IFRS SXの背景と論点整理

問題意識を緩和するためには、IFRS SXが求められた背景について論点整理が必要である。そもそも財務会計基準と異なり、環境や社会といった非財務情報の開示基準は、国際的なコンセンサスを得たものが存在していなかった。

社会的課題を金融行動によって解決を目指すESG投資の隆盛に従い非財務情報の開示内容の重要性が高まったことによって、社会的課題に問題意識をもった組織や団体がフレームワークや基準設定の役割を担うことになった。

やがて、投資家に代表される情報利用者は、非財務情報開示においても情報の比較可能性や連続性、網羅性といった開示情報の質を意識するようになり、統一的な非財務情報の開示基準が求められるようになった。

その切欠となったのが、2014年に設立されたCorporate Reporting Dialogue(以下CRD)である(※4)。CRDは、ISSBが設立されるまでの間、開示のフレームワーク・基準間の一貫性と質の向上を目指すプラットフォームとして活動成果を残し、IFRS SXの内容にも大きく反映されている (※5)。

分析の中には、非財務情報開示におけるマテリアリティの定義だけなく考え方の整理や開示情報としての目的の適合性についても明らかにしており、将来的な財務会計基準との整合性も考慮した概念整理がなされている。

このようにIFRS SXは、そのプロトタイプが公表されるよりも前の段階から非財務情報開示を統合するための多くの知見が結集されたものであり、一朝一夕に策定されたものではない。

つまり、IFRS SXは、情報作成者である企業と投資家に代表される情報利用者の間で従来から利用されている対話ツールの延長線上にあるものとしても差し支えないであろう。もし、会計基準化後に実務上の課題が出てきたとしても、過去からの位置づけが相互に認識されていれば、トライアンドエラーを繰り返しながらも開示ツールとして利用されると考える。

脚注 ※
※4 参加したフレームワーク・基準の設定主体は、CDP、CDSB、GRI、IIRC、SASB、IASB、FASB、ISO、の8つの団体であり、事務局は、IIRCが行い、FASBはオブザーバーとしての参加していた。
※5 代表的な活動成果としては、CDP, CDSB, GRI, IIRC and SASB(2020)“Statement of Intent to Work Together Towards Comprehensive Corporate Reporting”などがあげらえる。

参考文献 ※
※日本政策投資銀行 設備投資研究所「サステナビリティ情報開示基準について考えなければならないこと」『視点・論点』(2022年1月)

※本コラムは、作成者個人の責任で作成したものであり、内容は意見については、株式会社日本政策投資銀行の公式な見解をしめすものではありません。

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寄稿
株式会社日本政策投資銀行
設備投資研究所
主任研究員
(博士(経営管理))
松山 将之 氏
大学卒業後,住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)に入社、2008年より現勤務先の財務部門においてALM企画を担当。2013年より現職。現在、企業開示の研究並びに、気候変動開示シナリオ分析・気候変動リスク管理についての調査を担当。