COVID-19のインパクトと「ニューノーマル」のかたち


新型コロナウィルス感染症(COVID―19)は、想像もしなかった形や規模で世界に深刻な影響をもたらしている。COVID-19はこれまで人類が直面してきたパンデミックの危機とどのような違いがあり、世界の経済そして金融業界にどのような影響をもたらしているのだろうか。本連載では、今後の危機対応で重要となるポイント、銀行・証券・保険業界による対応・変革のキーワード、そして金融業界が『ニューノーマル』のもたらす機会を活用し、さらなる成長を実現するためのアプローチについて全3回で解説していく。

  1. パンデミックの歴史とCOVID-19の特殊性
  2. 収束・回復への3フェーズと変化
  3. “勝ち組”企業から見る産業構造変化のキーワード

※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

目次

パンデミックの歴史とCOVID-19の特殊性

世界がパンデミックのもたらす破壊的危機に直面するのは今回が初めてではなく、人類はこれまでの歴史を通じて様々な感染症と対峙し、大きな社会的変化を何度も経験してきた。例えば14世紀中頃に発生したペストは、ヨーロッパの全人口の1/3〜1/4にあたる膨大な犠牲者を出し、荘園制の崩壊に伴う農奴解放とその後の民主主義の台頭という変革の出発点となり、16世期に天然痘が猛威を振るった際にも、南米(インカ帝国・アステカ王国)における大流行が帝国の覇権交代に大きな影響を及ぼしている。またインドに端を発し、19世紀を通じて世界規模で流行したコレラは、ヨーロッパにおける急速な下水道整備の引き金となり、都市インフラに対する考え方に革命的変化をもたらした。こうした過去の歴史が示すように、人類は感染症の危険性と常に隣り合わせで生きてきた。そしてそこには、既存概念を根底から覆すような変革が常に伴ってきた。

しかし今回のCOVID―19は2つの意味でこれまでの経験と異なる。まず1つ目は発生サイクルの短期化である。これまで100年に一度ほどだったパンデミックの発生頻度は、近年加速度的に短くなっており、常に感染症のリスクを念頭に置きながら社会・ビジネスの運営を行う時代が到来している。そして2つ目は経済面に及ぶ影響の大きさである。感染症はこれまでも大きな社会的インパクトをもたらしてきたが、COVID−19の場合は経済への影響が特に目立つ。リーマンショックと比較しても、株価の落ち込みは酷く、サプライチェーンの停滞や急激な需要縮小といった悪影響が実体経済のあらゆる面に及んでいる。

収束・回復への3フェーズと変化

今後、ビジネスはCOVID-19のもたらす危機へどのように対応し、その後どのような経済的変化が生じるのだろうか?リーマンショックの経験はその意味で様々な示唆を与えてくれる。発生当時を振り返ると、危機への対応は主に3つのフェーズを通じて行われた。危機発生直後(フェーズ1)はまず収束という点に重きを置き、世界規模のゼロ金利政策とヘリコプターマネーの投入、中小事業者を中心とした資金繰り確保の対策が推進された。そして次のフェーズ(フェーズ2)で見られたのは、危機の原因究明と再発防止に向けた規制強化の動きである。そして今回の話の文脈で最も注目に値するのは、最後のフェーズ(フェーズ3)で生じた大きな産業構造の変化とデジタル化の加速である。金融・その他の領域で最先端の取り組みに携わっていた優秀な人材プールが、危機の影響によってシリコンバレー等の新たな分野へシフト。フィンテックなどデジタルを駆使した新たなスタートアップが台頭した。また、デジタル・トランスフォーメーションがビジネスの世界で加速していくのもこの時期からである。

リーマンショックと現在の危機に様々な違いがあることは言うまでもない。しかし、こうした3つのフェーズで事態が推移していくこと、そして産業構造の大きな変化によってワークスタイル・ライフスタイルに根本的な変革が生じることは変わらないだろう。日本企業は今、危機への迅速・効果的な対応だけでなく、来るべき変革を見据えながらビジネスのあり方そのものを見直すことが求められている。

“勝ち組”企業から見る産業構造変化のキーワード

では今後予測される産業構造の大きな変化は、ビジネスのあり方にどのような影響を与えるのだろうか?その重要なヒントとなるのが、コロナ危機発生後に見られた株価の推移である。COVID-19による市場へのインパクトが最も顕著だった今年2〜3月を対象に、NASDAQ上場企業3235社のパフォーマンスを見ると、GAFAも含めた94%の企業(3041社)で株価が下落している。しかし興味深いことに、このタイミングで株価を上げた企業、そして場合によっては2倍以上の株価上昇を経験した企業が約200社あった。苦境の中で善戦するこうした企業を分析すると、そこには5つの共通項が浮かび上がってくる。

1. リモートX

リモートで何らかのサービスを提供するビジネス。Eコマースやオンライン学習サービス、リモートで仕事を可能にするソリューション、あるいは富裕層向けにリモートで営業を行っている企業など。

2. 非接触型ビジネス

人がそこにいなくても業務が遂行可能なビジネス。キャッシュレスやぺーパレスなど、物理的接触を伴わないサービスを提供する企業。またロボット製造メーカーあるいはロボットを活用した製品(例:調理マシン)など、物理的接触を伴うサービスをロボットに置き換えてクリーンに提供する企業。

3. スマートシティ・クリーンシティ・モニタリング

スマートシティに代表されるような都市の衛生・効率性を向上させるビジネス。あるいはIoT・公共ビッグデータなどの活用を通じてその追跡・可視化(モニタリング)を行うビジネス。景気刺激策として行われる公共投資の対象としても高いポテンシャルを持っている。

4. デジタル医療改革

予防・診断・モニタリング・リハビリなど医療の様々な分野でリモート化・オンライン化を進める企業。

5. 医療プラットフォーマー

医療サービスの最適化に向けたプラットフォーム構築を手がける企業。医薬品パイプライン拡充のためのM&Aを進める企業。

今回のコロナ危機は、個人・企業・政府へすでに重要な変革を及ぼしている。例えば個人の領域では、高齢の消費者がやむなくEコマースやリモートサービスを利用してその便利さに気づくなど、購買習慣・サービス体験にまつわる大きな意識変化が見られる。また企業の場合は、これまで構築してきたグローバル・サプライチェーンに潜む脆弱性が露呈し、製造・業務遂行体制や事業継続リスク対応への新たなアプローチが模索されている。“勝ち組企業”の特徴は、現在世界規模で生じつつあるこうした変革を反映するものと言えるだろう。

アフターコロナの世界でもう1つのキーワードとなるのは、人とデジタルツールの新たな関係性である。これまでのビジネスでは、顧客コミュニケーション・顧客へのアドバイス・サービス提供・オペレーション遂行に人が中心的役割を果たしてきた。いわば“ヒューマン・ヒューマン・ヒューマン”ともいうべきモデルである。しかし今後は、顧客コミュニケーションやオペレーションを可能な限りデジタルへ移行し、人は付加価値の高いアドバイス・提案サービスに注力する、つまり“デジタル・ヒューマン・デジタル(DHD)”モデルへのシフトが極めて重要になる。危機への対応が進み、事態が沈静化していく今後1年は、この新たなビジネスモデルを徹底して試行するための良い機会となるのではないだろうか。

ではこのパンデミックを目の前にして、金融・証券・保険業界ではどのような影響が見られ、“ニューノーマル”に向けて今後どのような変化が生じるのだろうか?そして先進的な金融機関はこの危機を機会として活用するためにどのような取り組みを行っているのだろうか?本連載の第2・3回ではこうしたテーマについて解説していく。

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中野 将志 氏
寄稿
アクセンチュア株式会社
常務執行役員
金融サービス本部
統括本部長
中野 将志 氏
森 健太郎 氏
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森 健太郎 氏
粟倉 万統 氏
寄稿
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ビジネスコンサルティング本部
マネジング・ディレクター
ストラテジーグループ
粟倉 万統 氏
近藤 龍司 氏
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近藤 龍司 氏
武藤 惣一郎 氏
寄稿
アクセンチュア株式会社
ビジネスコンサルティング本部
マネジング・ディレクター
コンサルティンググループ
キャピタルマーケット プラクティス アジア太平洋・アフリカ・ラテンアメリカ・中東地区統括兼日本統括
武藤 惣一郎 氏
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