2023年3月2日(木)開催 MANAGEMENT WEBINAR「製造業界におけるDXがもたらす持続的成長の実現」<アフターレポート>


2023年3月2日(木)セミナーインフォ主催MANAGEMENT WEBINAR 「製造業界におけるDXがもたらす持続的成長の実現」が開催された。製造業界において、不確実性の高い環境下から変化に対応するためには、ダイナミックケイパビリティが重要であり、デジタル化を進めることで強化することが可能である。しかしながら、DX推進の動きが広まっている一方で、様々な要因から、IT活用ができていない企業が多く存在している。本ウェビナーでは、基調講演にてデンソー、特別講演にてサッポロホールディングスに最新事例をご紹介いただいた。

目次

「 サッポログループのDX戦略~全社員DX人財化、2年目の新たな挑戦へ~ 」

特別講演
【講演者】
サッポロホールディングス株式会社
IT統括部DX企画グループリーダー 
兼 サッポロビール株式会社
改革推進部DX推進グループリーダー
安西 政晴 氏

<サッポログループのDX戦略推進の軌跡>

1876年に創業し、数年後には150周年を迎えようとしているサッポロホールディングス。サッポロビールに代表される酒類事業と、ポッカサッポロフード&ビバレッジを中心とする食品・飲食事業などで、独自のブランド体験を創造。「潤いを創造し 豊かさに貢献する」という経営理念に基づき、時間と空間という二つの側面で、地域の活性化や地域社会のウェルビーイングに貢献してきた。

さらなる企業成長を図るために、グループを挙げてDX戦略を展開。2022年9月には、経済産業省が定めるDX認定業者に登録された。ここに至るまでの、サッポログループのDX戦略推進の軌跡を振り返ってみよう。

<DX推進に向けた土台づくり(2018~2020年)

2018年頃からDX推進を意識し始めたものの、当時は属人化したアナログ業務が主流であり、社員全体のITリテラシーも高いとは言えない状況だった。そこでDX化を進める前に、既存の組織や制度を抜本的に見直す「BPR(Business Process Re-engineering)」を敢行。具体的には、次の三段階のステップを踏んでいる。

1. 本社部門で効果を示す
2. 全社的な業務の棚卸・分析
3. 徹底した業務改革

1. 本社部門で効果を示す

第1ステップで重視したのは、業務自動化の実例を示すこと。アナログ業務に慣れた環境では、デジタル化するとどうなるのかを想像しづらい。効果を実感できるように、まずは本社部門が率先して業務自動化に取り組んだ。

改善効果の高そうな給与計算業務にRPAを展開してみると、約5000時間を費やしていた業務時間を300時間に縮小でき、95%カットの効率化を実現。デジタル効果の大きなインパクトを与えることができた。

2. 業務の棚卸・分析

第2ステップは、全社的な業務の棚卸しだ。部課単位での小さな業務改革は進めていたが、全社規模で取り組むという姿勢を示すことが必要だった。そこで、全社員から約2000人をピックアップし、徹底的な業務分析を実行。単独部署での業務改善にとどまらず、バリューチェーンの中で部署をまたいで連携している業務のBPRに取り組むことを示唆した。

業務を正確に分析するために、ターゲット社員の業務内容を細かくヒアリング。年間1700時間の業務時間を分解して、定性業務の工数や処理時間を徹底的に可視化した。

3. 全社的な業務改革

第3ステップでは、それまでのステップを踏まえて、全社的な業務改革に着手。業務の無駄を洗い出しながら、段階的に効率化を図った。

1. 無駄な業務の「廃止」
2. 煩雑な業務を「簡素化」、まとめて実行できる業務は「集約化」、統一ルールを設けて「標準化」
3. 業務の適材適所を考えた「再配置/外部化」
4. 人がしなくていい業務を「自動化」

DX推進に向けた土台づくりとして、3年の時間をかけて業務そのものを整備。その結果、BPR推進の基盤が確立し、本格的なDX化に取り組みやすくなったのだ。

<DX推進への準備とスタート(2021~2022年)>

DX推進をスタートさせるにあたって、外部の知見にも頼りながら、シミュレーションなどを繰り返して将来を予測。外部に委託するよりは内製化を重視するという方向性を改めて確認したうえで、三つの重要ポイントを整備した。

1.サッポログループとしてどこに向かうのか「方針の明確化」
2. DX推進のための組織を確立して「推進体制を強化」
3.継続的にDXを推進していくための「人財を育成」

1. 方針の明確化
サッポログループにおけるDXの方針は「お客様接点を拡大」「既存・新規ビジネスの拡大」「働き方の変革」。あらゆるステークホルダーと共に成長し続け、お客様と企業の価値最大化を目指すという、シンプルながら明確な方針を掲げた。

2. 推進体制の強化
全社を俯瞰できる立場でグループ全体を束ね、戦略的にDXを推進する組織として、経営会議に属する「グループDX・IT委員会」を設置。グループの各事業会社を多角的に支援し、外部パートナーとの協働を拡大・強化することでDX推進力を増している。

3. 人財育成計画
全社員のリテラシー向上を図るとともに、ゆくゆくは各部署にDXを推進するメンバーを配置できるように、DXリーダーの育成を計画。

とはいえ、リーダーのみがDXを意識すればいいわけではないので、「全社員DX人財化」という目標を掲げて、新入社員から経営層まで全社員が参加する教育システム(Eラーニング)を実施。その後は、自ら希望する人が研修に参加する、手上げ制の教育体制を組成した。

●育成プログラムの概要
約1年間をかけて実施した育成プログラムは、最初の2カ月間で、全社員規模(4000人)のEラーニングを展開。その後は、公募により選定した600人にDX・IT推進サポーター研修を3ヶ月実施、さらに研修を深めたい希望者150人には、6ヶ月間のDX・ITリーダー研修を施している。

●人財の育成カテゴリ
サッポログループに必要なDXを実現するための基幹人財として、「DXビジネスデザイナー」「DXテクニカルプランナー(データサイエンティスト/アプリ開発者)」「ITテクニカルプランナー」の育成に注力。

例えば、DXテクニカルプランナーの研修を受けることで、データ解析に精通したスキルを身に付けたデータサイエンティストにも、ノーコードやローコードでのアプリ開発を担う開発者にもなれる。これらの専門スキルを習得することで、DXだけでなく、幅広い業務にスキルを生かしてくれると期待している。

●目指すレベル
この研修の成果としては、一人で仕事が完結できる中級クラスの到達を目標としている。その先の上級クラスへの教育に関しては、今後DX推進を進めていく段階で、新たな改革リーダーやプロフェッショナルへの進化を望む声が上がれば考えていく予定だ。

●リスキング(職業能力の再開発、再教育)効果
人財育成計画をスタートさせた当初は、応募者不足を見込んで追加の募集を考えていたのだが、ふたを開けてみると300人と見込んでいた希望者は、2倍の600人に膨れ上がり、各部署から20~50代までの社員が均等に集まった。2年計画で予定していた人材育成プランが1年間に短縮されるという、うれしい誤算だった。40代と50代の希望者の多さを考えると、育成プログラムがリスキング効果を生んだと考えられる。

<DX実現に向けたストラクチャー(2021~2022年)>

サッポログループのDX推進は、2022年12月時点で、グループ全体で約36万時間、人数にして約100~200人規模の業務効率化達成を見込めるまでになった。3年間の土台作りを経て、2年間にわたるDX推進活動を振り返ると、3点の成果が上げられる。

1.人財育成プログラムの本格化
2. DX人財が活躍できる場所として「イノベーション★ラボ」のテスト運用
3.育成した人財の早期実績の達成

構想の早期実現を目指しているのは、「イノベーション★ラボ」の運用だ。約1年間の育成プログラムを終えてスキルを身に付けたとしても、自分の部署に戻って即座にDX推進活動に取りかかれるわけではない。「イノベーション★ラボ」は、身に付けたスキルをブラッシュアップするために、部署の枠を越えて活躍できる場になると見込んでいる。

本格運用に向けて社内理解を醸成する目的で開催したプレイベント最終日の成果発表会では、それぞれが考える営業課題に対してアイデアを出し合い、モックアップ(サンプルモデル)を構築するまでに至り、自身の成長を実感する社員も多かった。

<サッポログループのDX戦略による新たな挑戦>

2023年度以降のDX戦略としては、2021~2022年に取り組んだ活動を強化。人財育成プログラムとイノベーション★ラボを二本柱として機能させることで、DX推進化の加速させていくのが狙いだ。

DX戦略の実践事例として進めている施策の一つが、データ分析のための基盤の確立だ。クラウド上にデータレイク(未処理のデータを保持するための格納場所)を構築させ、ここを起点にDX施策を走らせていく。すでに物流関連では在庫可視化による効率化が進んでいて、最終的にはDXスマートサプライチェーンの実現を目指している。

さらに、商品開発や需要予測にAIを活用して、属人化しがちな知見をナレッジ化。AIが新商品のレシピを提案することで、工数の削減や新たな商品開発へとつなげている。

DXを推進することは意識や文化の変化をもたらし、新しい仕事のプロセスをつくる可能性を広げていく。サッポログループは、単なるデジタル化に留まらないDXが浸透した組織づくりを目指していく。

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