- オープンイノベーションとは
- IoT時代のオープンイノベーション
- オープンイノベーションの仲間作りと社会への働きかけ
- オープンイノベーションのための企業風土作り
- オープンイノベーションに向けた政府・行政・金融機関への期待
- まとめ
オープンイノベーションとは
オープンイノベーションとは
オープンイノベーションとは、社外の技術力やアイディア、サービスなどを幅広く活用し、新たな価値を生み出すイノベーションの方法論である。ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ博士が提唱した。
自社にない技術を調達する、安いところに開発させる、といった従来のアウトソースとは異なり、より広く、よりオープンに協力者を集め、イノベーションを起こすことを目的とする。
オープンイノベーション
オープンイノベーション(open innovation)とは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家などが持つ技術やアイデア、サービスなどを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや革新的な研究成果、製品開発、サービス開発につなげるイノベーションの方法論である。
ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ助教授によって提唱された概念で、イノベーションをおこすため、企業は社内資源のみに頼るのではなく、大学や他企業との連携を積極的に活用することが有効であると主張する。
– Wikipedia
オープンイノベーション
オープンイノベーションのメリット
自社の技術やリソースにこだわって、新たなサービスや価値を生み出そうとする従来の方法に対し、外部から幅広く技術やアイディアを取り入れるオープンイノベーションは、素早く効率的に価値を創造していくことができる。
IoTが産業分野を超えた変革を引き起こしていく時代において、単独一社による開発では技術的にも速度的にも限界があり、複数社が連携したオープンイノベーションが大前提となる。その際に問われるのは、これまでとは異なるイノベーションマネジメントだと言える。
IoT時代のオープンイノベーション
前編で説明したように、IoTは既存の産業バリューチェーンや部門の枠を超えて、「スケールの拡大と知の進化による社会の最適化」を実現する。このような産業変局の時代においては特定一社ではなく複数社による連携が有効であり、改めてオープンイノベーションの重要性が高まっている。
しかしながら、IoT時代におけるオープンイノベーションは、従来のオープンイノベーションとは質的に異なる。以下では、その新たな姿について、外なる変革と内なる変革の両面から考えてみたい。
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オープンイノベーションの仲間作りと社会への働きかけ
「技術調達」から「社会変革の仲間作り」へ
オープンイノベーションは日本でも徐々に定着してきているが、日系企業においてはともすると「自社では開発できない技術を調達する」「自社で開発するよりも安いところに開発させる」といった効率論に終始しがちだ。
IoT時代のオープンイノベーションはこれまでとどう異なるのか。ここでは先進的な海外企業における「新たなオープンイノベーション」について紹介したい。
自社の将来像の外部発信を通じた社会啓蒙型のオープンイノベーション
Siemensは都市におけるIoT活用であるスマートシティ構想を推進したり、工場におけるIoT活用であるIndustrie4.0を推進したりと、IoTに先進的に取組んできた。
同社を象徴する代表的なオープンイノベーション施策は2000年頃より継続的に取組んでいる「Pictures of the Future」である。これは、同社が思い描く将来像を毎年外部に発信する取組みである。
通常、将来像は中期経営計画などの一環として社内に閉じて活用する企業が多いが、SiemensのPictures of the Futureは積極的に外部公開することで社会を啓蒙し、社会実証のパートナーとしての共同開発パートナーの呼び込みを狙っている。
なお、類似の取組みはDeutsche Bahn(ドイツ鉄道)も実施しており、こちらも自社が描く交通の将来像を発信し、社会の啓蒙を進めている。
社会のあり方そのものが変わるIoT時代においては、日系企業も自社が思い描く世界観を積極的に発信し、世の中を動かしていく/誘導していくことが重要となる。
開発環境などを公開して仲間を作るエコシステム型のオープンイノベーション
GEはIndustrial Internet構想を掲げ、自社のビジネスモデル革新を進めてきた。当初は分野ごとに特定企業との密なパートナリングが中心であったが、近年はIoTのソフトウェアプラットフォームである「Predix」を構築し、それをハブとしたよりオープンなエコシステムを構築しようとしている。
具体的には第3者のアプリケーション開発者がPredix上でアプリ開発ができるように開発環境を提供したり、従来はGE製の機器しか接続できなかったところをGE以外の機器も接続できるようにしたりと、Predixをハブとして、その上下との関係の大幅なオープン化を進めている。
日系企業は自社の馴染み先との協業を優先しがちであるが、構成要素が多岐に渡るIoTに取り組む上では、より広い、よりオープンな協業へと軸足を移していくことが重要となる。
ロビーイングなどを通じて既存制度を変革する制度突破型のオープンイノベーション
配車サービスベンチャーのUberは既存の交通インフラ(特にタクシー業界のあり方など)を大きく変えようとしており、それが故に、関連業界団体や規制当局などと世界各地で軋轢を生じている。しかしながら、それでも着実にユーザを掴み、その事業範囲を急速に拡大させることに成功している。
その原動力のひとつは既存の規制・制度の突破力であり、同社は各地において社会制度に対して積極的な働きかけ(制度提案など)を進めてきた。実際に同社内では法務部門と公共政策部門が分かれており、公共政策部門はロビーイングのプロ集団となっている。
日系企業は既存の制度の枠の中で物事を考えがちだが、既存の産業構造が大きく変わるIoTの時代においては、制度そのものに対しても働きかけていくことが重要となる。
オープンイノベーションのための企業風土作り
「これまでの成功の罠」からの脱却
IoT時代におけるオープンイノベーションを推進する上では、企業の内部における革新も重要であり、従来の事業開発における成功体験とは異なる事業開発への転換が必要となるケースが多い。
特に日系企業における事業開発は「部門単位」「硬直的」であり、組織プロセスや企業風土を見直しながら、これらの改革を進めることが必要だ。
部門の壁から脱却するためのミドルアップ&ダウンな組織プロセスの導入
IoTの推進にあたっては、部門の壁と産業の壁を乗り越えることが必要となる。特に社内における部門の壁を乗り越えるためには、欧米のようにトップの大号令で全社改革を一気に推し進めるアプローチも理屈上はありえるだろうが、日系企業ではそのようなアプローチは難しい。
現場単位でのIoT導入ユースケースを有機的に紡ぐことで、その範囲を全社へと広げていくようなミドルアップ&ダウンのアプローチを志向することが、日系企業の風土との親和性が高いのではないか。
仮説検証を柔軟に進めるためのアジャイルな企業風土への転換
IoTの価値は「スケールの拡大と知の進化による社会の最適化」であり、小さく始めて徐々に大きく拡大・発展させていくアプローチが望ましい。その際、実際のデータ取得・分析結果を踏まえて継続的にシステムを改善することが重要だ。
一方で、日系企業は当初計画通りに物事を推進するウォーターフォール型の開発スタイルを取りがちである。
例えば、GEがIoT展開にあたってFastWorksと呼ばれるアジャイルなマネジメントスタイルを導入したように、日系企業としても事業開発のスタイルそのものを導入し、その企業風土を意図的に転換することが必要だろう。
オープンイノベーションに向けた政府・行政・金融機関への期待
IoTに取り組む企業においては外なる変革と内なる変革を両輪として進めていくのに対して、事業会社を取り巻く政府・行政機関や金融機関はどのように支援すべきなのだろうか。
代表的な期待役割としては、実証の推進と成果の発信に向けた「テストベッド兼ショールームの整備」と、実証・事業開発に向けたパートナリングなどの「実証推進のための連携の促進」が挙げられる。
前述したようにIoTは社会インフラや産業のあり方そのものを変える可能性を秘めており、実際の場にてトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、そのデザインを進めていくことが必要であり、仮説検証のテストベッドと成果を示すショールームの重要性は高い。
また、新たなオープンイノベーションとして紹介したように、日系企業には今まで以上の外部連携が問われることになり、第3者機関としてその支援をすることの意義は大きい。
言い換えれば、IoT時代における政府・行政・金融機関は、新しい社会づくりに向けた実証/連携の担い手である。IoT時代を創る「産業のコーディネータ」としての自負を持って、日本におけるIoTエコシステムの創出を進めていくことを期待したい。
まとめ
物理的なモノの世界とインターネットを結びつける、SFのような時代がやってきた。IoTは21世紀を変える力を秘めている一方、オープンイノベーションの下地ができていない日本は、大きなハンデを負っていると言える。21世紀も「物作りの日本」として高い競争力を誇れるかの瀬戸際で、多くの企業がオープンイノベーションに舵を切れるかは重要なポイントとなるだろう。
企業はもちろん、政府や行政、金融機関も一体となって、オープンイノベーションへの議論を深めていくことに期待したい。
- 寄稿
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アーサー・D・リトル・ジャパン株式会社三ツ谷 翔太 氏
プリンシパル