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【講演者】
- 株式会社セゾン情報システムズ
財務経理室長
工藤 祐樹 氏
<セゾン情報システムズついて>
西武流通グループの流通系の情報子会社として立ち上げ、旧セゾングループに位置付けられた情報戦略子会社である。主な事業は、システムインテグレーションの「フィナンシャルITサービスビジネス」と「流通ITサービスビジネス」、データマネジメントソリューションの「HULFTビジネス」新たに立ち上げたビジネスであり、つなぐということをキーワードにした「リンケージビジネス」といった、4つの事業を軸に事業展開している。
<DXの市場背景と現状>
DXが注目されるようになった背景として、VUCAの時代が大きな要因といえる。VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語であり、社会環境の複雑性が増し、将来予測が困難な状況であることを意味している。まさにコロナ禍によって、われわれも身をもって体験しているが、このような予測不可能な変化に俊敏に対応するために、デジタル技術の活用、ひいてはDXが注目されている背景ではないかと理解している。DXの現状としては、経済産業省のDXレポートによると、2020年の12月時点において、まだ95%の企業がDXを実現できてない現状である。
<セゾン情報システムズにおけるDXの取り組み>
DXの取り組み推進の発端は、当社が請け負った大型開発案件で、スケジュール通りにリリースすることができずに、お客さまにご迷惑をお掛けして損害賠償請求を受けるという、SIer業界が震撼するような事態が発生した。その反省を踏まえ、「TRIBE SHIFT」と題し、組織風土の刷新のため、様々な施策を推進するとともに、デジタル化の取り組みに注力をした。
社内で使用しているシステムについては、これまでスクラッチで開発したシステムをオンプレミスで運用する環境が多く存在していたが、全てクラウド化へ移行を決め、昨年度終了時点では、68%のシステムのクラウド化を完了している。これからはSAPのS/4HANAへの移行を経て、我々が使用しているシステムが100%のクラウド化が完了する予定だ。さらにこのデジタル化の流れの中で、財務経理部門の業務の完全委託化にもつながるConcur、BlackLine、Kyribaなどのシステム導入も進めている。
<完全リモート決算への道のり>
財務経理部門を取り巻く環境の変化は、コロナ禍以前より叫ばれており、レギュレーションへの対応や、グローバル対応、テクノロジーの対応など、決算に加えて、様々な対応に追われる中、人の採用が間に合わない、働き方改革など、財務経理部門はさらなる業務効率化やプロセスエクセレンスが求められている。さらに今、コロナが追い打ちをかけ、財務経理部門の変革に拍車がかかっている。
そんな状況の中、財務経理部門は、2019年にモダンファイナンス組織への変革として、組織改革をスタートさせ、紙での運用、決算業務の属人化、などの課題に対し、各サービスを用いてデジタル化し、標準化や可視化することで目標を達成している。
当社のリモート決算の実現のための取り組みとしては、2014年にはConcurを導入し、請求書や経費精算書の電子化、2015年にはコーポレートカードを導入し、現金の取り扱いを廃止するなど、ペーパーレス化や電子承認化に着手している。さらに、転機となったのは、2017年のフリーアドレスへ制の移行であり、現在のオフィスへ移転した際に、経理も例外なく、従来の固定席からフリーアドレス制に変更している。2019年度にモダンファイナンスプロジェクトを開始して、BlackLineとKyribaなどのシステムを導入し、2019年の12月の第3四半期決算より、BlackLineを稼働させている。全社的に2020年の2月から全社員を対象にした在宅勤務が開始したが、既にBlackLineを導入し、運用開始していたということと以前から在宅勤務へ向けた取り組みしていたことから、2020年の3月期期末決算においても、スムーズに完全リモートによる決算を実現することができた。
完全リモート決算を実現するために必要な要素として、まずはペーパーレス化が前提となっており、紙の情報をデータ化がすることが最初のスタートである。そのためにはテクノロジーの整備が必要であり、自前でシステムをつくるというよりかは、元々あるクラウドサービスを利用し、このシステムの運用に合うように業務を当て込んでいき、同時に業務の標準化をすることが重要である。
また、当社にマッチする最適なクラウドサービスを利用して、それぞれの当社の製品であるDataSpiderを媒介して自動連携させ、人の手を介さずに自動連携を行なえるような、クラウドサービスを活用したエコシステムを構築している。
リモート決算の実現に向け、先に業務設計を行う「PDCA」ではなく、まずAs-Isで導入し、ペーパーレス化を実現させるところからスタートさせ、運用・項目を見直す定例会、次に、見直した結果を反映し、ブラッシュアップ行い、最後に次の決算業務へのスケジューリングを行う「DCAP」の流れで行っている。そして、決算にかかる業務時間の前年同期比においては、最大で20.7%も削減効果が表れている。
<BlackLineの導入効果について>
BlackLineの機能は、様々な機能があるが、当社がまず導入したのは、タスク管理、勘定照合、マッチングの3つのモジュールである。これら3つの機能の導入によって、大きく次の4つの効果が得ることができた。
1つ目に、決算タスクの可視化である。以前はエクセルで進捗状況などを管理していたものが、ダッシュボードで進捗状況が一目瞭然になっており、マニュアルとしての機能も含めて、情報の一元管理が可能なった。2つ目に電子承認による統制強化だ。電子化により、システムにログが記録されるため、統制強化や承認フローの可視化、承認捺印の廃止を実現している。3つ目はデータ連携による自動マッチングであり、異なるデータ同士の照合をする場合に、データ連携で自動マッチングさせることでミスもなくなり、信頼性の向上や効率化に貢献している。4つ目に、情報の一元管理であり、散財したフォルダやファイルが、BlackLineの中に情報が集約されるため、監査対応などの効率化につながっている。
モダンファイナンスプロジェクトとして、経理業務のDX化を推進しており、決算にかかる業務時間の削減効果として30%の削減を目標に導入をスタートしている。今後はさらにデジタル化による効率化を推進していき、来年の期末決算では30%削減を実現させたいと考えており、業務削減によって得たリソースをファイナンス部門が、本来、担わなければならない役割である未来志向型業務へのシフトしていく。
<完全リモート決算実現から1年を経て>
昨年の期末決算で完全リモート決算を実現してから、直近の2021年の3月期の期末決算で5回目ということもあり、リモート決算も定着化し、当期は前期よりも少ない人数で期末決算を完遂することができている。また、リモートによる監査対応の定着化や昨年度末に財務経理部門に入社した若手社員も在宅決算にも適応、BlackLineの活用についても、DCAPの継続により、効果的な活用の実践が行えている。
<今後の展望>
更なるBlackLineの有効活用によるDX化を目指して、月次決算へのBlackLineの導入やマッチング機能の拡充による、統制強化や業務効率化を図ると共に、海外子会社への展開を視野に入れ、グローバルのガバナンス強化に取り組んでいきたいと考えている。さらに、新たに仕訳入力や差異分析などのモジュールを導入し、月次決算から期末決算までをワンストップで完結させることを目指している。
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