるので画期的だ。

個人情報は自動的にマスキングされるので、安心して分析できる。施策の実行も、大幅に策が早くなった。今までは定量分析だけで、本当に困っているかどうかは実はよく分かっていなかったが今ではもう見た方が早いと感じるようになっている。

マウスの動きなどをリアルに見ることで、顧客のイライラ、困り具合が分かるようになった。今思うと、今までは手応えのないまま運用していたと感じる。大量に見る必要はなく、10件か20件ぐらい見れば、もう大体行動が把握できる。また条件を絞り込み、見たい部分だけ見ることもできる。

普段のメンテナンスも大幅に改善し、テストの表示がKARTE Liveで活用できる。1時間以内にポップアップ表示が公開できるようになったのも、録画機能のおかげだ。

2018年からKARTEを活用しているが、最初からうまくいったわけではなく、いっぱいアイデアを出し、失敗もしてきたが、少しずつ改善してきた。改善を楽しみ、とにかく手間をかけて、それを積み重ねることで、「効果があって当たり前」というような施策を打てるようになったと感じている。

まだまだ書類請求の受付など、電話ではないとできない手続きがあるので、KARTEを活用して人手不足を解消していきたい。

またチャットボットやFAQとKARTEを組み合わせることでいろんな可能性が広がっている。今後も他社の情報等を参考にして取り組んでいきたい。

◆講演企業情報
株式会社RightTouch:https://righttouch.co.jp/