- ブルーボンドとは何か
―ブルーボンドの使途選定基準 - 世界や日本でのブルーボンドの発行例
―ブルーボンドの発行例、発行額 - ブルーエコノミーの市場規模や可能性
- ブルーボンドのメリットや課題
(1)ブルーボンド発行のメリット
(2)ブルーボンドへの投資メリット
(3)一方でブルーボンドには課題も - ブルーボンドの今後の見通し
- 未来のブルーファイナンス予想図
ブルーボンドとは何か
ブルーボンドとは、海洋保全や持続可能な漁業支援等に使途を定めた債権のことである。ブルーボンドはESG債(SDGs債)のひとつであるが、現時点での発行数はまだ少なく、これから注目度が高まると考えられる。おもなESG債(SDGs債)の種類は以下を参照いただきたい。
サステナビリティボンド | 社会課題と環境課題、双方に取り組むプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券 |
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ソーシャルボンド | 社会課題に取り組むプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券 |
グリーンボンド | 環境課題に取り組むプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券 |
ブルーボンド | 海洋課題に取り組むプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券 |
ブルーボンドの使途選定基準
ブルーボンドによって調達される資金は、明確に海洋環境の改善や保全効果がもたらされるプロジェクトに使用されるべきである。使途の例として、海洋汚染防止事業の研究開発費、人材教育費、海洋プラ問題解決技術開発への投融資などが考えられる。
世界や日本でのブルーボンドの発行例
世界ではじめてブルーボンドを発行したのはインド洋のセーシェル共和国。115の島から成るセーシェルは、多様な海の生物や鳥が暮らす豊かな環境が特徴で、美しい海の観光スポットであると同時に、マグロやエビなどの輸出も盛んに行われている。観光業と漁業が主要産業であるセーシェルにとって、海洋環境は経済成長と自然保護の両方の観点で重要な資源である。2018年セーシェル政府は、豊かな海洋生態系を保護しながら持続可能な漁業に移項し海洋経済の成長していくため、世界初のブルーボンド国債を発行し1500万ドルを調達した。調達した資金は、海洋保護区の拡大、漁業ガバナンスの改善、ブルーエコノミーの発展などの使途に充てられる。
参考:
Seychelles launches World’s First Sovereign Blue Bond|THE WORLD BANK、Seychelles launches world’s first Sovereign Blue Bond|State House OFFICE OF THE PRESIDENT OF THE REPUBLIC OF SEYCHELLES
セーシェル基礎データ|外務省
それ以降も世界銀行やアジア開発銀行などが、海洋保全プロジェクト向けのブルーボンドを発行している。日本では、マルハニチロ株式会社が本邦初となるブルーボンド発行に向けて検討をはじめたことを2022年8月に公表した。
ブルーボンドの発行例、発行額
時期 | 発行順 | 内容 |
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2018年 | 1500万ドル | インド洋の島しょ国セーシェル共和国が2018年世界初のブルーボンド国債発行。 |
2019年 | 2億3400万ドル相当(20億スウェーデンクローナ) | 北欧投資銀行(NIB)がスウェーデン・クローナ建てブルーボンド発行。バルト海の廃棄物処理や水質汚染防止、生物多様性の回復に焦点を絞る各プロジェクト向けの資金を調達。 |
2019年 | 1,000万ドル | 世界銀行が海洋プラスチック問題への認知拡大を図るため、同分野を資金使途とする「持続可能な開発ボンド」を発行。機関投資家と個人投資家の両方を対象としている。 |
2020年 | 9億4250万ドル相当 | 中国銀行がアジアで初めてのブルーボンドを発行。世界で初めての商業銀行による発行事例。 |
2021年 | 1億5100万ドル相当(2億800万豪ドル) | アジア開発銀行(ADB)がアジア・太平洋地域の海洋関連プロジェクトへの融資を目的にオーストラリアドルおよびニュージーランドドル建てのデュアル・トランシェ・ブルー・ボンドを初めて発行。 |
2022年度予定 | 未定 | マルハニチロが日本国内初のブルーボンド発行に向け検討開始。みずほ証券株式会社が発行支援。 |
参考:
Bank of China issues Asia’s very first blue bonds | Crédit Agricole CIB (ca-cib.com)
ADB、初の海洋投資向けブルー・ボンドを発行 | Asian Development Bank
NIB issues first Nordic–Baltic Blue Bond – Nordic Investment Bank
本邦初となる「ブルーボンド」の発行に向けた検討の開始に関するお知らせ |マルハニチロ プレスリリース
ブルーエコノミーの市場規模や可能性
ブルーエコノミーは、持続可能性に配慮した海洋経済活動を意味する。COVID-19のパンデミック発生以前の試算では、2010年から2030年にかけてブルーエコノミー関連の市場規模は約3兆ドルに達し、4000万人を雇用する可能性があると予想されていた。しかし、今の段階では、持続可能な海洋経済に移項するために必要な投資額には十分達していない。ブルーボンドはこの必要調達額と現状のギャップを埋め、持続可能な海洋経済の実現を支援する力を秘めていると言えるだろう。
参考:OECD work in support of a sustainable ocean|OECD
とくに海に囲まれた日本は、ブルーエコノミーへの力の入れようによっては大いに期待できるのではないか。日本の海域面積(領海と排他的経済水域を合わせた海域の面積)は約447万㎢で世界第6位で、漁業、養殖業、海運業、造船業、水産加工業など海洋産業にかかわる事業やプロジェクトが数多く存在する。日本のこれらの産業が持続可能性に本気で取り組み、ブルーエコノミーに向け大きく舵を切れば、経済的にも海洋環境的にもよいインパクトを生めるかもしれない。
ブルーボンドのメリットや課題
ブルーボンドの発行・投資を行うことには、どんなメリットがあるのか。より実効的な資金の使い方や債券への投資をするには、メリットだけでなくブルーボンドが抱える課題についても知っておくことが重要である。
ブルーボンド発行のメリット
- 新たな投資家との関係構築と資金調達基盤の強化
ブルーボンドを発行する側にとっては、ESG投資を行うことを表明している機関投資家や、海洋環境問題の解決に資する投資対象を高く評価する個人投資家と新たに関係を構築できるチャンスとなり、安定的な資金調達の基盤強化につながる。 - ブループロジェクト推進による社会的な支持の獲得
ブルーボンドの発行によって、海洋環境を守るプロジェクトの推進に積極的な姿勢を社会に示すことができ、社会的な支持の獲得につながる。 - サステナビリティ経営の高度化と長期的価値の創造
ブルーボンド発行を通じて、企業内のサステナビリティ戦略の見直し、ガバナンス体制の整備、リスクマネジメント強化につながり、中長期的な企業価値の向上に資する可能性がある。
ブルーボンドへの投資メリット
- 投資利益と海洋環境保全面の利益の両立
ブルーボンドへの投資を行うことで、債券投資による利益を得ながら、ブループロジェクトへの資金供給を通じて海洋環境保全の実現を支援し、持続可能な社会の実現に貢献できる。 - オルタナティブ投資としての分散でリスクヘッジ
プロジェクトボンドとして発行されるブルーボンドは、上場株式や債券といった伝統的資産以外のオルタナティブ投資の側面を有するため、分散投資によるリスク低減として有効な投資先のひとつになり得る。
一方でブルーボンドには課題も
- 見せかけのブルーウォッシングの回避
環境配慮しているように見せかけ実態はそうではなく、環境意識の高い投資家や消費者に誤解を与え問題になっているグリーンウォッシュ。ブルーボンドでも、上辺だけの海洋保全プロジェクトにならないようにアプローチすることが重要になる。 - 効果を評価・測定するための指標の不足
ブルーボンドの効果を評価・測定するための指標については、十分な開示事例が蓄積されておらず、参照可能な資料が少ないという課題がある。 - 海洋資源管理の多国間協力の必要性
海洋の汚染源は必ずしも一か国・一地域に限定されない。また持続可能な漁業を行うには近隣水域国との協調が欠かせないプロジェクトを通じて効果的に課題を解決するためには、多国間協力が必要となる。
- 寄稿
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サステナブル・ラボ株式会社平瀬 錬司 氏
代表取締役