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異業種の金融参入・連携における成功実現の要諦

本連載の第1回では、国内市場における異業種連携の最新動向と、金融サービスの位置付け、連携の実現に向けて初期構想段階に検討すべきポイントなどについて解説した。第2回ではこれを踏まえ、具体的事例として日本郵船の電子通貨事業MarCoPayのCEO 藤岡敏晃様のお話を紹介した。最終回となる今回は、これらを踏まえて準備・実行フェーズにおける課題・ポイント、戦略・システム面での成功の要諦について解説していく。

異業種の金融参入・連携における成功実現の要諦
  1. 構想・実行準備面で克服すべき課題と罠
  2. システムにおける成功のポイント
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

構想・実行準備面で克服すべき課題と罠

前回は日本郵船のMarCoPayを具体的事例として紹介したが、藤岡様にいただいたお話は異業種参入に取り組む企業が共通して直面するチャレンジという意味でも示唆に富むものである。例えば、異業種事業に対する社内承認の実現は、多くの企業が直面する難題だろう。この壁を克服するための鍵の1つとなるのは、過剰と不足を可能な限り排除することである。承認段階で共有する構想に過大評価・過小評価的な傾向があると、経営判断のぶれにつながる可能性があるからである。リスクを客観的に伝えることも重要なポイントである。これまで経験のない異業種領域で初めての事業を検討する経営層にとって、そこに伴うリスクの検証は大きな関心事となるはずである。また目先の課題だけにとどまらず、将来的なビジョン・構想を積極的に伝えることも承認を得る上でプラスとなる。金融分野への参入により取り組む目先の課題だけでなく、それをいかに長期的価値・展望へと結びつけていくのかという視点は有効だろう。

異業種参入のプロジェクトでは、実行フェーズをつうじて陥りがちな2つの罠にも留意する必要がある。その1つは、事業が立ち上がった、あるいは認可が下りたなど、実現できたことへの大きな達成感が次のステップへの初動を遅らせてしまうという罠である。事業開始・認可取得はあくまでも取り組みのスタートラインに過ぎない。この点に留意しながら、社内の志気やプロジェクトの進行を効果的にコントロールすることが重要となる。もう1つの罠は、“できること”と“すべきこと”のバランスを崩してしまうことである。初期段階の構想・戦略では“すべきこと”の比重を大きく保つことが比較的容易だが、事業開始のフェーズに近づくにつれ、目先の“できること”に集中してしまう傾向が見られる。この点にも注意が必要だろう。

システムにおける成功のポイント

また異業種が金融分野に参入する場合は、システム・テクノロジーの観点でも留意すべきポイントがいくつかある。ポイントの1つ目は、環境の変化や方針変更へ迅速かつ柔軟に対応できるクライアント・ビジネス・ITの「座組」と、それを支えるための「仕組」である。金融サービスを新たに展開する場合には、システムやアプリケーションの新規構築が必要となるだけでなく、それらがサービス提供に中核的な役割を果たす。そのために、事業計画など様々な外部要因の方針変更が、開発中のシステムに影響を及ぼしやすい傾向が見られる。方針・認可の変更がシステム構築と並行して進められる中で、ウォーターフォールをはじめとする従来型アプローチを取ると、プロジェクト進行のスピード感やステークホルダー間のコミュニケーション、あるいは情報収集という面で制約・問題が生じる可能性が高いだろう。

今回紹介したMarCoPayの取り組みでは、マイルストーンを明確にしながらWAVE/SPRINTを計画し、それをクライアント・ビジネス・IT間で有機的に共有しながら、スケジュール上のフィージビリティを常時判断していく。すなわちアジャイル的な開発思考を忠実に実現できたことが、プロジェクトのスピーディーかつ円滑な進行に大きく貢献したと考えている。

2つ目のポイントは、高い共有性と拡張性、安全性を保ちながら、効果的にデータの一元管理を行う仕組みを実現することである。長い時間をかけて収集した自社データをパートナー企業へ公開することを逡巡する、あるいは自社利益を重視したアプローチでデータ活用を進めるといったケースが少なくないのはある意味自然なことである。しかし異業種連携では、各企業が1つの参加者としてエコシステムへ加わり、自らのデータを共有しながら、他のパートナーや連携によって生成されたデータを有機的に活用する。そしてそこに生じるデータ共有の連鎖により、さらなるサービスや連携の輪が生まれ、エコシステムの活性化につながる。こうしたプラスの循環を生み出しながら、事業拡大や成長の可能性を高めるデータ共有の仕組みが極めて重要となるだろう。

業種の垣根がこれまでにないスピードで消失しつつある中、複数領域での事業展開に不可欠な金融サービスには、ますます多くの異業種企業が参入している。本連載で紹介した日本郵船(MarCoPay)様の事例は、異業種ならではの柔軟な視点がもたらす金融サービスの可能性とその潜在力を如実に物語るものである。こうした流れの中で企業が生き残りを図り、さらなる成長機会を模索するためには、自らの立ち位置と強みを的確に理解し、協業先として他社に選ばれるような仕組みと訴求力を磨くことがこれまで以上に求められている。自社のビジネス領域へ参入する異業種を例外なく競合とみなす時代は終わりを告げた。“金融”の役割そのものを見直し、様々な分野で専門的知見・ノウハウを持つ企業との連携・協業の機会を積極的に模索しながら、新たな環境の中で自社の強みを成長の推進力へと転換していく姿勢が今求められている。

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