- 洋上風力発電事業の最新動向
(1)洋上風力発電とは?日本で注目される背景
(2)洋上風力発電の最新の事業環境 - プロジェクトファイナンスによる資金調達
(1)プロジェクトファイナンスの特徴と融資の実務
(2)発電事業におけるリスクとその対策 - 洋上風力発電事業に対する融資に特有の留意点
(1)洋上工事の完工リスク
(2)洋上風力発電所の操業・保守リスク
(3)洋上風力発電における自然災害・悪天候のリスク - 最後に
洋上風力発電事業の最新動向
(1)洋上風力発電とは?日本で注目される背景
近年洋上に風車を設置して風力発電を行う洋上風力発電事業が大きな注目を集めている。洋上風力発電は、遠浅の海や良好な風況といった自然環境に恵まれ、海底油田等の洋上産業が存在する欧州で先行して商業化が進められたが、周囲を海に囲まれた日本においても大きな期待が寄せられている。
洋上風力発電は、クリーンな再生可能エネルギーであることに加えて、陸上風力発電や太陽光発電等他の再生可能エネルギー発電に比べて、①洋上は風速が早く風況も安定しており、昼夜を問わずに発電できるなど安定的な発電が期待できる、②陸上に比べて立地制約や騒音・景観等の問題が少ないため大型化・大量導入によるコスト低減が見込めるといった利点がある。
このような洋上風力発電は、2050年カーボンニュートラルという目標に向けた再生可能エネルギーの主力電源化の切り札と位置付けられており、2021年10月22日に策定された第6次エネルギー基本計画においても洋上風力の案件形成加速が謳われ、政府は2030年までに10GW、2040年までに30-45GWという具体的な導入目標を掲げ、海域利用に関する新法の制定や系統・港湾等のインフラ整備等、洋上風力発電の事業環境の整備を急ピッチで進めている。
(2)洋上風力発電の最新の事業環境
洋上風力発電の事業化については、洋上産業の先例の少ない日本では海域利用のルールが未整備である、漁業者等の海域の先行利用者との利害調整の場がない、洋上工事等に必要となる基地港湾等のインフラが存在しない等の解決すべき課題が多数存在したが、順次これらの課題への対応が進められ、足元では洋上風力発電の事業化の準備は整い、さらなる案件拡大に向けた検討が進められている状況にある。
具体的には、①海域利用のルール整備として、2016年には港湾法が改正され、2019年には海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(「再エネ海域利用法」)が施行され、港湾区域と一般海域について「公募占用制度」が導入された。②再エネ海域利用法では、先行利用者との合意形成の場として「協議会」制度も導入されている。また、③洋上工事インフラについては、2020年の港湾法改正により海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭(基地港湾)制度が導入され、政府が基地港湾を指定、整備して発電事業者に長期間貸し付ける制度が開始された。この他、④「日本版セントラル方式」として、事業検討初期段階の各種調査等(風況調査、海底地盤調査、環境アセスメントの初期手続、系統確保等)を政府や政府に準ずる主体が実施することで、迅速・効率的な調査等を可能とし、複数事業者による重複を回避する方策も検討されている。
このような事業環境整備の進展を受けて、港湾区域については2020年2月に秋田港・能代港の2つの港湾における日本で初めての商業ベースでの洋上風力発電事業の事業化と融資契約の締結が公表され、続いて2022年9月には石狩湾新港における洋上風力発電事業に係る融資契約の締結が公表されるなど、着実に案件の事業化が進められている。また、一般海域についても再エネ海域利用法に基づく公募手続が進められ、2021年6月には長崎県五島市沖の海域、2021年12月には秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖及び千葉県銚子市沖の各海域について事業者が選定され、これに続いて現在も多くの海域で洋上風力発電事業の検討が進められている。政府が掲げた導入目標のもと、今後も引き続き港湾海域・一般海域の双方で多数の洋上風力発電の事業化が期待されている。
プロジェクトファイナンスによる資金調達
(1)プロジェクトファイナンスの特徴と融資の実務
洋上風力発電事業は、一般に多額の事業費を要する大型事業となる。また、洋上風力発電事業の実現にあたっては、売電、工事、保守・運営、官公庁との折衝、地元との調整等の多岐にわたるタスクが必要となることから、多数のスポンサー企業がコンソーシアムを形成して事業を実施することが多い。このような特徴を有する洋上風力発電事業では、対象事業を実施するために設立された特別目的会社(「SPC」)がプロジェクトファイナンスにより資金調達を行うことが好まれる。実際に、既に公表されている秋田港・能代港の案件及び石狩湾新港の案件ではいずれもプロジェクトファイナンスによる資金調達が行われている。
プロジェクトファイナンスとは、①特定のプロジェクトを対象とし、②原則として融資の返済原資がプロジェクトが将来生み出すキャッシュフローに限定され、③担保の対象も当該プロジェクトを構成する資産に限定されるファイナンスの手法をいう。
プロジェクトファイナンスにおいては、融資の対象となるプロジェクトをスポンサーから切り出すために、スポンサーが設立するSPCが事業主体・借入主体となり、スポンサーは当該SPCへの出資の限度でリスクを負担し、直接レンダーに融資を返済する責任を負わないことが一般的である(リミテッドリコース/ノンリコースのファイナンス)。また、融資対象のプロジェクトは一般的に長期の事業期間を通じて売電収入等の収益を生み出す事業が多く、これを原資に長期にわたって融資を返済することが想定されているため、不動産融資等のアセットファイナンスとは異なり、資産の処分による融資の回収は困難という特徴を持つ(キャッシュフローファイナンス)。
かかる特徴を踏まえて、レンダーはプロジェクトの継続性を確保し、万が一融資の返済が滞る場合にはプロジェクトへのステップインを可能とするため、原則としてプロジェクトを構成する全ての資産に担保を設定する(全資産担保)。もっとも、上述のとおりあくまでもSPCが計画通りにプロジェクトを完遂し、そこで生み出されたキャッシュフローで融資を返済することが原則となるため、プロジェクト関係者の間で適切にリスクを分担することでSPCに残存するリスクを最少化し、プロジェクト破綻の可能性を可及的に低減することがプロジェクトファイナンスの組成にあたって最大の目的となる(リスクアロケーション)。具体的には、①各種専門家を起用してデューディリジェンスを実施しプロジェクトに係るリスクを洗い出し、②プロジェクト関連契約の交渉や保険の活用、財務・金融手法等の手段を用いて、個別のリスクについて最も対応能力が高い当事者にリスクを引受けてもらうことにより、最も効率的にプロジェクト全体としてのリスクを手当てし、SPCに残存するリスクを最少化することを目指すことになる。このようなリスクアロケーションを通じて金融機関として融資可能な状態となったプロジェクトを「バンカブル」なプロジェクトと呼ぶことがある。
(2)発電事業におけるリスクとその対策
以下では、一般的な発電事業における(1)建設期間のリスク、(2)操業期間のリスク、(3)自然災害リスク、(4)その他のリスクについて、主要なリスク項目とその具体例を示すとともに(表1)、リスクアロケーションの一例を表形式でまとめている(表2)。この表はあくまで一例であるが、個別の案件ごとの事情を踏まえて、スポンサー(及びそのFA)と金融機関を代表するアレンジャーが中心となりリスクの検証とその対策を協議して、バンカブルなプロジェクトに仕立てていくことがプロジェクトファイナンス組成プロセスの中心作業となる。
(1) 建設期間のリスク | |
・完工リスク | 建設工事が予定した工期に完了しない完工遅延のリスク(タイムオーバーラン)や工事費用が予算を超過するリスク(コストオーバーラン)等 |
・性能未達リスク | 建設工事が完了しても工事契約の仕様書で規定した性能(発電効率、稼働率等)を達成できないリスク等 |
(2) 操業期間のリスク | |
・売電リスク | 発電量の低下、買取量の低下、売電価格の低下等による売電収入低下リスク、電気購入者による代金不払リスク等 |
・操業保守リスク | 保守作業の遅滞や操業中の事故による操業停止や補修部品、作業人員の確保困難による操業停止の長期化等のリスク等 |
・性能低下リスク | 発電設備の性能低下や故障のリスク等 |
(3) 自然災害リスク | |
・建設期間 | 建設期間における台風、地震等による出来形損壊のリスクやこれによる完工遅延のリスク等 |
・操業期間 | 操業期間における台風、地震等による発電設備損壊のリスクやこれによる操業停止のリスク等 |
(4) その他のリスク | |
・金利変動リスク/為替リスク | 金利や為替の変動リスク等 |
・インフレリスク | 燃料費、輸送費、人件費等のインフレリスク |
・法令変更リスク | 事業の前提となる法制度の改正リスクや新たな法規制導入によるコスト増加リスク等 |
- 寄稿
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森・濱田松本法律事務所野間 裕亘 氏
弁護士