サステナブル・ファイナンスを経営の軸に成長産業クラスターとのシナジーを生み出す(三井住友銀行)

サステナブル・ファイナンスを経営の軸に成長産業クラスターとのシナジーを生み出す(三井住友銀行)

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三井住友銀行には、環境型融資に10年以上前から取り組んできたサステナブルビジネスの歴史がある。連載第3回目の今回は、ホールセール統括部 サステナブルビジネス推進室の2人にその取り組みについて聞いた。

  1. グローバル市場で加速するSDGsの資金調達
  2. 診療報酬の引き下げなど社会的インパクトを掲げる

グローバル市場で加速するSDGsの資金調達

2008年に「環境配慮評価融資」という評価型融資を導入し、国内企業に幅広く提供してきた。ここ数年ではグローバル市場におけるサステナブル・ファイナンスの市場規模の急拡大を受け、グローバルスタンダードであるICMA(国際資本市場協会)が定める原則に準拠した商品の取引も増えている。

市場全体としては2020年の第一四半期(2020年1月~3月)にはグリーンローンおよびグリーンボンドと、サステナビリティ・リンク・ローンの取引高が645億ドル(約6兆7725億円 ※1ドル=105円で計算)を超えた。

PRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)のリクワイアメント(必要条件)の一つに、2020年までに、預かり資産の半分はESGで投資するという目標がある。こうした背景もあり、キャピタル・マーケットで新しいディールが設定されると、機関投資家は、ESG投資をしようと躍起になっているという。また、年金基金が示す、中長期的により良質な商品に投資していきたいという姿勢がマーケットを牽引しているため、この流れは加速している。

「当行では2020年4月にホールセール統括部の中に、サステナブルビジネス推進室を新設した。SMBCグループCEOによるイニシアチブのもと、事業を通じた社会課題の解決とSDGsの実現を目指すサステナビリティ宣言をした。金融グループの本業である金融ビジネスのところでも、サステナビリティを軸に据えることが明確になった。当行のこれまでの取り組みを考えると、こうした進展は自然であると海外、とくに欧州の金融機関からも評価をいただいている」(ホールセール統括部 サステナブルビジネス推進室長の金子忠裕氏)。

同行ではグリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローンといった商品に力を入れており、グローバルのリーグテーブルでも上位にランキングされている。サステナブル・ファイナンスの組成においては、既存案件では見られない取り組みを積極的に推進しており、数々の組成難易度の高い案件のアレンジャーを務めてきた。SMBC日興証券においても数多くグリーンボンドを手掛け、2020年に環境大臣賞を受賞している。

最近ではグローバルスタンダードとしてサステナブルローンのガイドラインが整備されていることもあり、資金使途を特定せず、一般の運転資金にも貸し出しをするサステナビリティ・リンク・ローンなどは、欧州において企業の銀行取引の基本アイテムになっているほど伸びている。また、ローンの枠だけを事前に約定しておいて、資金が必要なタイミングで引き出して使うコミットメントラインというスタイルも欧米では活用されている。

診療報酬の引き下げなど社会的インパクトを掲げる

受託臨床検査事業や検査薬・器機の開発・製造・販売を中心にヘルスケア分野で事業を展開している企業とのケースでは、ソーシャルローンおよびボンドフレームワークの策定をSMBC日興証券とともに支援し、最終的に250億円の組成に成功した。この案件では、調達企業の中核施設となるラボラトリーの建設や、検査の質の向上、革新的な技術開発に向けた研究開発を資金使途としていた。

「社会保障費の抑制に繋がる検査にかかる診療報酬の引き下げや、地域医療の拡充や地域包括ケアシステムの進展などの社会的インパクトを掲げて、開示の可能な範囲で状況報告も行う。こうしたフレームワークを調達企業と策定し、外部の格付機関、R&I(格付投資情報センター)にオピニオンとしての評価を依頼した。その結果ICMAのソーシャルボンド原則にも適合しているとの認定を受けた」(ホールセール統括部 サステナブルビジネス推進室 調査グループ 室長代理の清水倫氏)。

また、ラボラトリーの建設やシステムの導入は2~3年かけて行うため、コミットメントラインで必要な時に資金を引き出せるようにしたことで、コストの低減にもつながったと喜ばれた。

同行では「SDGs経営計画策定支援」にも力を入れている。これは自治体が同社と連携して策定した制度融資で、2018年10月から取り扱いを開始した。中小企業のSDGsへの取り組みを促進するためのもので、融資制度に申し込む企業はSDGs経営計画を策定する。同社はグループ会社である日本総合研究所との協業で中小企業の経営者にとってわかりやすいプログラムを作成した。自治体は保証料率の0.2%を補助するとのインセンティブを付け、これまでに多くの企業が利用している。

「例えば、家具の輸入販売をしている企業のケースでは、SDGsに興味はあるものの自社にはどのくらい関連があるのだろうか、というところから始めた。すると通常はリサイクルが難しいとされるソファのスプリングに金属ではなく特殊なウレタン素材を使用して、リサイクルしやすい商品開発を進めるなど、SDGsの要素があったため、経営計画の作成を進め融資を獲得することができた。このように、中小企業の皆様はSDGsに関わっていても気づいていないケースも少なくない。そうした企業のサポートをしていきたい」(清水氏)。

今後、同社で力を入れていくとする分野の一つが「成長産業クラスター」だ。必ずしもファイナンスの提供ではなく、事業共創という形で、例えば脱炭素社会実現の切り札として水素に着目した社会実装や、自治体と協力して地域課題解決を目指すなど、SDGsに向けた事業共創に取り組んでいる。

「今後は、こうした事業共創とサステナブル・ファイナンスのシナジーも生み出していきたい。ファイナンスの案件は増加傾向にあるが、グローバルで取り扱うような大型の案件から、中小企業様のSDGs活性化まで対応する。お客様をはじめとするステークホルダーとの対話を大切にしながら、サステナビリティの推進を加速していく」(金子氏)

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