2024年3月19日(火)開催 FINANCE CONFERENCE「金融業界におけるAIの活用」<アフターレポート>


2024年3月19日(火)セミナーインフォ主催 FINANCE CONFERENCE「金融業界におけるAIの活用」が開催された。金融機関を取り巻く環境が大きく変化する中、生産性や業務効率の向上、顧客対応の高度化に向けてAIの活用が急速に進んでいる。また2022年11月には、オープンAIがリリースした「ChatGPT」によって、生成AIが注目され、金融機関では生成AIの活用に向けて環境構築が進んでいる。本カンファレンスでは、生成AIをはじめとしたDXの取り組みについて、株式会社みずほフィナンシャルグループ、SBI金融経済研究所株式会社、明治安田生命保険相互会社よりご講演をいただいた他、先進企業から、金融領域におけるAIの活用についてご紹介いただいた。

  1. 〈みずほ〉のデジタル変革
    ~生成AIの活用とDXへの取り組み~
    株式会社みずほフィナンシャルグループ 波多野 祐美 氏
  2. 生成AIで実現する顧客のハイパーパーソナライゼーション
    日本テラデータ株式会社 小野 尚人 氏
  3. AIで差をつける
    ~金融業界における目的特化型生成AIソリューションの重要性~
    伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 中村 薫平 氏
  4. 生成AIを活用した金融サービス構築の課題と解決手法
    SBI金融経済研究所株式会社/SBIホールディングス株式会社 副島 豊 氏
  5. LLMを活用した業務効率化とエンタープライズナレッジマネジメントの高度化
    ~PKSHAが支援する生成AI × 金融機関での成功事例のご紹介~
    株式会社PKSHA Workplace 大西 正人 氏
  6. 「明治安田」における生成AIを活用したDXの取組み
    明治安田生命保険相互会社 池田 匡克 氏
目次

〈みずほ〉のデジタル変革
~生成AIの活用とDXへの取り組み~

基調講演➀
【講演者】
株式会社みずほフィナンシャルグループ
デジタル企画部
波多野 祐美 氏

<〈みずほ〉グループとは>

みずほグループ(以降、〈みずほ〉)は、日本における最古の銀行を源流にした総合金融グループである。今年度は源流の1つである日本初の銀行、第一国立銀行が発足して150年の節目の年だ。現在の従業員数は、グループ全体で5万人を超えており、主要の4社だけでも3万人の社員が働いている。

デジタル企画部は、DX機能を集約し、GCDO直轄の組織として立ち上がった部署である。〈みずほ〉での生成AI検討体制は、既存業務への適応を推進するWG、新しい仕掛けづくり、経営陣への啓蒙活動の3つのチーム、そしてこれらの活動を支えるR&Dの4つからなる。AI推進を実現するために、AI倫理基準をもとにガイドラインを作成し、モニタリングのプロセスへ活用するなど、守りにも注力している。

生成AI活用のこれまでの取り組み

〈みずほ〉では生成AIの活用を、大きく3つのフェーズに分けて検討を始めた。まず、テキスト生成AIを早期に導入し、とにかく使ってみてリテラシー向上に努める。次に、社内データ・外部最新データを活用しながら業務適用を検討していく。最終的にはお客さまサービスへの活用を目指す。

相棒として使えるWiz Chatの導入

フェーズ1として、Wiz Chat(ウィズチャット)を導入した。業務の相棒として使えるように2023年6月、全社員向けにテキスト生成AIツールをリリースした。Microsoft Azure OpenAI Serviceによって、外部に情報を漏らさないセキュアな環境のもとでお客さまデータや社内情報を活用できている。

初めて利用する人でも迷わずに使えるよう、12個のサポートテンプレートをトップページに設置した。サポートテンプレートは、想定ユースケースを事前登録したものである。ボタンをクリックすると、プロンプトが自動入力され、具体的なテーマや目的を絞り込むことが可能だ。好評なサポートテンプレートは、「悩みを聞いて!」「文章を添削・校正して!」「要約して!」などだ。すでに、2度のレベルアップを実施するなど従来の銀行では考えられないスピード感でアップデートを繰り返しながら検討を進めているところだ。

社内でのWiz Chat活用促進策

任意参加で募集をかけ、オンラインレクチャー会を実施している。1会議あたり、最大参加数は千人としていたが、定員オーバーで参加できない人が出るほど大盛況であった。社内SNSで専用の公開コミュニティーを立ち上げたところ、Wiz Chatを活用している社員同士のコミュニケーションも活発化している。他にもグループ全社員を対象に、生成AIを活用したアイデアを募集するアイデアソンを実施した。2千件を超える応募があり、上位のアイデアについては実現に向けた計画を立てている。

<Wiz Chatの利用用途>

社員のWiz Chat利用用途を分析したところ、翻訳、文章校正が上位であった。翻訳は外国語で書かれた論文を読み込ませて、要点を日本語の箇条書きで書き出してもらうなど、海外拠点とのやり取りがある社員に愛用されている。文章校正は、メール文の校正で使用されることが多い。「相場について中学生にもわかるように説明して!」とWiz Chatに依頼したり、サステナ用語・半導体の種類などの用語検索をしたり、業界分析に使ったりと多岐にわたって活用されているようだ。

日次利用者数は緩やかに増え、直近では千人程度が毎日コンスタントにWiz Chatにアクセスしているが、利用率は全社員の2割程度だ。利用率を上げるためには、業務に直結するツールを早急に開発していく必要があると強く感じている。

現状の取組みと足元の推進上の課題

現在、フェーズ2の社内データ活用に取り組んでいる。Wiz Chatは、多種多様なユースケースを拾う汎用的なユーティリティツールの位置付けだ。そこで、業務特化型ツールを開発中である。

Wiz Searchは、業務関連のQ&Aサポート機能に特化したもので、社内の膨大な情報ソースからの正確な検索と、社員が持つノウハウを交えた回答の作成を目指す。Wiz Createは、指定した形式・ファイルでコンテンツを生成する機能に特化したもので、多様なアウトプットパターンへの対応を重視するものだ。

【Wiz Search】事務手続照会の流れ

現場からも多く生成AI活用の声があがり、効率化が見込めると考えている業務が事務手続照会だ。〈みずほ〉の事務手続書は、原則的な取扱い方法やリスクの所在を定めた指針であるために、取り扱い範囲が広く、3万ページにも及ぶ。各種マニュアルやFAQなどの資料も点在し、検索方法も複雑なために、「どこを参照すればよいかわからない」「手続の抜け漏れが不安」といった意見が寄せられていた。

事務手続照会の課題と解決方法

実際に、手続照会窓口という社内サポートに電話して確かめるために、無駄な時間が発生している。電話による問合せが多いという課題を解決するために、生成AIと社内情報を連携したチャットボットを作成し、質問者の意図を理解した回答を生成できるのか検証しているところだ。事務手続書を検索する際に、論点整理・情報収集ツールとして生成AIを活用することによって、電話照会に至る事由を解消し、1日400件ある電話照会を7割削減するという目標を設定した。

電話照会の内訳を調べたところ、約7割が手続書に記載された内容であった。そこで、Wiz Searchでは検索性能の向上、事例・FAQなど手続きの補完となる材料の提供、プロセス生成による解決支援を実施し、電話照会件数を削減することを指標とした。

生成AI活用の対応策

当初は、GPTに手続書などの行内文書を検索させれば、なんでも答えてくれると思っていた。しかし、「お近くの金融機関の窓口へお問い合わせください。」という回答を生成したり、「そのような記載はみつかりませんでした。」という回答を返したりと、全くうまくいかなった。

そこで質問と回答を2段階に分けることにした。社内用語や質問履歴を考慮した「♯辞書」機能を加え、質問文生成プロンプトと組み合わせて検索させることで検索精度の向上を図る。質問回答生成プロンプトには、「あなたは銀行内手続に関する質問の回答を生成するチャットボット」「『該当の金融機関に確認ください』といった回答は不適切」「わからないことは無理やり回答しないこと」といった「♯指示」を与え、回答精度の向上を図った。

また、行内文書の整理にも着手した。人間と異なり、AIは複雑な表や図、フロー図は認識できない。そこで非構造データを構造データに変換し、重要な情報をAIが理解できるよう、見出しや箇条書き化、注意事項などを駆使して重みづけを行った。

<フィードバック結果と傾向>

電話照会の現場で働くオペレーターに使ってもらったところ、低評価が圧倒的に多かった。低評価を受けた照会では質問内容が曖昧であったり、質問が複数な領域にまたがっていたりした。期待を超えた高評価を得た照会は、質問内容が明確・具体的、ー般知識や領域が絞られた質問であった。全体を通して、投げかける質問のプロンプトが重要であり、利用者の質問技術の向上が必要であることが改めてわかった。

【Wiz Create】与信稟議作成AI

Wiz Createは、銀行の根幹業務である融資業務において、法人向け融資の判断材料となる融資稟議資料のドラフトをAIが自動作成してくれる補助ツールである。お客さまとのこれまでの面談記録や財務諸表をシステムに読み込ませることで、短時間に一定水準の品質を担保した稟議資料をAIが作成する。実現すれば、営業担当者はこれまで以上にお客さま対応に注力できるようになる。

将来的な方向感

社員発のアイデアも進行中である。AIによる投資能力判断、提案書作成AIなど個別アプリの作成も進めている。Wiz Chatに、GPT-4VやDALL-E3など新モデルを追加し画像生成や画像読み込みに対応するほか、今後はモバイル対応も進めていく。生成AIはDXを進めるための道具だと考える。社内はもちろん社会全体のDXを推進するために、〈みずほ〉はこれからも新しいことに挑戦していく。

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