1. HOME
  2. 事業戦略
  3. ESG金融実践ガイドを作成し地域金融機関の視点を変える(環境省)

ESG金融実践ガイドを作成し地域金融機関の視点を変える(環境省)

環境省はESG地域金融を推進するため、様々な政策や支援策を行っている。連載第2回目の今回は、環境省の芝川 正氏に話を聞いた。

ESG金融実践ガイドを作成し地域金融機関の視点を変える(環境省)
  1. 75%が成長領域と回答 高まるESG金融への認識
  2. 投融資をする指標に タスクフォースによる実装化

75%が成長領域と回答 高まるESG金融への認識

環境省では、地域の持続性の向上や地域循環共生圏の創出に資する「ESG金融」の促進を図るため、『地域におけるESG金融促進事業』で9金融機関の支援を実践し、その結果からESG地域金融に取り組もうとする金融機関に向けて「ESG金融実践ガイド」を取りまとめた。本ガイドの作成にあたっては、意見交換会を設置し、ESG金融の第一人者がメンバーとなり、オブザーバーとして金融庁監督局も参加している。

「世界的には直接金融が中心となり、ESG金融を推進させているが、日本では間接金融による資金調達の役割が大きいことから、特に、地域金融機関は地域の核として、地域の持続可能性に資するESG地域金融の実践が期待されている。ESG投資は投資家がエンゲージメントを通して企業と対話を重ね、情報開示を促すことで広がってきたが、ESG地域金融も取引先や関係者との対話による実践が重要となる」(環境省 大臣官房 環境経済課 環境金融推進室 室長 芝川正氏、肩書きは取材当時)

本ガイドでは、「ESG地域金融に取り組む必要性」「ESG地域金融の実践ガイド」「2019年支援先の事例」といった構成でまとめている。支援先の事例では、ESG金融への取り組みに意欲のある地域金融機関を公募し、その中から9金融機関(2019年度)を採択して支援を行った。

例えば滋賀銀行では、水質浄化技術を活用したフグの陸上養殖を新規事業として検討し、優遇金利で融資を実施。融資した企業の独自技術により、排水を行わずに水質を保つことができる。このため、周辺環境に影響を与えないうえ、水の使用量を抑制することでコストも削減し、水不足対策にも貢献している。また、養殖事業によって、地域に安定的な食糧供給をしたうえで、新たな特産品の創出など地域の活性化にもつながる。SDGsの達成にも貢献する事例である。

この融資は、同行のファンドを通じた6次産業支援「しが6次産業化ファンド」のスキームで、他の金融機関とも協力して融資が実行された。環境への意識が高い地域特性を活かした事例であるが、ESG金融のテーマは地域ごとの資源や課題によって異なり、その土地の個性に投融資のポテンシャルが潜んでいる。

全国の地域金融機関などを対象に行った調査では、回答先のうち75%が「ESG/SDGs」を将来的な成長領域として認識していることがわかった。ところが、それが新たな案件発掘や顧客開拓につながると認識しているのは同45%、その取り組みが金融機関自身のリスク低減につながるとしているのは25%に留まる。「これは少子高齢化、低金利の中で金融機関の経営が厳しくなっている中で、追加的にESG金融に取り組むには、経済合理性が担保されない、ということだと思う。しかし、ESG金融に取り組んでいる地域金融機関では、必ずしも専門の部署の立ち上げなどを行っているわけではない。経営資源を追加で投入しなくても、既存の融資事業の中にESGの視点を取り入れ、前向きに取り組むことで成果を上げている」(芝川氏)

まずは各支店の融資担当者がこれまで取り扱った案件を棚卸しして、ESG金融につながる事例はないかを検証する。担当する地域にも新たな視点で目を向け、丁寧にヒアリングを行う。本部は営業店とESG情報を含む案件の価値観を擦り合わせ、他の支店にも好案件の共有を行う。ESG金融の実践においてポイントはいくつかあるが、大切なのは「視点」を変えることである。

組織横断的な情報共有をスムーズに行うには、トップが意識を変えたうえで、明確な方針として打ち出さなければならない。そうした活動は、地域企業との対話を深め、サプライチェーン全体で技術や製品に付加価値を与えるものであり、地域金融機関が地域経済におけるハブとしての役割を果たすことにもなる。

投融資をする指標に タスクフォースによる実装化

ESG金融の参加を促すためには、事例の件数を増やし、質的にも向上しなければならない。そこで、金融業界のトップが集まるESG金融ハイレベル・パネルでは、2020年3月、2つのタスクフォースが設置された。1つ目は、「ESG地域金融タスクフォース」であり、今後、間接金融の各主体とESG地域金融の普及に向けたビジョンの共有を図っていく。2つ目は、ポジティブなインパクトを与える金融の普及促進のための「インパクトファイナンスタスクフォース」である。グローバルで広まっているインパクトファイナンスの評価軸が日本の地域特性のなかでどのように活用できるのか。その評価基準を明確化することで、投資をする際の指標の一つになる。あるいはインパクトの測定ができれば、KPI (重要業績評価指標)を立てて、PDCAサイクルで検証することも可能だ。

「ESG金融への地域金融機関の興味や意欲は年々高まってきている。2020年度のESG金融促進事業の支援対象となる金融機関を公募した際には、非常に多くの申し込みや相談を受けた。“コロナ禍で新たなことにチャレンジする余裕はないが、将来のことを考えると、いま、取り組まなければならない”と、前向きな姿勢が感じられた。結果的に11金融機関を採択したが、全国から地域特性に合わせたさまざまな課題へのチャレンジがみられており、こうした金融機関の取り組みの後押しとなるよう伴走型支援を行っている。その成果として、2020年度末にガイドの改訂版を公表する予定である」(芝川氏)

また、同時に、ESG金融に取り組む意欲のある金融機関の経営層との個別ダイアログや勉強会を設けるなど、金融機関一つ一つに向き合って課題解決に向けた対話を行っていくという。

ESG金融の政策としての取り組みは幅広い。主要な施策としては、PRI(責任投資原則)、PRB(国連責任銀行原則)の方針策定などを行う「金融セクターのESGのコミットとESG情報開示に基づく対話の促進」、「地域課題解決を支えるESG地域金融の実践」、グリーンボンドやグリーンローンなどインパクト重視の金融商品をガイドライン整備などで支援する「ポジティブなインパクトを狙った投融資の拡大」という3つの柱で進めている。地域金融機関がESG金融に踏み出す一歩を支援しながら、その集大成として日本のインパクトある投資を実現していきたい。

事業戦略カテゴリのオススメの記事
金融所得課税一体化の今日的意義

7月7日に、金融庁の「金融所得課税一体化に関する研究会」において、「論点整理」が公表された。本研究会においては、デリバティブ取引への損益通算範囲拡大に関する議論が行なわれている。ヘッジ手段としてのデリバティブ取引と対象となる資産を一体課税の対象とすることで、ヘッジ効果を税務上も享受せんとするものである。一方、トマ・ピケティ以降の世界的な議論の趨勢如何では、貧富の差の顕著な拡大を受け、金融所得一体課税のバックボーンとなっている二元的所得税の考え方が、変化を余儀なくされる可能性も否定できない情勢だ。本稿では、金融所得課税一体化について、金融庁研究会の議論をふりかえりつつ、今後の方向性を検討したい。

東証新上場区分が株主優待に与える示唆

2021年2月、東証プライム市場の上場基準が発表された。旧東証1部と大きく異なる部分として、株主数基準が挙げられる。本稿では、東証プライム市場上場基準の注目点から株主優待制度に焦点をあて解説する。

『脱・銀行化』に向けたビジネスモデルの構築 ~「つながる」時代に向けた変革の論点~

今から10年後には、60代までの大多数と、70代の多くがスマートフォンを使いこなす時代が到来する。その社会における個人や企業・組織の活動は、入口がデジタルであり、商品・サービスの提供は、「デジタルが主、リアルが従」でデザインされることになるだろう。データを介して「つながる」社会におけるバンキングはどのような姿になっているだろうか。

サステナブル・ファイナンスはメインストリームになるか

持続可能な社会の実現を金融面でサポートする手法として、「サステナブル・ファイナンス」が注目されている。欧州や米国における地球温暖化防止や気候変動への取り組み拡大、日本では菅首相の2050年の「カーボン・ニュートラル宣言」(排出する二酸化炭素を吸収する二酸化炭素の量以内とし、二酸化炭素の増加を抑制するとの宣言)などを背景に、サステナブル・ファイナンスの市場は拡大しており、2020年の組成額は全世界で前年比倍増の5,443億米ドルに到達した。2021年は、既存事業の脱炭素化に要する資金を調達する「トランジション・ファイナンス」といった新たな切り口も登場し、今後一段と広がりを見せそうだ。本稿では、サスティナブル・ファイナンスがメインストリームになるか考察する。

【 インタビュー 】
環境省大臣官房
環境経済課
環境金融推進室
室長(取材当時)

芝川 正 氏