- 「〜DX or Die〜 SOMPOが国内外で仕掛けるデジタルトランスフォーメーション」
SOMPOホールディングス株式会社 池端 大輔 氏 - 「キーエンスの高収益を支えるデータ活用術~保険業界での活用事例~」
株式会社キーエンス 渡辺 遼太郎 氏 - 「RPA活用でテストを高効率化・脱属人化!
DX最前線のテスト専門会社が伝授する、マイグレーション開発効率化テクニック」
バルテス株式会社 石原 一宏 氏 - 「Salesforceで実現する保険業務改革ーカギはパーソナライズと自動化」
株式会社セールスフォース・ドットコム 東山 勇介 氏 - 「デジタルアダプションによるトレーニングコストの削減と利用状況のモニタリング」
WalkMe株式会社 小野 真裕 氏 - 「アフラックのデジタル変革(DX@Aflac)」
アフラック生命保険株式会社 高橋 直子 氏/松尾 栄一 氏
「〜DX or Die〜
SOMPOが国内外で仕掛けるデジタルトランスフォーメーション」
- 基調講演
【講演者】 - SOMPOホールディングス株式会社
デジタル戦略部 部長
池端 大輔 氏
<SOMPOが置かれている環境>
保険業界には、商品の販売に認可が必要で、組織としてのスピード感がやや落ちるという特殊性がある。終身雇用については良い面もあるが組織が硬直的になりがちであり、常にコンセンサスを求められるため変革がしにくい。また我々は代理店様に保険販売をして頂いている「間接営業」であるため、お客様の所に足を運ぶことが少なく、結果、お客様の本当の思いや考えをつかみ切れていない。
保険業界もグローバル化が進んだと言われて久しい。私が入社した25~6年前も欧米の保険会社が日本に進出し、第三分野の販売やダイレクト販売を行うようになっていた。しかし当時のグローバル化と現在のグローバル化は異なり、現在は他業界からの参入が多くなってきている。「GAFA」をはじめとしたIT企業はデジタルを駆使してお客様の行動・嗜好を分析したうえで保険を販売できる。我々はお客様のことを把握しきれていないので大きな脅威であった。
さらに我々損保業界は、業界の変化に対する不感症(茹でガエル現象)に陥っているのではないかと考えた。よってデジタル化の遅れが原因で経営危機となり、大手IT企業の傘下に入るようなことがあってもおかしくないと危機感を覚えていた。
<デジタルラボの軌跡>
このような厳しい環境と近い将来の変革を見据え我々が仕掛けたのが「デジタルラボ」である。2014年、東京本社の経営企画部内にICT企画室というデジタル専門部署を立ち上げた。以降、シリコンバレー等を出張ベースで回り、現地のさまざまなトレンドや技術のリサーチやスタートアップ企業との提携交渉を行っていた。その際よく聞かれた質問が「How long your stay?」であり、現地のスタートアップが、出張で数日来ただけの会社と提携するのは難しいと実感した。シリコンバレーはノウハウ(Know How)が重要な場所と思っていたが、実際はノウフー(Know Who)が重要だった。現地の人との繋がりを密接に保つには、出張ベースでは限界がある。そこで2016年にシリコンバレーに最初の海外ラボを開設した。
シリコンバレーはTechの聖地というイメージを持たれがちだが、実際はビジネスの方法(メソッド)とカルチャーが重要だ。まずビジネスの方法に関してスタートアップは「デザインシンキング(デザイン思考)」を愚直なまでに実践している。カルチャーのキーワードは「Fail Fast, Fail Many」であり、何回失敗しても再チャレンジができる。「失敗こそが全てを作る」の精神は、どのスタートアップの方も身に付けている。
2018年にはイスラエルのテルアビブにもラボを開設し、現在も三拠点の体制でラボを運用している。シリコンバレーは北米、東京はアジア・オセアニア、テルアビブはヨーロッパエリアをカバーしている。
<何がDXなのか>
2018年の経済産業省の「DX推進ガイドライン」にデジタルトランスフォーメーションの定義が記載されているが、「デジタル技術を活用して」の箇所に傾注し、テックファーストの考えに陥ると失敗してしまう。我々が注目したのは定義のなかにある「組織、プロセス、企業文化、風土を変革」の部分である。よってカルチャーチェンジ、変革に注力していった。
<ラボで仕掛けた変革その1.役員変革>
業界として「上意下達」の傾向があり、若手がDXの有効性を訴えても、上にはなかなか伝わらない。そこで最初に行ったのが役員変革だ。役員には徹底的に出張でシリコンバレーに来てもらい、実際に向こうのスタートアップに会ってもらったりベンチャーキャピタルと話をしてもらったりした。シリコンバレー発でどのようなゲームチェンジが起きているのかを肌で感じてもらうことが目的だった。肌感覚は非常に大事で、スタートアップやベンチャーキャピタルに対する見方が変わる。その結果、役員を味方に付けることができた。
<ラボで仕掛けた変革その2.従業員変革>
我々は「SOMPOのDXはABCD」という標語を使っている。ABCDとは、AI、Big Data、CX Development、Design Thinkingの4つだ。エクセルやワードが使えるように、これら4つを自然と社員も理解できるような取り組みを行った。まず「エンジニア養成(ブートキャンプ)」は、2か月間でプログラミングの基礎、データ分析、データ活用のビジネス提案までをカバーする内容だ。その発展形として従業員教育の「SOMPO大学」を開始し、AI、アジャイル、デザインなどの実践的なカリキュラムを実施した。階層ごとにカリキュラムを組み、若手だけでなく部課長や経営層にも提供している。
もう1つの取り組みは社外人財と社内人財の融合だ。その代表事例が当社のCDOである楢崎であり、徹底的に社内を変えてくれたと思っている。現時点では部全体の60%が中途の社外人財だ。
<ラボで仕掛けた変革その3.組織変革>
組織に関して新たに立ち上げたのが「Sprint Team」で、新しい体験を産み出す組織のことだ。開発を内製化する取り組みで、UI/UXデザイナーやエンジニアなど35名体制となっている。BU(事業部)からの依頼をそのまま受けるのではなく、ペルソナやカスタマージャーニー作り、UI/UXの提言など、Sprint Teamがビジネスやサービス構築の初期段階から一緒に考えて作っていく。
また当社のグループ内に「MYSURANCE」という少額短期保険の会社を設立。早く商品を作って世に出すことが可能となった。SOMPOでは2年で1商品だが、「MYSURANCE」は2年で10商品をローンチした。
<SOMPOのDX>
当社のDXは2種類あり、「守りのデジタル化」は業務効率化やレガシーシステム刷新等を領域とする。対して「攻めのデジタル化」は、デジタルトランスフォーメーションとデジタルイノベーションが領域だ。デジタルイノベーションは世界中の大手デジタル企業に対抗するため、保険周辺の新規事業を立ち上げる取り組みだ。
デジタルイノベーションのために立ち上げた組織が「デジタルベンチャー室」で、新規事業の創出を徹底的に行う。その延長で開始した「SOMPOオークス」で、全損事故車をオークション等で販売するプラットフォーム事業を立ち上げた。また本年7月に立ち上げた「SOMPO Light Vortex」は新規事業だけを徹底的に行う会社だ。デジタル新事業、戦略投資、アジャイル開発などを一社内で行う。
<DXの具体的な取り組み>
2017年から2020年までの4年間で、PoC件数は322件、累計サービス化件数は開発中を含め55件となった。実際の取り組みをいくつか簡単に紹介すると、「Future Care Lab」は介護事業を変革する取り組みで、ビジネスビル内に介護室を再現し、センサーや介護アプリなどの実験ができる。「Neurotrack」は認知症の検知サービスで、スマホの目の動きから認知機能の状態を測るアプリだ。
AIによる災害予測を行うシリコンバレーの「One concern」を日本に持ち込み、洪水や地震による影響範囲を精緻に特定できるようにした。大手EC会社の「Shopify」とはショップオーナー向けの保険を開発した。イスラエルの「Binah」社とは、健康チェックアプリを共同で開発している。その他にも「入院パスポート」や海外旅行保険の加入チャットボット、スマホ保険などを提供している。シリコンバレーの「Palantir」社との提携により、同社の保有するビッグデータ活用ノウハウを吸収しながら、SOMPOの企業文化変革を目指す。
With/Afterコロナで、世界はもう元には戻らない。働き方・遊び方・学び方はすべて変わってきている。保険会社も変化しなくてはならず、「DX or Die」への時代となっていく。