【連載】金融機関におけるdXとは

【連載】金融機関におけるdXとは

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前回の寄稿でお伝えしたように、金融機関は加速するビジネス環境の変化の中で生き残るためにはビジネスモデルの変革を求められている。具体的には、顧客体験をOMOの観点で見直したり、新規事業を創出したり、抜本的にコスト構造の見直しをすることが必要となっている。その際に、これまで通りのやり方では対応に限界があり、本来目指したい姿には届かないのである。そのギャップを埋める鍵になるものこそが「dX」であると考えている。

  1. dXとは
  2. 金融機関が実行すべきdXとは
  3. dX推進のポイント

本日のポイント

  • dXとはビジネスモデルの変革のためにデジタルを活用することであり、dXを実現しない金融機関が今後生き残ることは難しい
  • dXを検討する際には、ビジネス、オペレーション、IT、データ、組織・人材の5つの観点から網羅的に検討していく必要がある
  • dX推進のポイントは、「Think big」「Start small」「Scale fast」である。また、推進を加速化させるために、伴走者となる外部パートナーを上手に活用することも重要である

dXとは

デロイトでは、デジタル化(Digitalization)とdX(Business Transformation with Digital)は全く違うものとして捉えている。デジタル化とは、デジタル技術を活用して「部分的・局所的」にオペレーションやチャネル等を改善することと定義している。一方で、dXは、デジタル技術を活用して全社的・抜本的にビジネスモデルを含めた変革を行いビジネスにおける競争上の優位性の確立を狙うことと定義している。それゆえに、デロイトでは、ビジネス変革が主で、デジタルは従で変革を実現するイネーブラーであるという考えのもと、DXではなく“dX”と表現している。

ただ、金融機関の取組を拝見すると、デジタル化の取組に留まっているケースが多いように感じている。要するに、“D (Digitalization)”が取組の中心で、“X (Transformation)”はできていないのである。具体的には、デジタルを活用した“深化”の取組はできているが、ビジネスモデルの変革に繋がる“探索”の取組は遅れている。また、今の延長(フォーキャスト)の取組が多く、バックキャストの取組ができていないとも言える。更に言えば、ソリューションドリブンな取組になっており、真に顧客起点・イシュードリブンな取組になっていないとも言える。

原因としては、トップマネジメントが長期的な目線で経営の舵取りができていないことに依拠していると考えられる。トップマネジメントがQuick Winを優先して“深化”の実行のみを指示することで、現場は指示された“深化”の実行に時間を取られて“探索”が疎かになっている。その結果、現場において“探索”に係る経験・知見が貯まらず新たな施策にトライするスキルも身に付かない、という悪循環に陥っているのではないかと推察される。加えて、“探索”のプロセスや取組を評価する制度等のイノベーションを創出するための仕組みが整備されていないということも一因といえよう。

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