1. HOME
  2. 事業戦略
  3. サプライズを消化し、英国市場はおおむね回復傾向ダウンサイドリスクの極端な高まりは限定的か

サプライズを消化し、英国市場はおおむね回復傾向ダウンサイドリスクの極端な高まりは限定的か

EU離脱により、英国の経済・政治リスクが高まったことを受けて、金融市場において各資産クラスがどのような影響を受けたか、英国と欧州(ユーロ圏)の主要指数とで比較して推察する。

サプライズを消化し、英国市場はおおむね回復傾向ダウンサイドリスクの極端な高まりは限定的か
  1. 国民投票直後の混乱は鎮静化、英国社債は信用力が改善
  2. 今後の通商協議の進展とマクロ経済への影響を注視

国民投票直後の混乱は鎮静化、英国社債は信用力が改善

英国は正式にEU(欧州連合)から離脱した。2016年6月23日の国民投票に始まり、EUへの2度にわたる離脱日の延期要請を経て、最終的に2020年1月31日まで離脱を延期した経緯がある。EU離脱により、英国の経済・政治リスクが高まったことを受けて、金融市場において各資産クラスがどのような影響を受けたか、英国と欧州(ユーロ圏)の主要指数とで比較して推察してみたい。

はじめに、(1)想定外の結果となった2016年6月23日の英国の国民投票日から過大なショックがある程度鎮静化したと思われる同7月末までの期間と、(2)2016年7月末を起点とした2020年1月末までの期間について、それぞれ主要な資産のリターンを比較してみる。

(1)の短期間においては、①株式:英国株式は約6%上昇、ユーロ圏株式は約1%下落し、英国が上回った。②債券:国債の利回りは、英国10年物は1.4%から0.7%まで低下(価格は上昇)し、ドイツ10年物は0.1%からマイナス0.1%まで低下した。投資適格社債については、信用力を表わすスプレッド(国債との利回り差)の動きを見ると、英国が1.2%から1.5%と約0.3%ポイント拡大(信用力は低下)し、欧州全体では1.4%から1.2%と約0.2%ポイント縮小した。③オルタナティブ:代表的な資産であるREITのリターンは、英国が約8%下落したのに対し、ユーロ圏は約6%の上昇となった。④為替:対円で主要通貨のリターンを見ると、英ポンドは約15%下落し、ユーロは約6%下落、米ドルは約4%の下落となった。

また、(2)の期間では、①株式:英国株式は約24%上昇、ユーロ圏株式は約36%上昇とユーロ圏が大きく上回った。②債券:国債の利回りは、英国10年物は0.7%から0.5%と若干低下し、ドイツ10年物はマイナス0.1%からマイナス0.4%まで低下した。投資適格社債のスプレッドは、英国が1.5%から1.2%と0.3%ポイント縮小、欧州全体では1.2%から1.0%と約0.2%ポイント縮小し、英国の社債は国民投票後よりも信用力は改善した動きとなった。③オルタナティブ:REITは、英国が約25%上昇、ユーロ圏も約25%の上昇となった。④為替:対円で、英ポンドは約6%、ユーロは約5%、米ドルは約6%それぞれ上昇し、英ポンドがユーロの上昇を上回った。

今後の通商協議の進展とマクロ経済への影響を注視

前述のように、(1)の期間では、国民投票でEU離脱が選択されたことがサプライズとなり、英国の金融市場はリスクオフモードで一時パニック的な反応となった。特にREIT市場については国内要因が大きく、英国REITは大幅に下落した。株式については、むしろユーロ圏が下落しており、これは英国のEU離脱により、他のEU諸国も離脱に動くとの懸念からEUに対する先行きの不透明感が影響したとも考えられる。さらに、こうした動きはグローバルに伝播しており、短期的に見ればEU離脱という結果によって、英国のエクスポージャーだけではなく、グローバルにも投資家のポートフォリオにインパクトを与えたと言えるのではないか。

ある程度パニック的な動きが落ち着き始めたと思われる(2)の期間では、英国の金融市場はおおむね回復傾向となっている。例えば英国REIT市場については、国民投票後には英国機関投資家による投資が急激に落ち込んだものの、その後は回復し、投資拡大に転じるなど、特に英国商業用不動産の需要は安定傾向となった。一方、株式市場ではユーロ圏のリターンが英国を大きく上回っており、英国企業に対する市場の評価を表わしている一面もあると思われる。

もっとも、英国の国民投票から3年半以上が経過しており、金融市場では2017年以降本格化した米国と中国の貿易紛争や、イタリアなど欧州の政治不安、中東情勢、主要中央銀行の金融政策といった材料に対する反応も大きいと考えられる。また、EU離脱の具体的な交渉はこれからであり、市場はEU離脱問題について消化しきれていないため、現時点までの金融市場や投資家のポートフォリオへの影響について、EU離脱問題だけを切り出してその影響を推測するのは非常に難しい面がある。

今後、英国とEUは具体的な通商協議に入ることになるが、英国が貿易ショックを受けた場合、マクロ経済へのインパクトに注目が集まると見られる。とは言え、世界経済全体では、新興国がけん引する形で2020年も3%前半程度の経済成長が見込まれており、加えて主要国の緩和的な金融政策が継続されると考えられることから、地政学リスクは燻るものの、金融市場におけるダウンサイドリスクが極端に高まる可能性は限定的であろう。

寄稿
ドイチェ・アセット・マネジメント
運用部長
加藤 善将 氏
保険会社および銀行を経て2007年より現職。
債券を中心に豊富な運用経験を有する。
事業戦略カテゴリのオススメの記事
コグニザントジャパン 村上申次新社長に聞く顧客の事業を起点とするDX推進~強みは〝マルチナショナル人材〟

コグニザントジャパンでは1月4日付で村上申次氏が新社長に就任した。今後はIT業界で30年以上にわたりマネージドサービス、モバイル通信、事業開発、市場参入戦略を統括してきた経験を生かし、コグニザントが世界の中でも成長市場と位置付ける日本での事業をけん引していく。日本の保険会社に対しては、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)とカスタマーエクスペリエンス(CX)に注力し、同社ならではの「顧客の事業を起点としたデジタル改革」を推進していく方針だという。同氏に就任の所感や今後の計画について聞いた。

バイデン政権誕生で注目される気候変動リスクの開示とSEC委員長にゲンスラー氏を指名

本稿では、バイデン政権誕生により注目されている、企業に対する非財務情報の開示の中でも、特に気候変動リスクに関する情報開示について、証券取引委員会(SEC)のトップに指名されたゲイリー・ゲンスラー氏がどのように考えているかを中心に考察する。

ポストコロナ社会における東京国際金融都市構想の展望

東京都が2017年11月にとりまとめた「国際金融都市・東京」構想を契機に2019年4月に発足され一般社団法人東京国際金融機構(通称FinCity.Tokyo)。本稿では、法人設立準備段階から参画したFinCity.Tokyoのシニアマネジャーの濱川氏がこれまでの取り組みと今後の展望について解説する。

「地銀再編」の先にあるビジネスモデル再構築

独禁法の特例、日銀の支援制度、政府から補助金支給、という3つの施策から地方銀行の再編は不可避な状況下にある。本稿では、地方銀行再編の行く末を考えるとともに、地方銀行が生き残るための戦略について考察する。

【 寄稿 】
ドイチェ・アセット・マネジメント
運用部長

加藤 善将 氏

The Finance をフォローする
注目のセミナー すべて表示する