異業種連携の最新動向と金融サービスのポテンシャル

異業種連携の最新動向と金融サービスのポテンシャル

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日本では近年、デジタル化・IoT化の進行などを背景に、産業の垣根の消失と異業種参入・連携が加速している。特に巨大な顧客基盤を持つ大手企業は、本業で得た消費者の嗜好データを活用し、需要の高い様々な業種のサービスを展開することで1つの“経済圏”を形成。従来には考えられなかったようなスピードで事業領域を拡大するとともに、トッププレイヤーとしての地位を複数市場分野で確立し、高度なコングロマリット経営を実現している。では企業は、この流れを活用し成長につなげるために、どのような手を打つべきなのだろうか?効果的な異業種参入・連携を実現し、顧客へこれまで以上の価値を提供するために求められる新たな発想・経営手法について解説していく。

  1. 異業種から学ぶ金融サービスの活用法・効果
  2. 初期検討の要諦と金融事業の位置付け
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

異業種から学ぶ金融サービスの活用法・効果

異業種参入・連携が加速する流れの中で、特に中核的な役割を果たしているのが金融サービスである。近年金融分野では、本業における顧客体験の強化などを目的とした非金融企業の参入が急増しており、リテール・決済を初めとする様々な領域で、これまでにない価値を持つ金融サービスの創造が進んでいる。各業界のトッププレイヤーが、金融をサービス向上の“潤滑油”として活用する動きを加速させている。

異業種連携の中で金融サービスが果たす役割を理解する上で大きなヒントとなるのは、他業界のトッププレイヤーによる活用方法である。下の図では金融サービスをグループビジネスの一環として活用する4社の事例を紹介しているが、各社の考え方はそれぞれ異なる。例えばイオンの場合は、クレジットカードやポイント制度を活用し、生活に密着した各種商品のバンドル販売を推進している。一方トヨタは、主にローンを通じた自動車購入支援と言う形で、本業売上や金融収益の向上と顧客囲い込みに繋げている。その他にも、物流にまつわる決済の悩みを仲介者として支援し、本業の売上に貢献させるヤマト運輸や、斬新な金融商品の展開をつうじた顧客評価の獲得と、グループ全体のブランド向上を実現するソニーなど、多種多様なアプローチで金融サービスを活用している。

ただし、こうした異業種企業の考え方には興味深い共通点もいくつか見られる。例えば4社は、いずれも金融を自社サービスの“潤滑油”として利用し、それぞれが持つ独自の価値をエンドユーザーへ訴求するために簡潔かつ明白な金融商品を展開している。またこれらの企業は、金融事業自体の収益性のみならず、本業とのシナジーを具現化し、一方の利益が他方のさらなる利益につながるというプラスの循環を生み出している。このように、従来とは全く違う戦い方をする異業種が金融事業への投資を加速させており、市場動向のみならずビジネスのあり方自体にも大きな影響をもたらしている。

初期検討の要諦と金融事業の位置付け

では現在国内で見られるトレンドを活用して業界横断の取り組みを成功へ導くため、国内金融機関はどのような点を検討すべきなのだろうか?初期構想の段階で特に重要となるポイントが3つある。1つ目は、まず顧客ニーズ・ペインポイントを軸に据えて“ユースケース”を策定することである。これまで金融機関が新規事業を立ち上げる際には、自行の本業・業法を発想の起点に据えて、開発・展開可能な商品・サービスを検討するというアプローチがほとんどであった。しかし異業種連携の拡大により、金融の役割が“事業”から“機能”へとシフトする今後、発想の起点となるのは顧客ニーズとペインポイントである。エンドユーザーや顧客が日常生活を送る中で何が不足しているのか、何を求めているのか、そして金融がどのような役割を担えるのかを具体化することが極めて重要となるだろう。

2つ目のポイントは、“売れる強み”の明確化とそのブラッシュアップである。日本では今のところ、金融機関が能動的に働きかけて異業種連携を実現する事例はまだ少なく、どのような強みを持てば金融機能を欲する企業の目に留まるのか、効果的連携のために今後どの部分で競争力を磨くべきなのかという点が必ずしも十分考慮されていない。他社の目へ魅力的に映る自社の強みはどこにあるか、その強みはすでに提供できる状態にあるのか、そして連携相手としてシナジーを生み出せる可能性の高い企業はどこか。こうした点を念頭に置きながら、積極的に異業種連携のシナリオを模索することが今求められている。

3つ目は、“金融”の使い方を考え、異業種連携への参加目的を明確にすることである。本業へ貢献するための事業と位置づける、あるいは本業として収益の柱の1つに位置づけるなど、全体の枠組みにおける金融事業の活用法には様々なパターンが見られる。国内市場では両者共に成功事例があり、あらゆるケースに当てはまる正解というのは存在しない。まずは、異業種連携のドライバー(参入目的)を明確にし、連携全体のバランスを踏まえて“金融”の活用法について検証した上で、投資優先順位などの戦略を策定していくことが重要となるだろう。

では、異業種参入・連携の具体的な計画・実行フェーズに差しかかった企業はどのようなチャレンジに直面し、その克服のためにどのような戦略を掲げるべきなのだろうか?次回は、MarCoPay(日本郵船)CEOの藤岡敏晃様に伺った立ち上げから実行フェーズまでの体験談を交えながら、課題克服の鍵や成功実現の要諦についてお話していく。

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