企業の総務部・人事部の「事業主証明」廃止へ


老後生活の長期化に伴って、公的年金を補完する役割としての私的年金の重要性が増している。一方、ビジネスパーソンの間では、私的年金のひとつである個人型確定拠出年金(iDeCo=イデコ)の注目度が高まっている。2020年5月の年金改革法成立を受け、2022年10月からほぼ全会社員が加入できるようになるイデコの概要と注意点について、NPO法人確定拠出年金教育協会 理事 大江氏に話を聞いた。

  1. 普及阻む企業の手続き負担も2022年10月をメドに緩和へ
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普及阻む企業の手続き負担も2022年10月をメドに緩和へ

イデコ加入時に必要な企業側の手続きも、イデコ普及の課題となっている。現行制度では、イデコに加入を希望する場合、企業に「事業主証明」と呼ばれる書類の作成を依頼し、運営管理機関(以下、運管)経由でイデコ実施主体である国民年金基金連合会(以下、国基連)に提出することになっている。NPO法人確定拠出年金教育協会理事の大江加代氏は、この手続きが「国基連、運管、企業、加入を希望する社員の全員に負担をかけている」と指摘する。

イデコには掛け金の上限が定められているが、この上限額は企業型DCや確定給付型年金(DB)に加入しているか否かでも変わる。そのため国基連は、加入時および年1回、企業に現況証明をしてもらう形で加入者の他の年金制度の併用状況を管理している。

大江氏によれば、この証明書類には事業所印を押印する必要があることから、企業が何かの責任を負わされるのではと、担当者が手続きに躊躇してしまうケースもあるという。加えて、そもそも企業の担当者が年金制度のことをよく理解していないことも多く、書類の記入ミスで、何度も書類を運管と往復するケースも散見され、担当者や加入者だけでなく、運管にも負担を強いている。

さらに、事業主証明は転職の都度、転職先企業に作成を依頼する必要があり、イデコの加入後も煩雑な手続きが付きまとう。

そこで厚生労働省は、2020年7月9日に開催した社会保障審議会企業年金・個人年金部会で、全会社員にイデコ利用が拡大する2022年10月を目標に、事業主証明を撤廃する案を示した。DBや企業型DCの記録管理会社と国基連の間で情報を連携してもらい、企業の証明を必要としなくとも加入者のイデコ掛け金の上限が分かるようにする予定だ。同部会に出席した大江氏は、「ネット証券の勃ぼっ興こうや世間のニーズを背景に、2019年からイデコの加入申し込みがネット上でできないかという議論はあった。ネット上での加入手続きは2021年1月から徐々に開始するが、事業主証明がネックになっていた」と議論の背景を語る。

大江氏によれば、事業主証明撤廃には、国基連やDC、DB受託金融機関の大規模なシステム改修など実現までに解消すべき課題が多い。だが大江氏は、「こうした運営面の改革を通じて“普通の人が普通に使える制度”になればいい」と期待を膨らませる。

大江 加代 氏
寄稿
NPO法人確定拠出年金教育協会
理事
大江 加代 氏
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