第三者委員会とは? 意義、目的、活動内容を総解説


「第三者委員会」というワードを耳にする機会が増えた。第三者委員会は法令によって設置が義務付けられているものではなく、企業が任意に設置しているものである。ではその調査報告は信用できるものなのだろうか。第三者委員会の意義や目的、活動、構成委員、必要性などについて、わかりやすく解説する。

  1. 第三者委員会とは
  2. 第三者委員会を設置する意義・目的
  3. 第三者委員会に関する規律
  4. 第三者委員会の活動
  5. 調査報告書の作成・公表
  6. 第三者委員会の今後
目次

第三者委員会とは

企業においてコンプライアンス上の問題が生じた際に、当該企業が「第三者委員会」を設置して調査することをアナウンスし、その後しばらく経って調査報告書が公表されるということがある。このような企業不祥事の際に第三者委員会を設置して調査をするという実務が広まったのは2000年代半ば頃からであるが、近年は、企業だけでなく、学校におけるいじめ問題やスポーツ競技団体におけるパワハラ問題等においても、第三者委員会が活用されている。

第三者委員会は、法令によって設置が義務付けられているものではなく、企業が任意に設置しているものである。第三者委員会の運営や権限に関しても法令に定めがあるわけではなく、第三者委員会は調査等について強制的な権限を持っていない。

第三者委員会は常設の組織ではなく、基本的には案件ごとに設置される。名称についても、「第三者委員会」ではなく、「調査委員会」、「独立調査委員会」、「特別調査委員会」などと名付けられている場合もあり、決まったものがあるわけではない(本稿では、区別せず「第三者委員会」と呼ぶ)。

第三者委員会を設置する意義・目的

第三者委員会は、企業不祥事の際に必ず設置されるわけではない。第三者委員会を設置せず、企業が主体となって自ら又は弁護士等を起用して調査等の対応を行うことも少なくない。企業が、第三者委員会を設置するのは、企業から独立した第三者である専門家に調査してもらうことによって、信頼回復を図るためである。

企業は、コンプライアンス上の問題が生じた場合、受けるダメージをできるだけ小さくし、早期に企業活動を正常化させることを目指す。そのために、企業は、被害拡大防止のための措置を講じたり、調査当局や監督官庁への調査協力や報告、株主・金融機関・取引先・従業員等のステークホルダーへの対応、マスコミ対応、再発防止策の策定等を行う(いわゆる「危機管理」)。

この危機管理の一連の対応の中で、企業は、調査を行って事実関係(法令違反の有無や原因・背景等も含む)を明らかにすることが必要となる。その際、様々な事情から、企業自身の調査では、世間から調査結果を信用してもらえず、信頼の回復ができない場合に、第三者委員会を設置することになる。

第三者委員会を設置するかどうかは、①企業による対応能力、②世間の関心・影響、③企業への信頼等の事情を考慮して判断される。

① 企業による対応能力

企業による対応能力というのは、社内調査によって、十分な調査ができるか、という視点である。

例えば、専門的・技術的な問題であるために外部の専門家に調査を委ねないと真相の解明が難しい場合や、企業の組織構造上の問題や社内政治的な事情から調査を適切に指揮できる者が社内におらず、外部の第三者に調査を仕切ってもらった方が真相の解明につながるような場合などには、第三者委員会を設置することが有効となる。

② 世間の関心・影響

世間の関心・影響が高い場合には、社内調査では十分な納得を得られないことがあり、第三者委員会に調査を委ねることが考えられる。

例えば、すでに当該問題が報道されている場合には、第三者委員会に調査を委ねることが少なくない。現在では、不適切な会計処理が疑われる事案においては第三者委員会による調査を行うことが一般的になっているが、これも本来は会計処理の適切性は証券市場の信頼に影響を与える事項であり、投資家を含む多数のステークホルダーが関心を持つからである。

③ 企業への信頼等

当該問題に企業の上層部が関与していたり、過去に同様の違反があったにもかかわらず再度問題が起こった場合なども、社内調査では調査結果に信用が得られない可能性があるため、第三者委員会を設置して調査をすることが考えられる。

第三者委員会を設置する意義に照らせば、第三者委員会は、企業から独立した立場で、公平・公正な調査をすることが求められる。そのため、場合によっては、第三者委員会は、企業にとって不都合な事実を明らかにしなければならない。

その意味で、第三者委員会は、危機管理の一環として設置されるものではあるものの、企業が被るダメージを最小化するという危機管理とは緊張関係を生じることになる。(※)

企業が第三者委員会を設置するのは、第三者委員会がどのような調査結果を出し、それが公表されようとも、企業が自ら調査を行うよりも、企業の信頼回復につながり、中長期的に見て、企業にとってプラスであると考えるからにほかならない。

そのため、企業としては、第三者委員会を設置するからには、その調査結果を受け入れる覚悟が要求される。

危機管理と第三者委員会の緊張関係については、木目田裕「企業の危機管理と第三者委員会との間の緊張関係等」(商事法務2084号13頁、2015)を参照。

第三者委員会に関する規律

日弁連の第三者委員会ガイドライン

第三者委員会の設置やその運営・権限について、法令に定めがあるわけではない。しかし、第三者委員会は、企業から独立した立場で、公平・公正な調査をすることが求められているから、そのような役割が果たせるような体制・運用となっていなくてはならない。

過去においては、第三者委員会の中には、調査が杜撰であったり、企業からの独立性が十分に確保されておらず調査結果が企業寄りのものになってしまっているなどとして批判を受けるものもあった。そのような状況を受けて、日本弁護士連合会は、2010年7月に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、「日弁連ガイドライン」という)を公表した(2010年12月改訂)。

日弁連ガイドラインには、拘束力はないものの、現在の第三者委員会のほとんどは、日弁連ガイドラインに準拠したものであるか、少なくとも日弁連ガイドラインを意識したものとなっている。

2018年9月7日に公表されたスルガ銀行株式会社の調査報告書においても、当該第三者委員会は日弁連ガイドラインに準拠して構成されたものであり、その運営・調査の実施・調査報告書の作成等が日弁連ガイドラインに準拠したものであると記載されている。

日弁連ガイドラインには、(i)第三者委員会の活動について、事実調査・認定・評価や調査報告書の開示、再発防止策等の提言に関する指針、(ii)第三者委員会の独立性・中立性についての指針、(iii)企業等の協力についての指針、(iv)公的機関とのコミュニケーションに関する指針、(v)委員等についての指針などが定められている。

例えば、(ii)第三者委員会の独立性・中立性について、企業等の現在の経営陣に不利となる場合であっても調査により判明した事実とその評価を調査報告書に記載することや、第三者委員会は、調査報告書提出前に、その全部又は一部を企業等に開示しないこと、顧問弁護士等の企業等と利害関係を有する者は第三者委員会の委員に就任できないことなどが定められている。

その他のガイドライン等

そのほか、第三者委員会について言及するものとしては、日本取引所自主規制法人が2016年2月に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」がある。

このプリンシプルでは、第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保について、「内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合、当該企業の企業価値の毀損度合いが大きい場合、複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合などには調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委員会の設置が有力な選択肢となる。その独立性・中立性・専門性を確保するために、十分な配慮を行う。また、第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないよう留意する。」と述べられている。

また、有志の弁護士等が「第三者委員会報告書格付け委員会」を組織し、第三者委員会の調査報告書をA~Dの4段階(不合格の場合はF)で評価し公表するという活動を行っている。

第三者委員会の活動

第三者委員会を務める委員の構成

第三者委員会は、有識者である複数の委員によって構成される(日弁連ガイドラインでは、委員は原則として3名以上としている)。多くの場合、委員に弁護士が含まれているが、これは、単に法律問題が関係することが多いというだけでなく、弁護士が、その業務として、人から話を聞いたり資料を読んだりして法的に意味のある事実を拾い出し、証拠に基づいて事実認定を行うことに慣れているためであると思われる。

また、不適切会計が疑われる事案であれば公認会計士が委員に含まれているのが通常であり、専門的・技術的事項が問題となる場合には学者や研究機関の職員等が委員となったり、いじめ等教育現場の問題については教育関係者が委員となったりしている。

第三者委員会が調査を行うといっても、委員は数名であり、委員だけで限られた時間内に多岐に亘る調査を実施することは現実的ではない。そのため、調査には、第三者委員会から委託を受けた補助者が関与するのが通常である。

補助者には、弁護士や公認会計士、デジタルフォレンジックの専門業者等が含まれる。第三者委員会は、補助者も含めて定期的に集まるなどして委員の間で情報共有をしながら調査を行い、調査報告書を作成する。調査報告書において、かかる補助者の存在及び名前が明らかにされる場合もある。

また、調査を行うには企業側の協力が必要であり、ヒアリングのアレンジや資料の準備等のために、企業側において比較的中立的な立場である法務・コンプライアンス部署の担当等から成る事務局を設置して対応を行う。日弁連ガイドラインでは、かかる事務局担当者と企業との間で厳格な情報遮断をすることを求めている。

第三者委員会の調査対象と調査範囲

第三者委員会がどのような事項を調査対象とするか(調査スコープ)やどのように調査を行うか(調査の方法)については、事前に調査を依頼する企業と第三者委員会の間で決めることになる。調査が進むにつれて新たな事実が判明するなどし、当初の調査スコープでは不十分であると第三者委員会が判断する場合には、その都度、企業と話し合いながら調査スコープの見直しが行われる。

第三者委員会が実際に行う調査の内容は事案によって様々であるが、通常は、関係者からのヒアリングや書類・電子データの検証が行われる。電子データの検証に当たっては、近時は、デジタルフォレンジックの専門業者を起用することが多い。

また、第三者委員会は、判明した事実関係(法令違反の有無や原因・背景等)を踏まえ、再発防止策の提言を行うこともある。

調査報告書の作成・公表

第三者委員会は、調査が完了すると、調査結果を調査報告書にまとめ、調査の依頼を受けた企業に提出する。これを受けて、通常は、企業が調査報告書を公表する。そもそも第三者委員会を設置したのは、企業の信頼回復につなげるためであるから、第三者委員会を設置することをアナウンスしたのであれば、世間に対しその調査結果を報告するのが本来のあり方であるといえる。

第三者委員会が調査結果報告のために記者会見を行うこともあり、これに合わせて、企業も調査報告書の内容を踏まえた企業としての考えや今後の対応等を説明するために記者会見を行うこともある。

原則として、企業は、第三者委員会から調査報告書を受け取った時に初めて調査報告書の文面を目にすることになる。調査報告書の作成過程において、第三者委員会が企業から考えや認識の聴き取りを行うことはあるが、調査報告書の文面について企業が直接意見を述べる機会はないのが通常である。日弁連ガイドラインにおいても、「第三者委員会は、調査報告書提出前に、その全部又は一部を企業等に開示しない。」とされている。

調査報告書は、企業に提出されるもの(完全版)と公表されるもの(公表版)では、わずかに記載が異なる場合がある。営業秘密や個人情報に当たる情報について、秘匿するための処理がなされるためである。また、調査報告書が大部である場合には、理解しやすさ等の観点から、調査報告書の要約版が作成・公表されることもある。

第三者委員会の今後

第三者委員会は、法令に根拠を有するものではないが、企業の信頼回復を図るための手法として、企業や弁護士等の工夫によって広まった実務である。

公表される調査報告書は、当該企業の問題を明らかにするだけでなく、他の企業にとっても、自社のコンプライアンス体制の構築や業務の見直しのために有用な示唆を含んでいることが多く、そのような観点からも社会的意義を有している。

そのため、当面は、企業不祥事の際に第三者委員会を設置して調査報告書を公表するという実務は続いていくものと予想される。第三者委員会という仕組みが今後も続いていくためには、企業や弁護士等が第三者委員会の意義を正しく理解し、第三者委員会に対する世間の信頼を維持し続けなければならない。

山田 将之 氏
寄稿
西村あさひ法律事務所
弁護士
山田 将之 氏
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