「デジタルツール活用の『初めの一歩』を、早く・全社員に!RPA×デジタルアダプションによる、体験型教材展開取組み」
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- 特別講演
【講演者】あいおいニッセイ同和損害保険株式会社業務プロセス改革部ソリューション開発グループ グループ長釣田 貴司 氏
- 特別講演
<デジタルツール導入・活用施策の位置付け>
あいおいニッセイ同和損害保険(以下、AD損保)では、中期経営計画で提唱した基本戦略の一つとして「デジタルを活用した最適なソリューションの追求」を掲出。業務プロセス改革部が中心となって、以下の 3 点をリードしている。
・領域横断テーマ・現場第一線での効率化・合理化推進
・社員が日常使いできるような「効率化に資するデジタルツール」の発掘・導入
・導入したデジタルツールを使いこなせる人財の教育
社員全体のリテラシーを底上げするとともに、日常使いできるようなデジタルツールを発掘し、それを使いこなすことで業務効率化を促進するのが狙いだ。
●デジタルツール導入に関する変遷
2016年度から実証実験のためにRPA「UiPath」を部分導入。2017年度まで含めた約2年間を費やしてPoCで環境に適合するのか、有効性を検証した。
2018年度からは抜本的に業務を見直した上で、UiPathを本格的に展開。さらに、RPAが処理したデータの格納先としてMicrosoft社のCRMソリューションである「Dynamics365」を導入。アプリ開発の基盤として環境を整えた。
2020年度には、「やめる・なくす・減らす」の観点で見直しながら全部門で業務を削減。それに伴う2つのデジタルツールを新たに導入。ユーザビリティを向上する施策として、Webシステムの操作ガイドを可能にするデジタルアダプションツール「Techtouch(テックタッチ)」と、ローコードでのアプリ開発ができるようにMicrosoft社の「Power Apps」も備えた。
こうして、次々とソリューションを導入する中で、業務プロセス改革部が主体となって大規模な業務効率化に取り組んできたが、2021年度からは本社だけでなく第一線の営業やサービスの現場でも、日常の身近な反復業務の効率化を図ることを強く推奨。その促進のために、クラウドサービス間の処理を連携して自動化できるMicrosoftの「Power Automate(クラウドフロー)」を導入した。
こうした施策で、これまでに約1,000人の業務削減効果が見込めるまでになった。
●Power Automate(クラウドフロー)活用への期待
Power Automate(クラウドフロー)は、iPaaS型(Integration Platform as a Service)のRPAだ。異なるクラウドサービスの間をつないで処理を連携したり、データを統合したりできる。
このソリューションを選定した理由は、先に導入していた「Dynamics365」や「Power Apps」に付帯したライセンスなので、追加コストをかけずに活用できたことが大きい。
現状、AD損保社員の誰もがPower Automate(クラウドフロー)を利活用できる環境が整っているので、全社員が自発的に利用できるように普及を図りたい。そこで、操作を誘導するデジタルアダプションを使った教材を開発。未だ活用したことがない社員に対して「まず触ってみること」を促している。
<RPAを全社員に普及させるために必要な課題と対応策>
Power Automate(クラウドフロー)導入後、利用者は緩やかに増加し、2022年5月時点では1,093人が業務自動化のフローを作成。しかし、このまま自然に利用者が増えて、1万3,000人の社員全てに浸透するとは考えにくい。全社で自在に活用してもらうには、新たな起爆剤が必要になる。
これまでにも「開発ショートセミナー」「開発メールマガジン」「開発事例集」などの形で、Power Automate(クラウドフロー)の理解を深めるための情報や教材は提供してきた。
例えば「開発ショートセミナー」では、Teamsを活用してひと枠30分程度のオンライン講座を開講。講師とともに実践的に、簡単な業務自動化フローの作成方法を学ぶことができた。しかし、セミナー参加者からは「説明は理解できるが、自分一人でどこまで作成できるか不安」という弱気な声も出ていた。
こうした状況を踏まえて、Power Automate(クラウドフロー)を浸透させるための施策をあらためて検討。「よく分からないことが多いので手を出せない」と及び腰でいる大多数の社員を対象に、「初めの一歩」を踏ませるような教材の必要性に思い至った。
例えば、初めて・新たにC#などの開発言語を習得する場合を考えてみると、その第一歩はいくつかの簡単な実装(いわゆるHello world表示 等)を写経的に記述し、練習を繰り返すことを通じて習熟を計るはずだ。だとすると、Power Automate(クラウドフロー)も同じように、「完全な理論理解や体系的な応用例の把握が先にあり、一切の不安を払拭しきってから活用を開始」というよりも、「いくつか簡易な実装例を短期間でなぞることを繰り返し、小さな完成体験を積み重ねながら習熟を計る」ようなアプローチであってもいいはずだ。これが可能となるような体験型教材の開発に着手。途中離脱させないための方向性としては、「短時間で体験を完結させる」、「迷う余地がないよう、逐次に操作すべき対象へと目線を誘導しながら、何を操作すべきかを具体にディレクションする」ことが可能な仕様を模索した。
●テックタッチを活用した寄り添い型の教材
教材作成にあたって、すでに導入済みであったデジタルアダプションツール「Techtouch(テックタッチ)」に注目。導入当初は、Webシステムの使いにくさを改善するために、操作を誘導する補完的なツールと位置付けていたが、Power Automate(クラウドフロー)の学習教材提供プラットフォームとして活用できることに気付いた。
テックタッチを活用すれば、システムを改修することなく、注目してほしい箇所のハイライト表示や、操作を誘導するナビゲーション情報を同じ画面内に反映できる。
こういった特性を利用してPower Automate(クラウドフロー)の開発画面に、「自動化すると便利なフローの典型例をパターン化した一覧」を、メニューとして表示した。当一覧から作成したいフローのパターンを選ぶと、完成までの操作が逐次にナビゲーションされ、手順を確認しながら自分用のフローを作成できる仕組みだ。
現在、テックタッチの機能を用いたサンプル教材は3種類。誰かにメールを転送するための「メール転送」、問合せがきたらリスト上でステータス管理ができる「ステータス管理アプリ」、アンケート未回答の人に自動的にリマインドメールを送信する「リマインドメール送信アプリ」だ。
いずれのサンプル教材も、複雑な操作は避けて、最小限のステップで完成するように考慮されている。例えば「リマインドメール送信アプリ」ならば、まずメールの送信対象全員分のメールアドレス一覧リストを作成し、条件(アンケートが送られてきているか)に基づいたステータス(回答済み、未回答)を設定。あとはナビゲーションに従って操作していくと、毎朝定時にリスト内のステータスを確認し、未回答の人だけを抽出して確認メールを送信するという業務フローが作れるようになっている。
<教材をリリースした後の変化と今後の展望>
この教材を公開した後の変化として、フロー作成の「新規増加数」をカウントしてみると、教材をリリースするごとにフロー作成を体験する人が増加。2022年度5月の時点では1,093人だったが、5ヶ月後の2022年度10月の時点で2,202人に倍増。伸び率も右肩上がりで、促進効果はあったと考えられる。
今後の展望として、教材のラインナップを充実させるために、開発要望や支援要望が多い業務フローに関して教材化を適宜検討。
教材を通じて利用者はいつでもサポートが受けられることになり、開発支援を担当する業務プロセス改革部のメンバーの負荷軽減につながる。その結果、スキルフルな達人が力を発揮できる案件にアサインできることから、会社としては大きな効果の創出を期待できる。こうした好循環を生むためにも、教材活用の取り組みは今後も継続検討を進めていく。