1. HOME
  2. 事業戦略
  3. 地域金融機関の次世代基幹システムの潮流~人とデジタル技術、双方の利点を生かす~

地域金融機関の次世代基幹システムの潮流~人とデジタル技術、双方の利点を生かす~

地域金融機関を取り巻く環境は大きく変化している。営業エリア人口の減少や人口減少に伴う預金流出など、ここ10年で来店客が約40%減少した。デジタル化の進展によるライフスタイルの変化は目を見張るスピードで進んでおり、地域金融機関も従来にはない目線で構造変化を進めていく必要がある。連載第3回目の今回は、伊予銀行の取り組み事例について話を聞いた。

地域金融機関の次世代基幹システムの潮流~人とデジタル技術、双方の利点を生かす~
  1. すべての店舗業務をタブレットに凝縮
  2. マニュアル不要で行員の利便性が高いシステム

すべての店舗業務をタブレットに凝縮

伊予銀行 総合企画部 課長の石川秀典氏は、「当行は、D-H-D(デジタル・ヒューマン・デジタル)Bankというコンセプトを掲げ、10年先もお客様に選ばれ続ける銀行を目指す」と語る。D-H-D Bankとは、顧客接点や事務手続きなどはデジタルで簡便化する一方で、相談や提案など“人”にしかできない業務は人が担うことで、人とデジタル技術の双方の利点を生かした新しいビジネスモデルだ。

「足元の急速なデジタル化の進展は、地域金融機関にとってピンチではなくチャンスと捉えている。地域を支え続ける使命を果たすべく、デジタル技術を活用したD-H-D Bankへの転換を全社目標で取り組んでいる」(石川氏)

D-H-D Bankを具現化するプロジェクトの1つ「AGENT」の導入により、同行では様々な業務をスピーディーに行えるようになった。AGENTは店舗業務をすべてタブレットで行えるシステムだ。例えば、口座開設は来店客がチャット形式で表示される質問に回答し、免許証などの本人確認書類をタブレットで撮影してOCR(光学的文字認識)する。これにより、利用者は「chat UI」やカメラ読み込みによる入力負荷が軽減される。

これに対して銀行側は、「タブレットとUBT(営業店端末)間のデータ連携による行員判断業務の自動化」「帳票の手書き作成ゼロ化」「検印業務の極小化」などを実現。石川氏は、「事務負担の大幅な削減により、行員はお客様が抱える課題を傾聴して提案を行うといった人にしかできない仕事に注力でき、顧客満足度の向上につながっている」と明かす(図表3)。

AGENTはこれまで対来店客向けで利用は店内に限定されていたが、2020年7月に渉外活動で使用できる機能を追加。「行員が持ち運べるようになったので、来店が難しい山間部や島嶼部などに住む方や高齢者にも、手軽で便利なタブレットサービスを提供できる。銀行サービスが充実していくことで、本来の地域金融機関としての使命をサステナブルに果たせるはずだ」(石川氏)

マニュアル不要で行員の利便性が高いシステム

AGENTシステムは、アジア全域で優れたCX(顧客体験)を実現した企業などに贈られる国際的な賞であるCX ASIA EXCELLENCE AWARD 2019において、複数の部門で受賞した。顧客の利便性向上につながる仕組みが評価され、2019年度グッドデザイン賞も受賞している。

AGENTシステムを始め、住宅ローンアプリ「HOME」やカードローンアプリ「SAFETY」でも人とロボットがコラボレーションして業務を行うプラットフォーム「Chat Co-Robot」を採用している。石川氏は、「お客様が日ごろから使い慣れているチャット形式であれば、デジタル化への心理的ハードルを下げることができる。また、一問一答方式で受付を進めるため、入力内容の抜け漏れがないなど、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)面においても、一定の評価が得られると考えている」と説明する。

チャット形式のメリットはほかにもある。利用者にとっては、セルフで操作可能なデザインを実現できた点だ。銀行側にとっても、相続受付事務など相応のスキルを要する業務が、2年目の行員でも対応可能となった。AGENTシステムを導入したことで、各種業務に係るマニュアルも不要となったと言える。

同行では、人材育成の一環で、AGENTの開発を通じてクラウド要員の育成を図ってきたという。2020年8月現在、クラウドのシステム基盤およびアプリケーション開発担当は計10名以上の要員を育成。2020年秋以降、外部の力を借りずに自走による内製化案件に取り組んでいく予定だ。

同行の総合企画部 課長の井上浩一氏は「オンプレミスサーバのリフトアップについては、新規システムであれば最初からクラウドネイティブの運用設計を行うことが可能だが、既存システムの場合は運用変更が多く若干苦戦している。運用変更を少なくするためのソリューションについても、追加検討を行っている段階にある」と語る。

同行は、これまで仮想サーバなどの機材やネットワークといったインフラをインターネット上で提供する「IaaS」の活用を優先的に進めてきたが、これからはソフトウエアをクラウド経由で提供する「SaaS」の活用も拡大する必要性を感じているという。同行のように境界型のネットワークの運用に限界を感じており、ネットワーク構成を根本から考え直さないといけない時期と考える地域金融機関は多いだろう。

事業戦略カテゴリのオススメの記事
コグニザントジャパン 村上申次新社長に聞く顧客の事業を起点とするDX推進~強みは〝マルチナショナル人材〟

コグニザントジャパンでは1月4日付で村上申次氏が新社長に就任した。今後はIT業界で30年以上にわたりマネージドサービス、モバイル通信、事業開発、市場参入戦略を統括してきた経験を生かし、コグニザントが世界の中でも成長市場と位置付ける日本での事業をけん引していく。日本の保険会社に対しては、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)とカスタマーエクスペリエンス(CX)に注力し、同社ならではの「顧客の事業を起点としたデジタル改革」を推進していく方針だという。同氏に就任の所感や今後の計画について聞いた。

バイデン政権誕生で注目される気候変動リスクの開示とSEC委員長にゲンスラー氏を指名

本稿では、バイデン政権誕生により注目されている、企業に対する非財務情報の開示の中でも、特に気候変動リスクに関する情報開示について、証券取引委員会(SEC)のトップに指名されたゲイリー・ゲンスラー氏がどのように考えているかを中心に考察する。

ポストコロナ社会における東京国際金融都市構想の展望

東京都が2017年11月にとりまとめた「国際金融都市・東京」構想を契機に2019年4月に発足され一般社団法人東京国際金融機構(通称FinCity.Tokyo)。本稿では、法人設立準備段階から参画したFinCity.Tokyoのシニアマネジャーの濱川氏がこれまでの取り組みと今後の展望について解説する。

「地銀再編」の先にあるビジネスモデル再構築

独禁法の特例、日銀の支援制度、政府から補助金支給、という3つの施策から地方銀行の再編は不可避な状況下にある。本稿では、地方銀行再編の行く末を考えるとともに、地方銀行が生き残るための戦略について考察する。

【 インタビュー 】
伊予銀行
総合企画部
課長

石川 秀典 氏

【 インタビュー 】
伊予銀行
総合企画部
課長

井上 浩一 氏

The Finance をフォローする
注目のセミナー すべて表示する