「金融機関におけるDXとデザインの組織浸透について」


 

【講演者】
株式会社ゆめみ
取締役          
猪井 慎介 氏
野々山 正章 氏
【講演者】
株式会社ゆめみ
CDO 兼 サービスデザイナー
野々山 正章 氏

会社紹介

株式会社ゆめみは毎月5000万人以上が利用する企業のユーザー向けアプリやWebサービスを、各企業の強みを活かしたスクラッチで提供している。グローバルを含めた大企業の様々なサービスを支援しており、多くの人が利用するスマホにもゆめみが関わったサービスが使われている。また、多くの金融機関ともアプリやWebサービスの開発を行っている。

<金融業界における現状とこれから>

●金融DXの現在地
「金融DX」という用語は様々なメディアで取り上げられ、言葉として定着した。一昔前は社内でも一部の先進的な担当者だけが会社に訴えていたが、現在では金融機関全体で中期経営計画などに盛り込まれるケースも増えた。一方、トップダウンで「DXを推進する」方針は打ち出されてはいるが、現場の社員が「具体的施策として何をするか」という点はまだ各社模索中という印象だ。たとえばDXやIT人材育成に関しても経営計画書に目標を掲げ、具体的に数字を挙げて活動している。ITパスポートを取得して人材の底上げを図っている意図も見える。しかし「ITパスポートを取得した後どうするのか?」「人材育成をどういったプログラムで教育していくのか?」など、悩んでいる企業が多いようだ。システムの開発を自社で内製する事例は少数派で限られているが、ローコードのツールやSaaSなどのパッケージのツールを活用しDX推進を行う事例は各社少しずつ増えている。サイトやアプリを自社で内製化、または自社でコントロールやバンドリングし独自性のあるものにしている企業は少ない。多くの金融機関がベンダーに任せきりで、結果としてデザイン、UXUIの観点が自社に備わっていない。ユーザーから選ばれる存在になるためには、自社の強みを活かしてアプリやWebサービスを構築する必要がある。

●各社の取り組み施策
だがその実現は簡単ではない。「何から始めていいか分からない」という声も多い。そこで紹介したいのが、対談したUPSIDER代表取締役水野 智規 氏の発言だ。水野氏は「『その課題が感情的にどの程度ストレスか』を定量化することが、顧客に寄り添うサービスを作る上で大切です」と言う。一見、「ちょっと我慢すればいいんじゃない?」と思うような要望でも、ユーザーの痛み(ペイン)に真摯に寄り添い、改善するアプローチが重要だ。

また「『その課題を解決するサービスは本当に需要があるのか?』の確証を高めるために、みんなで100社ほどヒアリングに赴きました」とも語った。

自分達に可能性があると思った内容でも、市場やユーザーが都合よく受け入れてくれるとは限らない。自分達の確信に対しても疑いを持ち、ユーザーに徹底的にヒアリングする姿勢が、結果的にユーザーに受け入れられるサービスを作る源泉となる。

●DX推進/デザイン組織浸透の進め方
デザインを活用したアプローチについて金融各社の取り組みを見ていく。内製チームを活用できている銀行ほど、デザイン活用の度合いも高い。デザインを活用している「みんなの銀行」や「SMBC」では内製のチームを活用している。「りそな銀行」「横浜銀行」は外部パートナーを活用しながら、自社でディレクションコントロールし、DXやデザインをコントロールできる人材を募集している。内製チームを活用できる金融機関ほど、アプリのリリース頻度も高い。金融DXにおいて「内製」は重要なポイントだ。

DX推進やデザイン組織浸透についても、「SMBC」は自社で内製デザインチームがあり、垂直立ち上げ型。「りそな銀行」はアプリ開発に限った話で言えば、ベンダーと協力しながら立ち上げを行うベンダー伴走型。「みんなの銀行」はベンダーと垂直立ち上げをしつつ、内製チームに移行していくタイプだった。いろんな状況があるが、一部企業の事例はあるものの、自社の内製チームで0から立ち上げるのはハードルが高い。支援の程度の差はあっても、ある程度は知見のあるパートナーと伴走していくというやり方が現実的な選択肢といえる。パートナー企業の協力を得ながら、任せきりにせず、DX推進やデザイン組織を作っていかなければならない。

●補足・金融DX人材の副業での登用
今後、注目したいのは副業での人材登用だ。これまでも銀行では人材交流が盛んだった。たとえば地銀の職員がメガバンクで一定期間勤務し、開発会社やベンダー企業で働き、戻ってきた時に知見を還元するのが一般的だ。

メルカリ社員が静岡銀行に副業で働いているという事例がある。DXやIT人材の採用は非常に難しい。意欲ある人材を、副業でジョインしてもらい、新たな視点や風を取り入れるやり方は今後も増えていくだろう。

<デザインの組織浸透>

●デザイン経営宣言
デザインの歴史を紐解くと、90年代以前はほぼ意匠設計、つまり「見た目」「格好良さ」と「機能実装」が重視されていた。90年代以降では「ユーザーインターフェース」が叫ばれ、機能の拡充による利便性の向上が求められた。機能拡充が飽和化した2000年代に入ると、複雑化した機能が整理され、より「使いやすさ」を求められるようになった。2010年代では「UX=ユーザーエクスペリエンス」製品体験の良さが重視された。さらに2015年以降は、同じサービスでは理想の体験が似通ってくる。こうした過程を経て、現在では生活体験の良さが問われるサービスデザインが重要視されている。2018年には「『デザイン経営』宣言」が経産省や特許庁から発令され、デザインは顧客体験価値でイノベーションを起こす原動力として期待されている。体験をデザインし、体験価値を提供することがデザインの重要な使命となった。

●デザインが入るとこうよくなる
デザインが入ったら、実際どうよくなるのかを企業側に視点を移して考えてみたい。企業のDX化を進める上で起こる問題の多くが、プロジェクトの軸が定まっていないことだ。デザインリサーチやデザインインターフェイズで提供価値を明らかにすれば、軸をぶらすことなく目標を定め、効率的にタスクを切り出し、チームビルディングできる。問題が発生しても、提供価値を元に考えて解決策を見出すことができる。

●チームでデザインする時代
具体的にデザインを進めていくには組織浸透が重要だ。ストーリーデザインはユーザーだけでなく、社内の意識も変える。開発部門だけでなく、様々な部門と共創することで巻き込み、組織浸透が可能になる、たとえ専門でなくても一緒にやることで、「なぜ重要なのか?」「どんな効果があるのか?」と対話を繰り返さなければならない。

<金融DXで起こりがちな課題とその解決策>

金融DXを進める上で多い問題は、経営方針や戦略と現場の状況に距離があることだ。通常の業務をやりながら、採用難の中、デザイン・DX人材育成を自社だけで行うのは難しい。また新しいツールを導入することも大事な観点ではあるが、それだけでDXの取り組みが全て完了した認識を持つのは大きな間違いだ。ツールの導入がゴールではない。自分達が行う施策が最終的にユーザーへの価値提供に繋がっているのか、どこにゴールを置くのか等を定期的に自社で確認することで、大方針とブレることなくDXを進めることができるだろう。

いざ始める場合、「何から初めていいのかわからない」という声も多い。そういう場合は、デザインの専門家に少し入ってもらい、壁打ちするだけでもかなり変わる。現状を専門家に聞いてもらうだけでも、目標からのズレを確認できる。現在のサービスを、専門デザイナー視点でレビューしてもらうのも有効だ。第三者の視点が入るだけで新たな気づきを得られる。さらにDXの現場で起こりやすいのはDX担当者の孤立だ。理解者を増やすために、社内でデザインセミナーを行い、デザインの重要性を浸透させて、ちょっとずつ社内に味方を増やしていくことをおすすめする。

<ゆめみのサービスの紹介>

最後に金融DXの組織浸透の第一歩として弊社のサービスを紹介させていただく。
プロダクト改善や社内浸透は少数の社内担当者だけではなかなか進まない。「プロダクトデザイン壁打ちサービス」では、弊社のサービスデザイナーが担当者に対して一定期間壁打ち支援を行う。金融DXにおける最初の課題への具体的なアドバイスを提示している。

また、提供しているアプリやWebサービスを自社で客観視して改善点を見出すことは難しい。「UX/UIレビューサービス」は、サービスデザイナーが約2週間、アプリやサービスを使い倒した上で、改善点を見つけ約1ヶ月で詳細なレポートを提出する。弊社のUX/UIデザインの考え方や取り組みを手軽に体験できると好評だ。

横浜銀行では、「残高照会アプリ」におけるコンセプト策定支援を行った。アプリのリニューアルに際して、社内や担当者、ユーザーから多くの改善ポイントが挙げられ、優先順位に迷われていた。ペルソナやカスタマージャーニーなどの手法を駆使して、ユーザーの悩みを洗い出し、体験価値を軸にプロジェクト間で共有して、UIワイヤーフレームの設計し社内合意を得ることができた。

岡三オンライン証券では「UX/UIレビューサービス」を一部活用しながら、ワークショップを行い、リサーチも複合的に支援した。社内的にも課題になっていた株取引ツールを、表層的なUXUIの改善にとどまらず 、ビジネスモデルや組織の体制まで含めた課題を分析し、解決策を提示した。ワークショップでは様々な部署が集まり、ユーザー視点からツールの改善点を発見できた。

三井不動産の場合、担当者に事業アイデアだけはあったものの、ビジネスとして具現化していなかった。ユーザーのペインを探り、どんなサービスにすればいいかデザインした。PoCのアプリを作った後、本格的にiOSアプリ開発まで実施し、現在も継続支援中だ。

これからも世界中の人々の生活の中で使われ続けるサービスを顧客企業と共に創り上げていきたい。多くのユーザーに、長く利用されるデジタルサービスを創るために、日々、技術研磨とUXの追求に挑戦し続けていく。

◆講演企業情報
株式会社ゆめみ:https://yumemi.co.jp/