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新たな視点からのアプローチ戦略「ヒューマン・セントリック・ストラテジー」

本連載の第1回目では、市場環境の大きな変化と高まる顧客価値の重要性、そして新事業と新たな顧客体験の創出(SCALE the NEW)がこれからの時代になぜ不可欠となるのかについて話してきた。今回は、消費者のニーズ・心理の理解に軸を据えて新たなビジネスをデザインしていくための戦略“ヒューマン・セントリック・ストラテジー”(Human Centric Strategy)について解説していく。

新たな視点からのアプローチ戦略「ヒューマン・セントリック・ストラテジー」
  1. 顧客視点に基づいたアプローチとは
  2. Design Pivotと経営者視点の重要性
  3. N26の事例~市場視点と顧客視点の同時活用
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

顧客視点に基づいたアプローチとは

ヒューマン・セントリック・ストラテジーの中核を為すのは顧客視点のアプローチで、顧客の価値観に着目し、それを実現する為の新しい顧客体験を主眼におくことで、今は存在しない、新たな市場を創造することで成長や企業価値の向上につなげることを目的としている。ここでいう顧客視点とは具体的に何を意味するのだろうか?例えば市場の定義の仕方という面で見ると、これまで主流であった市場視点は自社または他社が既に商品・サービスを提供している領域を市場と呼び、その市場を細分化することで今後狙うべき市場を決めるという考え方である。一方、顧客視点では、潜在的な顧客ニーズがあり企業として価値を提供したいと考える領域を市場と呼び、自らその市場を創造するというアプローチを取る。

収益源特定の仕方という点でも2つの視点は異なる。従来の市場視点では、今どこに資金が流れているかに基づいて将来的な資金の流れを論理的に予測・試算し、プロフィットプールの規模を算定するが、顧客視点では新市場で顧客価値・ニーズが大きな領域を特定し、そこでビジネスを創出できれば自ずとプロフィットプールになるだろうという考え方を用いる。

また戦い方のルールという点でも両者は大きく異なる。市場視点では、自社がすでに持つ競争力の源泉を意識し、それを強化していくことが競合企業との差別化要因になるという考えで勝ち方を決めていく。一方、顧客視点は新たに提供したい価値が顧客に受け入れられるかどうかを最も重視し、顧客の心理をより早く・深く捉えることで勝ちパターンに育てるというアプローチを取る。これからの時代は、ロジカルにビジネスを考える市場視点に加え、顧客目線でビジネスが本当に魅力的かどうかを徹底して考えることが求められるだろう。

Design Pivotと経営者視点の重要性

これからの時代に向けて新たにビジネスをデザインしていく際の考え方としてもう1つ重要となる要素がある。それは、様々なステークホルダーが関わる市場視点を三人称、顧客ニーズを中心に考える顧客視点を二人称とすれば、一人称にあたる視点つまり経営者視点である。

今は大企業となっている企業の多くも、元をたどれば様々な想いを持つ1人の経営者によって生まれている。その意味でも経営者視点という考え方は決して目新しいものではない。しかし顧客視点で潜在価値・ニーズを捉え直すというアプローチの重要性が高まり、既存の枠組みを超えた様々な知見やビジネスアイデアが生まれつつある現在、新規事業の立ち上げにまつわる選択肢は急速に多様化している。その中でどのような事業にどうやってアプローチをするのかを明確化するのは決して容易でない。そこで重要となるのが、どのような世界観を作りたいのか、どのようなビジョンを実現させたいのかという経営者としての視点である。

例えばGoogleが2006年にYouTubeの買収を検討した際には、関係者や市場の大きな反対に直面した。しかし同社の経営陣は取締役会議を1度開いた後、約10日で買収を決定した。この際に重要な役割を果たしたのが、“世界中の情報を整理し、全ての人が全ての情報へすぐアクセスできる世界を作る”という同社のビジョンである。この世界観を実現するための要素としてYouTubeの提供するサービスが必要だという強い信念に基づいて買収を決行し、結果的には非常に大きな成功を収めている。顧客視点が将来の可能性を示唆するものだとすれば、経営者視点は可能性を秘めた潜在ニーズの中でどこを新商品・サービスとして育てていくのか、顧客の期待を超えるような魅力ある市場をどこで実現するのかを見極めるために不可欠な要因なのである。

ここで留意すべきなのは、市場視点と顧客視点、経営者視点に優劣はなく、どれも新たなビジネスを創造する際に必要な考え方であるという点である。どのような未来を創造していくのかという想いで共感を集める経営者視点と、顧客ニーズに焦点を当てて戦略を立てる顧客視点、各ステークホルダーからの客観性を意識して事業評価等を行う市場視点。これからの時代には、3つの視点をバランスよく組み合わせ(Design Pivot)、ビジネスをデザインし、新たな世界観で事業を創出するとともに、作られたビジネスの価値を的確に検証していくことが求められるだろう。

現在のビジネスの世界で顧客や取引先に自社を紹介する際には、業界・売上高・市場シェア、あるいは商品・サービスの種類やその流通チャネルといった枠組みで語ることが多いはずである。しかしこれからの新たな世界では、大きな発想の転換が求められる。従来の思考的枠組みを超え、何をビジョンとして掲げ、何を実現しようとしているのか、顧客にどのような体験を提供したいのか、そしてどこに魅力があるのかといった文脈で自社ビジネスの世界観を積極的に発信し、顧客・ステークホルダーの共感を得ることが今後はますます重要となってくる。そして経営者に限らず、より多くの従業員がそのビジョンを共有することが魅力的な市場の創出や企業価値の向上につながっていくのである。

N26の事例~市場視点と顧客視点の同時活用

上記でお話ししたとおり、市場視点と顧客視点はいずれも現代の市場で成功を収めるために必要不可欠なものである。ドイツのネットバンク N26 は両者をバランスよく組み合わせたビジネスデザインという意味で非常に参考になる事例である。2013年に創業した同行は6年目にあたる昨年時点でユーザー数230万人、預かり資産1,250億円を超え、現在テンセントやアリアンツといった大手企業から出資を受けながら急成長を遂げている(※)。

N26: https://n26.com/en-eu

その大きな特徴となっているのは、市場視点・顧客視点の双方を効果的に活用したビジネスを実践している点である。例えば同行はネットバンクを立ち上げるにあたり、市場視点で現在の銀行サービスの不便な点を徹底的に潰し込むことで機能を洗練化。様々な外部企業との提携をつうじて商品・サービスポートフォリオの強化に取り組んだ。レガシー店舗や既存システムに縛られないという新規プレーヤーの強みを活かし、身軽にサービスを提供するというのがベースにある考え方である。

一方で、同行が優れているのは、顧客視点も積極的に取り入れている点である。銀行が持つ既存のイメージに縛られることなく、SpotifyやWhatsAppと同じような感覚で生活シーンのニーズに応えるとともに、プレミアムカードの発行などをつうじて消費者の情緒に訴えるブランディングを徹底している。またアプリ連携による効果的な家計管理を可能にし、全てのサービスを顧客のモバイル機器上で完結できる銀行という世界観を忠実に実現している。企業としてのビジョンを市場視点・顧客視点の両方で徹底的に磨き上げ、新たなビジネスのデザインと顧客体験の創造につなげた非常に興味深い事例といえるだろう。

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