変革へのロードマップ(1)オペレーティングモデル・シフト

変革へのロードマップ(1)オペレーティングモデル・シフト

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本連載の第1回では、デジタルトランスフォーメーション(DX)をつうじたディスラプションの現状を検証するとともに、次なるステージの取り組みが求められる背景について解説した。第2回となる今回は、その具体的アプローチと組織・人材戦略、特に第1の領域となるオペレーティングモデル・シフトについて解説していく。

  1. 次世代のデジタルビジネスに不可欠な3つの「シフト」
  2. オペレーティングモデル・シフト
  3. リーダータイプに応じた組織変革
  4. 人材モデルの変化~海外取り組み事例の考察~
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

次世代のデジタルビジネスに不可欠な3つの「シフト」

国内金融機関はデジタルビジネスを次なるステージへ移行させる局面にさしかかっており、新たな人材育成・組織運用モデルの推進を求められている。すでに多くの金融機関は取り組みをはじめており、私たちも特にデジタル人材の強化という分野で支援をさせていただく機会が増えている。しかし様々な事例を見ると、取り組みが必要以上に人材面へフォーカスされ、望むような成果が上がらないケースも少なくない。こうした事態を避けるために重要となるのは、人材育成と組織変革を包括的に捉え、『オペレーティングモデル・シフト』・『リソース・シフト』・『ワーク・シフト』という3つの領域で構成される変革のロードマップに沿って進めるというアプローチである(下図参照)。

オペレーティングモデル・シフト

推進上の論点

  • 新たな人材・ビジネスを育む組織とは?
  • 限られた人材を活用する組織とは?
  • 求められる成果に応じた組織の変化とは?

デジタル人材の育成や配置、リソース・シフトの検討に先んじてまず取り組むべきは組織の最適化、つまりオペレーティングモデルのシフトである(下図参照)。3つのフェーズの初期段階である黎明期に重要となるポイントは、デジタルを専門とする子会社・組織を立ち上げ、親会社の事業部門がほぼ関与しない一社二制度という形で取り組みを進めることである。こうしたアプローチを活用すれば、既存事業部門・IT部門の慣習や人事、システムに依存しない形で新たな案件を推進でき、外部パートナーとの連携をつうじた先進事例や知見、優れた組織文化の取り込みも可能となるだろう。

下の図を見て展開期のモデルである③Shared Servicesや④Decentralizedを初期段階から導入すべきと考える方もいらっしゃるかもしれないが、それはあまりお勧めできない。既存組織・事業がもたらす制約の中で取り組みを行うと、デジタル組織で本来推進すべき創造的イノベーションが起こりにくくなるからである。またこの段階では、デジタル人材の絶対数が不足するため、事業部門がこれら2つのモデルを有効活用することは極めて困難である。これらのことを考えても、黎明期にある企業では別組織としてDXに取り組むというアプローチが最適だろう。

次の検証期で重要なポイントとなるのは、別組織で創出されたイノベーションを新組織として立ち上げたCoE(Center of Excellence)に移管することである。黎明期のモデルには大胆なイノベーション創出が可能というメリットがあるものの、別組織が実験的な位置づけとなってしまい、本来の目的である親組織・事業部門でのデジタル活用が期待ほど進まないという事態に陥りかねない。黎明期に創出された人材・知見を現場で活かすための“つなぎ役”という位置づけでCoEを展開し、事業部門との連携強化や企画から遂行までを含めたイノベーションのサポート役という役割を担わせることができれば、その後の展開期への移行がスムーズになるだろう。

リーダータイプに応じた組織変革

ここで一点留意すべきポイントは、上述の組織モデルがあくまでも典型例であり、あらゆる金融機関が同じ手順を踏めるわけではないということである。それぞれに適したシナリオを考える上で重要な鍵となるのは、自社にいる人材・リーダーのタイプである。そして、この点を考慮する際にはリーダーの資質・リーダーのデジタル確信度・既存IT要員の充足度という3つの軸が基準となるだろう。

例えば、主軸を担うリーダーが強い主体性とデジタルに対する確信を持っている場合には、①のような一社二制度モデルを取り入れ、既存組織を壊すような創業・イノベーションをミッションとして与えるというアプローチが有効である。中心的リーダーが既存組織でもリーダーとなりえる資質を持ち、周囲のステークホルダーを巻き込みながらプロジェクトを推進できる能力を持つ場合は、最初の段階から②のCoEモデルを採用し、全社一斉にデジタル化を進めるという手法も可能である。また、そもそも既存IT要員が不足している場合は、③のシェアード・サービスという形をとりながら、IT主導でデジタル化と既存ITインフラの効率化を図り、デジタルへのシフトを進めるという考え方も有効だろう。

このように、オペレーティングモデル・シフトを推進する際には、上に紹介した組織モデル・移行ステージどおりに取り組みを進めるのではなく、自社が置かれた環境やリーダー人材の資質などを見極めながら変革への道筋を柔軟に考える必要がある。次回は、デジタルビジネス加速に向けたロードマップの第2・3段階であるリソース・シフトとワーク・シフトについて解説していく。

人材モデルの変化~海外取り組み事例の考察~

近年海外の金融機関では、DXをつうじて新たなビジネスモデルを生み出す(デジタルアジェンダの推進)というフェーズから、これまでにない人材モデルの創出(デジタル人材の育成・獲得)というフェーズへの移行が進んでいる。ここでは特に注目に値する3つの事例を紹介する。

これまで金融業界では、IT分野のデジタル人材についてはコスト効率を重視し、アウトソースを選択するというアプローチが主流だった。しかし近年、この領域でも人材の内製化に取り組むケースが増加している。例えばシンガポールのDBS銀行は、内製人材・外部人材の15:85という比率を今後10年で逆転させるという戦略を掲げている。バックオフィスなどの領域については従来通りコスト効率を追求し、デジタルカスタマー、つまり不確実な要因への柔軟な対応が必要な領域については社内人材を育成するという同行のモデルは、多くの金融機関に採用されるようになっている。

一方、スペインのBBVA(ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行)が取るのは、外部人材を活用しながら育成を進め、最終的には内製化を目指すというアプローチである。同社はテクノロジーアカデミーの設立をつうじ、従業員に最先端技術の継続的学習機会を提供。それと同時に、(コスト削減の手段ではなく)ビジネスを創り上げる対等のパートナーとして外部企業と提携し、育成を目的とした人材交換を先進領域で進めている。

またポーランドのエムバンク(旧BRE銀行)のように、独立組織として立ち上げた新たな銀行ブランドが旧来の銀行ビジネスそのものを覆し、主従の逆転が生じるという興味深いケースもある。同行は100%デジタルでオンラインバンキングを手がける子会社として設立し、この事業に適した人材を“ビジネス x IT x デザインの専門家集団”として集結。自行のライバルとなるようなディスラプターを社内で育てるとともに、親会社の業務を段階的に子会社へ移行し、大きな成功を収めている。

これら3つの例からも分かるように、各金融機関が掲げるビジョンとアプローチは、市場環境や経営の方向性によって大きく異なっており、どのような条件でも通用する普遍的モデルはない。自社が追求する戦略的ビジョンや強みを明確にし、それぞれの環境に適したモデルを模索することが重要なのである。

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