リスク管理体制の必要性
2020年、突如として、新型コロナウイルス感染症が世界中に広がりました。当初は、中国に限定された事象だと多くの人が認識していたと思いますが、息をつくまもなく、想像を超えたスピードで世界中に伝播し、人々の生活に影響を与えただけでなく、社会・経済のシステムに大きな影響を与えました。日本が抱える社会問題の顕在化や社会システムの変革を10年早めと言え、まさに「まさか」の事象が顕在化したと言えます。
こうした何かしらの感染症を起因とするパンデミックリスクですが、“(1)発生確率が低い”一方で、発生すると経営に与える“(2)インパクトは極めて大きい”ものとなります。インパクトが大きくなる要因は、今次の新型コロナウイルス感染症でも確認されているとおり、ショックの影響が“(3)長期に亘る”点にあります。
これら(1)から(3)の特徴があるため、端的に言えば、“すごく考えることが難しい事象”となります。どうチャレンジするか、「まさか」を想定したリスク管理のアップデートが求められています。
アップデートのためには必要なこと
リスク管理を考える上で忘れてならないのは、 “人は未知な事象への対応が極めて難しい”ということです。これは過去に経験したか否かではなく、事前に想定できたか否かになります。つまり、実際の経験はなくとも、これから体験するかもしれないという前提で、“いろいろと考えることができたか”という、未知を既知に変えられるかが問われています。
ハードシングスと蓋然性を考える
「まさか」の事象は、従前においても、多くのリスク管理担当者の頭の中には存在してきたところです。しかし、平常時において「まさか」の事象を声高に訴えることは、フロント部門から(場合によっては経営陣からも)嫌な顔をされ、“オオカミ少年”的な扱いとなることも少なくありません。そのため、残念ながら、「まさか」の事象であるハードシングスが組織内の議論の主要テーマになることは極めて少なくなります。
ただし、本当に経営の継続性に赤信号が点る状態を想定し、ハードシングスについて、発生確率(蓋然性)と影響度(インパクト)を整理してみると、意外な事実が見えてきます。その意外な事実とは、“ハードシングスとなり得るリスクの芽は身近にある”ということです。特に、レピュテーションリスクは無視できないでしょう。
シナリオの構築
先ずハードシングスを網羅的に列挙し、次に個々の影響度合いについて考えます。この段階では、数値的な精度よりも、違和感のない影響度合い(発生確率と経済的損失の額に基づく期待損失の額)の順位付け(レーティング)が出来ればよしとします。
更に、次のステップとして、自社にとって都合の悪い(見たくない)観点で、ハードシングスを考えます。例えば、期待損失の額は中程度であるが、自社の弱点を巧妙に突いており、中長期的に業績の伸びを抑制する可能性が高い、といった観点になります。たま、忌憚なくハードシングスについて議論されているか、ステークホルダーにきちんと説明できるのか、といった議論の透明性も重要になります。
スプレッドシートを利用したインパクト計測
インパクト計測では、リスク事象に対する先行研究、アカデミックな理論、統計的な正しさ等の蓋然性が重要になりますが、“第三者に説明できるか”といった客観性も重要になります。端的に言えば、精緻な経済モデルで計算しても、それを理解できる人がいなければ意味はない、ということになります。また、精緻な経済モデルには、モデルリスクが伴います。このリスクをどうコントロールするか、どう整理するかが重要になります。
アクションプランの構築
ストレスシナリオとインパクト計測の結果を踏まえて、レーティングした時点との比較で仮説検証を行います。そして、今からリスク削減に向けて出来ること、やるべきことを整理していきます。こうした一連の作業を通して、未知な事象を既知に変えていくこととなります。
なお、捕捉しきれないリスク事象をどうするか、つまり、網羅性を担保できない場合はどうするか、については、別途頭の整理が必要になりますが、一連の作業と含めて、詳細はセミナーにご参加ください。
- 寄稿
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リスク計測テクノロジーズ株式会社岡崎 貫治 氏
代表取締役