- はじめに
- 最大限活用するためのポイント①実現可能な点、実現が難しい点を明確に理解すること
- 最大限活用するためのポイント②“3つの壁”への理解と克服に向けた取組み
- 最大限活用するためのポイント③組織改革に求められる基本事項の徹底
- RPAがもたらす副次的効果
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。
はじめに
2016年中頃から日本で徐々に普及しはじめたRPAは現在、導入企業数という意味でも活用分野という意味でも爆発的に拡大しつつある。
地域ごとの偏りがなく、あらゆる業界・領域でスピード感を持って利用が広がっている状況からも、一時的ブームにとどまらず、企業のビジネスに根ざした形で業務の一翼を担っている現状が伺える。
今RPAを取り巻く環境には非常に興味深いトレンドが見られている。それはグローバルの中で、日本がトップリーダーとしての地位を固めつつある。約3年前にRPAブームが起きた際には、先進テクノロジーの例に漏れず、海外事例を参考にしながら試行するケースがほとんどであった。
しかし、労働人口の減少や働き方改革などの社会課題を背景に普及が急速に進む現在、むしろ日本の活用事例に海外企業の注目が集まるという新たな流れが見える。RPAの持つポテンシャルを最大限活かし、グローバルリーダーとして先進的な活用法を更に模索することが、今我々に求められている。
日本の金融機関でも活用が進むRPAですが、必ずしも全てのユーザーがスケーラブルに導入を進め、大きな効果を享受できているわけではない。RPAの潜在的な力を余すところなく引き出すためには、大きく分けて3つのポイントを押さえることが不可欠である。
最大限活用するためのポイント①実現可能な点、実現が難しい点を明確に理解すること
まず1つ目のポイントとして重要なのはRPAで実現可能な点、実現が難しい点を明確に理解することである。RPAは従来のシステム開発に比べ、安価かつ手軽に短期間で導入することができる。
またEUC(エンドユーザーコンピューティング)のようにユーザー自身が保守メンテナンスを行うことができ、プログラム・ログなどをサーバーで集中管理できる製品を使えばガバナンスのコントロールも可能だ。どの組織・領域にも必ず導入の余地はあり、確実に業務の効率化と高い費用対効果を実現できることも大きなメリットである。
ただしRPAでは実現できないこともあり、日本企業では個々の業務がサイロ化されていることが多いため、業務全体への適用は難しいのが実情だ。周辺のIT環境の変化の影響を受けるため、安定した稼働・運営や既存システム変更によるプログラム改修などの保守面でも少なからず負荷が生じる。
またガバナンスコントロールという面でも、導入の容易さゆえに各部門が独自に取り組みを進め、異なった製品をばらばらに利用するといった状況が生じやすくなる。
そのため、対象業務の選定や実際に利用を開始する局面では時間・手間のかかるチェックプロセスの実行を強いられ、RPAのこうした特性と制約を見極めながら、各組織・部門の実情に沿った活用の最適解を模索する努力が求められるのである。
最大限活用するためのポイント②“3つの壁”への理解と克服に向けた取組み
2つ目のポイントとなるのは、RPA活用の際に多くの企業が直面する“3つの壁”を理解し、克服に向けた取り組みを行うことだ。
1つ目の壁:Discovery(ディスカバリー)の壁
RPAの活用対象を特定する過程で直面。費用対効果が実現しやすい業務へ導入したものの、細分化された様々な業務に対しさらなる適用が進まない。
2つ目の壁Delivery(デリバリー)の壁
RPAの実装過程で直面。初期段階の実装は容易に進んだものの、品質が思うように上がらず、保守管理面でも負担が大きいために活用領域が拡大しない。
3つ目の壁Exit(イグジット)の壁
RPAの効果創出フェーズで直面。導入当初は現場での効果が生まれ、活用が進むものの、創出した余力を上手く使えないために組織全体としての恩恵を享受できない。
こうした壁を克服するためのポイントの1つは、業務を構成する“人”や“システム”といった様々な角度からRPAの活用対象・領域を徹底的に再検証する。
各部門の個別業務単位で判断するのではなく、顧客に価値を提供するための流れ全体に注目し、組織横断的な視点で活用を進めることが重要となる。またRPAのメリットを最大限に活かしたQCDコントロールの枠組み確立も不可欠だ。
業務特性を見極めながら、開発・導入のアプローチを使い分け、人と同様に使いながら育てるというユーザーの意識を醸成する必要がある。
もう1つ重要なのは、RPAを“付加価値”の向上に活用するという発想を持つことである。ともすれば、“投下労働量”の削減という面に意識が行きがちだが、RPAの本質的価値を発揮させるためには、これまで実現が困難だった付加価値業務の創出という視点が極めて重要である。
また管理者・監督者が不在のまま動いているRPA(いわゆる“野良ロボ”)が発生した場合は、すでに高い費用対効果を享受し投資回収ができているという割り切りを持って、必要とされる他の業務で再活用するという発想も不可欠だろう。
最大限活用するためのポイント③組織改革に求められる基本事項の徹底
3つ目のポイントは、RPAに限らず企業として組織改革に求められる基本事項を徹底することである。RPAの導入・活用を進める際には、他の企業の成功事例やそのKFS(Key Success Factor = 主な成功要因)へ関心が集まるが、効果を挙げている企業は必ずしも特別な取り組みを行っているわけではない。
POCをはじめとする仮説検証・計画策定・実行・効果創出・改善という改革サイクルを徹底して効果を生み出すという、ある意味で極めてオーソドックスな取り組みをRPAでも実践している。
そして、中核メンバーが現場を巻き込みながらこのサイクルを進めることで、大きな改革のうねりを作り、全社的な流れへと拡大させることが極めて重要となる。対象がRPAであるかどうかに関わらず、この改革サイクルを忠実に実行できる力を備えた組織は取り組みを成功に導くことができる。
逆に言えば、その力が不十分な組織ではなかなか上手くいかないケースが目立つ。RPAの導入・活用を進める局面では、こうした企業のポテンシャルの差がより顕著に現れる。
つまり、ここで問われているのは企業が持つ改革実行能力そのものなのだ。
RPAがもたらす副次的効果
RPAが企業の業務に様々な恩恵をもたらすことは上でお話ししましたが、導入の際に予期せぬプラス効果がもたらされることもある。特に多いのは、不要業務・プロセスの整理がよりスムーズに進んだという事例だ。
どの企業も業務効率化を迫られていることは言うまでもない。しかし、純粋な費用対効果といった基準で人の業務を廃止することには(特に現場レベルで)大きな心理的ハードルが伴うため、必ずしも簡単に実現しないのが現実である。
ところが、業務を人からRPAに移管することで意外な効果が生じることがある。ロボに置き換わったことで、その業務が本当に必要かどうかをより客観的に判断できるようになり、不要業務・プロセスの特定と整理がよりスムーズに進むといったケースだ。
私がこれまで携わらせていただいた案件でも、このような形で業務効率化が加速した例は数多くあり、こうした副次的効果もRPAが持つ大きな魅力の一つである。
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アクセンチュア株式会社木時 直 氏
金融サービス本部
経営コンサルティング
マネジング・ディレクター