ブルーボンドの今後の見通し
2022年6月、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)、国際資本市場協会(ICMA)、国際金融公社(IFC)、アジア開発銀行(ADB)、国連グローバルコンパクト(UNGC)など5つの主要国際機関が共同で、持続可能なブルーボンド原則(ブルーボンドの実務ガイドライン)を、2022年秋に発行する予定だと発表した。この発行により、健全かつ持続可能なブルーエコノミー推進が期待される。
参考:UNEP FI JOINS INTERNATIONAL COALITION TO DEVELOP GUIDANCE ON BLUE BONDS|UNEP FI
2022年8月時点においてはブルーボンドの発行額・発行件数がごく少数であるため推移や累計データは見られないが、参考としてその他のSDGs債(サステナビリティボンド、ソーシャルボンド、グリーンボンド)の推移をご覧いただきたい。
グリーンボンドについては、2014年1月にICMA(国際資本市場協会International Capital Market Association)が「Green Bond Principles、ICMA グリー ンボンド原則」を策定しており、日本では2017年に環境省が「グリーンボンドガイドライン」を策定している。 推移グラフを見ると、世界、日本ともにガイドライン(原則)の策定後からグリーンボンド発行が大きく伸びている様子が見てとれる。適切な検討・判断に有用な指針が示されたことで、発行体側の事務負担やコストの軽減につながり、右肩上がりに増加したものと考えられるだろう。ブルーボンドもガイドラインが策定されればグリーンの例のように発行が増えると推測できる。(グラフは金融庁|ソーシャルボンドガイドラインを参考に筆者作成)
未来のブルーファイナンス予想図
ブルーボンドの発行数が増え、さまざまなプロジェクトの実績が蓄積された近未来を想像してみていただきたい。たとえば同じ金額を投資した異なるブループロジェクトを比較して、どんなボンドがより効率的に海洋環境に正のインパクトを生み出しているかなど、環境効率の観点で比較できるようになっているかもしれない。こうしたプロジェクト間の比較や個々のプロジェクトの成果を評価できるようにするために、アウトカムやインパクトを測る指標の検討が重要になるだろう。
この指標の検討という点に関して、一つのアイデアを述べながら締めくくりたい。海洋生物の多様性を測る主要指標に「サンゴ分布状況」というものがある。サンゴには多様な海の生き物が集まり、その営みが複雑で豊かな生態系を織りなしているが、海水温の上昇や海洋の酸性化など何らかのストレスを受けると、サンゴは白化(死亡)してしまう。日本では水温上昇によってサンゴ分布が北上していることも観測されている。サンゴの分布状況の観察は、気候変動や海洋環境の変化と多くの生物の生態系が関係しあっていることを明らかにしており、一定のモニタリング性がある。近年の技術発展により、衛星画像を活用したサンゴ礁のリアルタイムモニタリングが可能になってきており、ブループロジェクトのアウトカムやインパクトを測る指標の一つとしてのポテンシャルがある。効果の定量化が可能になれば、ブルーボンドの発行にも弾みがつくはずだ。数年後か数十年後のブルーボンドでは、地方自治体や企業単位で紐づけられる海域のサンゴの分布状況によって金利が適用される….そんな未来が到来するかもしれない。
現時点ではまだ世界でも発行数がわずかなブルーボンドであるが、生物多様性保全や気候変動対策とも深い関連性がある分野への債権であるため、注目度が高まると考えられる。今後の動向にも注視していきたい。
- 寄稿
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サステナブル・ラボ株式会社
https://suslab.net/
代表取締役
平瀬 錬司 氏大阪大学理学部卒業。在学中から環境、農業、福祉などサステナビリティ領域のベンチャービジネスに環境エンジニアとして携わる。これらの領域において2社のバイアウト(事業売却)を経験。2019年に同社を立ち上げ、サステナビリティ×データサイエンスを軸に、国内外企業の環境・社会貢献度をAIで数値化した非財務データバンクを開発。真に”良い企業”が照らされる社会の創成を目指す。京都大学ESG研究会講師。
■金融機関向け非財務データバンク「TERRAST(テラスト)β」■事業会社向け非財務データバンク「TERRASTβ for Enterprise(T4E)」