- 「デジタル融合による変化に強いソフトウェアファーストなモノづくり」
デンソー株式会社 成迫 剛志 氏 / 池田 光邦 氏 - 「サッポログループのDX戦略~全社員DX人財化、2年目の新たな挑戦へ~」
サッポロホールディングス株式会社 兼 サッポロビール株式会社 安西 政晴 氏
「デジタル融合による変化に強いソフトウェアファーストなモノづくり」
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社デンソー
研究開発センター 執行幹部 - クラウドサービス開発部 部長
成迫 剛志 氏
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社デンソー
クラウドサービス部 ビジネスイノベーション室 - 自働化イノベーション課 課長
池田 光邦 氏
<変化にさらされやすい製造業界に向けたデンソーのDX>
自動車部品メーカーとして、自動車に使われるあらゆる部品を製造するデンソーでは、自動車制御の電動化、自動運転、モビリティ社会の実現に向けたコネクティッド(通信機能を利用した各種サービス)など、時代の変化に対応した新たな生産に取り組んできた。
近年は自動車産業内にとどまらず、生産工場内のシステム自動化、農業の自動化などの「非車載事業」も展開。社会全体の生産性向上に貢献しようと努めている。
<製造業に求められる急激な変化>
従来、製造業では平準化した製品を大量生産する製造スタイルが主流だった。製品寿命と生産量をコントロールすることで安定的に製品を供給し、大量生産に持ち込むことで生産性を向上させてきた。
しかし、今の製造現場では常に変化への対応が求められている。新技術の登場、ユーザーの嗜好の変化などに応じて、新たな需要が生み出されるだけでなく、人手不足に対応するための省人化も図らなければならないからだ。
2020年代に入ってからは外的環境による変化も著しい。国際情勢の影響を受けて原材料は高騰し、半導体は入手困難になって久しい。さらに新型コロナウイルス感染症や自然災害などの不慮の出来事によって、操業自粛をせざるを得ない事態も生じている。
これらの急激な変化は一時的なものではなく、今後も永続的に発生していくだろう。自動車業界でも、移動手段の多様化、電動化エネルギーの多様化が始まり、自動運転やコネクティッドなど、新たな需要が次々と生み出されている。
こうした状況下で製造業が継続的に成長を果たしていくには、幾重にも押し寄せる変化の波に対応していかねばならない。生産工程の自動化への対応は必然的な急務なのだ。
<デンソーのLean Automation>
デンソーでは、自社努力により「Lean Automation(引き締まった自動化)」と呼ばれる、効率性の高い製造体制を実現。作業工程の無駄を徹底的に排除した上で、ロボットなどを活用した作業の自動化を図り、合理的に生産性を向上させてきた。
デンソーのLean Automationは工場以外にも展開され、農業の生産性向上などにも役立てられている。農場の生産環境を整備して生産量をコントロールしたり、収穫や搬送、出荷作業での自動化を進めたりすることで、高品質や創造性に注力できる生産環境へと改善を図っている。
しかし、生活の多様化、社会的な変化も著しい中で、製造業には不確定要素が増大している。製品の寿命が短くなり、需要も多様化していることから、これまでのような大量生産を前提とした製造では、対応が難しくなってきているのが現実だ。
<社会的変化への適応>
画一的な製品づくりがしづらい状況だからこそ、今後の製造業は、変化を見越した上でトータルでの生産性向上を図っていくしかない。
これまでの機械的な自動化には、柔軟性が欠けていた。新しい工程を組み足したくなっても、実現するには術を有する専門家に設計からやり直してもらう必要が生じるため、すぐには対応ができない。人間であれば、外的な変動要因に対して臨機応変に対応できるのだから、手間や時間を考えると、人手を増減して生産性を安定させていくことが現実的な最適策だと考えられてきた。
しかし、人手不足や人の目では見えない品質の問題などを鑑みると、これからの時代に求められるのは、人だけに留まらない解決策だ。現場の判断で人の動作を機械が代行させられるような柔軟な自動化、すなわち「自働化」である。
<専門知識不要でスマホのように扱える汎用ロボットセル>
「自働化」は単純な反復作業を機械が代行する自動オートメーションとは違い、人間の判断力(認知して考えて行動に移す力)を自動化に組み込んだ、柔軟性のあるシステムだ。
こうしたニーズに応えて、デンソーでは汎用性のある産業用ロボットシステム(ロボットセル)の開発を進めている。ロボットセルは、人間の体の役割を果たす目(カメラ)、腕(ロボアーム)、頭脳(システム)、足(キャスター)、体(筐体)で構成されていて、製造プロセスに必要な基本機能を備えている。仕事に合わせたツールや作業知識を後から組み込むこと(アドオン・アドイン)でカスタマイズできる仕様だ。
この仕様により、スマートフォンにアプリをインストールするような感覚で、どのようにロボットを働かせたいかを決めることができる。製造ラインに変化が生じても、大がかりな設計変更をしなくても、場主導で工程の差し替えができるようになるわけだ。最終的には、ロボットが自身で判断して、柔軟に仕事をこなす仕組みの構築も進めている。
ロボットセルの活用シーンとして、デジタルとリアルを融合させた使い方の構想も進んでいる。現地に実機を持ち込む前に、バーチャル空間で生産体制をシミュレーションしてからリアルに転写すれば、効率的に準備ができるだけでなく、トラブルにもなりにくい。
ハードありきの考え方をすると、ハードをどのように動かすかを考えてからソフトウェアを構築することになり、設計から試運転、稼働までに長時間かかってしまう。ソフトウェアファーストに発想を転換して、必要に応じてアプリケーションを追加することで、ユーザー主体での自動化の促進が可能になる。
試作のコストを抑えながら製品の仕様や生産量を確定できるので、状況に応じた生産体制を構築することができる。さまざまな外的要因が生じても影響を最小限にして、アジャイルに生産性を維持し続けられるだろう。
<ロボットセルによる生産モデル例>
ロボットセルを活用することで、どのような生産モデルが構築できるか、二つの例を挙げて紹介する。
●生産数量が不確定な場合に有効なジョブショップ型生産モデル
例えば、生産量を一度に確定できないような製品を製造する場合を考えてみよう。
この場合は、個々のロボットセルが、それぞれジョブ工程を受け持ち、リレー形式で作業を進めていくジョブショップ型の生産モデルで自動化に対応できる。
必要な工程をセッティングしたロボットセルを島状に並べ、ロボットセルとロボットセルの間は自動搬送台車で製品を移動。運ばれてきた製品をロボットがリレー形式で加工すればいい。本格的な量産に向かう前の試作段階でも、この生産モデルが役に立つだろう。
●加工順序が異なる多品種の製品の製造に有効なフロー型生産モデル
一方、多品種の製品をまとめて作りたい時には、フロー型生産モデルが有効だ。
コンベア直結して流れ作業がしやすい状態にしたサイドにロボットセルを並べておき、効率的に生産を自動化。一定数量が生産できたら、ロボットセルの編成を変えて別の製品を作れば、製造ラインをロスすることなく作り込むことができる。
汎用ロボットセルは、ソフトウェアによって進化する。すでに、農業などの人手不足が深刻化している業界で注目され、活躍の場を広げて始めている。デンソーは、これからも共創できるパートナーとともに、ソフトウェアファーストなモノづくりを目指していく。