金融機関における働き方改革の“現在”~「30% Club Japan」の取り組み

金融機関における働き方改革の“現在”~「30% Club Japan」の取り組み

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2019年4月の働き方改革関連法案の施行を受け、日本企業の労働環境の変革が期待されている。残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化など、働き方の見直しを進める企業が増える一方、生産性や売上向上に結び付かないとの声もある。その理由には方法論が先行し、なぜ働き方改革を実施し、何を目指すかに関しての理解不足も挙げられる。本特集では、全3回に分け日本企業が目指すべき働き方改革と、その実行に向けた課題を様々な視点の取り組みに基づき考えていく。本稿では、「企業のトップ層からの組織変革を生む成功のカギは「Group Think」からの脱却」をテーマに取り組んでいる30% Club Japan創設者の只松美智子氏に話を聞いた。

  1. TOPIX100を対象に女性役員比率30%を目指す
  2. メンバーの枠組みを超え社会全体に働きかける
  3. 女性活躍を妨げるアンコンシャスバイアス

TOPIX100を対象に女性役員比率30%を目指す

「日本でもESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続的な開発目標)という言葉が浸透するにつれて、日本企業が既存のビジネスモデルを見直す機運が高まってきた。これまでの延長線上に持続可能な成長が見込めないのであれば、新しいビジネスモデルを模索し、企業構造を根本から見直すタイミングに差し掛かっているのではないか」─。そう語るのは、30% Club Japanの創設者の只松美智子氏だ。

2019年5月、企業の役員に占める女性割合の向上を目的としたイギリス発のキャンペーン「30% Club」が、30% Club Japanとして日本での活動を開始した。具体的な目標としてTOPIX(東証株価指数)100(東証1部の時価総額上位100社)の構成企業を対象に、取締役会に占める女性比率を2020年末までに10%、2030年までに30%に引き上げることを掲げている。

日本におけるキャンペーン発足の経緯について只松氏は、「年々、国際社会において金融機関をはじめとした日本企業の存在感が低下していることに危機感がある。例えば、日本企業の優秀な人材を獲得する力や、獲得した人材を維持する力、イノベーションを創出する力は各国企業に劣り、これら指標は企業の女性活躍の度合いと相関が高いと言われている。そのため、日本企業の国際競争力強化には、ダイバーシティの実現が最重要課題の一つになると考えている」と話す。

30% Clubの活動内容は、企業のトップがメンバーとして加わり自社の女性役員比率を引き上げるために取り組むとともに、機関投資家や政府機関、メディアなど、様々なステークホルダーを巻き込みながら社会全体のジェンダー課題の解決を後押しすること。実際に、キャンペーンの発祥地・英国ではFTSE100種総合株価指数の女性役員比率が、2010年の活動開始当初の12.6%から2018年には30.6%まで上昇したほか、年間平均成長率は5.9%から12.0%まで上昇するなど、活動の成果がでている(図表1)。

メンバーの枠組みを超え社会全体に働きかける

これまでも、ダイバーシティを推進する活動や団体はいくつか存在したが、「30% Club Japanは、従来の活動とは一線を画する」(只松氏)という。例えば、30% Club Japanのポイントの一つが「意思決定権限を持つ企業トップがコミット」する点だ。

只松氏は「組織の構造改革を進めるには企業のトップ層のコミットは必要不可欠だ。実際に、トップ層の多様性と組織全体の多様性には相関関係が確認されている。そのため、30% Clubでは、加入できるメンバーをCEO(最高経営責任者)やボード議長など、企業トップの個人だけに限定している。また、参加メンバーには、自社のトップ層(取締役、マネジメントチームなど)に占める女性割合の明確な数値目標と期限設定、さらには自社の従業員や関連企業に対してダイバーシティの実現を呼びかけるようお願いしている」と語る。

そのほか、30% Club Japanの特徴として影響力を持つ様々な機関と協業する「統合的アプローチ」が挙げられる。具体的には、機関投資家や政府、メディア、コンサルティングファームや弁護士、大学機関などと協働しつつ、各分野における専門性を生かしながらジェンダー課題の解決を社会全体に働きかけていくという。

只松氏は、「例えば、機関投資家には株主という立場から、企業に対してジェンダー課題の解決に取り組むよう働きかけてもらうほか、メディアにはジェンダー課題に対する正しい情報発信と世論形成を期待している。このように30% Club Japanがジェンダー課題解決のプラットフォームとなり、様々な機関がそれぞれの立場から働きかけることで社会全体の意識改革を進める方針だ。他のダイバーシティを推進する活動は参加メンバーに対する働きかけが中心的になるが、30% Club Japanでは参加メンバーの枠組みを超え、社会全体に働きかける点が大きな特徴だ」と強調する。

女性活躍を妨げるアンコンシャスバイアス

30% Club Japanの創設者の立場から只松氏は、日本企業の現状をどのように見ているのか。只松氏は、「多くの日本企業が直面している課題は、これまで通りのビジネスモデルが通用しなくなってきていること。従来のやり方や考え方の延長線上に企業の成長が無いのであれば、いままで通りの同質的なメンバーによる『Group Think(集団浅慮)』から脱却し、これまでとは違った多様な人材の発想を取り入れるべきだ。それが、次の時代を切り抜ける新しいビジネスモデルを生み出す力になると考える」と語る。

また、只松氏は、金融機関はジェンダー課題の解決において大きな役割を担うと語る。「世界的に女性企業家に対するファイナンシング(資金調達)が不十分であり、ビジネスにおける女性の地位向上を妨げている要因の一つとなっている。審査の際に、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が働いてしまうのが要因と考えられる。今後は、金融機関が積極的に女性に対する融資などを進めることで、ジェンダー課題の解消に向けたリーダーシップを発揮してほしい」と語る。

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