金融機関における働き方改革の“現在”~「東京海上日動火災保険」の取り組み

金融機関における働き方改革の“現在”~「東京海上日動火災保険」の取り組み

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2019年4月の働き方改革関連法案の施行を受け、日本企業の労働環境の変革が期待されている。残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化など、働き方の見直しを進める企業が増える一方、生産性や売上向上に結び付かないとの声もある。その理由には方法論が先行し、なぜ働き方改革を実施し、何を目指すかに関しての理解不足も挙げられる。本特集では、全3回に分け日本企業が目指すべき働き方改革と、その実行に向けた課題を様々な視点の取り組みに基づき考えていく。本稿では、「社内業務の無駄を徹底的に削減捻出したリソースは付加価値創出に」をテーマに取り組んでいる東京海上日動火災保険の中井章雅氏に話を聞いた。

  1. 競争力の源泉は“ヒト” 社員とチーム双方を活性化
  2. いつ、どこにいても、オフィスと同じ生産性を実現

競争力の源泉は“ヒト” 社員とチーム双方を活性化

世間一般で語られる「働き方改革」の文脈では、長時間労働の是正をはじめ、非正規雇用の解消や女性の活用など、日本企業の様々な問題点が指摘されている。こうした状況の中、他社の事例を参考にしつつ、問題提起された題に関して改善に努める日本企業が増える一方、生産性や企業価値の向上などの効果が表れている企業は少ない。東京海上日動火災保険 人事企画部 次長の中井章雅氏は、「本来、企業ごとにビジネスモデルや置かれている競争環境は異なるため、各企業は自社の状況に適した働き方改革の在り方を探る必要がある」と語る。

東京海上日動火災保険の働き方改革は、「自社にとっての働き方改革とは何か」を見直すところから出発した。中井氏は「当社にとっての働き方変革とは、社員一人一人とチームを活性化させることにより、社員と会社の双方を持続的に成長させる経営戦略そのものだ。特に、保険業界における競争力の源泉は“ヒト”にある。いかに社員の働きがいを高めていけるかが、会社の成長を左右すると考えている」と強調する。

具体的な同社の働き方変革の全体像は12ページの図表2の通り。アプローチの方法としては、「仕事の中身(質)の変革」と「働く時間・場所の変革」に分かれる。

一つ目の「仕事の中身(質)の変革」で同社が目指したのは、社内業務の無駄を徹底的に削減し、捻出したリソースを攻めの領域にシフトすることで、顧客に高い付加価値を提供することだ。中井氏は、「1999年の保険自由化以降、保険業界では各社の商品開発競争が激化したことにより業務プロセスが複雑化し、社員の業務負荷が増加した。そこで当社は、2008年に商品の仕組みと事務作業の単純化・機械化を進め、社員の定型事務を大幅に削減した。こうした業務の抜本改革と同時に進めたのが社員の役割変革だ。従来は『営業=男性』『事務=女性』と性別によって分担していた業務について、性別による線引きを取り払い適材適所の業務分担に切り替えた。以降、女性の営業担当者が増加し、それが当社の市場シェアを大きく伸ばす結果につながった」と語る。

ビジネスモデルの変革とともに女性社員の活用を進めた同社は、企業における女性活躍の成功モデルと言えるだろう。実際に、同社の女性の準リーダーと管理職者の推移を見ると、2007年から2018年の10年間で準リーダーは3倍以上、管理職者は5倍以上に増加。2023年度末には準リーダーに占める女性の割合を50%以上にすることを女性活躍推進法の行動計画として掲げている。

「仕事の中身(質)の変革」により、社内業務の無駄を徹底的に削減した同社だが、捻出したリソースはどのような領域に生かされているのか。中井氏は付加価値創出のキーワードとして「デジタル戦略」と「グローバル戦略」を挙げる。「当社は、最先端技術を有する多様なパートナー企業と連携することにより、Insurtech(保険とIT技術の融合)研究を活用した質の高いサービスの提供を目指している。また、社内業務の削減により捻出したリソースは海外事業の成長にもつながっている。2002年にはグループ全体の2%程度だった海外事業収益は、現在は収益の半分を占めるほどに成長を遂げた。グループ全体として事業リスクを分散できるほか、社員にとっては活躍できるフィールドが広がったことにより、働きがいを高めることができている」(中井氏)。

いつ、どこにいても、オフィスと同じ生産性を実現

同社の働き方変革における2つ目のアプローチが「働く時間・場所の変革」だ。

従来の同社の働き方は、決められた時間に出社し、紙の書類を使った業務を決められた席で行うというものであった。当時を振り返り中井氏は「数年後、当社は男女問わず、育児・介護など時間と場所の制約を受ける社員が増えることが見込まれており、早急に対応する必要があった。また、インターンシップの学生など、若い世代から当社の旧型の働き方を見て驚かれることがあり、ミレニアル世代にとって魅力的な労働環境にするため、テクノロジーも活用して柔軟かつ生産性の高い働き方に変わる必要があった」と語る。

同社の「働く時間・場所の変革」のゴールは、社員がいつどこにいてもオフィスと同じ生産性を実現し、社員が自ら時間と場所を柔軟に選択できるような環境を作ることだ。また、一人ひとりの働き方を柔軟化する一方で、社員同士のコミュニケーションをこれまで以上に活性化させてチームの一体感を高めるという一見相反する2つを同時に実現することにある。

具体的な施策として、従来、育児と仕事を両立する社員のみに限定していた在宅勤務制度を2017年に全社員を対象にした「テレワーク制度」に拡充。「一部の社員の特別な制度」ではなく、「全社員の当たり前の制度」にすることによって、柔軟な働き方を企業風土として定着させる狙いだ。その際、社員のPC端末をすべてモバイル化し、仕事に必要な情報をすべてクラウドで管理することで、社員がいつでも・どこからでも仕事ができる環境を整備した。また、社員同士のコミュニケーションを活発にするため、LINEやfacetime(ビデオ通話)などを活用し遠隔による社員同士の接点を強化したほか、オフィス空間も改革。様々な部門の社員が気軽に集まって対面による打ち合わせができるコラボレーションスペースを社内に設置している。

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