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異業種による金融参入事例〜MARCOPAYの実現に向けた日本郵船の取り組み

本連載の第1回では、国内市場における異業種連携の最新動向と、金融サービスの位置付け、連携の実現に向けて初期構想段階に検討すべきポイントなどについて解説した。第2回ではこれを踏まえ、具体的事例として日本郵船の電子通貨事業MarCoPayのCEO 藤岡敏晃様のお話を紹介していく。

異業種による金融参入事例〜MARCOPAYの実現に向けた日本郵船の取り組み
  1. MarCoPay実現の経験がもたらす示唆と教訓
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

MarCoPay実現の経験がもたらす示唆と教訓

MarCoPay Inc. CEO President 藤岡敏晃 様

MarCoPayは、船会社である日本郵船がフィリピンのパートナー会社と共同で立ち上げた電子通貨の事業会社で、現場が直面する課題や海運業界(特に船員)の持つ潜在的な経済力をより効果的に活用することをミッションとして掲げている。

今回私たちがフィリピンを拠点とした大きな理由は、海運業界における同国の影響力の高さである。全世界の船員(約150万人)のうちフィリピン人は約15%(約22万人)を占め、日本籍船の船員に占めるフィリピン人の割合も80%に達する。また給与レベルが同国における平均所得の8〜18倍に上るなど、船員は非常に高い経済力を持っているが、洋上における金融インフラが発展途上なこともあり、必ずしもそのポテンシャルに見合ったサービスを享受できていない。また長い期間にわたり離れて暮らすことになる船員の家族も、生活の様々な側面で利便性の問題に直面しているのが現状である。電子決済・国際送金・再現金化が可能な電子通貨プラットフォームの構築をつうじて、船員とその家族の生活を向上するのがMarCoPay立ち上げの狙いだった。

社内プロジェクトとして検討を始めた段階から、フィリピンの中央銀行から認可を取得するまで、本プロジェクトにはアクセンチュアとシティグループの支援を受けながら取り組んだが、この経験から学んだことは2つある。その1つ目は、社内承認を確実・迅速に進めるため、外部の支援を活用しながら明確なビジョンを掲げることである。海運業界・船会社が抱える課題やペインポイントは、構想段階から把握していた。しかし直面する課題をどのようなソリューションで解決に結びつけるのか、私たちが独自に導き出した解が本当に正しいのかといった部分は初期段階の大きな悩みであった。私たちの希望やイメージを具体的手法に落とし込み、その妥当性を評価・判断するといった面は、アクセンチュアの支援なくして実現できなかったと感じている。また客観的なアドバイスをいただいたことで、船上での現金決済やコスト削減といった目先の課題だけでなく、船員が持つ高い経済力をいかに長期的価値へ結びつけていくかというビジョンも明確化できた。ロードマップやプロジェクト全体のイメージを高い説得力を持って示せたことが、実現に向けた大きなハードルの1つである迅速な社内承認につながったと考えている。

2つ目は、戦略・業務・システム構築を一気通貫かつスピード感を持って実行することの重要性である。初期構想からフィージビリティの検証、立上げ準備、認可取得・システム開発・業務設計まで、異業種への参入には十分な知見・経験を持たない様々なプロセスがつきものである。常に変化する金融市場でプロジェクトの成功実現性を高めるためには、各領域のプロである連携パートナーの能力も活かしながら一体的かつスピード感を持って取り組むことが不可欠だろう。MarCoPayの実現に向けた取り組みでも、パートナーが様々な分野で蓄積してきた専門的知見・ノウハウを活かしながら、自分たちで取り組むべき領域とパートナーに任せる領域(特に金融機能など)をうまく取捨選択できたことが今回の成功につながったと考えている。

初期構想の段階から現地政府との折衝、システム・サービスの構築まで、今振り返ってみても自社だけで全てを実現することは不可能だったと感じている。金融という新たな領域への参入を決めた際、立ち上げに向けた準備体制のあるべき姿を検討するため様々な専門家に相談した。その中でアクセンチュアにサポートをお願いすることとなったが、私たちが知見・経験を全く持たない金融という領域で何が正解なのか、どのような戦略を描くべきなのかといった点について的確なビジョン・判断材料を提供していただいたことは大きな助けになった。また、様々な側面でアドバイスをいただかなければ、これだけの規模を持つ新規事業を極めて短いスケジュールの中で効率的に実現できなかったと感じている。その意味でも、早い段階から各分野のプロとの連携を進めることは極めて重要だろう。

オープンプラットフォームとしてMarCoPayを構築することで私たちが視野に入れているのは、現在スタート準備中の船員向け電子通貨サービスだけではない。今後は高い経済力を持つ船員・家族の生活ニーズのさらなる充足と利便性向上に向け、融資・リース事業や保険サービスあるいは医療面でのサポート提供も計画しており、長期的には船員のライフステージに沿った貯蓄・投資などのサービスも視野に入れている。質の高い消費者・ユーザーグループとしての船員に価値を感じていただけるパートナー企業の方々を継続的に募りながら、今後もエコシステムとして進化させていく予定である。

最終回となる第3回では、上でご紹介いただいたMarCoPayの事例を受け、異業種参入・連携の準備・実行フェーズにおける課題・ポイント、戦略・システム面での成功の要諦について解説していく。

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