テレワーク環境に対応した内部監査・内部統制~リモート監査の品質を対面レベルまで引き上げる

テレワーク環境に対応した内部監査・内部統制~リモート監査の品質を対面レベルまで引き上げる

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新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として急速に広がるテレワーク環境の中、内部監査活動でもデジタル化の対応が一層求められている。従来の内部監査手法はリモートに置き換えられていくのか、それともまったく新しい様式に切り替わっていくのか。内部監査部門を取り巻く現状と今後の展望について明治安田生命保険監査部に話を聞いた。

  1. 新型コロナのモニタリング専門チームを組成
  2. CIA資格保有者数は生保業界トップクラス

新型コロナのモニタリング専門チームを組成

明治安田生命保険のガバナンス体制強化の一環で、監査部は2020年度から監査委員会の傘下に入った。内部監査部門は監査部長を筆頭に、監査委員会事務局機能、本社監査、支社監査、法人部・代理店監査、監査品質指導役、監査業務グループで構成される。監査品質指導役とは同社独自のフレームワークで、個々の内部監査の品質の確保・向上に資する諸施策の検討・推進などを担当するスーパーバイザー業務である。

同社はテーマ監査に注力している。2015年度から実施しており、これまではオペレーショナルリスク対応やフィロソフィーなどをテーマの主軸に設定して取り組んできた。直近の2019年度は、「FATF(金融活動作業部会)」による対日審査を控えたマネーロンダリング対策、サイバーセキュリティ対策などリスクの高いテーマ分野を監査対象とした。

2020年度の内部監査計画は、新型コロナウイルスに対応すべく、機動的にリスクアセスメントを再実施、6月上旬に監査委員会へ報告した。テーマ監査数も20から15に変更された。リスクの急変に対してフォーメーションを立て直して取り組んだ点や、それが内部監査の成熟化を加速するフックとなった点は収穫だったという。スピード感ある対応を可能としたのは、経営陣や監査委員を交えて意見交換の機会を多く設け議論を重ねたことや、各監査部員が監査業務の重要度や緊急度を自発的に整理するといった個々のマネジメント力の高さなど、確立された組織風土にあると考えられる。

同社のテレワーク率は現在平均3~4割で、在宅用無線LANを整備しオンライン会議なども積極的に活用している。4月の緊急事態宣言下は、監査部では一部の役職者を除き監査部員を在宅勤務とするなど安全面を重視した。当面は新型コロナがリスクマネジメントへどう影響していくかは経営陣の大きな関心事だ。そのため、新型コロナのモニタリングを行う専門チームを早々に組成したという。

内部監査に関しては、主にオフサイト・モニタリングへ切り替えた。メソドロジー面ではオンライン会議を活用し、インタビューは事前に質問シートを作成し時間の上限を設けるなど、効率化を図るとともに対面時と同レベルまで引き上げる施策を講じている。

CIA資格保有者数は生保業界トップクラス

同社では、内部監査態勢の成熟化に向けた10のメソドロジーを掲げている(図表)。例えば、①スーパーバイザー業務(監査品質指導役)では、新任者からシニアレベルまでの内部監査部員の品質を向上させるため、1on1(ワンオンワン)ミーティングやコンフリクトマネジメント(対立解消)を展開している。個別監査単位の分析と評価、フィードバックをすることで、改善すべき事項を次回にカバーする方法を提案するといったサポートも行う。②アジャイル監査は、3カ年計画で進める。海外では導入されている手法だが、国内では定義、フレームワークがあまり定着していない。そのため、1年目に社内で啓蒙活動とパイロット実施、2年目にメソドロジーとして手法を定着、3年目は対外的に発表できうるアジャイル監査を目指すという。

③データ分析については、専門チームを設立し、2020年7月から本格的に始動した。単発的なテーマ監査にデータ分析をどのように成果につなげるか試行錯誤している段階だ。ドキュメント確認だけでは見えてこなかった側面を内部監査がピックアップして第一線や第二線に展開し、全社的な高度化を図っていく。

会社のマネジメントが高度化するにつれて内部監査も常に高度化、スキルアップが求められるため、⑥人財育成にも注力する必要がある。同社は特にCIA(公認内部監査人)の資格取得に努めており、CIA資格保有者数は生命保険業界でもトップクラスだという。試験結果はKPI(重要業績評価指標)や各種評価にも反映される仕組みで、合格すれば報奨金が支給されるが、不合格の場合は結果として自費負担となる。科目合格者を執務室に掲示したり、効果的な勉強法を部内イントラネットでニュースに取り上げたりするなど、監査部門全体で部員のスキルを底上げしようと腐心する様子がうかがえる。不合格者のサポートやケアも徹底しており、試験対策用の教育プログラムやチューター制度で継続的に支援している。

その他の特徴的な取り組みには、⑨監査プロセスが挙げられるだろう。一般的なテーマ監査フローでは事前・事後報告を行うが、同社ではプロセス進行中にも定期的な状況報告会を設けている。監査終了後も案件が完了するまで改善フォローアップし、着実にエグジットまで導く態勢を整えている。

内部監査品質の維持向上に努めてきた同社は2018年9月、日本内部監査協会の会長賞(内部監査優秀実践賞)を受賞した。「洞察提供者」ステージを目標にした内部監査の成熟化に向けたチャレンジについて、2021年2月にセミナーインフォ主催エグゼクティブセミナーにて十河氏がより詳細な解説をする予定だ。

監査部には、経営管理職などのマネジメントを経験してきた様々な専門分野の人財が異動してくる。それらの経験を活かしつつ、IIA(内部監査人協会)基準などに沿ったプロフェッショナル職制としての絶え間ない取り組みが必要だ。ブラッシュアップされた人財が拡大していけば、いっそうの内部監査の成熟化が実現するだろう。

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